流水型川辺川ダムの環境アセスにどう向き合うか 環境アセス勉強会報告 

1月29日の自然観察くまもと(自然観察指導員熊本県連絡会)主催のアセス法の学習会に参加して下さった皆さま、ありがとうございます。

講師の辻村千尋さんのお話はとても分かりやすかったと好評でした。自然保護アナリストの辻村さんは元自然保護協会保護部長で、いろんな自然保護の現場に関わってきた関係上、自然保護法にもとても詳しく、今回は球磨川でどんどん進む川辺川ダムのアセスに対して、私たちはどう向き合っていったらいいかという視点でお話していただきました。

事業ありきで進むアセスに対して、どうして私たちの意見を届けることが重要なのか、事業者の目線でなく、そこで暮らす私たちの目線で意見を届けることの重要性を繰り返されました。また、事業ありきなので、結局は政治的判断でしか事業は中止にならないので、アセスで意見を出す等この問題に関心があることを広く伝えることが大事だと思いました。

辻村さんも結局はアセスという制度を変えなくてはいけないと思い、自然保護協会を退職し、政治の世界に入ろうと決意されたそうです。環境の悪化や、日々の暮らしすべてが政治と直結していることを私たちは認識すべきであり、普段からそういう視点での議論が不足しているなあとあらため、その重要性を認識しました。

辻村さんのお話の要点は以下のようなものでした。長文ですがアセスを読み解くうえでとても重要なことなので、是非読んでください。とりあえず、辻村さんのご講演の部分だけです。質疑応答にも重要なお話が沢山ありましたが、それは追ってまとめてながします。

詳しい内容を知りたい方は、私までメッセージください。

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1)アセス法(環境影響評価法)の手続きについて。

・環境への影響があると分かっていても、今のアセス法では止まらない。ヨーロッパでは第三者が行い、ここは作っていい場所とかいけない場所とか決まっているが、立案段階で動物や植物とのバッティングを避けるようになっている。

・日本では、事業者が事業を進める前提で、図面上で探して計画するので、自然度が高い所とバッティングしてしまう。そこからアセスが始まる。

・現在、川辺川ダムでは配慮書・方法書が終了し、今度は準備書が出てくる。

2)配慮書・方法書・準備書から評価書までの手続きとは?

・配慮書は単なる文献調査。本当は事業ナシというゼロ案も必要だけど、抜け穴が用意されている。

・方法書というのは、こういう調査をしていうという具体的な調査方法を示すもの。こういう影響が出そうなので、その影響を図るためにこういう調査をしますということが書かれている。

・その方法書で示した調査方法の下に影響評価をする。この調査をもとにこういう影響があるだろうということを示したのが準備書。

・その結果に対して専門家や自治体の首長が意見を出す。ここで意見を出すことによって、もっとちゃんと調査しなさいという意見が盛り込まれたのが評価書。ここでアセスの結果が確定する

・ただ、ここで、もう一度環境大臣の意見を受けて修正される。準備書の段階では環境大臣の意見はでない。準備書の段階で住民の意見やいろんな意見を受けて、修正されて出された評価書に対して、主務大臣が意見を出して反映されたものが、補正評価書。ここまでがアセスの手続き。

・主務大臣が認可を出して事業がスタートする。

3)影響に対する回避・低減・代償がきちんとできているかをチェックすることが大事

・「回避」は日本語通り、影響を完全に回避すること。「低減」はできるだけ影響を小さくすること。「代償」は影響がでるので、代わりにこういう代償措置をとりますというもの

・環境省はもっとも重要視するのは回避であると、優先順位を整理している。完全に回避できないときには低減措置にしなさいと言っている。それができないときは、何故低減措置すらできないのかを明らかにした上で代償措置をしなさいということになっている。

・事業者は回避という言葉の下でやっていることが多い。回避というのはそこに手を付けないこと。もしくは、その事業が行われても影響が皆無であるということ。

・これまでのアセスの中で、回避をきちんとやった事業というのはない。回避が最優先になっているにも関わらず、事実上回避になっていることは少ない。これが問題。

・皆さんに回避ができているかどうかを準備書でチェックしてほしいから。これ、回避になってないでしょう?じゃあ、低減になっているかどうかということもチェックしてほしい。

・例えば猛禽であれば、ペアがこの範囲に繁殖地を持っていて、行動圏の広さはどのくらいでその行動圏の何割ぐらいをその調査で使うので、影響は少ないと書いている場合、それを回避と言えるかどうかということである。その猛禽類の内部の構造をきちんと分析しているかが大事。

・馴染みがある動物を例にすると、本来であればキツネであれタヌキであれ、行動圏があり、その行動圏の中をどう使っているのか

、その行動圏の中で大事な場所、例えば全体の行動圏の中でたった1%であったとしても、その1%がその生き物にとって、とっても大事な場所であったら、それは致命的。

・アセスの制度では事業は止められないといったけど、実は止められることもある。残念ながら準備書まで行くと難しいけど、配慮書の段階だとやることいっぱい述べると、事業者は嫌がる。なので、配慮書、方法書の段階で、これじゃ調査足りないよとか、もっとこんな調査が必要だというと、費用対効果を考え始める。

・しかし、指摘をすることは大事で、今後の展開を考えたときに、指摘をしたことについては、それは想定外だと言えなくなる。想定外と言わせたらいけないというのが準備書の段階で意見をいうことが重要なポイント。

4)アセスをどう読んだらいいか?・・暮らす人の視点での評価になっているかを見る

・アセス報告書を読むのは大変なので、要約書からやる。要約書でもページ数は多いが、まず自分が関心があるところから見るのがいい。要約書でここ足りないとおもうところを本冊で読むが、大抵一緒。本文の方には生物のリストが余分にあるぐらい。

・一つのポイントとして、ガイドラインの通りになっているので、その地域の実情を踏まえていないことが多い。

・今回の方法書も穴あきダムと言っておきながら、穴あきダムの評価がされていない。試験湛水についても、穴あきで普段流れているのに、既存ダムのマニュアル通りになっている。

・「自然とのふれあい」とあるが、これでやっていることと言えば、近くの公園からどう見えるかということを評価している。それって、自然とのふれあいといえるのか。その地域の人が、自分たちが触れ合ってきた自然がどうなるかということを評価しなくてはならない。そういう人々の視点が決定的に欠けていることが多い。

・例えば騒音・振動。例えばリニア新幹線予定地のある場所では夜60デシベルの音が出ている。カエルの鳴き声や水の音。それが環境基準ぐらい。でもダムの場合は音の質が違う。ダンプの音はストレスである。

・粉塵についても、空気中に舞う粉塵ではなく、ダンプが行きかう環境で、子供たちが発育していく段階でどういう影響を被るのかということも大事なのではないか。

・そこで暮らしていく人の視点を伝えていくことが大事。そういう影響を回避できていないでしょと指摘すること。

5)自然はすべての構成要素が大事だということを住民の視点で伝える。

・今回の方法レポートをみたが、やはり、普通のダムの項目でしかない。また現況把握において、球磨川の場合はこの前の水害で、被害を拡大させた原因の一つには瀬戸石ダムがあることは皆さんが分かっている。そのことに一言も触れていない。

・穴あきダムの環境への影響を考えるのであれば、普段は水が流れているので、流してしまう土石のほかに、流木が下流にどういう影響を与えるかということまで評価しないといけない。そういうことが全く評価の対象になっていない。

・今回大事なのは、地域の特性を踏まえた環境への影響がしっかり回避できているかどうかである。当然回避できていないので、彼らが回避措置、低減措置だと言っていることが、代償措置にしかなってないのではないかという視点で準備書を読むと、読み取りやすくなるかと思う。こういう調査ではこういう事しか言えないなと気づくことが大事。

・球磨川に尺アユがいるが、更に横断工作物が更に増えると、この存在は消えていくということを、しっかりと考えることが重要。

・地域の人たちはもっと見ている、大切な視点、それは希少種でなくてもいい・自然は希少種だけ守らないといけないというものではなくて、自然はどの種も欠けてはいけない。すべての構成要素が揃ってなくては、自然は健康体ではない。これが大原則

・住民の視点で球磨川の宝ってこれだよねということに対しての評価がなされてなければ、これは足りないよという意見を出してほしい。

(報告:つる)

※つる詳子のFacebookより転載。写真等を許可なく無断使用することはご遠慮下さい。

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