山の問題放置の現場を歩く

球磨川支流の行徳川(八代市坂本町)、川内川(球磨村神瀬)の上流を、つる詳子さん、鳥取大学特任教授の家中茂先生と視察。
話には聞いていたが、実態は予想以上の深刻さだった。

一昨年の球磨川水害の被害を拡大させたのは、支流の谷から流れ込んだ大量の土砂と流木だ。
しかし、今の国や県の球磨川整備計画案には、山の問題への取り組みは皆無。「必要に応じて関係機関と連携」という、抽象的で曖昧な記述がわずかに出てくるだけだ。

支流の河口、つまり球磨川との合流点のわずかな平地に集落があった地域は、7月4日の早朝、支流の上流から流れ込んだ土砂と流木混じりの濁流で、どこも大きな被害を受けた。4日未明から明け方まで線状降水帯が停滞した球磨村や八代市坂本町は特にひどく、万江川、人吉市街地の山田川なども上流部に豪雨が長時間続いた。あの日、大量の土砂や木は本流へ。相良村や人吉市七地の優良農地を土砂と石で埋め、人吉旅館の壁を破壊し、渡の茶屋地区の家々を押し流し、球磨村や坂本の家々へ流れ込んだ。そして橋の欄干やくま川鉄道第4橋梁や肥薩線の鉄橋に詰まった木が、橋をダム化させて流れをせき上げて川の両岸の氾濫被害を拡大させ、鉄橋を押し流した。

被災者は、これまでの水害と大きく違ったのは、この大量の土砂と木、と一様に口をそろえる。

支流上流を探ると、見えてきたのは山の問題だ。

(山江林道、行徳川最上流部の大規模な崩落現場)

鹿食害で下草が消えた人工林、手入れが行き届かないままの放置人工林、大規模皆伐(林業の法律が数年前に変わり、以前は規制されていた大面積の皆伐が可能になった)、地質や地形、伐採後の斜面や作業道処理の悪さで、雨の集まりやすい谷筋で無数に斜面崩落が起きている。雨で表土が流出し、木の根っこがあらわになって、谷へ向けてバタバタとなぎ倒された杉山。斜面まるごと深層崩壊した場所。今も崩れ続け、次の大雨で再び川へ流れ込むだろう場所がいくつもある。

(写真クリックで拡大)

山江人吉線沿いに延々と続く斜面崩落。球磨川中流右岸側は、元々の地質や地形に、放置林、鹿害、作業道の作り方、大規模皆伐の展開などでさらに壊れやすくなっている
林道沿い、尾根近くの深層崩壊。これはまだ小規模な方。
表土と根と立木がすべて崩れ落ちる。
緑に見えるのはナチシダ。鹿も食べないので、日当たりのよくなった場所に先駆的に群生する。
崩落現場最下流、行徳川の河口。災害後に片付けられているが、肥薩線鉄橋も捻じ曲げるほどの大量の立木と土砂と岩が流れ込んだ。
支流と球磨川の合流点のあちこちには、堆積したままの大量の土砂が今も残る。支流上流部の山から流れ込んだ土砂や木が水害被害を拡大させた。

崩れにくい山作りは、現在の国の林業施策にテコ入れしなければ不可能だ。自治体や都道府県からの支援が無ければ、国の制度下でしか進まない。
日本の林業は補助金制度で成り立っているが、今の国の林業関連法は、大雑把に言えば、大型作業機械を入れた「効率的」伐採や大面積皆伐、80年100年の安定した杉山でなく50年サイクルで伐採させる人工林経営を奨励している。

作業コストを下げないと、利益が出ない仕組みになっているかため、少面積だったり、大型作業機械が入りにくい急斜面の間伐などは、山主さんが手入れを諦める(切れば赤字。それなら放置するしかない)。下草を一掃する鹿の被害も大きいが、山間地は過疎高齢化で猟師も少なく、捕獲に補助金も出るものの若い世代が猟師を生業にできるほどの収入にはならない。そして山は壊れる。

…球磨川流域のこの問題に、国交省や熊本県はどう対応しようとしているか。答えは結構シンプル。

①氾濫被害拡大は、支流の山のせいではないことにする(山の問題を一切検証しない)

②球磨川本流の水位をダムで下げ、無数の新規砂防ダムと法面コンクリ工事で土砂対策をすれば、氾濫被害は無くなる、ことにする

③林野庁九州営林局も熊本県林務課も「見ざる聞かざる言わざる」を徹底的に貫徹する

…球磨川は流域面積の8割が山林だ。こんなやり方で大丈夫なのだろうか。

(報告:寺嶋悠)

最初の動画の場所。下を除くと尾根から谷底まで数百メートルに渡り崩落している。下流には行徳川がある。
動画と左の写真の場所は地図の赤い楕円の部分。緑が行徳川の集水域。オレンジがハザードマップの危険区域。山の問題はハザードマップでは把握できない。(地図作成はつるさん)
下流に神瀬を抱える川内川も、斜面に大規模な斜面崩壊がある。連続砂防ダムも土砂で満杯で役立たない。神瀬地区についてはこちらも参照

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