2/6up: 記事・考・白川 第1部 検証 立野ダム⑤ 国営 前例ない「穴あき式」 ”功罪”未知数 疑問の声も

考・白川 第1部 検証 立野ダム⑤
国営 前例ない「穴あき式」 ”功罪”未知数 疑問の声も

 1月19日、熊本市中央区桜町の市民会館崇城大ホー
ル。立野ダムに反対する市民グループが出版したブッ
クレット「世界の阿蘇に立野ダムはいらない」の出版
記念集会が聞かれた。約80人が参加。メンバーの一人
が「立野ダムは穴あきダム。穴が流木や巨石で埋まれば
洪水調節機能が果たせない。想定外の雨にも対応で
きない」と、その構造的な問題点を解説した。
 同ダムは、白川と黒川の合流地点から約1・3キロ下
流に計画された洪水調節専用の「穴あきダム」。高さ
約90メートル、幅約200メートル。総貯水容量約1千万トンだが、
河床に近い部分に5メートル四方の、新幹線車両が奈裕で通
れるほどの穴が3つあり、ふだんは水をためない。
 国交省立野ダム工事事務所は「平常時は河川の流れ
を遮らず、土砂も流す。貯留型ダムと比べ、上下流の
連続性が保たれる」と説明する。
 穴には、流木や巨石でふさがらないよう金属網のス
クリーンを設置し、上流には、鋼管を約2メートル間隔で格
子状に配置したスリットダムも建設する計画だ。
 これに対し、同市民グループなどは「増水時は流木
などが絡み合って複雑に動くため、穴詰まりは十分起
こり得る」と反論。「そもそも巨大なコンクリート構
造物は阿蘇の景観を阻害する」と主張する。洪水時に
一部が水没する国指定の天然記念物「阿蘇北向谷原始
林」など自然環境への悪影響も指摘する。
 全国初の本格的な穴あきダムとして、2006年4
月に供用開始したのが島根県の県営益田川ダムだ。
 同県河川課によると、ダム完成後の試験湛水(約4
ヵ月間)で水没した樹木が枯れたのを確認。運用開始
後、アユの遡上が一部阻害されていることも分かって
いる。
 同課は「ダム上流の土砂の堆積は計画より少なく、
濁りの長期化は発生していない。ダム完成後に大きな
洪水が起きていないという事情もあるが、現時点で大
きな問題は起きていない」と言う。
 環境負荷が小さいとされる穴あきダム。しかし、現
行の立野ダムが登場したのは、1980年の工事実施
基本計画改定時だ。当時は今ほど市民の環境意識も高
くなかった。穴あき構造は阿蘇カルデラの地形に合っ
たダムとして計画された。
 立野ダム工事事務所は「雨が降ると、南郷谷を流
下する白川と、黒川の水が1時間程度で一気にダムま
で到達する。下流の安全を確認した上で人的操作で放
流を始める時間的余裕がなく、自然流下で放流する穴
あきが優位」と説明する。
 益田川ダムも、環境への配慮というより、補償交渉
が難航する中、水没地を拡大させずに必要な洪水調節
機能を確保する方策として考えられたという。
 ダム問題に詳しい今本博健京都大名誉教授は「国が
強調する環境に優しいという点は事実に反し、治水し
か目的のないダムを造りたいがための理屈」と指摘。
「ダムに頼る治水は限定的。想定以上の洪水で壊滅的被
害を回避するには、治水の在り方を根底から考え直す
必要がある」と強調する。
 国営ダムとしては、まだ前例のない穴あきダム。そ
の″功罪″も未知数の部分が大きい。(川崎浩平)

【写真】白川上流側より望む立野ダム建設予定地=昨
年10月、南阿蘇村、左は大津町

熊本日日新聞 2013年2月5日

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