2・1up:記事・考・白川 第1部 検証 立野ダム① 着手30年改修は進まず 7・12豪雨 繰り返された水害

考・白川 第1部 検証 立野ダム①
着手30年改修は進まず 7・12豪雨 繰り返された水害

 「朝5時半ごろ、新聞配達員から『道路に水が
流れ込み始めた』と聞いた。車を高台に移すよう
住民を起こして回ったが、増水が速く、途中で
動けなくなった車もあった」
 九州北部を襲った昨年7月12日の豪雨。熊本市
北区龍田陳内4丁目の松崎欣五郎さん(77)は、隣
保組組長として走り回った。
 阿蘇地方では土砂崩れで23人が死亡、2人が行
方不明に。熊本市では白川の代継橋の水位が19
53年の6・26大水害後、観測史上最高(6・
32メートル)を記録。堤防未整備区間で氾濫が相次ぎ、
龍田地区は家屋の全半壊約190戸など甚大な被
害を受けた。
 松崎さん宅も床上約2メートルまで濁流に漬かり、1
階の家財道具が壊滅。愛犬も流された。
 「阿蘇に大雨が降れば、水害の危険性がある地域
なのは分かっていたはず」。龍田校区7町内自
治会の井添吉穂会長(73)は治水事業の遅れを指摘
する。    
 白川の歴史は水害の歴史でもある。江戸時代以
降、6・26大水害まで13回の記録が残る。市街部
を襲った6・26大水害は422人の死者・行方不
間者を出し、80年、90年にも死者を伴う水害が起
きた。
 白川は同市の小磧橋より上流を県、下流を国が
管理する。両者は2002年に河川整備計画を策
定。国交省は市街部10・5キロを緊急対策特定区間
として改修し、3月末までに堤防整備区間(9・
1キロ)の7割が完成見込みだ。同省熊本河川国道
事務所は「市街部の改修は緊急性が高く、他の直
轄河川に比べて手厚く予算措置してきた」と強調
する。
 一方、龍田地区を含む県管理区間は小磧橋から
上流1キロの用地取得を進めていた段階。河道拡幅
や築堤は手付かずだった。「改修は下流からが
原則。先に上流を拡幅すれば下流への流れが加速
し、水害の危険性が増す」と県河川課。
 しかし、河川整備の道半ばで「7・12」が起き
た。治水の進め方に工夫はできなかったのか。
 白川上流に計画されている立野ダム(南阿蘇村、
大津町)の問題を指摘する声もある。
 ダムは国交省が1983年に事業普天総事業
費917億円で、3月末までに約426億円がつ
ぎ込まれる。
 建設に反対する市民グループは「これまでに投
じたダム関連工事費を、河川改修に使っていれば
水害は防げた。ダムを優先させた代償は大きい」
と非難する。
 国交省と県は昨年の水害後、国の河川激甚災害
対策特別緊急事業として、白川水系の大規模な
河川改修計画を打ち出した。
 同時に、ダムも動きだした。ダムは用地取得や
家屋移転はほぼ完了しているが、本体工事は未着
工。民主党政権のダム事業見直し対象となり、一
時凍結された。しかし、検証を受け国交相は昨年
12月、事業継続を決めた。政府の来年度予算案には
約28億円の工事費が盛り込まれた。
 龍田陳内4丁目には、あるじ不在の壊れた家屋
が点在する。
 自宅が用地買収の対象になった松崎さんは言
う。「なぜ水害が繰り返されるのか。この歳にな
って、住み慣れた土地を離れることになるなんて
…」    (川崎浩平)
   ◇  ◇
 7・12豪雨を境に、白川への関心は一気に高まっ
た。大規模改修が打ち出される一方で、立野ダム
建設も加速する。治水はどうあるべきか、ダムの
効果、環境や景観、生態系への影響は―。シリー
ズ「考・白川」の第1部ではダム事業を検証する。

立野ダム 国土交通省が白川と黒川の合流地点から
約1.3キロ下流に計画する治水専用の穴あきダ
ム。高さ約90メートル、幅約200メートル、総貯水容量
約1千万トン。本体下部に5メートル四方の三つの
穴を設け、平常時は水をためない。下流域の洪水被害
を軽減するため流量を同ダムで毎秒200トン、上流の
黒川遊水地群で100トンカットする計画。

【写真】県の河川改修計画で自宅が買収対象となった
ため、リフォームを中止した床の間を指さす松崎欣五郎さん
=熊本市北区龍田陳内4丁目

熊本日日新聞 2013年1月31日

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