民主党政権が代替治水策を含め検証し、継続が
決まった立野ダム建設事業(大津町、南阿蘇村)。
先の衆院選で「国土強靭化」を掲げた自民党が
政権に返り咲き、ダム本体着工に向け事業が加速
する公算が大きくなった。
ダム予定地一帯は、カーテンのように切り立っ
た「柱状節理」や広葉樹に覆われた美しい渓谷が
連なる。国指定天然記念物「阿蘇北向谷原始林」も
広がり、まさに世界の阿蘇の″玄関□″にふさわ
しい絶景だ。ダムが完成すれば景観は一変する。
美しい渓谷には高さ約90メートル、幅約200メ
ートルの巨大なコンクリートがそびえる。世界遺
産登録や世界ジオパーク認定を目指す阿蘇地域に
とってイメージダウンは必至だろう。
立野ダムの洪水調節能力は毎秒200トンのカッ
ト。650トンをカットする県営市房ダム(水上村)
よりも効果は小さい。総貯水容量も約1千万トン
と、市房ダム(約4千万トン)の4分の1だ。
果たして立野ダムは必要なのか―。白川水系の
治水対策を取材すればするほど疑問が膨らむ。ダ
ムの治水効果に比べ、貴重な生態系や自然環境、
景観などダムによって失われる阿蘇の財産があま
りにも大きいからだ。
7・12豪雨災害を受け、国交省と県は白川水
系で今後5年かけ、総事業費423億円の大規模
対策に乗り出す。河川改修のほか、貯水容量約3
50万トンの遊水池も計画。単純計算では同規模
の遊水地をさらに3ヵ所整備すれば立野ダムの総
貯水容量に匹敵する。
同省は「ダム案が最も有利」と結論付けたが、
本当にそうなのか。423億円の大規模な白川改
修計画に、立野ダムの残事業費491億円を加え
れば、環境や景観に配慮した代替治水策が可能で
はないか。
熊本日日新聞 2012年12月31日