2/4up: 記事・考・白川 第1部 検証 立野ダム④ 輪中堤など5代替案 維持費含めばコスト逆転も

考・白川 第1部 検証 立野ダム④
輪中堤など5代替案 維持費含めばコスト逆転も

 「コストや実現性、洪水調節などを総合的に検証し
た結果、立野ダム案が最も有利。次いで(住宅地を堤
防で囲む)輪中堤案」―。国土交通省九州地方整備局
は昨年9月、立野ダム案とダム以外の代替案を比較検
証し、こう結論づけた。
 検証結果を受けた公聴会では、流域住民らから立野
ダムヘの反対や慎重な意見が相次いだが、羽田雄一
郎国交相(当時)は衆院選さなかの昨年12月、ダム
事業の継続を決定。2013年度は12年度の6倍、約
28億円の予算が計上された。
 立野ダムは民主党政権で事業見直しの対象になっ
た。国交省は県や流域7市町村と「検討の場」を設け、
11年1月から代替案の検証を始めた。ダムを除く現行
の河川整備計画を実施した上で、ダムの効果分を、河
道の掘削や、洪水を上・中流の遊水地や輪中堤で受け
止め下流の流量を減らすなど、他の代替治水策と比較
した。
 立野ダムに反対する市民団体事務局長、緒方紀郎さ
ん(49)=熊本市東区=は 「流域の水田約55平方キロの
あぜを20センチ高くすれば約1100万トンの雨水をため込
むことができ、立野ダムの総貯水量1000万トンを超
える」と水田の保水力を高める代替策を提案し、検証
対象に加えられた。
 九地整はコストや効果、実現性などから①河道掘削
案(670億円)②遊水地拡幅案(750億円)③グ
ラウンドなどに雨水施設を作る貯留案(1090億円)
④輪中堤案(630億円)⑤輪中堤・雨水貯留案(1
060億円)―の5代替案と、ダム案の6案に絞り込
み、最終的にダム案が最も有利とした。
 だが、緒方さんは「ダムの事業費は工期が延び、今
以上に増える可能性がある」と懸念を隠さない。
 九地整が最も有利としたダム案と、それに次ぐ評価
を下した輪中堤案―。事業費はダム案が完成まで残り
491億円(総事業費917億円)なのに対し、輪中
堤案は630億円。ダム案が139億円も安い。とこ
ろが、九地整が算出した年間の維持管理費(50年分を
均等割り)は、ダム案2億6千万円に対し、輪中堤案
4千万円。
 50年分の維持管理費を事業費に加えると、ダム案6
21億円、輪中堤案654億円(ダム中止に伴う工事
4億円含む)と、差はわずか33億円に縮まる。
 70年間でみると、ダム案673億円、輪中堤案66
2億円と逆転、輪中堤案が11億円安くなる。ダムは土
砂の堆積など1OO年先まで想定しており、100年
間では輪中堤案の674億円に対し、ダム案は751
億円と77億円上回る。河道掘削案も724億円とダム
案を下回る。
 国交省熊本河川国道事務所は「代替案の維持管理費
は不確定な部分を除いた概算で、高くなる可能性があ
る。コスト面だけでなく工期や治水効果、実現性など
を総合的に検証した結果、ダム案有利の結論に至っ
た」と説明するが、検証結果で比べる限り、維持管理
費を含めればダム案と代替案のコストが逆転。国交省
が検証過程で強調した「ダム案のコスト面での優位
性」は揺らいでいる。(横山千尋)

【合成写真】立野ダムの建設イメージ

熊本日日新聞 2013年2月3日

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