西日本豪雨災害視察報告~それでも立野ダムを造るのか?
2018年7月、記録的な豪雨により西日本各地で大変な災害が発生しました。私たちは8月に、西日本豪雨災害の現地を調査して、被災された住民の方々の話を実際に聞きました。そのことをもとに、立野ダム建設について考えたいと思います。
●肱川(愛媛県)のダム災害
同年8月17日、緊急放流により流域に大きな災害をもたらした愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムを現地調査しました。想定以上の降雨でダムが満水になると、ダムへの流入量をそのまま下流に放流するしかなくなり、洪水調節できなくなるばかりか、下流の水位は一気に上がり被害を拡大します。
↑資料出典:日本経済新聞
野村ダム直下の野村地区では、7月7日午前6時半頃から洪水水位が一気に3mも上昇して、5名の住民が死亡。過去、度々浸水していた野村地区の三嶋神社周辺では、野村ダムができたことで安心してたくさんの住宅ができたのが、軒並み住宅の屋根まで浸水しました。鹿野川ダム下流の大洲市でも4名が亡くなりました。
ところが、国土交通省四国地方整備局は7月11日に記者会見し、野村ダムと鹿野川ダムの放流操作について「適切だった」と説明。鹿野川ダムは、安全とされる基準の6倍に当たる最大毎秒約3700トンを放流したのに、「想定外の雨量だった」「操作規則に基づき対処したので適切だった」としています。
当局は、満水になるまでダムで洪水を溜め込み、避難する時間を確保できるとの見解ですが、野村ダムが洪水をため込んでいたのは真夜中(午前2時から5時頃)でした。降りしきる豪雨の音でダム放流のサイレンや防災放送も聞こえない中、住民はダムの情報を知ることができませんでした。
野村ダムの流入量と放流量の記録を見ると、ダムがなければ約5時間で徐々に増水したのが、野村ダムがあったために、ダム満水後の緊急放流で急激に増水したため、避難する時間さえありませんでした。
このような危険性を、ダムを建設する前にも建設後も国土交通省は住民に知らせようとはしません。だから、今回のような悲劇が生じるのだと痛感しました。
↑野村ダム直下の三嶋神社宮司からの聞き取り(2018.8.17愛媛県西予市)
●小田川(岡山県倉敷市)の堤防決壊
同年8月7日、堤防が決壊して51名が死亡した小田川を現地調査しました。国土交通省は、当たり障りのない説明しかしませんでしたが、地元住民は「7月7日の堤防決壊時、小田川の河川敷はジャングルのような樹木でぎっしりとおおわれ、洪水の流れを阻害したことが堤防決壊につながった」と訴えました。
また、支流(高馬川など)の堤防が貧弱で堤防の高さも小田川よりも低く、支流の堤防決壊が小田川の堤防決壊につながったとの指摘もあります。下の地図の赤い×印が堤防決壊箇所です。
↑訴える地域住民(2018.8.7倉敷市真備町)
河川を堤防で囲めば土砂が堆積するので、それを撤去するのは当然です。河川管理で最も重要なことがなされていなかったのです。今回の災害直後から、小田川の河川敷の樹木伐採と土砂除去が、国交省により急ピッチで進められています。そのスピードには驚くばかりです。なぜ洪水が起こる前になされなかったのでしょうか。
小田川流域は過去に何度も浸水被害を受け、今回の被災は十分に想定できました。また、河川整備計画にも位置付けられた小田川・高梁川合流部の付替え工事は、全くの手つかずでした。その工事が実施されていたなら小田川の洪水水位は約5mも下がり、今回の被災は明らかに防げていたはずです。
小田川の本川である高梁川には、多くの治水用や発電用のダムが建設されていますが、高梁川沿いの国道も浸水するなど、流域で大きな被害が出ていました。ダムより河川改修を進めるべきだと痛感しました。
●土砂崩壊と野呂川ダム(広島県呉市)
同年8月8日、ダムへの流入量以上に放流した広島県呉市の野呂川ダムを現地調査しました。
野呂川ダムの周辺では、7月7日の豪雨で大規模な土砂崩壊が何箇所も発生し、ダムの上流も下流も道路が全く通れない状況でした。被災後1か月が過ぎ、ようやく自動車が通れるようになっていました。電話線なども寸断されていたようです。土砂崩壊により砂防ダムは崩れ、住宅は押しつぶされ、大量の土砂や岩石、流木等が道路や野呂川の河川敷をうずめていました。
報道によると、豪雨災害当日は2名の職員がダム事務所に詰めていましたが、土砂災害により応援の職員もダムにたどり着くことができませんでした。ダム直下の集落の住民に聞くと、ダム放流の連絡もなかったそうです。ダムによる洪水調節以前の状況だったようです。
↑野呂川ダム上流の土砂災害で被災した住宅(2018.8.8呉市吉浦)
●西日本豪雨災害から立野ダムを考える
西日本豪雨災害の死者は227名(2018年9月6日現在)。報道によると、亡くなられた方の死因は、土砂災害(121人)、砂防ダムの決壊(15人)、小田川の堤防決壊(51人)、川に流される等(10人)、肱川のダム放流による増水(9人)などとなっています。今後新たにダムを造り、これらの人たちを救うことはできません。
「想定外の災害に備えて立野ダムが必要」と考えている人もいるようですが、想定以上の降雨でダムが満水となれば洪水調節できなくなります。また、想定以上の降雨でなくても、幅5mしかない立野ダムの穴が流木等でふさがり洪水調節できなくなることも十分想定できます。
これまで行政は、計画規模以上の降雨の場合、「想定外」ということで責任を逃れてきました。ところが近年、異常気象で「想定外」の災害がひんぱんに起こるようになり、「想定外」が想定外ではなくなりました。「何年に一度」という計画規模があてにならなくなった近年の豪雨を考えると、ダムは洪水調節で有効な選択肢どころか危険です。
2012年7月12日の九州北部豪雨をみても、白川流域で死亡・行方不明となられた25名は、全て阿蘇地域での土砂災害によるものです。下流域で浸水被害を受けたのは、熊本市の龍田地区や黒髪地区など、河川改修がなされていなかった地区ばかりです。
白川流域で求められる災害対策は立野ダムではなく、まずは土砂災害対策や河川改修です。また、想定外の洪水には対応できない立野ダムに頼るのではなく、遊水地の設置、田んぼダムの整備、流域の山林や阿蘇の草原の保全など、流域全体で保水力を上げる総合的な治水対策が必要です。