2005年8月19日、収用委員会宛てに以下の意見書(48)を提出しました。

国土交通大臣起業「1級河川球磨川水系川辺川ダム建設工事及びこれに伴う付帯工事」に係る土地収用案件(熊収13第9,第10案件)
2005年8月19日
熊本県土地収用委員会
会長 塚 本  侃 殿
意見書(48)

権利を主張する者毛利正二代理人
弁護士     板  井  優
弁護士     松 野 信 夫
弁護士     田 尻 和 子 
弁護士     原  啓  章


T 意見書47の一部(第1)に脱字がありましたので、以下の通り追加訂正いたします。

第1 新利水計画策定事前協議との関係について(意見書47第1の追加訂正)

 本件収用案件と関連する熊収17第37,第38案件外(以下別件という)について,権利者代理人に就任した本件代理人らは,2005年7月23日付け意見書(1)を収用委員会に提出した。

 同意見書の主張は,本件にもそのまま当てはまるものであるから,本件においても,権利を主張する者は,当該主張をそのまま援用する。

 ところで、その後平成17年8月10日に第62回事前協議が開催された。この事前協議は、川辺川利水訴訟原告団からの熊本県地域振興部長宛に出されたアンケートの回収をめぐる公正確保委員会に対する申立としてなされたものである。

この事前協議では、川辺川利水訴訟原告団、同弁護団から次の意見照会がなされた。

「 平成17年8月2日付け熊日朝刊によると、南部九州農政局長は日の着任記者会見で次のとおり表明したとの報道がなされている。
  [ 国営川辺川土地改良事業(利水事業)の新計画概要を、従来の予定通り8月中にまとめるとの意向を表明した。川辺川新利水計画策定で、事業への参加などを問う農家アンケートの回収が当初予定の7月末からずれ込み、作業全体の遅れも指摘される状況に対し、南部局長は『四分の三を回収した。今月中旬には完了し、水需要を見極める』と説明。『(当初予定通り)月末には事業地域と、水源を川辺川ダムにするか取水堰にするかを決め概要を示したい』と語った。県収用委員会が国交省に新利水計画を踏まえたダム計画の方向性を示すよう求めていることについては『農水省が直接関与する話ではないが、国交省と打ち合わせていく』と話した。 ]

  しかしながら、第5回意見交換会で配布された資料番号@の「計画策定までの流れについて」では「アンケート調査」→「計画概要の素案の絞込み」○絞り込んだ水源案を示します。○総工事費、工期、農家負担金、維持管理費などを示します。○農家意向を最終確認します、とあり、南部局長のいう「概要」を示す段階ではない。

 そして、事前協議においては、これらの作業の主体が九州農政局ではなく事前協議であることは既に確認されていることである(下線部分追加訂正)。

 したがって、九州農政局がこれらの確認を無視して、今後自らの考えで作業を進めるのであれば事前協議の合意事項を無視することであり、さらにこれを前提に国交省とも独自に打合せをするということであれば、事前協議自体を完全に否定しているものであり、私たちとしては了解できないものである。この点についての九州農政局の見解を明らかにされたい。

 これに対し、九州農政局は、川辺川利水訴訟原告団、弁護団の指摘のとおりである、との立場を明らかにした。この点は、事前協議の参加者および総合調整役である熊本県も了解し、合意事項となった。

 そして、事前協議において、今回のアンケート調査結果を分析した上で、今後、さらに新利水計画策定の作業を進めることで了解がなされた。川辺川利水訴訟原告団、同弁護団はアンケート調査結果についての意見は、後日開催される事前協議において述べるとした。

U 次のとおり、新利水計画策定の事前協議のその後の経過について、意見を述べます。
1 これまでの事前協議の経緯
  去る8月10日に開催された新利水計画策定の事前協議はこれまでと同様マスコミを通じ県民に公開されているところである。同事前協議において、九州農政局は、第5回意見交換会のアンケート調査のうち直接関係農家を訪問する形では8月9日に終了したが、郵送によるアンケートの受付は行われており、最終段階にあるとした。ちなみに、九州農政局によると、8月10日現在のアンケートの集計率は87%で対象農家は4240人とされている。

 このアンケート調査結果をめぐっては、去る7月15日の事前協議で、事前に対外的に明らかにしないとの確認がなされている。さらに、去る8月10日の事前協議でもその趣旨は再確認されている。

 ところで、去る8月17日付け熊本日日新聞一面ではアンケートの結果が「川辺川新利水対象農家7割参加アンケートで暫定事業区域水源はダム優勢」で報道されているもので、これは従前の事前協議での確認事項からすれば極めて残念なことであると考える。この記事は、明らかに来る8月29日に開催される収用委員会の前に誤った情報を流そうとしているものである。

 記事の中を読めば、7割参加はあくまでも暫定事業対象区域であるとのことである。しかしながら、これまでの事前協議で、九州農政局は、事業対象地域として農水大臣が公告にするには、8ないし9割の事業参加が不可欠であるとして事前協議で言明し、総合調整役である熊本県はもちろん、事前協議参加団体も了解してきた。その意味では、「新利水事業暫定事業地域内ですら7割の参加」というのが、これまでの事前協議の経過からすると当然の見出しになるはずである。

 そして、水源をどうするかは農家の意向を受けて客観調査の上きめるべきことであり、そもそも水の需要が判明しない以上水源の問題は問題になりえないものである。いずれにせよ、7割の事業参加者のうち7割がダムを水源とするものということになれば、49%しかないことになり、とても3分の2以上の同意はありえないこととなる。すなわち、ダム案もダム以外案もともに土地収用法に定める対象農家の3分の2を下回る結果であり、収用委員会が問題にしている新利水事業計画からダム目的が外れるかどうか、という意味ではダム案も外れる可能性が高いという結果でしかない。

 前回の事前協議での発言の中には、アンケート調査のうち対象地域から「除外してよいか」という質問に「同意する」という回答に問題がある、との指摘があった。これは、アンケートの中で、一方で事業に参加すると表明していながら他方で除外に同意するという全く矛盾したことを表明しているものがあり、これが集団現象として無視できないものとなれば、申請事業としての土地改良事業からすれば、事業が成立しない可能性があることを指摘したものである。

 確かに、公表された今回のアンケート調査項目には、「事業に参加する」と回答した上で、別の項目で「除外(事業に参加しない)に同意する」とも回答できる形式となっている。したがって、そのように回答した農家について、今後の事前協議の作業で現実に対象地域に組み込んで計画概要の素案を作って確認をした場合に事業に参加しないという意思を表明する可能性が極めて高いと言える。したがって、このような例も含め今後、おそらくや事前協議の場で正確な資料に基づいて慎重に検討されるであろう。

 なお、平成15年6月16日の事前協議において、水源については農家の意向を踏まえ客観調査の上で決めるとされている。当然、今後の事前協議の中でそのように作業がなされるであろう。
したがって、農水省が事前協議を抜きに勝手に川辺川ダムに関して、新利水計画でダム利水案かダム以外利水案である相良六藤堰案になるかについて、国土交通省に回答できることは今後の事前協議の作業状況からしても全くありえない状況である。

 ちなみに、前回8月10日の事前協議で総合調整役は、今回のアンケート調査を受けて、65集落さらにはそれぞれの水係りごとに水がいるかいらないかを分析した調査結果を整理した資料をまず事前協議に提出して公表してもらい、これに基づき今回の概定地域の絞込みをさらに行う必要がある、との見解を明らかにしているとのことである。

 ところで、土地改良法は、3分の2以上の同意があれば3分の1未満の残りの農家に負担金や水代(維持管理費)を強制的に押し付けるものであり、これらの同意しない農家との対立を不必要にあおれば土地改良事業は当然失敗するであろう。したがって、本来、事業参加者が9割から限りなく10割に近くなければ、農水大臣はその水掛りを対象地域として公告すべきでない。


 熊日解説記事(平成17年8月17日付け朝刊5面)について
  上記解説記事は、先に述べた同紙一面のアンケート結果は「この数字をそのまま事業区域や水源の決定に当てはめられる状況にはない」として、以下のとおりの内容で解説が加えられている。その限りでは、上記に記載した私たちの意見と大差のあるものではない。要するに、依然として、新利水計画策定作業は水源と特定するにいたらず作業をせざるを得ない状況にある、ことについてはマスコミも含めて共通の認識であるとしてよい。

 「 もともと土地改良事業は農家側の申請を受けて実施されるため、100%に近い同意を得て進むのが通常。今回の七割の参加意向は土地改良事業としては決して高くない。

 新利水計画では農水省や県は昨夏、農家への意向調査を実施。その結果を踏まえ、参加意欲の高い1378ヘクタールを暫定対象に絞り込んだ。『参加する』の七割は当然の数字で、むしろ『不参加』などが三割あったことが課題だ。

 『不参加』の農家を抱え込んだまま事業対象にすれば、いわゆる水の押し付けにもなりかねない。白紙になった従来の利水計画でも大きな問題となった。そこで参加率を高めるため集落ごとや水路ごとなどの分析をし、事業区域を検討する細かい作業が必要となる。

 一方、焦点の水源について、行政側は事業区域を確定させた上で、その区域内でダム案派と取水堰(せき)派のどちらが多いかや、費用対効果などを分析し一つに搾る方針だ。そのため『ダム希望が七割』という理由だけで水源が決定するとは言えない。

 新利水計画は、川辺川ダム建設に絡み、漁業権収用などを審理する県収用委員会にも影響を与える。県収用委員会は今月29日に審理を開くが、国交省には新利水計画を踏まえたダムの方向性を26日までに示すように求めている。しかし、アンケートの結果が見えてくるにつれ、新利水計画が抱える多くの宿題が浮かび上がる 」


  なお、上記解説記事は、末尾において「この10日あまりで農水、国交両省の作業がどう進展するのかが注目される」としている。

 新利水計画策定の事前協議においては、「行政は水源を押し付けない」ということと新利水事業とダム建設の問題は別の次元の問題とする立場で、新利水事業の立ち上げを粛々と進めてきており、この10日間に、こうした事前協議の進行状況を抜きに農水省が独自の立場を取ることは、新利水事業の否定に外ならない。いずれにせよ、現状では、新利水計画策定作業が続き、国交省が川辺川ダム再変更計画を策定できる状況にないことは明らかである。


V 起業者の平成17年7月19日意見書に対する批判
1 起業者は、現在の収用委員会における審理の遅れは問題がないかのように例えば、「この『7ヶ月』の趣旨は、当該改正の効果として、審理が長いものでも7ヶ月程度に短縮されることが見込まれる旨記述されているにすぎず」(3頁(1)5行目以下)と主張している。

  こうした主張をおそらくや「毒食らわば皿まで」というのであろう。

  私たちは、国土交通省が平成13年の法改正が土地収用手続きを早期に審理するために、これまで相当に長くかかったケースであってもその実質審理期間を7ヶ月を目処としたということを明らかにして、これを国土交通省も認めているこの期間を基準にして審理の遅延を問題にしているものである。

  これに対して、国交省は、審理の遅延による本件裁決申請の却下を何とか免れようと、法改正の趣旨すらも否定しているのである。却下を免れるために自らが作った法律の趣旨さえも否定しても恥じないのである。

 次に、起業者は、「収用委員会は、これまで起業者に対し、新利水を踏まえダム事業計画がどうなるかについて速やかに説明するよう求めてきた等審理促進に向けた対応を行っており、法第46条第3項の努力義務に収用委員会が違反している状況にもありません」(4頁第4段落)「本案件については、事業認定告示後、起業者が、法1条の趣旨を具体化した各規定に従ってなんら不備なク適法に裁決申請を行い、収用委員会において当該申請が受理され、現在、審理が行われているところです。したがって、裁決申請が、法第1条に違反することはありません」と、現在までの手続きがなんらの問題もないかのように弁解している。ここには、却下を免れるためにはもう何をしてかまわないという道義心や順法精神のかけらもない国交省の姿が余すところなく現れている。

  平成15年5月30日に福岡高裁判決が確定し、国営川辺川利水事業変更計画が取消されて消滅した。その後、熊本県など6者による事前協議により平成15年6月16日の新利水計画策定作業が行われ現在に至っているが、国土交通省は、新利水計画でダム利水案が立ち上がるかどうかで川辺川ダム建設事業再変更計画を策定するかどうかで、収用委員会の実質審理が中断したままになっている。この間、これに対し、私たち権利を主張する者は、当初、利水目的が欠落した以上収用裁決申請を直ちに却下すべきであるとし、平成15年10月以降は実質審理をこのまま中断するのであれば、収用委員会は収用裁決申請を却下すべきであるとの申立ている。

 これを受けて、収用委員会は、起業者に対し新利水事業を受けて収用裁決申請をどうするのか早急に態度を明確にするように釈明し、当初、起業者は平成16年春ころ、ついで平成16年10月ころ
には明らかにするとしたが、明らかにならなかった。

 これに対し、収用委員会は起業者に対し、平成16年11月には、平成17年春ころまでには態度を明らかにするようにと期間の猶予を与えたが、平成17年5月の時点でも、起業者は態度を明らかに出来ず、収用委員会は実質審理、すなわち本案審理前の抗弁である却下を求める手続きについてはこれで打ち切るとした。その上で、平成17年8月29日の審理が指定されたのである。

 私たちは、これまでの経緯からすれば、起業者側の都合で、実質審理(本案審理)に入れないまますでに2年3ヶ月が過ぎようとしているのであるから、直ちに収用裁決申請を却下すべきとしているものである。

 もし、収用委員会が却下しないのであれば、もはや収用委員会が土地収用法で構成されていないという意味で「収用委員会の自殺」といわざるを得ない事態と考えているところである。

 ちなみに、水俣病の認定審査の手続きの遅延をめぐり、熊本地方裁判所が2年以上の遅れは不作の違法に当たるという判決を下し、被告である熊本県はこれを受け入れこの判決は確定している。本件でも、すでに2年以上も実質審理が起業者側の都合で中断していることは、熊本県では子供でも分かる公知の事実である。

 私たちは、起業者が潔く本件裁決申請を取り下げ、新利水事業の帰結が判明した段階で、川辺川ダム建設事業計画を再変更し、これに基づき事業の認定申請をやり直し、その上で収用裁決申請をすれば済むことではないか、といっているものである。もし、起業者がこれをしないのであれば、収用委員会はこれを収用裁決却下すべきである、と私たちは主張しているのである。



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