第5回石木ダムセミナーの記録を公開しました
第5回 この川にダムはいらない
~生きものの宝庫 石木川とこうばるの暮らし~
- 日時:2021年5月18日(火)19:00-20:30
- 話し手:松本 美智恵さん(石木川まもり隊)
※以下は第5回セミナーで話された内容を元に加筆修正したものです。スライドや引用の際には実行委員会までご相談下さい。
※画像はクリックすると拡大します
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<映像 こうばるのうた>
(語り)みなさん、良かったら一度足を運んで下さい
僕らの住んでいる川原(こうばる)に
自慢できるものは何もありませんが、
川原(こうばる)がどんなところか
よかったら見に来てください
♪♪
春は黄金の 帯のよう
石木川に寄り添って
水辺の菜の花 どこまでも
初夏は日暮れて 帰り道
石木川のほとりでは
ふわふわホタルが飛んでます
ここはこうばる ホタルの里
自然を守る人が住む
…
♪♪
■はじめに
みなさん、初めまして。石木川まもり隊の松本と申します。私はごく普通の佐世保市民です。このセミナーのテーマの気候危機や水害に詳しいわけではないので、ただ私が知っている、関わっている石木ダムの問題を少しでも多くの方にお伝えできればありがたいと思って参加させていただくことにしました。
オンラインでもお話も不慣れなのでお聞き苦しいところも多々あるかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
(以下、画像はすべてクリックで拡大します)
■石木ダム予定地地と川原地区
今日参加していただいているみなさんには、石木ダムのことをよくご存じの方もいらっしゃると思いますが、初めて聞いたという方も多いかと思います。少し簡単に石木ダムについて説明します。
このダムは長崎県の川棚町というところに作られようとしていて、長崎県と佐世保市の共同事業です。計画されたのはもう半世紀以上ですが、未だに本体工事に至っていません。それは、地元の方の根強い反対運動が続いているためです。
こちらが地元の空撮写真です。広がっている田畑、家が点在しているのが見えると思います。ここがダムサイトになる川原(こうばる)地区というところで、家は13軒あり、全部で約50人の方が暮らしています。しかし、ここの土地も家もすべて強制収用されてしまいました。ここにお住まいのみなさんは所有権をすべて国に奪われてしまいながらも、ここから出て行かず、今まで通りの暮らしをここで続けていらっしゃる。そういう方々が住んでいる場所です。
■石木ダム計画の概要
石木ダムとは、高さ55m、長さ234mのコンクリートの壁を作って、その向こうに総貯水量548万トンの水を貯めようという計画です。
これが完成すれば長崎県内で3番目に大きなダムになりますが、全国的に見れば小さなダムです。これまで川辺川ダムについてお話を聞かれたと思いますが、川辺川ダムは貯水量1億3300万トン、八ッ場ダムも1億トンを越えています。日本で一番大きなダムは徳山ダムで6億6000万トン。本当にそれに比べると石木ダムは桁外れに小さなダムです。
■石木ダムの目的
石木ダムの主な目的は2つあります。
1つは、川棚川の治水対策。石木川が流れ込む本流である川棚川の洪水被害を軽減しようというものです。それともう1つは、佐世保市の水道用水の水源確保です。
長崎県は、リアス式海岸で有名な大変複雑な地形をしています。赤い線で囲ったところが川棚町で、ダムが作られてようとしている町です。その隣の青い線で囲ったところが佐世保市です。佐世保市の人口は24万人ほど、川棚町は14000人ほどで、自治体の規模に大きな差があります。
川棚町の北にあるのが、焼き物で有名な波佐見町です。波佐見町と川棚町の2つの町の中央を流れているのが川棚川で、ひげのようにたくさんの支流があります。石木川はその下流部にある支流です。河口から2kmほどのところに石木川と川棚川の合流点があります。そこからさらに2kmほどいったところに、石木ダムが作られようとしています。
■洪水対策にダムは役立つか
石木ダムの目的の一つが川棚川の洪水対策と言われています。この地図を見てみなさんもお感じになると思いますが、ここにダムを作っても、大雨が降った際に止められるのは石木川流域に降った雨だけで、川棚川の上流で降った水はこのダムでは止められません。本当に川棚川の治水対策として石木ダムが必要なのかという、大きな疑問があります。
そのことについて、県はどう説明しているのか。
県の広報紙に出ている記事には、「川棚川は昭和20年以降大雨で4回氾濫」とあり、浸水戸数などが書かれています。県は、このような被害を繰り返さないために石木ダムが必要だと最初言っていました。ところがよく見ると、平成2年からもう30年経っていますがもうこのような被害は起きていません。
もう石木ダムはいらないのではないかと言うと、県は「確かに我々は、平成2年以降一生懸命河川改修をやってきた。その結果水がたくさん流れるようになった。まだ未改修部分が少し残っているが、それが完了すれば、過去の洪水と同程度の洪水には対応できる」「しかし、今異常気象などにより各地で被害が起きている。100年に一回の大雨が起きた場合にはやはり石木ダムが必要だ」と力説しています。
では100年に1回の大雨とはどのようなものか。
100年に1回の雨が降ると、山道橋の洪水流量が毎秒1400㎥になると予想されると言います。山道橋は、石木川と川棚川の合流地点から少し下ったところです。ここが基準点になっていますが、もし石木ダムが無かったら、この辺に毎秒1400㎥の水が流れる、と県は説明しています。その水が越水したり堤防が破堤したりしないために、やはり石木ダムが必要だと言われるのですが、では山道橋で過去にどの程度大きな流れがあったかの記録を見ると、過去最大で827㎥しかありません。それと比べると、1400㎥は約1.7倍ぐらいの大きな水量になります。
本当にそんな大きな水量になるのかについて、私たち素人にはなかなか分かりません。しかし専門家にお聞きすると、1400㎥という数字は100年に1回どころか、500年に1回、下手をすると1000年に1回くらいの稀なケースと考えられるとの話もありました。
■内水氾濫対策の遅れ
どういう数字がより正確かについて私たちには判断が難しいので、私たちに考えられるレベルで考えてみたいと思います。
これは平成2年の洪水時の写真です。2枚とも別の場所ですが、似たような光景です。手前は道路が見えているものの、その先では車が浸かっていたり、膝上のところまで水が来ていたりします。川棚町にはこのように低地部分があり、しかも市街地でコンクリート舗装になっているので、降った雨が低いところに貯まってしまうために、内水氾濫の被害が大きかったことが分かっています。
内水氾濫に対する対策に、ダムは役に立ちません。雨水浸透装置を作る、下水の排水機能を高める、貯まった水をポンプアップで川に流す施設を作るなどの対策が必要だと思います。
■縦割り行政の弊害
こちらの写真は川棚川の最下流部の、河口に近いところのものです。水面に近いところギリギリに家が立っています。これは大雨の後ではなく普通の天候のときの写真です。このように水面ギリギリのところ、高い所で水面から1-2m、低いところで50cmぐらいかと思うところに家が建っていたりします。
ダムを作るよりも、こういうところの護岸工事を早く行うことが必要なのではないかと県の河川課に聞いたら、ここは私たちの管轄ではないと言われます。「我々が管轄しているのは、JRと国道が通るところに架かっている川棚大橋より上流部分。そこから下流は港湾課の係なので、我々はこのようなところの護岸工事はしません」というような話になっています。
おかしな話です。本当の治水とは、県民、町民の命に関わっているわけですから、上流だろうと下流だろうと河川管理者の県として責任をもってやらなければならないと思います。
■都市計画と遅れる水害対策
こちらの2枚の写真のうち、上の写真は平成2年の水害があった時です。川棚川に面しています。対岸に見える右岸と、手前の左岸もそうだと思いますが、泥水で一杯で大きな浸水被害がありました。ただ、この頃は川岸に家が数軒経っているほかは全部田んぼや畑だったので、あまり人的被害はありませんでした。
ところが下側がそれから10年後の同じ場所の写真です。川岸ぎりぎりのところに多くの家が建っています。これは平常時なので水位は低いですが、もし平成2年の際のような雨が降って越水するようなことがあったら、ここに住んでいる方たちは本当に危険な状態になると思います。
■「想定外」に供えるための流域治水、非定量治水
前回のセミナーでの嘉田先生のお話で流域治水ということを非常におっしゃっていましたが、本当にこれからはそういう時代だと思います。100年に1回の雨が降ったらどのくらいの流量だとか、そういう私たち人間が自分たちの頭で計算して、その決められた範囲の水だけを溜め込もうとかうまく流そうとか、そういうことで対応できる時代ではないと思います。
想定外の水害が多く起きるようになっているわけですから、これからは非定量治水、流域治水といった観点から、さまざまな今できること、例えば堤防の嵩上げ、強化、河道掘削、今盛んに注目されている田んぼダムなどあらゆることを対策としてやっていって、それで本当に県民の命と財産を守る治水をしてほしいと強く思っています。
■石木川の自然と生き物
これからは石木川の生き物についてお話したいと思います。
これが石木川です。名前の通り石がゴロゴロして川幅がせまくて浅い川です。幼稚園ぐらいの子どもが中に入って魚を追いかけていますが、子どもでも安全な浅い川です。この川原に住んでいる子どもさんは高校生になっていますので、これは十数年前の写真です。
こちらは2年前の写真で、佐世保市に住んでいる子どもたちです。私は佐世保市の小学生のお母さんたちと一緒に、小学生の子どもさんたちと川原で四季折々の自然観察を行っています。子どもたちはこんなふうに夢中になって魚を追いかけます。冬の寒い日でも、みんな本当に生き生きと熱中して、野原で冬眠中の虫を探し回っていました。
これは川原に住んでいる石丸穂澄さんの絵です。穂澄さんはイラストが大変得意で、その才能を活かして川原のさまざまな生き物を紹介してくれています。魚、トンボ、カエル、鳥もいっぱいいます。これもすべて川原に住んでいる生き物たちです。
これは石丸穂澄さんが書かれた今年のカレンダー、石木川カレンダーの中に出てくる絵です。
これはカマツカという魚で、長崎県のレッドリストの準絶滅危惧種に指定されています。これはみなさんご存知のウナギです。ニホンウナギもこのあたりにいて、これは環境省のレッドリストの絶滅危惧種2類に属しています。こちらは絶滅危惧種ではないのですが、ドンコです。
ここにシーボルトコレクションと書いてあります。先ほどの魚も全部そうなのですが、シーボルトとは、江戸時代にドイツからやってきたお医者さんですね。シーボルトは日本に西洋医学を伝えてくれましたが、帰国する時に日本のさまざまな芸術文化、生き物の標本を持ち帰り世界に紹介した人です。そのコレクションが今でもオランダのライデン博物館に展示されていますが、それをシーボルトコレクションと言います。その中に出てくる淡水魚の標本となったのは、川棚川水系の川から取ったものだろうと専門家の間で言われています。
そういった意味で注目されているのが、こちらのヤマトシマドジョウです。これは川棚川水系で取られたと思われていますが、残念なことに今は川棚川水系のほとんどの川では見られなくなっていますが、石木川にはまだたくさんいます。そういった意味で、石木川はシーボルトの川と言えるのではないかとのことで、愛好家の方たちの間では非常に注目されています。
ほかにも鮎、いともろこ、よしのぼりなどさまざまな魚、サワガニ、モクズカニ、テナガエビなどいわゆる底生動物と言われる生き物もたくさんいます。
■小さな川に見る豊かな生物多様性
実は私はあまり魚には詳しく有りません。実物を見るとみんな同じに見えてしまってよく分からないのですが、石木川にどれほどたくさんの魚がいるかということは事実です。
これは石木川と川辺川に住む生き物の種類の比較です。
このような表を作って石木川の生物多様性を教えて下さったのは、地元の方ではなくて、熊本にお住まいのつるさんです。つるさんは、自然観察指導員をされていて、荒瀬ダムの撤去、川辺川ダムのことにも一生懸命奔走なさっています。川辺川ダム問題や環境アセスメントの資料にも精通されていますが、石木ダムの環境アセス資料を取り寄せてびっくりされ、このようなとても分かりやすい表を作って下さいました。
川辺川ダムと石木ダムの流域面積を見ると、石木川は川辺川の40分の1しかありません。湛水面積でも10分の1しかない。そんな小さな川に、魚類でみると、川辺川では11科28種の魚しかいないのに、石木川には32科64種の魚がいます。約3倍の種類の魚がいると、びっくりして教えて下さいました。底生動物も同じで、川辺川には62科しかいないのに、石木川には156科もいる。本当に素人でもすごいなとびっくりしました。石木川まもり隊としては本当に誇らしく感じて、ますます守らなければならないと強く感じたところです。
■川原地区のホタル祭り
いろんな動物が住んでいますが、今の時期、一番注目されるのがホタルです。もう石木川では飛び始めています。これから5月末、6月頭にかけてたくさんこのようにホタルが見られます。これは全部ゲンジボタルで、上流ではヒメボタルなども飛んでいます。
この川原のホタルをたくさんの方が見に来られるので、毎年ホタル祭りが開催されています。この広いテントの中に人がたくさんいますが、人口50人ほどの川原に何百人もの人が詰めかけます。そのくらいみなさん楽しみにされているお祭りです。
ここに明かりが映っていますが、これは石木川ではなく、対岸の田んぼです。石木川はこの堤防の下の、浅いところを流れています。この時期、田植えの直前で田んぼに水がはられているので、その田んぼにこのホタル祭りの光が映ってとても幻想的な風景が広がっています。
テントの中では、川原のお母さんたちがたくさんの料理を作って提供、販売されていて、みなさんそれを楽しみにして来られます。売り上げたお金は裁判などの資金などにされています。お餅もいろんな種類が売られていて、ここだけでしか食べられないホタル団子は名物になっていて、大変好評ですぐに売り切れてしまいます。
私たち石木川まもり隊も、テントの中にブースを設けて、資料やこうばるグッズを販売したり、署名活動などをやったりしています。
子どもたちに一番人気なのは、やはり、水槽の中のお魚です。川原の若者が前日にとってくれた石木川の魚を、水槽に入れて展示しています。子どもたちにはこのアカハライモリが大変人気です。これは川原の田んぼにはたくさん、うじゃうじゃいます。
■懸念される大村湾への影響
ダムができると、このように本当に豊かな生物多様性が損なわれることになり、非常に残念なことです。これ1つをとってもそうですが、それだけではなく、ダムができれば石木川から川棚川に流れる流量が減少します。そしてその川棚川から大村湾に流れ込むわけで、大村湾への影響も実は非常に心配されます。
地図で見ると、大村湾は一見湖のように見えるかと思いますが、正真正銘の海です。ここに狭い隙間、瀬戸と言われる流れがあり、ここから佐世保湾、そして外海へと通じている海です。
全国的にも珍しい超閉鎖的な海域で、そうであればこそ、大村湾に流れ込む河川の水質というのが非常に重要になります。大村湾には24水系51の河川が流れ込んでいますが、その中で一番大きいのが川棚川と言われています。最大の川棚川の水質が悪くなれば、大村湾の漁業にも影響が出るのではないかと懸念されます。
特徴的な生物がいて、例えば生きた化石と言われるカブトガニや、シロイルカとよく似ているスナメリなどの動物も生息しています。魚介類がおいしく、大村湾で取れるなまこも非常においしいです。埼玉にいる頃はなまこなんて気持ち悪いと食べられなかったのですが、佐世保にきてなまこを食べて、本当に大好物になりました。
石木ダムにより、石木川、川棚川だけではなく、大村湾の生態系への影響についても本当に心配されます。
今まで見てきましたように、治水効果は小さい、環境への影響は大きい。それでもなぜダムを作るのか。石木ダムのもう1つの目的に、利水があります。佐世保市に水を送るためのダムです。
では佐世保市はそんなに水不足なのか、深刻なのか。私自身は佐世保市民ですが、まったくそういうふうには感じていません。それをお伝えしたいと思います。
佐世保市水道局の建物には、屋上から「石木ダム建設は市民の願い」と書かれたこのような懸垂幕が掲げられています。市内を走る路線バスの車体には、「真心こめてお願いしよう石木ダム」「どうしてもお願いしたい石木ダム」と書かれています。その一方で、私たち市民がそんなに熱望しているかというとそうではなく、佐世保市、あるいは佐世保市長、佐世保市議会、こういうところが熱望しています。
市の説明によると、佐世保地区の水源は7万7000㎥しかない、でもこれから11万7000㎥の水が必要になる、つまり4万㎥が不足する、それを補うのは石木ダムしかないとのことです。
しかしそれは本当なのか。
これは佐世保地区の一日最大給水量のグラフです。一日最大給水量とは、一年間で一番たくさん水を使った日の水量のことです。
この黒い線が実績値です。一目瞭然、年々減ってきています。20年前は10万㎥を越えていましたが、直近では7万2000㎥ほどでその差は約3万㎥ほど。27%も減少を続けているのです。では、今後増えるのかというと、今後も人口は減少しますし、今は節水機器の技術開発も進み、どんどん各家庭に普及してきています。それを考えると今後増えることはあまり考えられず、増えても横ばいか少しだけ上昇かなというところでしょう。市が予測するような、急カーブで水需要が急増することはありえないだろうと思います。
そしてもう1つ、市の主張でおかしいところがあります。この水源量が7万7000㎥しかないと言っている点です。
実は7万7000㎥以外に2万8000㎥を超える水源があります。しかし市はこれを不安定水源と称して、保有水源として認めていません。なぜ不安定なのかというと、小さな河川の水なので流量が一定しないとか、県が水利権を与えている許可水利権ではなく慣行水利権と言われるものなので安心して取水できない、と言っています
しかし、現実には、今でも毎日この不安定水源と言われているところから取水しています。常に最大量の2万8000㎥を取っているわけではなく、日によって違い、1万㎥だったり1万5000㎥だったり2万㎥だったり、いろいろ違いはありますが毎日取水しています。
しかも、2007年の渇水の時に、不安定水源から1日平均2万1000㎥もの水を取水していました。渇水期に取れる2万1000㎥は、もう事実上の安定水源だと認められるわけです。つまり、7万7000㎥プラス2万1000㎥をあわせて9万8000㎥が、実質的な安定水源だと認められます。
実質的な保有水源は9万8000㎥ありながら、今使っている最大給水量は7万2000㎥なので、充分お釣りがくる、つまり佐世保の水は足りています。利水面からも石木ダムは不要だということがはっきり言えると思います。
■石木ダム計画に使われる費用
その不要だと思える石木ダムに、どれだけのお金をつぎ込んでいるのでしょうか。
石木ダム建設費そのものとして285億円、関連事業費として253億円、合わせると538億円の事業費が費やされようとしています。このうちの関連事業費とは、川棚川から導水して佐世保で浄水場を建設してきれいな水にして配水してというもので、すべて水道施設の設備費なので100%佐世保市で賄わなければなりません。建設費については、県と市の共同事業なので県が185億円、佐世保市が100億円という負担割合が決まっています。
いずれもそれぞれの県や市に、国からの補助金が出ています。県には国交省から約93億円、佐世保市には厚生労働省から約82億円。これがすべて出ているわけではなく、石木ダムが完成すれば、今後も含めてトータルで175億円が補助される、交付されるということです。
もちろんこれは国民の税金なので、今これを聞いて下さっているみなさんのお財布から出たお金でもあります。そのことをぜひ知っていていただきたいと思います。
走り出したら止まらない公共事業、不要なダムのために環境を傷付け、税金を浪費し、その上住民の暮らしを破壊しようとしている。それが石木ダムの現実です。
■強制測量、そして強制収用へ
先ほどもお話しましたが、すべて川原の土地は強制収用されてしまっています。ここに至る道を簡単にご説明します。
1975年、国は石木ダムの事業を採択しました。この7年後、県は機動隊を導入して強制測量を実施しました。このときの写真がこちらです。住民が座り込んでいるところの写真で、黒い服の人が機動隊、白い服の人は県の測量隊です。こうやって機動隊の方々が住民をごぼう抜きに排除していって強制的に測量を実施しました。この時は実は子どもたちもご両親、おじいちゃんおばあちゃんたちと一緒になって座り込みに参加されました。そのおばあちゃんたちが手に数珠を持って、ご先祖様にふるさとを守って下さいと祈っている姿が写真として残っています。本当に印象的な光景だと思います。
その後、このような強制測量を体験した地元の方々は、どんなに自分たちが反対しても権力には敵わない、それだったら早いうちにこの土地を売って出て行った方がいいのではないかと考える人も現れてきて、徐々にその土地を出ていかれました。しかしどうしても、どんなにお金を積んでも首を縦に振らない、川原13世帯の方々が残りました。
そこで県は、土地収用法という法律を使って、公共事業のためならば個人の私有財産である土地を強制的に収用することができるという手法に出たわけです。
2009年にそのための事業認定を申請し、2013年9月に国は事業認定を告示しました。認定されたということは、石木ダムは非常に公共性の高い重要な事業なので、最終的には強制収用しても良いですよというお墨付きを与えるわけです。そのため、ここからどんどん手続きが進んでいきます。
そして一昨年の9月、県はすべての土地と家屋を強制収用しました。実際には県がやったのですが、所有権が国の方に移るわけですね。その2ヶ月後、明け渡し期限がきます。しかし川原の方々は誰一人出ていかず、今日現在までみなさん今まで通りに川原に住み、今まで通りの生活を続けておられます。
■川原地区は今
しかし、県は手続きにのっとって様々なことを進めています。今の川原がどうなっているかというと、こういう状況です。
川原は写真の田んぼや畠が見えるところです。県道が見えますが、ここから先はダムのコンクリートの壁を作ろうとしているので、この道路が使えなくなる。そのため、ダム湖の周りをぐるっと迂回する道路を作って県道に付け替えようとしています。この道路を付け替え道路といいます。付け替え道路の工事が現在どんどん進んでいます。これは少し前の写真なので、つながっていませんが、数日前からすでに県道と付替え道路はつながってしまいました。
ただ、付け替え道路はまだ一部でつながっていません。なぜなら、ここで地元のみなさんや支援者のみなさんが毎日抗議の座り込みをしているので、工事ができないからです。こうやってずっとみなさんは工事を遅らせてきました。
2010年の写真です。最初に付替道路の工事に着手されたのは、もう11年前のことです。この当時はここに蛇腹のフェンスがありますが、工事現場の入り口になっていました。入り口の前、道路に面した所で座り込んだり、この時は雨が降っていたので立ってたりして抗議の姿勢を示していました。この当時を見ると後ろは緑がいっぱいですよね。
これは3年前の写真です。この頃は工事現場の中に入って抗議をするようになりました。このような工事用の車両がここを通れないように、座り込みをしていましたが、これからどんどんこの緑がなくなっていきます。
これが今年1月の状況です。もうこの辺にあった木は全部なくなってしまいました。川原の方々だけでなく支援の方も増えて、たくさんの方で座り込みをするようになりました。この1月の時は、まだ道路の後ろの方や前方は見通しが良かったのですが、今では座り込みをしている前も後ろも土砂がうず高く積まれて、土の壁の間に挟まれて抗議をしているというのが今の現状です。
■石木ダム問題が問いかけるもの
これは川原の方々の写真です。川原のみなさんは3月に毎年団結大会というのを開かれています。去年も今年もコロナのために団結大会を開けなかったので、これはおとどしの写真です。こうしてみなさん、笑顔で戦いを続けられています。
私は石木ダム問題に出会って、川原の方々に出会って、支援者の方々に出会ってたくさんのことを学ばせていただきました。その中で何が一番大きかったかというと、川原の方々の諦めない、不屈の精神です。そして、自分たちの権利は自分で守るという、本当に大きな志を感じます。
今、聞いて下さっているみなさんの方々の中にも、地元の問題や自分の身の回りにいろんな課題を抱えていらっしゃるかもしれません。私たちは憲法によって、幸福追求の権利や、居住権、職業選択の自由、財産権、もっと言えば基本的人権など守られている。憲法が保障すると書かれていますが、でもよくよく読むと、第12条にはこう書かれています。「憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって保持しなければならない」。だから、私たち自身が努力しなければ、その権利はどんどん失われていくということになると思います。
そういう意味で、川原の方々は、半世紀に渡って正にこの憲法第12条を体現しながら生きてきた方々だと思います。こういうことを私たちも学びながら、こういうみなさんの活動があったから石木川の自然が守られてきたと思っています。
もっと石木ダム問題をもっと多くの方々に知っていただきたい。そのために、良かったら私たち「石木川まもり隊」のウェブサイトやフェイスブックにアクセスしていただいて、この情報を周りの方々に少しでも伝えていただけたら、本当にありがたいと思います。
長々とご静聴ありがとうございました。
(映像)
「私たちの声を聞いて下さいー知事との面談記録」
(7分あたりから、川原の子どもたちのメッセージがあります)
質疑(要旨のみ)
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裁判はどのような状況か?
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裁判は大きく分けて、2つ取り組んできた。
1つは事業認定取り消し訴訟。国が事業認定したことによって強制収用が確定してしまったので、事業認定自体が間違っているので取り消しなさいという裁判を起こした。それは2016年に地裁から始まって地裁でも高裁でも住民側が負けて、昨年最高裁に上告をしたが、それも棄却され、住民側の敗訴が確定してしまった。
もう1つは石木ダム工事差し止め訴訟で、今、地裁で負けて福岡高裁でやっている。6月18日が4回目の口頭弁論の期日。お聞きになっている方々で福岡市民の方がいらっしゃったら、ぜひ福岡高裁に足を運んでほしい。
ダム問題はあらゆる裁判が原告側の敗訴で終わっている。唯一川辺川利水訴訟が勝訴になっているが、他はなかなか勝てていない、難しいなと思う。
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諫早湾埋め立ても農水省がメンツをつぶされたくないために進んだと思う。
石木ダムが半世紀に渡って執拗に進めようとしているのはなぜか? 佐世保市の水需要は計画時に比べて格段に少なくなっているはずだが…
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石木ダムに限らないと思うが、公共事業は一度始めるとなかなか止まらない。本当に私たちもなぜ県や佐世保市がなぜここまでこだわるのか分からない。もちろん見方によっては利権が絡んでいるとか、国が一度認定したものを覆す、担当者が先輩である前任者の仕事を引き継いでやる際にそれを間違っていたという方向転換するのは難しいとか、いろいろな説を言われる方がいて、どれもそうだろうなと思うが、これが決定的だというのが何かは私には分からない。
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ダムを作って利益を得る人はいるのか?
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ダムは大型公共事業なので、ゼネコンが東京などから入ってそこが利益をとって、地元企業は孫請けとかで大した利益にはならないと思うが、それでもやはり議員の後ろにはいろんな企業の方がいて、小さな利権であっても重要視されているのかなと思う。
今、議員の話をしたが、佐世保市議会にしても県議会にしてもほとんど推進派。佐世保は33名のうち石木ダム反対は1人だけ。県議会も46名中1人だけ。市民にアンケート調査をしたらどうなるかと言うと、半数は分からないか関心がない。残りの半数は、どちらかと言うと反対の方が多い。ダムが欲しいという人は少し、1割か2割。議会は市民県民の代表者であるはずだが、議会になるとその割合が反転しているという不思議な状況。
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佐世保市内での反対世論は盛り上がっているか?盛り上がっていないとすればそれはなぜか?
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私が佐世保に来た12年前よりは、関心を持つ人が増えたと思うし、関心を持つ人の大多数はダム反対だと言われる。それでもそういう人はごく一部であって、市民の大多数の人はやはり無関心。佐世保市は受益地のはずだが、建設予定地が市内ではないので遠くの話のように感じる人が多いのではないか。
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水道料金が上がったら佐世保市民がそれを負担することになるが、それを市民は分かっているのか?
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これも私たちがチラシや集会などで一生懸命伝えているところだが、私たちの広げる力が弱いので、多くの方の共通認識にはなっていない。
おっしゃる通り、石木ダム事業が佐世保市の水道会計を正に圧迫している。佐世保市は非常に漏水が多い。人口20万を超える水道事業体が100近くあるが、その中でも漏水の多さはベスト10に入るほどの漏水都市。もっともっと漏水対策をしなければならないが、限られた財源の中でやりくりするしかなく、石木ダム計画がなければ、漏水対策に使える予算は間違いなく増えるはず。そう考えると石木ダムは佐世保市民にとって決してプラスではない。そのことを訴えているが、なかなか共通認識にまでは至っていない。
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地元のメディアはどのように報じているのか?
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新聞記者などは石木ダムへの関心が高く、地元の長崎新聞などは、何かあれば小さなことでも石木ダムに関することは記事にしてくれる。また、朝日新聞のような全国紙は、県内ニュースのスペースが小さくて、なかなか記事にならないが、それでも現場の記者の意識は高く、よく頑張っている。例えば先日、岩永サカエさんという地元のおばあちゃんが亡くなったが、その時は大きく紙面を割いて、その方のダムに翻弄された人生のことを紹介してくれた。
テレビ局でも2局ぐらい熱心なところがあり、30分とか1時間とかのドキュメンタリー番組を作ってくれて、特に昨年はTBSの報道特集の番組で全国配信されて、その時は大きな反響があった。やはりテレビの力は大きく、地元の記者が頑張って伝えてくれているのはありがたいと思う。
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国から出るお金は一時金か補助金か、どういう予算か?
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毎年出される補助金。例えば、来年度はこんな工事をして予算はこれだけという案を県が国に提出し、その予算を国が認めたら補助金が出る。国交省の場合、県負担分の半分を交付し、厚労省の場合、佐世保市負担分の3分の1を交付する。ただ交付金は2年まで繰り延べできるが、それを過ぎれば返さなければならない。(私たちの座り込みなどで)工事が予定通り進まないので、県は苦々しく思っているのではないだろうか。
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江戸時代に波佐見や有田は有名な陶器の生産地で、焼き物には薪炭が必要でかなりのはげ山が広がったという話を聞いたことがある。江戸時代に川棚で洪水があったなど、何か言い伝えなどあるか?
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川棚川の歴史などはあまり勉強不足で十分にお答えできず申し訳ないが、先日勉強会で聞いたのは、川棚川に大きな船が行き来していたという写真が残っていた。今よりもかなり川底が深かったことが予想されるので、川の形なども昔からずいぶん変わっているのではないかと思う。
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川棚川、石木川の生物多様性が高いとの話があったが、その豊かさの理由はなぜか?
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元々どこでも、日本の原風景と言われる里山には、生き物が多く生息して豊かだったが、人間がどんどん開発して生き物が追いやられたという歴史がある。川棚川の支流の石木川にはたまたまダム計画があったため、川棚川本流は河川改修がどんどん行われたが、石木川はダムに沈むからと行政が手を付けず、人間が手を加えなかったことによって昔からの生き物が生きながらえている。それによって皮肉なことに生き物が命をつないでいるのではないかなと思う。
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ダムを作ると水脈が滞って土砂災害があるという見方もあるそうだが、ダムを作られることによる災害の可能性はあるか?
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専門家ではないのでよくわからないが、1つは地質の問題があると思う。つい最近まであちこちでボーリング調査が行われていたが、あまり地質的にダムに向いているところではない様子。ダムが完成しても地滑りが起きたり水が漏れたりとかの可能性はないわけではない。ただ県は、シーリングとかの技術が進んでいるので問題ないと言っているが、真相は分からない。
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これまでの使われた税金の総額はいくらか?
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<後日以下を松本さんに補足いただきました>
ダム建設費は2019年度末時点で175億円が使われており、ダム関連事業費は2018年度末時点で72億5千万円(28.6%)が使われており、総額は247億5千万円となる。
【ダム建設費】
総額285億円のうち、2019年度末時点で175億円(61.4%)が執行済み(出典こちら)。県と佐世保市の共同事業なので、負担割合に応じて、長崎県が113.75億円、佐世保市が61.25億円負担している。
【石木ダム関連事業費】
総額253.75億円のうち、2018年度末時点で72.5億円(28.6%)が執行済み。 これは佐世保市水道施設に関する事業費なので、全額佐世保市の負担である。
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推進派の方から話を聞くことはあるか?その意見には根拠があるのか?
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私たちも推進派の方とは是非お話ししたいと思っているが、その機会が得られない。
まもり隊では2年あまりに渡って小さな勉強会を開いてきた。町ごとの公民館などで町内の方を集めて座談会方式でざっくばらんに意見を言い合う勉強会。その時は案内状を町内の方全員に配布するだけでなく、佐世保市水道局、市議会の石木ダム建設促進特別委員会の委員の方、それから石木ダム建設促進佐世保市民の会にも送っている。
この市民の会は、先ほどお話した石木ダム推進のラッピングバスを走らせている団体で、市民の会と銘打ってはいるが、運営資金は100%市が出していて、事務局は佐世保市役所の総務部秘書課の中にある。とても市民団体とは言えないのだが、一応代表は民間の方である。
その市民の会、水道局、石木ダム特別委員会の3か所に必ず案内状を送っているが、これまでに来られた方は一人もいない。
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税金の無駄遣いという視点からの住民訴訟は検討しているか?
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検討課題ではあると思っている。今やっている裁判も勝てる見込みはほとんどなくて、今年中に高裁判決が出て最高裁に上告しても来年には結論が出てくるだろう。住民訴訟も考えていて、それを佐世保市に対してやるべきか、県に対してやるのがいいのか、弁護団と共に協議しているところ。
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自治体の財政は逼迫すると全国で言われている。ダムを作って漏水対策などをあまりしていない佐世保市は、財政的に大丈夫なのか?
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佐世保市もまったく漏水対策をしていないわけではなく、実は10年前、20年前に比べると漏水はずいぶん減っている。30年前に比べると半分になっていると佐世保市は満足げだが、他の都市と比べるとまだまだ多いのが現状。
佐世保市の漏水が多いのには理由が2つあって、1つは設備が非常に古いこと。佐世保は海軍都市だったので、まだ他都市では水道設備がない時代に既に海軍の力で水道設備を引いていた。そのため老朽化も他都市より進んでいて、対策が追い付いていないのが現状。それと、佐世保市の地形は起伏が激しいので水圧が非常にかかり、どうしても早く水道管が傷んでしまう、というのが佐世保市水道局の説明。
しかし、よく調べてみると、同じく海軍都市で同じような地形(坂道の町)である広島の呉市は、漏水率は佐世保市の半分程度。できない理由を並べたらきりがないので、呉市を見習ってもっと頑張ってほしいと水道局に言い続けている。
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先ほどの話があった官製の市民の会(行政から活動費が100%出資されているダム推進団体)に公金が使われているなら、不正使用で監査を求めることができるのでは?
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それについては以前検討したことがある。
市民の税金である助成金を団体活動費の100%も出していいのかと市に質したところ、佐世保市は最重要課題として石木ダムを位置づけており、市民の会の目標は佐世保市の目標と合致しているので100%出しても問題ない、と担当者は答えていた。実際に佐世保市補助金等交付規則を調べると、100%出してはいけないなどとの記述は無く、しかも「石木ダム建設促進事業活動費補助金交付要領」の第4条には「補助金の額は、補助対象経費の10分の10以内で市長が定める額とする」と明記されていた。
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今までに行政代執行や強制排除をしたダム計画は過去に無かったのではないか?住民が移転しなければダム建設はできないのではないか?
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正にそういう信念をもって地元の方も闘いを続けている。
行政代執行をしてできたダムはないし、ダムに限らず、例えば三里塚の闘争や、最近では九州のみかん農家の農園の納屋で行政代執行をして道路を通したことがあったが、それでもあれだけの問題になった。石木ダムの場合は、実際に人が生活している場所、1軒2軒ではなく13軒というのは常識的に考えて行政代執行はできないだろうと、私たちも思うので、地元の方と反対を続けている。
ただ、反対を続けている限り行政代執行はできないかもしれないが、知事が行政代執行は諦めると言わない限り計画は続く。今住んでいる方も安心できないうちに亡くなるということも考えられる。宙ぶらりんな状態が続くことは許されることではないので、行政代執行ができないから良いということではなく、ダム計画自体を諦めさせることが大事だと思う。
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国際世論への喚起はしているか?
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私たち石木川まもり隊は数年前からパタゴニアという国際企業の支援をいただいている。
例えばまもり隊の発信した情報を英語に直して発信していただいたり、数年前には外国人記者クラブで石木ダムについての記者会見をパタゴニア主導でやっていただいた。その後スイスとドイツの記者が取材に来て、その後記事になるまで1年ほどかかったが、きちんと報道されて、それがまた日本で英語になって各国の記者に発信されたということもあった。また数年前にはNHK国際からも取材に来られ、後日国際ニュースの中で報道された。
まだまだ私たちの発信力が弱くて国際世論どころか国内世論も思うようには広がらないが、今後も地元の方と共に、私たちにできることを頑張っていきたい。