2022年度第1回セミナーの記録公開(森林保水力について考える)

【セミナー記録】「山が水を貯める力」について考える~森林保水力ってなに?~  

■日時:
2022年6月25日(土) 13:30-15:00 ※オンラインとリアル会場(スクリーン視聴)のハイブリッド開催

■報告(オンライン):蔵治 光一郎さん(東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)

1965年生まれ、東京大学農学部林学科卒、同大学院博士課程修了。専門は森と水の科学、森と水と人の関係。東大演習林、球磨川流域、矢作川流域、熱帯林などをフィールドとして現場のニーズを踏まえた実践的な研究を推進してきた。編著書に『緑のダムの科学-減災・森林・水循環-』『「森と水」の関係を解き明かす 現場からのメッセージ』など、訳書に『水の革命 森林、食糧生産、河川、流域圏の統合的管理』など。

  • 報告概要
  • 質疑応答

報告

●はじめに

 私がこの球磨川流域に関わるようになったのは2000年頃からで、当時の潮谷知事の下、さまざまな議論が行われてたのですが、その当時、まず関係者が集まって議論する場を作ろうということで不知火海球磨川流域圏学会を2005年に立ち上げ、17年ほどたちました。

 2020年の7月に大水害が起きたと聞いた時、これは行って確かめなければと思ったんですがコロナのこともあり、最初に現地に入ったのが2021年2月になりました。その時に2週間ほど現場を見せていただき、これは大変なことだということで、2021年の6月にこの学会で研究発表しました。その後、先ほど話にあった「流域治水を核とした復興を基点とする持続社会​​(通称、島谷プロジェクト)」に入って現在に至っております。

 今はあさぎり町の方で島谷先生たちがやっている県立南稜高校、かつての球磨農林高校の高校生たちとのコラボレーションで森林保水力の測定、あさぎり町の森林の皆伐に伴う影響評価を検討しています。

 2020年7月の球磨川水害では、人的被害や家屋の被害が多くでました。これが本流の増水ではなく支流の増水によるものであること、支流からは水だけでなく流木や土砂も一緒に流れてきて、それが災害を拡大したのでは、と言われてきたと思います。

 この支流の土砂について、上流の森林から出てくる、その上流の森林の状態が昔と様子が変わっている、手入れが追いついてない、多くの山で大規模な開発を行われている、山の保水力がなくなっている、といった意見を多く聞きます。地元に住んでらっしゃる方がおっしゃっていることですからかなり説得力が高いと思います。

 国は「流域治水」、熊本県はさらに「緑の流域治水」を打ち出してきました。緑の意味は色々あると思いますが、森林は緑そのものなので、当然そこに入ってくると思います。さらに球磨川流域の8割は森林で占められています。この森林が流域治水に貢献するのとしないのとでは大きな違いですが、その森林の状態はどういった課題があり、どんな解決手段があるかを考える必要があると思います。今日は森林の保水力に焦点を当てて話します。

●森林の保水力と人間の歴史(1)

 保水力ということについてお話しするにあたっては、やはり保水力そのものの科学的な側面と同時に、私たち人間がこれまで歴史的に、地球上で保水力とどのように関係しながら生きてきたかということを知る必要があります。今日の前半は、歴史的な観点で、これまでの私たちの人間と森林の関わりについてお話しします。

 森林というのは人が生きていくために欠かせないもので、これは時代も地域も問いません。その用途は、エネルギー資源、用材の大きく2つに分けられます。

エネルギー資源というのは薪や炭。化石燃料や他のエネルギー源が出たのは、せいぜい100年か200年前のことで、それより昔は森林から得ていた。エネルギーとは木を燃やし、得るもの。用材は、燃やさないで木の形で使うというものです。

エネルギー=薪、炭(家庭用燃料、製陶、精錬、製塩、製糸、製茶、など)

用材=製材品(建築、土木、家具、建具、日用雑貨、鉱業、運輸、通信、電力、車両、船舶など)、合板、パルプ・チップ

(用材も)大きく分けると製材品、例えば柱の角材、合板など建築土木をはじめ様々な用途に使われてきました。さらに細かくしたパルプチップも含まれます。場所によっては人がたくさんいて、森林が限られ、当然利用し過ぎ、自然界の力で森林が回復できなくなってしまったということがありました。山ははげ山になり、土砂が流れ下流の川が、段々と天井川になり、その上を水が流れるので水害が起きるということがありました。つまり、人が森林を利用しすぎて、自然の回復力を超えてしまい、土砂が流出し、下流の川に堆積し、水害が起きるようになった。

ここから、「治山治水」思想が形成され、制度化されます。676年天武天皇の伐採禁止令、821年水源禁伐の官符、1666年諸国山川掟、明治政府による1897年森林法、といったものです。

内藤東甫の図

内藤東甫(張州雑志)より引用

この絵は、江戸時代中期にある地方の様子を描いた絵です。山は皆はげ山で、そこから流れ出てくる川は川幅が広く、その川の底に土砂が積もってる様子が分かります。堤防があるわけですけど、堤防の横に田んぼがあり、田んぼは川より低い所にあって、完全に天井川の様子を示しています。これが江戸時代くらいまでは普通でした。

1900年頃の熊本の林野利用

氷見山ら「アトラス 日本列島の環境変化」(2009)より引用

 これは1900年頃の九州の森林地帯の利用状況です。球磨川流域の辺りを見て頂きたいのですが、白く抜けてるところが人吉盆地球磨盆地です。この周辺は赤い部分がかなり目立っています。焼畑という土地の利用のされ方です。それからそれ以外にもその他の広葉樹林や芝草山という部分もあり、人吉球磨盆地を中心に人々が、生活のために森林を利用していたことがわかります。

 ●治水三法1896-97年

 明治時代の前期から中期にかけて日本の森林は最も荒廃しました。同時に水害が多発したのですが、それは森林からの土砂が原因の一つでした。

 このようなことが災害を引き起こすということで明治政府は「治水三法」(河川法・砂防法・森林法)を明治29年から30年、1896年から97年にかけて作りました。この三法は、その後改正されたものの、同じ名前のまま、現在でも非常に重要な法律として位置付けられています。

 「治水三法」は、水害を防ぐ対策を河川、砂防、森林と三つに分け、それぞれ区域を定めています。明治政府は、土地所有権を導入したわけですが、土地所有者が好き勝手なことをやっていいということになっていたので、それでは災害は防げないので、土地所有者の権利を制限します。これを、私権の制限という風に言います。

 まず河川法において、流水は私権の対象としないこととし、河川区域は私権を制限した上で、堤防やダム、遊水地を作り、水を安全に下流に流すこととした。砂防法では砂防指定地という区域で私権を制限し土砂を下流に流さないよう、規制をかけた。森林は、2つに区分し、保安林の方で私権を制限した一方、普通林になった場合は制限なく、個人の所有とし経済活動もある程度自由にできるという形をとった。この仕組みは現在でも基本的には変わっていません。

 高度経済成長期に人と森林はどういう関係になったかと言うと、1955年から70年の15年間という短い期間に、集中的に広葉樹林だった森林を伐採し、そこにスギ・ヒノキといった針葉樹、つまり、木材生産に適した木を植林するということをやった。これは短期集中で徹底的に日本中に行ったという記録が残っています。それだけ当時、木材が不足し大量に生産され、将来、大量の木材需要を見越して植え替えた。その結果、日本の森林の面積の約4割はスギ・ヒノキになりました。球磨川流域の場合は、さらにそれより高い割合の6割以上の森林がスギ・ヒノキの人工林、人間の植林したものになったのです。

 その後1970年以降、社会経済情勢が大きく変わりました。木材の代わりにコンクリート、プラスチック、金属といったものがでてきて、安くて丈夫なため、木材の代わりに使われるようになった。そのため、木材の需要は激減してしまったのです。そうなってしまうと、木材を生産してもそれが高くは売れない。森林を所有している方々は、森林を管理するモチベーションが一気になくなりました。植林した場合、最初は非常に密集して苗木を植えますが、それを10年20年30年と、だんだん間引いていくという技術で作っていきます。間伐という間引き作業をするのですが、これをされずに過密のまま放置される人工林が増えてしまいました。

 本数は多いが、木の一本一本は非常に細く高さはあるので、モヤシ林と呼ばれます。このような人工林が全国的に増え、その人工林が崩れる、という災害が増えてきたのです。木を切らなさすぎて災害が起きるという、日本の歴史上始めての時代を迎えている訳です。日本人は森林を利用しすぎて災害に見舞われてきたのに、逆になったわけです。

不健康な人工林(1)(稲垣久義氏撮影)

 木を切らなさすぎて過密のまま放置されている人工林の写真でお見せするとこんな感じです。
 木の本数が明らかに多すぎな状態です。間伐されておらず、木が非常に細い。写真には、緑色が全然ない。本来は光が入り、植物が生えてきて緑になりますが、写真では明るく写っていますが、この森林の中は真っ暗で、木がびっしり葉っぱをつけ、光が入る隙間が全くない状態です。このような森林が、どう災害の原因になっていくのかも解明されるようになりました。

不健康な人工林(2)(太田猛彦(1996)「水と土をはぐくむ森」文研出版より引用)

 例えば次の写真。手前にある木の根がむき出しになっています。土の中にあった根が見えているって言うのは、土が削られて無くなっているからです。この木の根の露出具合を見ると、そこで何センチぐらいで土が削られたかわかります。

不健康な人工林(3)(丹沢にて、木平勇吉先生ご提供)

 根と根の間にある土の部分というのがおそらく雨が降ってきた時に、水が流しているのだろうというのは、この写真からわかります。木の本数が多すぎるということは、根の張れる範囲も狭い面積でしかないわけなんです。それに加え、更に根が露出してしまったら、その木は根の力で自分を支えているのに、支えきれなくなってしまう。この状況に風が吹いたり雨が降ったりしたら、崩れてしまうのも仕方がない、という状況になっています。これを、私たちは不健康な人工林と読んでいます。

 土は、森の外なら雨で流れるかもしれないけど、森の中では保護されてると思う人もいるかもしれませんが、実はそうではありません。土の表面の土の粒子が、雨粒が落ちてくることによって、その衝撃力で剥離し、粒子が今度はその雨粒が流れる力によって押し流されていく。この雨粒の土を削る力が問題になります。森林の中は外に比べて、雨粒の大きさが大きい特徴があるのです。

 この写真で見るとわかるように、降雨はまず、スギやヒノキの葉にぶつかり、そこで一旦貯留されます。さらに雨が降ってくると、だんだん雨粒が大きくなってきて、支えきれなくなったら垂れていく。そのプロセスの中で雨粒が非常に大きくなります。落下位置が低ければ衝撃エネルギーも大きくないのですが、先ほども言ったように人工林の木は高くなっていきまして15 – 20 メートルと、非常に高いところから巨大な雨粒が落下する。それが森の中の土を削ることが分かってきました 。こういう現象が起きている森は非常に不健康な訳です。

 その不健康な森では、どうして土が流れていくのかというと、まず雨粒が土の表面の粒子を砕いて細かくしてしまいます。細くなった粒は元々草の表面にある隙間に入り、目詰まりを起こすわけです。今度は雨水が染み込む力が弱くなり、染み込みきれなくなった水が地表面を流れていってしまう。その時、土の粒子も一緒に流れていく。これを防ぐためには表面をカバーするものがあればいい。

 地表面をカバーするのは何かというと、落ち葉、下草と言われている森の中に入ってる植物です。植物の葉も雨粒を受け止める。また植物があれば落ち葉が生産される。これが健康な人工林です。健康な人工林を作るには、適切に間伐を行い、森の中に光を入れ、植物を育てる必要がある。

実際の様子です

 雨粒が直接地表に当たらず、土に染み込みやすくするといったいくつかの効果が期待できる訳です。

 雨粒が一旦、木の葉につくのも、実は保水力の一つです。保水力は三つあり、どの森林にもこの三つの数量が備わっており、かつ、この三つの保水力は全部合計で働くので、森林の保水力といった時はこの三つを足したものです。

 雨粒が木の葉につく保水力は、ちょっと難しい言葉ですが雨水(うすい)遮断力といいます。雨粒は木の葉だけではなく、木の皮、下草植物、落ち葉にぶつかります。それらが乾いていれば、湿らせる。この雨粒の水は、地面に染み込まず、川にも流れません。植物に止まり、雨が止んだ後、全て蒸発して水蒸気となる。これが、森の保水力にカウントできるわけです。

 木は、空気中の二酸化炭素を吸収して光合成をし成長します。光合成のとき同時に、水を蒸発させる。この水は、一度、地面にしみ込み、土壌中に保水されている水を、木が根から吸い上げることで供給されています。蒸散を行う口のような気孔というものが葉についていて、植物はこの穴を開けたり閉じたりできるようになっています。雨が降ってる時に気孔は閉じているので蒸散はなく、雨が終わって晴れて、一番の遮断力の保水力がなくなってから蒸散が発生します。土壌の中にある水を吸い上げて蒸散がおきます。木は、生物であり、自ら生きていくために土に水を保水しているのです。

 蒸散のために木が保水している水の、全部が蒸散するわけではありません。雨というのは非常に気まぐれで、やたらと降ったり降らなかったりするので、木は保水します。場合によっては無駄になる場合もあり、その無駄な分は地面に流れ地下水となって流れていくということになります。この水も一時的には保水されてますので(森林の)一時的保水力と呼んでます 。

 一方で、非常に強い雨が降った場合はこの森林の保水力といえども限界を超え、保水されない水が出てくるわけです。その保水されない水というのは、表面流という形で川に流れていきます。 難しいお話をしたかもしれませんが、このような3種類の保水力を森林は備えていています。

森林の総保水力(図)

 蒸散は、蒸発して大気に戻り、一時的保水力の場合はこれは地下水となって下流に最終的に流れる。ただしその流れ方は非常にゆっくりなので、洪水を和らげる保水力として働きます。

 このように森林というのは二重三重に保水力を備えていますが、私たちが知りたいのは、どんな樹木の状態で本数はどれぐらいだと、保水量がどう変わるのか。また、どういう状態だとかどうなるかです。大まかに言うと樹木の状態によって変わりうる保水力というのは、図にあるように、雨水遮断力と蒸散は、樹木の状態による。土壌では、蒸散と一時的保水力が関係しています。

 森林の保水力を見るには、樹木の状態、土壌の状態を見ればいいということになります。

過去10年間の国産材供給量(林野庁「令和2年木材需給表」)

 不健康な人工林が生まれてきたという話に戻りますが、2000年をすぎてこの状況がガラリと変わってきました。

 自給率があまりにも下がりすぎ、官民挙げての一大キャンペーンとして林業の成長産業化といったようなことが進められてきました。その結果、自給率はなんと一時41.8%まで上がったのです。つまり、短期間にたくさん木材を生産しました。ただ、合板やエネルギー資源として燃やして使う用途が増加していました。この増加の中身を見ると、実はかなり南九州に偏ってるということがあります。

 それに加えてパリ協定が国際的に約束され、ここ2年間ぐらいでカーボンニュートラルであるとか脱炭素社会という流れ、つまり地球温暖化を緩和しなければならないという世界的な流れに日本語の乗ることになりました。さらに木材を利用し、あるいは森林がだんだん年をとっていくと炭素吸収能力が頭打ちになっていく可能性があるので「木は切り木材として利用し、さらに造林して若い森林を作ってたくさん吸収させよう」、そういう論理で国が利用を推進し始めたのです。現時点では南九州が一番集中的に伐採が行われており、再び、木を切りすぎて災害になる時代に向かいつつあります。

 自給率に関しては2002年に18.8%まで下落しましたが、現在41.8%。もちろん分母に影響されますので、純粋に国産木材の生産量はグラフのオレンジのところ。この過去20年間ぐらいで2倍弱ぐらいにはなってるかなということが分かります。

スライド:最近の「燃料材」の増加

(林野庁「令和2年木材需給表」参考資料「木材需給の構成等」を一部改変)

 実際何に使われているのか。この赤の製材品はそれほど増えていない。増えているのは合板のオレンジの部分と、燃料材という青い部分になります。燃料材が増えている大きな理由は、東日本大震災以降、再生可能エネルギーに多額の補助が出るような制度が導入され、バイオマス発電という形で木材のエネルギー源とする利用が拡大したからだと思います。生産量は増えているわけですから。当然伐採量が増えることになるわけです。

スライド:資源量と木材生産地の偏り

(林野庁「森林資源の現況」2017年3月31日に基づき蔵治作成)

実際に資源量をどのくらい持ってるのかを示したのがこのグラフです。グラフは縦軸に森林面積1ha あたりの森林蓄積 立法メートルを表し、数字が大きいほど、その県の森林にはたくさんの資源があります。見ての通り、宮崎、大分、熊本の南九州3県が多い。それに次ぐのが北関東の茨城、栃木といったところで、その次は東北の県となってます。熊本の中でも特に球磨川流域において盛んです。

植えたばかりの若い人工林のグラフ

(林野庁「森林資源の現況」2017年3月31日に基づき蔵治作成)

 木材生産がたくさん行なわれることに対応する形で、若い森林の割合というグラフを見てみます。このグラフは横軸に47都道府県をとり、縦軸に1-10年生の若い人工林の割合を計算してみたものです。やはり宮崎が圧倒的に大きく、それに次ぐのが大分、熊本です。

 皆伐しその後、若いスギ・ヒノキを植林するということをして初めて森林年齢が変わるので、このグラフで非常に値が小さい本州の都道府県については、おそらく皆伐という木材生産がほとんど行われていない。それに対し九州ではそれが盛んに行われている、と言えると思います。

 そういうことで、球磨川流域では皆伐が盛んに行われていて、そこに、2年前の7月に大雨で災害がおきたということになります。そこで調査を続けています。写真は球磨村です。このように大きな面積が皆伐されています。

これはあさぎり町の方です。ここでも皆伐されている。手前だけではなく、奥の方でも皆伐がみられます。

これは、八代市の坂本、百済木川を抜けて芦北町入ったところ。作業道があるが、道は木材を集めるために重機が通った後です。道の下側で土砂が表面を流れているのが見て取れます。

 これも坂本の市之俣川の上流です。昨年、島谷先生の紹介でクローズアップ現代というNHKの番組に出た時に、ここにご案内したんですけども、市之俣集落では裏山が激しく伐採されてる状況がありました。

 これは上から市之俣集落を見下ろしたところで、私がこの写真を撮った場所は林道の上です。この林道のガードレールを突き破って土砂が流れ落ちた場所です。この竹林の真ん中に、穴があいています。土砂がここを突き破って集落まで到達し、家を押しつぶす災害が起きたところです。このように集落のすぐ裏山やその周辺でもお構いなしに、皆伐されているということです。

これは集落を下側からとったものです。竹林に穴があき、下の家屋が押しつぶされていることがわかります。

災害が起きる前、竹林の部分をストリートビューで見てみると、擁壁もあり真ん中に穴があいていた。びっしり竹に覆われていました。

災害後、擁壁は半分崩れており土石流は防げなかったことが分かります。

市之俣川の現場に到達した土砂がどこから出たかというと、こちらの写真では重機の作業道がついてます。そこで表面が剥離するような侵食が起きています。

 これは坂本ー山江基幹林道ですが、つづらおりのジグザグな道が尾根の上までついています。これが、集材路、あるいは搬出路です。クローラーのついた重機が斜面を上がってチェーンソーで切った木材を集め下ろしてくるのに使っています。こういうやり方を車両系集材といいます。重機が踏み固めたところが水の道になってしまう。雨が降ると水が集中し、ここから崩れると言われており、実際に崩れてもいました。

これは車両系集材が行われている場所です。植林もされず放置されています。自然に植生が回復している様子も見られません。

球磨村の横井―大槻間。これは典型的に、集材路が原因で崩れたところ。切土面の方が急勾配になるので、そこからたくさん土砂がでます。

これらが車両系集材ですが、もう一つ、架線系集材というものがあります。柱をたて、ワイヤーを上までつなぎ、つりあげて運びます。この方法だと、搬出・取材路をつけなくても木を集められる。急傾斜地ではよく使われます。これも坂本ですが、ここでは架線系集材を使っていました。

伐採した後もさまざまな配慮もできます。これは伐採した後、等高線に沿って筋がついています。これは、伐採した枝や葉を集めて土留しています。一時的保水もできるし、土砂の流れを止める効果が期待できます。手間暇はかかりますが、今回の災害でも、こういったところは崩れていない印象を持っています。

跡地に植林しているところ(球磨村)。たくさんありました。鹿の害があるので、柵を張っているところも多かった。若い森林が育っているところもある。この例は、右は良好、左は崩れが見られます。つづら折りの道があるとこのように崩れがでて、大規模に土砂が下まで流れてしまいます。

こちらは、神瀬の川内川の上流です。大規模伐採と大規模植林が行われています。木が生えていない部分もありますし、植林した部分でも3か所ほど崩れています。この土砂は下流に流れ、神瀬に達したと思われます。

伐採とは別の放置されて過密になった不健康な人工林の問題、これが崩れることによって下流に流木が出ていくことが至る所で見られました。写真は球磨川の楮木川の流域です。この白い擁壁の右側を川が流れる前提ですが、左側は過密な放置された人工林でした。ここで、森林が丸ごと流されて、下流に流れていった。

そのことはグーグル等の衛星写真からわかる。白い擁壁があったが、半分ほど崩れていて、人工林の半分くらいが流されたのがわかる。下流に流木として流された。川と道が並行して、その間の森林が流されるというのが、坂本では至る所にありました。

川と道の間の空間に人工林が多いのですが、川の増水で、人工林の木が流れ、更に木を倒して流れる。本来は渓流沿いは増水で流されるので、こういうところに植林はしてはいけない、世界的には伐採も植林も禁止されているが、日本ではそういうルールがなく川のぎりぎりまで所有権があり、所有者の自由でそこまで植林されています。

放置人工林内の表面浸食(写真)

不健康な人工林の典型例。こういう場所を災害後にみると森の中を水が流れた跡があります。根も見えていて、見えているところは下に木があったはずですが、根こそぎ流されているものもある。これは坂本の行徳川です。

 それから、皆伐した跡の土地は、どうなっていくかという事例の写真です。切り株がたくさんあります。ここはおそらく10年ほど前に皆伐したけれど植林されず、おそらく鹿等が入って植物を食べてしまい森林が再生しなかった。こうなると、切り株は残るけれど、植物が生えず土がどんどん流れ、根が見えている。切り株は15-20年で腐ってしまう。放っておいても二度と森林は再生しない禿山になりかねない。切り株が腐るとますます斜面を支える力は弱まっていきます。

 今回の現地調査で分かったことをまとめると、やはり災害の原因となった土砂や流木は渓流沿いで植林されていたところ、それが放置され不健康な森林になった場合に、写真で見たように、根こそぎ流出したところが多かっただろうと思います。皆伐の作業道に原因がある表面侵食はあったと思いますけれども、表層崩壊というような大きな崩れはそれほどなかった。九州北部豪雨と比べると降水量が少なかったこと、また球磨川流域では皆伐が盛んに行われるようになってから約10年でまだ切り株が斜面を支える力が残っています。切り株が腐っていくと、崩れるリスクが高まりますが、そこまでの森林がまだなかったということのようです。

 表面侵食については、集材方式が架線タイプなのか車両タイプか、それから材を集めるやり方が、全幹という幹だけなのか、全木といって枝も葉もついてなのか、この違いこれによって表面の土砂が削られて浸食されるかはだいぶ違うということ。跡地を植林するかしないか、という違いもあります。また、鹿柵があるかないかで、被害を軽減する努力が報われます。

(今井久(2008)より引用)

 10年20年で切り株はだんだん腐っていくので、その力は弱まっていきます。それに対して後から入った植物・植林した樹木の力が強まっていく。両方足した力としてこの紫色の線のように、木の根によって斜面の崩壊が抑止されますが、一番底になるのは10年から20年ぐらいです。球磨川流域では、これからそういう危険な森がどんどん増えていく状態になっているのでは、と心配されます。

 保水力低下をできるだけ緩和する森林の管理、木材生産、跡地の扱いが将来の持続可能性を考える上では非常に大事です。具体的にたくさん書きましたが、先ほどの説明から容易に想像できるものばかりです。

 放置された過密人工林は保水力が低下してますので、それを緩和するには切り置き間伐というのは有効でしょう。もちろん、搬出する間伐も良いでしょう。間伐するほうが保水力は保てますが、場所的に皆伐が必要なこともあります。費用的に問題はあるでしょうが、できれば、全木集材ではなく、全幹集材で切り倒したところでなるべく枝葉を斜面に残す。また伐採した木の一部、枝などを残す。車両で集材すると集材路が固まって水の道になってしまうので、なるべく架線でやる。また、小型の機械を使えばしめ固めが緩和できる。

 切置き間伐は批判もありますが、実験でも保水力が維持されることがわかっています。

 皆伐は全ていけないというつもりは全然ないんですけども、私たちは法的な規制をかけてはいないので自主規制になりますが、望ましいことは、急傾斜地、大型斜面、大面積、人家近くは避けたい。また、集材方式は架線。枝葉を残し、植林をし、鹿柵を儲けることです。

 特に急傾斜地、大型斜面、人家近くはできるだけ間伐による木材生産を選択した方がいい。土砂災害特別警戒区域等に指定された場合は、崩れる土砂の発生域では、私権の制限をするのが妥当であろうと思っています。保安林は私権の制限がかかりますが、そうでなくても、そこは許可制にするという対応をした方が良いのではないか。様々な制度がありますが、実行性が難しい場合もあるので、森林とデータベース化してパトロールをしましょう、と書きました。

 最後になりますが、今日は流域治水という大きなテーマの中で森林保水力について話をしました。国の流域治水の法的定義を見ると、「上流から下流、本川・支川などの流域全体を俯瞰し、関係府省庁等の国の行政機関、都道府県、市町村、地元企業や住民までを含めたあらゆる関係者が協働して推進する治水対策」と、非常に漠然とした定義になっています。いかようにも解釈できる。

 国の関連法というものが確かにできましたが、残念ながら明治政府が決定して現在でもメインの仕組みである治水三法(河川法・砂防法・森林法)​​は、流域治水によって大きく改正されてはいません。つまり、流域治水という言葉が出てくる前も後も変わってない訳です。今日、私が説明したような森林による流域治水を進めようとしても、その法的根拠はないということになります。ですから、法的根拠がないことをやれと言われても、なかなか努力できないね、あるいはそれにプラスアルファのコストがかかるけれど、誰が負担するのか、という問題になると想像されます。しかし豪雨はいつ来るとも限りませんし、先ほど申し上げたように崩れやすい森林がこれから増えていく可能性が高いので、上にあるようなあらゆる関係者が共同し、法的根拠がなくても自発的に推進していく必要があるのではないでしょうか。それらを推進することで、災害を少しでも和らげることができるのではないかと考えています。

 以上です。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答

Q
鹿の害を防ぐのがとても難しいです。森林組合がネットを張っても、入り込まれてしまう。何か良い方法はないでしょうか。
A

非常に難しい。日本中で頭を悩ましています。妙案はないのが実態ですが、柵の作り方の工夫がありますが、鹿は日本古来からいる生き物なので、日本では人とせめぎ合いをしてきた。人が森林を利用していた時は鹿の方が引いていたと思います。昔に比べ森林に人がはいる頻度が減ってきた。鹿はそこで入ってくる。有害動物として駆除する方法はありますが、それ以外としては、トレイルでもなんでもどんな目的でもいいので、森に入る人が増えれば、鹿の方が引くかもしれません。

つる)鹿の害は本当にひどい。人工・自然林にかかわらず増えています。

Q
球磨川流域は60%が人工林となっているというご説明でしたが、スギやヒノキよりも、保水力ではクヌギなど広葉樹林がいいのではないかと思いますが、どうでしょうか。
A

森林の保水力は3種類の合計だと先ほど説明しましたが、この3つの保水力を、両方のタイプの森林で比べて、比較する必要があります。個別の森林は条件が違うので、簡単に決めつけることはできないんです。私は人工林の中にも保水力がそれなりに高い森林もあると思っていまして、保水力がある人工林とは、3つの保水力が全部大きければいいわけです。人工林の葉の量、あるいは枝や幹の表面積のボリュームが大きい人工林のことです。さらに森林の下の土壌がきちんと守られており、土壌侵食起きていてはダメで、きちんと間伐され光が中に入り下層植生が生え落ち葉もある、それによって保水量が十分あると思います。ですので、広葉樹林と人工林の比較は簡単ではないのですが、私としては人工林の中でもきちんと間伐と手入れを行って、健康でかつ人工林の年齢が50年を超えていれば、広葉樹の森林と全く遜色はないのかな、と思っています。確かに保水力がない人工林はたくさんあるとは思いますが。

Q
混淆林が熊本では少ないですが、それは県ごとに違うのでしょうか
A

全国どこでもそのような森林は非常に少ないです。間伐が遅れる事もありますが、間伐をしてあったとしても下草と言うか小さい広葉樹が生えている状態をよしとせず、養分が取られるという説をいれて、全部切ってた時代があることも関係しているようです。昔は、雨粒の動きのことについて研究があまり進んでなかったので、下層の下草が重要と知らなかったので、下草は邪魔、綺麗に刈るのだという価値観、そういう扱いが全国にありました。今ようやく、だんだん正しい理解になってきました。しかし、間伐が遅れると駄目です。球磨川流域というか、南九州3県で、皆伐にシフトしてきてるところもあります。皆伐にシフトした分、間伐に手が回らないようです。そういう意味では、他の地域で間伐をやってるけれど、ここは皆伐をやるという違いは出てきていると思います。

Q
オンラインからの質問です。今の人工林の現場から、今すぐ徹底的な間伐が必要だと思います。しかし、林業界にはそのための経済的余裕がありません。そこで、公的に税金で間伐を進める必要があると思います。それにより森林での雇用が確保できます。強制的な間伐が緑の流域治水の中心になるようなことが実現できないでしょうか。また、森林譲与税を活用することはできないでしょうか。
A

林業をやってらっしゃる方に、経済的余裕がないというのはその通りだと思います。もし木材運び出す間伐ではなく、切り置き間伐で捨てるようなものだったら、それは全然収入がないわけですから、これは公的資金でやらなければ、進まないんですね。間伐することが防災、保水力も含めて、地域にはプラス、やらなければマイナスになるわけですから、税金でやる。既に仕組みとしては、熊本県の森林環境税、国から市町村に配布されている森林環境譲与税もあります。ただ課題なのは、林業の担い手の数に限りがあることです。その限られた数で皆伐の作業や再造林等の作業をされているとすれば、お金の問題と同時に人数の問題となります。現状ではおそらく、おそらくお金より人手が問題なのではないかと思います。林業の現場で作業を行う方々への高い待遇、安全な職場環境を作る等、そういう人材育成的な部分が極めて重要なんだろうと思います。

Q
雨水は地面にしみ込まず、川にも流れないということですが、現在の雨量から川の流量を計算する治水の計算方法はおかしいということになりますでしょうか。(補足:国土交通省の計算方法について)
A

国交省の河川計画、河川整備基本方針とか河川整備計画における雨量から流量を計算するプロセスについてのお話でいえば、その計算については国交省の考えに基づいているのだと思います。

私がその計算方法についてコメントするとすれば、今日のこの話と直接関係しないかもしれませんけど、彼らの計算は、森林の状態、樹木がどういう状態か、どういった種類の木か、何年生の木で、どれぐらい光が森林に入ってるのか、あるいは皆伐直後なのか、植えてから50年経っているか、森林の土壌の状態はどうなのか、土が薄いか厚いのか、土が流れているのか、と色々違いがあるのに、そういった違いを一切無視してるという点です。

国交省の河川計画上の計算では、森林は面積だけを考慮して取り扱います。森林面積の増減でそれに応じて数値も変わる。森林の質的な違いが考慮されていない。極端なことを言えば、伐採直前の森林と伐採直後の跡地というものを、全く同じものと想定して計算されてるという事です。それについては私は、そんなことはないのでは?つまり伐採直前・直後では、当然計算した川の流量は変わってくるでしょうと。どのぐらい変わるかはわかりませんが、全然変わらない、というのはおかしいのではないかな、と思ってるところです。

Q
土壌流出を防ぐ切り置き間伐の問題点、効果的な方法、もしくは好事例があれば教えてほしい。
A

まず、切り置き間伐は、一般的には切り捨て間伐という言葉が使われてると思います。切り捨て間伐は、良くないこと、悪いことだとされてきました。その木が使える大きさのものを腐らせるので、もったいないという意見が非常に強いわけで、実際にそれがもったいないから補助金を出しませんという、極端な政策転換が民主党政権の時に行われました。それで間伐面積が激減してしまったのが、歴史的な事実としてあると思います。切り捨て間伐ということの理解が非常に不十分で、感情的だったと思います。

私だけでなく他の人も、切り置き間伐という言葉を使っています。私は愛知県豊田市矢作川流域で、長年、森林と関わっています。そこでは、豊田市が定めている100年間の森づくり計画や、20年間あるいは10年間の森林森林管理計画などでは、切り捨てではなく切り置き間伐と言うようにしました。理由は切ったものを捨ててるわけではなくて、プラスの効果があるのでそこに意図的に置いていて、ネガティブな意味でやってるわけではないので。それに対して税金も投入する根拠もあるということで、言葉遣いを変えました。少なくとも、愛知県の豊田市では、切り捨て間伐という言葉を使う人はもういなくなっていて、切り置き間伐と言っています。税金を使い推進されている目的は多数あるんですけども、大きいものは防災上の目的です。

Q
今回は流域の現場に行ってみたんですけど、切り置き間伐が本当にたくさんあったんですね。災害に繋がってる場合は、斜面に対して材を垂直に置いているものが、谷を塞いでいることが結構ありました。チームドラゴンで鹿のネット張りしてる時に、置いてある切り捨て間伐で、垂直においてあるものを見つけたら、必ず等高線と平行に置くようにしました。そうすれば土砂止めになるので。そのやり方はどうでしょうか
A

まさにおっしゃる通りだと思います。

全てに当てはまるか分からないですけど、例えば私が知っている愛知県と岐阜県では保安林に対して100%公費で間伐する場合は、全て等高線上に並べる事が義務付けられています。切り置きして倒した木をどう置くかで、出てくる土砂の量も結構変わるという研究も行われていて、等高線上に置く効果は認められてます。その切り置き間伐ができる場合は、一手間かかりますが、同じマンパワーや予算でやる場合、面積が狭くなってしまうかもしれませんが、それでもやはり横置きすることは重要です。

Q
全国で、特に南九州で皆伐が進んでしまったという理由は何でしょうか。
A

この回答は、次回の講師である佐藤宣子先生の方が適任かもしれません。

私の個人的な意見としては、だいぶ昔から、非常に林業が盛んな地域であったこと、例えば、大分県は日田林業地もありますし、宮崎県は知事が代々、林野庁長官だった人がやってたりと、地域性があって、元々、木材生産したいというモチベーションが高いところです。さらに本州の各県、北九州と比べると、木の成長が早い。本州では50年かかって太る木材が、南九州だと30年で到達するぐらい、太り方が早く、短いサイクルで回すことができます。所有者の立場からすると、一旦伐採し植林し50年先まで次の収穫はないと言われると、自分の人生の残り時間を考えるけれど、30年と言われると、30年先までは生きてるかな、と思うようで、(個人にとって)50年と30年の違いは大きいと思います。木材を使う側の人たちがそれに注目し、南九州に集中的に製材工場を建てるとか、南九州の材を買うとかそういうことに熱心だったこともある。また、南九州の人たちが九州だけでなく、関西あたりの大きなマーケットへの木材販売に極めて熱心に取り組んだということもある。そのように複合的な要因があります。南九州産として鹿児島県はそこに入ってないわけですけど、おそらく農業の方を優先してる部分が大きいのではないか、そこは想像です。ぜひ、佐藤先生に詳しく聞いていただければと思います。

Q
先ほど山に入ったらいい、という話があったんですが勝手に入っていいのか。山から遠くなって分からなくなっている。鹿の害を減らす実践はしたいんですが、どういう風にどこに行けばいいのか、山にどうやって入ればいいのでしょうか。
A

何を想定するかですけど、トレイルランとかやってらっしゃる方がもしいれば、お話を私も聞きたいぐらいです。例えば、トレイルランとかやられてる方は、山ん中に入ってるわけですね。ルートはどうやって決めるんですか。あるいはそのルートは、もしかすると誰か土地の所有者がいらっしゃる所だったりするかもしれませんけど、了解をいちいち取るのはできないと思うのですけれど。それを取らずに、地図上でここは歩いて楽しそうだからいって歩くのか。つるさんどうでしょうか。

つる)基本的に、登山道を使っています。昔からある登山道で、人が通らなくなったところをちゃんと手入れして、人が走れる幅ぐらいにする。新たに開拓することはないです。ずっと使っていなくて薮になっているところは、その集落の方に聞いたら大体分かりますので、集落の方に「ちょっと手を入れていいですか」とお断りしてしています。私が個人で入る時は、断らず入って歩いて、地元の方に怒られたらごめんなさい、とする 。山菜を採ったりするわけではないので。

A) 私もつるさんのおっしゃる事でいいと思います。

Q
先ほど川沿いの流されやすい土地の植林を規制することは難しいという話でしたが、洪水時に流された土砂や木材などが下流で被害を出した場合に、下流に被害を与えたということで植林地の所有者が罰則を受けるようなことはありますか。
A

基本的には因果関係ですね。通常、下流に被害を及ぼした木材がどこから出てきたのかを突き止めるのは、ほぼ不可能な場合が多いと思います。例えば、ある集落の家が被害を受けて、集落に被害を与えた木がその家のすぐ近くだけれど、所有者は別の人だったとかそういうケースはあるわけですよね。そういう場合は因果関係は明らか、ということになります。その場合、民間対民間の災害補償になるので、やはり当事者同士で解決することになる。危険な状態で森林を放置しておくことに対して、罰則を科すというルールのある自治体はあります。私が知っている事例は、京都府の条例です。京都府では条例を作り、災害が起きた場合、他の人に危害を加えるような形で森林を放置しておくことに、かなり厳しい対応を取っています。しかし、京都以外の自治体では、そういう条例を作っているという話をあまり聞かないので、一般的ではない。実際に被害が起きたら当事者同士で解決してください、ということになる。

参考:京都府森林の適正な管理に関する条例

https://www.pref.kyoto.jp/shinrinhozen/tekisei.html

Q
人工林を整備し、広葉樹を増やして鹿や熊の餌になるような木を増やしたりとか、先ほどお話してあったような対策ですねそういうものに行政がインセンティブを持つにはどうすればいいのか。また、災害が起きて税金を投じるよりも、森林を整備することに投じるのがいいのでは。
A

未然防止についてと理解し、お答えします。

 未然防止は、例えば公費で森林環境税で切り置き間伐などをやるのは、まさに未然防止です。災害が起きた場合の復旧については、やはり森林の面積があまりにも広すぎるし、どこで災害が起きるかという予測が極めて難しい。出来る限り未然防止対策をしてるわけですけど、それでも対策の限度を超えた災害が必ず起きる。どうしても復旧は必要になる。現状、保安林に関しては、治山事業として公費で工事を行います。ただ、 残念ながら毎年災害が起き、復旧に予算が使われることがほとんどです。税金の効果的な使い道という点では、森林があまりにも面積が広いため、事前の未然防止策に税金を投入する場合、広く薄く使わざるを得ない。ですので、事後的な災害復旧対応にならざるを得ない部分が、河川工事等と比べたら、強いかもしれません。森林の特徴です。

以上

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