世界ダム委員会(WCD)市民ガイドについて
2000年11月、世界ダム委員会(WCD)の最終報告書が公表されました。
WCDは世界中のダムをレビューして問題点を分析し、今後に向けたガイドラインや勧告をすることを目的とした組織で、世界銀行と国際自然保護連合(IUCN)が中心となって設立を働きかけ、最終的には政府・企業・市民社会が共同で運営する独立した機関として1997年に発足しました。
12人の委員と様々なセクターが参加したフォーラム、世界4か所でのコンサルテーションなどをへて最終報告書をまとめました。その要点をまとめ、市民が利用しやすいようにまとめたのが「WCD市民ガイド」です。
オリジナルは米国のNGO国際河川ネットワーク(IRN)(現在のInternational Rivers)が作成し、アジア40カ国でダム問題に取り組むNGOのネットワークRWESAの日本支部、RWESA-Jが日本語版を作成し、出版しました。また、出版にあたって地球の友ジャパン(現在のFoE Japan)、メコン・ウォッチからも、プレスリリースが発表されました。
WCD市民ガイドWCD最終報告書では、大規模ダムが建設推進者側の主張ほど発電、水供給、洪水抑制などを実行できていないことを充分な調査報告をもとに明らかにし、こうした大規模プロジェクトは頻繁にコスト超過や事業の遅れを伴っていると指摘しています。
- 大規模ダムは4000万~8000万人に移住を強いた。その結果経済的な困難、地域社会の崩壊、精神的/肉体的健康問題を引き起こした。特に先住民・部族民・小作農の社会を襲った。ダムの下流住民は疫病に見舞われ生活の糧だった自然資源を失った。
- 大規模ダムは多くの魚や水生生物の消滅という環境破壊や、広大な森林・湿地・農地の消失を引き起こす一方、大部分の利益はすでに生活にゆとりのある人たちに行き、貧困層がそのコストを負っている。
世界ダム委員会はこうした分析に基づき以下の提言をしています。
- 被影響住民の合意なくダムを建設すべきではない
- 新たなプロジェクトを進める前にニーズについての包括的で参加型の評価とそうしたニーズを満たす選択肢を掘り起こすべきである。
- 新たなプロジェクトを建設する前に既存の水/エネルギーシステムの効率性を最大化することに優先順位を置くべきである。
- 既存のダムについて安全性や撤去の可能性などについて評価するため定期的な参加型のレビューを実施すべきである。
- ダムの影響を受けた人々に社会的な補償を行ない破壊されたエコシステムを回復するためのメカニズムを作るべきである。
日本国内のダム問題や日本の経済協力によって引き起こされたダム問題をモニターしてきた日本のNGOや市民グループは、世界中の友人たちと共に世界銀行、地域開発銀行、輸出信用機関および二国間援助機関を含むすべての公的金融機関に対して世界ダム委員会の勧告を包括的に受け入れ、計画中・建設中のダムの見直し、既存のダムによる影響への補償、更にそうした措置が行なわれるまでの新規ダムへの支援中止を求めています。
「WCD市民ガイド」日本語版より、RWESA-Jによる巻頭メッセージを以下に紹介します。
世界ダム委員会 (WCD) 市民ガイド日本語版発行にあたって
2000年11月、世界ダム委員会 (WCD) の最終報告書 「ダムと開発」が公表されました。世界ダム委員会は、1997年に開かれた世界銀行のダム見直し検討会がきっかけとなり、1998年に設立された独立中立機関です。政府関係者・産業界、学識者・NGOなどさまざまな分野から、ダム建設推進・ダム建設反対の双方を含む12名の委員を選出し、2年間の活動期間の中で、世界中の大型ダムの調査を行ないました。WCD 報告書には、1000を超えるダムの調査結果と、ダム開発における優先事項や勧告が盛り込まれています。報告書には、「必要性の評価」 「包括的な代替案の検討」「ダム開発事業における全ての決定プロセスに市民の意見を反映すること」などが重要であると述べられています。
WCDによる世界的なダムの調査は、立場の異なる様々な利害関係者が関与して進められました。 WCDの調査作業を補佐したWCDフォーラムには、政府機関、国際NGO、影響住民グループ、 JBIC などの ○ODA/金融機関、多国籍金融機関や民間企業など、様々な利害関係者が参加しました。
WCD 報告書に含まれる勧告には、法的拘束力こそありません。しかし、立場の異なる様々な利害関係者が、ダムの推進派・反対派の考え方の違いを越えて一致した結論として発表したWCD 報告書は、誰もが認めざるを得ない「世界のダム開発の総括」となっています。
WCD 報告書は400ページにも及ぶ膨大な分量になっています。この長大な報告書の中には、ダムの活動に取り組む市民・市民団体にとって貴重な調査結果や、今後の活動に役立つ提言が数多 〈含まれています。この報告書の要点をコンパクトにまとめ、市民・市民団体が利用しやすい形としたものが「WCD 市民ガイド」です。この市民ガイドは、米国のNGO、国際河川ネットワーク (IRN) によってオリジナルの英語版が作成されました。「WCD市民ガイド」は、アジア12カ国・40を超える NGOのネットワークであるRWESA (Rivers Watch East and Southeast Asia) の国際会議 (2002年2月、フィリピンにて開催)において、参加した各国のNGOと共有されました。そして、この会議に集まった各国のNGOがそれぞれの国の言語へ翻訳することとなりました。この市民ガイドは、 ダム開発問題に関する世界規模での取り組みの一環となっています。
私たち RWESA-J (ルイサ・ジャパン)は、国際ネットワークであるRWESAに対応して、日本における活動を進めるために、日本のODA等によりアジア各国で進められているダム開発問題等に取り組んでいる国際環境NGOのFoE-Japan、メコン・ウォッチ、日本国内におけるダム開発問題に取り組んでいる水源開発問題全国連絡会等が協力して設立した連絡組織です。
私たちRWESA-Jは、このWCD 市民ガイド日本語版が、日本で国内のダム問題に取り組む市民・ 市民団体、また海外支援のダム問題に取り組む市民・市民団体が、WCDの報告書や勧告を理解し、 今後の活動に活用してゆくための一助となることを願い、この日本語版を出版いたします。
2002年10月 RWESA-J 一同