考・白川 第1部 検証 立野ダム②
動き出した白川大規模改修 大幅に計画前倒し、短期間で
「氾濫した白川が農地をのみ込み、濁流が数百メートルに
わたって押し寄せた。ぼう然とするしかなかった」。
熊本市東区石原の西島幸二さん(41)は経営する白川左
岸のゴルフ練習揚が約3メートル浸水。当時の被災写真を前
に、無念さをにじませた。
昨年の7・12豪雨災害を受け、国と県は2016年
度末を目標に、白川流域で大規模な改修に乗り出す。
国の河川激甚災害対策特別緊急事業費423億円に県
の災害関連事業などを加え、総事業費は544億円
に上る。
甚大な被害が出た同市の龍田地区では、県管理の小
磧橋~みらい大橋区間で、家屋240戸や農地などを
買収。河川の大幅拡幅や河道掘削、築堤などを進める。
特に龍田陳内4丁目は110戸を買収し、蛇行した流
れを大胆にショートカットする。
「数十年かかる河川改修を一気に進める」と県河川
課。①河川拡幅で水位を下げ、蛇行部分を緩やかに変
更②できるだけ住宅を残し、農地を優先して買収③
コストの縮減④短期間で工事完了―などを考慮して計
画を練り上げたという。
県は昨年10月、対象地域で事業計画の地元説明会を
開き、買収予定地を公表。線引きには一部の被災世帯
から不満も。対象外となった西島さんは「なぜ浸水し
たのに買収対象にならないのか。住民の要望も聞かず、
納得できない」と憤る。
一方、温泉街や広範な農地が浸水した阿蘇市の内
牧、黒川一帯でも、白川の支流となる黒川改修が始ま
る。
県は住宅を堤防で囲む輪中堤や河道掘削、宅地か
さ上げのほか、農地を堤防で囲み、洪水時には水をた
める地役権方式の遊水地を2ヵ所新設する。所有者に
は浸水被害の補償分を含め、地価の2~3割を事前
に支払う。家屋の浸水を防止するとともに、白川の流
量を一時的に減らすのが狙いだ。
昨年12月14日夜、内牧で開かれた県の黒川改修説明
会。被災住民からは「本当に浸水被害を防げるのか」
と不安も。内牧の自宅が床上浸水した湯浅陸雄さん
(72)は「今ある遊水地のおかげで避難する時間を稼ぐ
ことができた。遊水地や河道掘削など、さらなる対策
を進めて低しい」と願う。
一連の河川改修は、国交省と県が2002年に策定
した「20~30年に一度の大雨」に対応する河川整備計
画を大幅に前倒すものだ。
7・12クラスの大雨でも、小磧橋上流の県管理区
間は「家屋の床上浸水をなくす」、下流の国管理区間
も「堤防で越水させない」のが目標だ。
ただ、計画には河川改修や遊水地とともに「立野ダ
ム建設」(大津町、南阿蘇村)も盛り込まれている。
同省熊本河川国道事務所は「立野ダムが完成してはじ
めて、7・12クラスの豪雨を安全に流せるようにな
る」と、その必要性を強調する。(横山千尋)
【写真】激特事業の工事はこれからだが、現在は国の緊急対策特定区間
で河道掘削削などの工事が進む新代継橋上流の白川右岸=熊本市中央区下通
熊本日日新聞 2013年2月1日