2009.7.14UPDATE
最新の経緯  
2005年9月15日 国土交通省九州地方整備局が、川辺川ダムに係る漁業権等の収用裁決申請の取り下げを発表(金川共有地案件、漁業権案件)
これにより、2001年12月18日付けで行った川辺川ダムに係る漁業権等の収用裁決申請、それに先立つ2000年12月に行った、土地収用法に基づく事業認定が無効になった。
国交省発表資料(PDF)
2005年8月29日(月) 収用委員会審理開催(金川共有地案件、漁業権案件)

29日午前、金川共有地案件の審理にのぞむ
権利者および代理人(水前寺共済会館にて)

7名の収用委員。手前から河端、木村、中野、
塚本会長、斉藤会長代理、山本、西の各氏

熊本県収用委員会は、起業者である国土交通省に対し、収用裁決申請の取り下げを勧告。9月22日までに取り下げがなかった場合、9月26日に再度審理を開き、却下の裁決を下すと明言。
2005年8月29日(月) 漁業権案件、金川共有地案件に関して意見書52を提出
              金川共有地案件に関して、意見書47、4849、50、51を提出
2005年8月 漁業権案件に関して意見書51を提出
2005年8月 漁業権案件に関して意見書50を提出
2005年8月24日(水) 漁業権案件に関して意見書49を提出
2005年8月19日(金) 漁業権案件に関して意見書48を提出
2005年7月25日(月) 収用委員会審理(2004年末収用申請分24案件)が開催
 権利者側からの意見書は以下の通り
内容
意見書その1(代理人である弁護士より)
利水訴訟判決を受けた現在の状況、現川辺川ダム計画の違法性、却下すべき根拠 など
意見書その2(代理人一同より) 裁決申請書記載の事業計画についての瑕疵
意見書その3(権利者である米田重信氏より) 現在の思い
意見書その4(権利者である尾方茂氏より)
※リンク切れだったのを修正しました
現在の思い、過去の同意手続きの違法性、代替農地を希望する理由 など尾方茂氏意見書
2005年6月27日(月) 収用委員会審理(2004年末収用申請分10案件)が開催
2005年5月31日(火) 収用委員会審理(漁業権、金川共有地案件)が開催
2004年11月25日(木) 収用委員会が開催
 権利者側からの11月16日付意見書(PDF)11月25日付意見書(意見書44)


 球磨川漁協による漁業補償受け入れ拒否、および任意交渉の不調を受け、川辺川ダム事業起業者である国土交通省九州地方整備局は、ダム建設予定地の漁業権ならびにダムサイト近辺の共有地の土地所有権を強制収用するため、2001年12月18日、熊本県収用委員会に対し、収用裁決ならびに明渡裁決申請を行いました。

 その後2002年2月から熊本県収用委員会審理が開催されていましたが、2003年5月、川辺川利水訴訟での原告農家側の勝訴判決によって状況は一転。ダム基本計画変更の可能性が強まり、新利水計画策定作業が始まりました。ダムの主目的である「治水」「利水」「発電」「流水の正常な機能の維持」の1つが、失われるか、あるいは大きく変更される可能性が確実となりました。

 新利水計画の方向性が決定するまで、つまり、現行のダム基本計画からどの程度変更が必要となるかが決定するまでの間、収用委員会は2003年10月以降、審理を中断していました。

 その後、2004年11月25日には、13ヶ月ぶりに収用委員会審理が再開。もはやこれ以上審理を引き延ばすことはできないとして、来春をめどに収用委員会としての判断を出すことを決め、国交省に対して最後通告を行いました。

 そして、2004年12月には、第二次の収用裁決申請が行われました。代替地への住民移転等を理由に3年間保留となっていた、五木村頭地地区を含む北部の水没予定地の土地所有権38件についてです。この中には、水没予定地内に居住している1世帯の権利も含まれていました。

 2005年5月31日に再開された審理では、国交省は約束した利水計画を示せず、ダム基本計画の変更について意見を出すことができませんでした。

 そして8月29日の審理において、熊本県収用委員会は起業者に対して収用申請取り下げを勧告。9月22日までに取り下げない場合は、収用委員会として収用申請を却下することを明言しました。

 これを受けて、国交省九州地方整備局は、9月15日、収用裁決申請の取り下げを行いました。
 
 2000年の事業認定、続く2001年の収用裁決申請から5年余り。
 社会的に強い批判を受けながら、また史上初の漁業権の収用申請として注目される中、国交省が強行してきた、「国土交通大臣起業『1級河川球磨川水系川辺川ダム建設工事及びこれに伴う付帯工事』に係る土地収用案件」は、こうして幕を下ろしました。

 収用委員会審理を通して、川辺川ダムの目的と公益性への疑問、漁業権の権利者とは誰か、土地収用手続きの不透明さ、利水訴訟判決後ダム基本計画に固執し続ける国交省の姿勢への疑問が、社会的に大きく問われました。
 
収用委員会の動きは、こちらまたは熊日「考 川辺川」もご参照下さい。

■収用委員会ってなに?
収用委員会」とは、強制収用を行うかどうかについて決める委員会です。

強制収用とは、公益性のある事業を行うために、権利者がさまざまな理由から任意交渉に応じない、あるいは権利者が行方不明なため権利買収ができない等の場合に、権利者の同意なしでも強制的に権利を取り上げることができる、というものです。
収用委員会は、土地収用法によって、各県ごとに独立機関として設置されています。
■収用ってどんな手続きなの?

どのような理由があれ、個人の同意なしでも合法的、強制的に権利を奪うことは、大きな問題です。
そのため、個人の権利を奪うほど、その事業に公益性があるのかどうかをまず検討しなければなりません。

事業者(川辺川ダムの場合は国土交通省九州地方整備局)は、まず「事業認定」と言われる手続きを行います。事業認定によって、事業の公益性を「認定」し、収用手続きへ移行する「お墨付き」が与えられます。
事業認定を行うのは、国土交通大臣です。

事業認定ののち、事業者は1年以内に事業を行う県の収用委員会に対し、「収用裁決申請」を提出します。

それに基づき、収用委員会は収用採決申請書類の縦覧、権利者と事業者からの意見書の受付を経て、収用委員会審理を開催します。

収用委員会審理では双方の言い分を聞き、収用するに値するかどうか、収用する物件の概要、収用の場合の補償額等について検討します。
収用委員会開催から裁決まで、法律上明確な規定はありませんが、遅滞なくすみやかに審理を進め裁決を行うことが定められています。

審理が終わったのち、収用委員は収用裁決、または収用却下裁決を行います。
収用裁決が出された場合、事業者によって収用が進められることになります。

法律上収用委員会は、収用する、または収用却下という2つの結論を選択できることになっています。
しかし、これまでに収用が却下された例は、裁決申請書の不備を除くとごくわずかであり、ほとんどのケースでは収用裁決が出されています(*1)。これは、収用委員会では事業の公益性は議論できないなど、事業に公益性があることが大前提とされていることも大きな理由です。
権利者が異議をとなえるケースの多くでは、事業の公益性が疑問視されていることも少なくありませんが、実質的に、収用委員会は収用することを前提として開かれている現状があります。

また、川辺川ダムの場合、事業者は国交省九州地方整備局になります。
つまり、国土交通省が行うダム建設について、公益性があるかどうかの事業認定を判断するのは、同じ国交省の大臣というわけです。ここにもその公平性をめぐって、現制度上での大きな議論があります。

*1
収用が却下、あるいは収用裁決が出されたのちにそれが違法だったと判断されたケースは、沖縄の米軍施設建設(1998年4月沖縄県収用委)、北海道沙流川の二風谷ダム(1997年3月札幌地裁)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)あきるのインター近くの土地買収(2003年10月3日東京地裁)など。

■川辺川ではなぜ収用が大きな問題なの?


川辺川ダム問題では、この収用が大きな議論を呼びました。

川辺川では、2000年12月に事業認定が行われ、その1年後の2001年12月、起業者である国土交通省九州地方整備局が熊本県収用委員会(塚本侃会長)あてに収用裁決申請を提出しました。

これにより、2002年2月から2005年8月までの期間、途中中断をはさみつつ、原則として毎月1回審理が開催されました。

収用の対象となったのは、漁業権と、水没予定地内にある土地や家屋等の所有権でした。

川辺川ダムをめぐって収用が注目されたのは、まずダムの公益性をめぐる大きな問題があります。
川辺川ダムの主目的は、治水、利水、発電ですが、そのいずれもにおいて効果が疑問視されてきました。
治水面では住民討論集会などが開催されている最中であり、利水面では、2003年5月の利水訴訟農民側勝訴によってダムから水を引く計画そのものの成立が困難になっています。発電面では、以前から費用対効果の面で大きな疑問が指摘されていました(その後、電源開発が発電事業から撤退。現在では発電はダムの目的から失われている)。
事業の「公益性」そのものに疑問があるとして、熊本地裁において漁民を原告とした「事業認定取消訴訟」も行われました。

また、全国初の漁業権の収用案件ということで、漁業権の解釈をめぐっても注目されていました。
権利者は球磨川漁協(総有説)か、それとも漁民一人一人であり漁協は便宜的なものなのか(社員説)については、慣習法や水漁法の専門家を交えて、現在でも慎重な議論が続いています。
事業者である国と当時の漁協執行部は、ダム賛成派である漁協執行部が権利者であり、執行部との補償交渉で良いとしたのに対し、ダム反対の漁協組合員は、漁民一人一人が権利者であり漁業補償交渉は執行部との協議だけでは決められないとの立場に立ちました。

共有地の所有権については、国の決めた土地境界線や立木、墓石等の処分をめぐった問題が起きました(*2)。
また任意交渉の経緯についても、国交省の強行的な姿勢が批判されました。

2003年、収用委員会での審理期間中に、川辺川利水訴訟が原告農民側勝訴という形で終結しました。
これにより、ダムから水を引く国営川辺川土地改良事業は違法であると確定しました。

ダム基本計画が変更になると、裁決申請書に記載されている当初の基本計画が事実と異なるため、申請書に瑕疵(かし)が生まれることになります。もちろん、基本計画が変われば事業認定もやり直しになります。

しかし、収用委員会は、新しい利水事業計画が確定するまでは審理を一旦中断するという決定をしました。新利水計画の結果を見てみなければ、当初のダム基本計画からどれほどの変更になるのか分からないという理由からです。

その後、2003年10月、2004年11月と、断続的に審理が開催されました。
新利水計画策定は当初予想された通り難航し、国交省は、しぶしぶ策定時期は明確にできないことを認めました。

2005年8月、これ以上の審理長期化はできないとして、収用委員会は国交省に収用裁決申請取り下げを勧告。取り下げない場合は、却下裁決をすると述べました。

これを受け、国交省は同年9月、収用申請を取り下げました。


川辺川ダムと同じように、収用委員会で大きな問題となってきたダム問題は、ほかにも岡山県苫田ダム、岐阜県徳山ダムなど多数あります。

(*2)共有地案件についてはこちらを参照

<参考>
土地収用法 http://www.houko.com/00/01/S26/219.HTM
『判例概説 土地収用法』行政事件訴訟実務研究会編、ぎょうせい、2000年
『二風谷ダムを問う』中村康利著、さっぽろ自由学校「遊」出版、協力萱野茂、貝澤耕一、2001年
『市民立法・公共事業三法案』水源連ブックレット こちら
苫田ダムについてのホームページ http://www1.harenet.ne.jp/~f_kita/index.html
徳山ダム建設中止を求める会 http://tokuyama-dam.cside.com/
熊本県収用委員会 http://www.pref.kumamoto.jp/construction/section/indx.asp?sec_code=132&sec_seq=5



| TOPへもどる |