2005年7月25日、五木村野々脇地区共有地、頭地地区個人所有地、共有地等をふくむ収用委員会第1回審理が開催されました。
そのうち、熊収17第37・38、第5・6、第17・18、第15・16、第27・28、第19・20号案件に関し、代理人である弁護士より提出された意見書は以下のとおりです。
(意見書ごとに案件名と権利者が異なるため、以下では*印で表示しています)
なお、権利者および代理人からは、以下のもの以外にも意見書が提出されています。
国土交通大臣起業「1級河川球磨川水系川辺川ダム建設工事及びこれに伴う付帯工事」にかかる土地収用案件
(熊収17第*、第*案件)2005年7月23日 熊本県土地収用委員会
会長 塚本 侃 殿
権利者***代理人
弁護士 板 井 優
弁護士 松 野 信 夫
弁護士 田 尻 和 子
弁護士 原 啓 章
意見書
第1 はじめに
収用委員会は、遅くとも2005年8月までに、以下に述べる別件の球磨川の共同漁業権の消滅・制限収用裁決申請を却下し、同時に本件収用裁決申請も却下しなければならない。以下、その理由を述べる。
国土交通省(旧建設省)が、治水目的のために現在の川辺川ダム建設計画を明らかにしたのは1966年7月3日である。そして、1968年には、利水目的を付け加えた特定多目的ダム法に基づくダムとして位置づけられた。そして、1976年に、旧建設省は川辺川ダム建設基本計画(本体工事350億円)を告示し、さらに、1998年に同変更計画(本体工事2650億円)を告示した。
そして、国土交通省(旧建設省)は、2000年12月26日、川辺川ダム建設事業変更計画について土地収用法に基づき事業の認定をした。
これを受けて、国土交通省は、2001年12月18日、球磨川の共同漁業権に関する消滅・制限収用裁決申請を行い、同月25日、熊本県収用委員会に受理された(以下、別件裁決申請手続きという)。と同時に、国土交通省は、本件関しては3年間収用裁決申請を保留するとの申請を行い、認められた。
しかしながら、収用委員会は別件裁決申請手続きについては、2003年10月27日、新利水事業の策定まで審理を中断するとした。その際の目途としては2004年4月から6月ということであった。しかし、その時期までには審理は再開されなかった。その後、起業者から2004年10月には新利水事業が策定されるとの報告を受け、同年11月25日、再開された収用委員会は、起業者に対し「遅くとも来年春までには、新利水計画の概要を示していただきたい」(第21回収用委員会審理録18頁)「『春頃まで』・・・その真意が、例えば6月とか、8月とか、そんなことは到底考えていません」と言明した。
そして、2005年5月31日、別件裁決申請手続きについて、当初の収用裁決申請からすれば3年半、中断されてからは1年7ヶ月ぶりに収用委員会は再開された。その上で、収用委員会は、権利を主張する者の側から出されている別件の収用裁決申請を却下すべきとする申立について、土地収用法上職権で対処すべきとして、いったん審理を打ち切り裁決合意手続きに入った。
ところで、本件は、昨年12月に保留期間ぎりぎりの段階で裁決申請がおこなわれた。そして、本日、本件裁決申請について第1回の審理が開始されたものである。
第2 収用委員会は別件収用裁決申請を直ちに却下した上で、本件収用裁決申請についても却下すべきである。
1 収用委員会は直ちに別件収用裁決申請につき判断すべきである。
私たちは、別件収用裁決において、これ以上の審理の中断は最早絶対に許されない、と考えている。
収用委員会は昨年11月25日に別件収用裁決申請について審理を行い、前記のとおりの見解を明らかにした。しかしながら、現在の時点で新利水事業の概要は示されておらず、事前協議は進行中でしかない。したがって、収用委員会が実質審理を行うことが出来ない状態にあることは依然として明らかである。
収用委員会は、2004年11月25日、今後の進行に関して次のとおり言明している。
@「その時期までに新利水計画の概要が判明しているのであれば、それを踏まえてダム事業計画を変更する必要があるかどうかの対応方針も含めて意見を伺うつもりであります。」
A「また、逆にその時期までに新利水計画が示されず、ダム基本計画を変更すべきか否かも確定していないということであれば、その状況を前提に、収用委員会としての判断を示したいと考えております。」(以上、上記別件審理録18頁)
そこで、現時点では、新利水計画が示されていないのであるから、上記Aの場合にあたる。
したがって、私たちとしては、本書でもって、上記Aのとおり収用委員会の判断を強く求めるものである。
2 収用委員会は、別件収用裁決申請を直ちに却下する裁決を下すべきである。
新聞報道などによると、熊本県収用委員会はこれまで記者会見で、川辺川ダム建設事業計画から利水目的が脱落した場合、さらに一定の期間内に速やかに再変更計画を立てない場合に、収用裁決申請を却下するとの方向を明らかにし、仮に国土交通省が再変更計画を立てても利水計画の縮小変更がある場合に「著しい変更」にあたると判断したときには収用裁決申請を却下するとの態度を表明している。
別件申請手続きにおいて、権利を主張する者らは、2004年11月25日の収用委員会に提出した意見書(44)3頁でこれと同様のことを述べている。これに対し、収用委員会は、今年の「春頃まで」期限を最終的に猶予したのである。したがって、以上の事実関係に照らせば、収用委員会としては、本件収用裁決を却下する裁決を下す以外に道はないこととなる。
事実、2005年5月31日、収用委員会は数ヶ月以内に別件の収用裁決申請に対する判断を明らかにするとの態度を表明している。
第3 今後の新利水事業とダム事業再変更計画が示されるまでの関係
1 九州農政局の願望
九州農政局長は、平成17年5月24日、九州地方整備局長に対し、「新利水計画の概要等について(回答)」を示して、その3頁の第7項で次のように述べている。なお、この書面は、別件の収用裁決申請手続きに起業者側から提出されている。
「 川辺川ダム事業計画とも関係する水源計画は、6〜8月に行う変更計画概要の提示、取りまとめの中で、用水計画、施設計画等とをあわせて策定する予定です。その後、8〜9月には概要公告を行って、この秋には関係農家の同意を徴収することとしています 」
しかしながら、これは九州農政局の単なる願望に過ぎない(事前協議に出された平成17年4月新利水計画策定にかかる今後のスケジュール等(案)参照;起業者の意見書別紙2)。
2005年5月15日の事前協議で出された「計画策定までの流れについて」ではそのような期間は記入されていない。むしろ、注で「平成17年5月15日時点の予定であり、今後変わる場合があります」とされている。
九州農政局のこうした見通しが不正確であったことは、これまでいくつもあったことである。
2 今後考えられる問題点
現在、第5回事前協議を受けて第5回意見交換会(6箇所で終了済み)・集落座談会(65箇所で3回以上開く予定)が開催されているが、現時点ではアンケート調査すら終わっていない。
今回の意見交換会では、対象地域の特定に必要な事項と水源案の特定に必要な事項についてアンケート調査がなされる。これを受けて、第6回事前協議が持たれ、対象地域の絞込みと水源案の特定を協議することとなる。
現在示されている水源案は、第4回意見交換会でのアンケート調査を受けて、1984年の当初計画で3510ha、1994年の変更計画で3010haとされていた対象地域を大幅に減少させた上で、総合調整役の裁定で概定地域として1378haとしているが、その段階でも「水が要る」「水代が示されたら事業参加を考える」とする集団を合わせても概定地域ですら5割強の数字でしかなかった。
これに対して、九州農政局は、8ないし9割の対象農家が参加するとの意向がなければ国営事業として農水大臣は公告できないという立場を明らかにしている。
現在進行している第5回意見交換会におけるアンケート調査結果いかんによっては新利水計画策定そのものがどうなるか分からないし、第6回事前協議においては今回示されるであろう農家の意向をもとにさらに検討が続けられる見込みである。
要するに、この作業は、新利水計画が最終的には三分の二以上の農家の同意を必要とするところ、現時点ではどの水源案もこれに達する可能性がないと考えられているからである。したがって、その絞込みにも時間を要することは容易に想定できる。
仮に、上記のような経過をたどらないとしても、今後の事前協議での作業で、ダム以外利水案に確定すれば国土交通省が変更計画の策定作業の問題となるであろう。しかし、仮にダム利水案が採用されても直ちにダム事業再変更計画の策定とはならない。なぜならば、ダム利水案の対象地域の確定(現在の案は平成6年の利水事業変更計画3010haから1378haに変更されている)の作業が残っているからである。その結果、対象地域がさらに縮小されれば、結果として一戸あたりの農家の負担する水代が高くなり、その結果さらに、事業参加者が減少することも考えられる。したがって、そうした場合に、土地改良法上の同意取得手続きは相当困難になるであろう。
そして、なんとか三分の二以上の同意が取れて初めて利水計画が確定するのである。そもそも、平成15年5月16日の福岡高裁判決はダム利水を前提にした計画を違法として断罪したものであり、今回は対象地域の縮小を前提にしているが、当然難航が予想されているからである。これを受けないと、ダム建設事業の再変更計画が策定できないことは明らかである。
しかしながら、この時期は、先に述べた「平成17年4月新利水計画策定にかかる今後のスケジュール等(案)」では平成18年2月とされているのである。現時点では、この時期は、平成18年4月以降にずれ込む可能性が高いといわざるを得ない。
要するに、現時点ではダム計画の再変更計画が出されるまでには、どんなに早くとも平成18年2月を超えることは明らかである。
第4 国土交通省は、本件収用裁決申請却下される前に、本件申請を直ちに取り下げるべきである。
1 起業者は、別件の収用裁決申請手続きで出した平成17年5月27日の意見書を九州農政局のスケジュール等を考慮して地元の取り組みを尊重するという起業者の対応にご理解を頂きたい、と締めくくっている。
しかしながら、現在の事態は次のとおり、国土交通省が自分の都合を傍若無人に押し付けているものに他ならない。
私たちは、本件川辺川ダム建設事業にかかる共同漁業権収用裁決申請問題で、このまま収用委員会の審理がいつまでも中断することに対して、絶対に許すことは出来ない。
すなわち、国土交通省の態度は、ある乗客が同じバスに乗っている友人が一寸用事を済ませてくるのでしばらくバスをそのまま停留所に待たせてくれ、と言っているようなものであることは、私たちが、これまでに何度も述べてきたところである。その上で、私たちは、国土交通省が本件審理を短時間ならともかく、長期間待たせるのはあまりに横暴だと批判した。
ご承知のように、この横暴な乗客が国土交通省であり、その友人が農水省で、バスの運転手が熊本県収用委員会で、他の乗客たちが収用される共同漁業権の権利者である漁民たちである。もちろん、友人である農水省が済ましてくると言っている用事とは『新利水事業』のことである。しかも、この横暴な乗客は、例えて言えば、交通局のお役人で「バスは時間通りに運行しなければならない」という規則を作っている者である。にもかかわらず、この横暴な乗客は、自分たちにはその「規則」は関係ないとして時間通りの運転をすることを何度も何度も妨害しているものである。これは、公務員の職権濫用罪にあたる行為とも言えるのである。
ところで、一般に収用委員会が審理をする際に従う土地収用法は国土交通省の所管である。そして、平成13年に改正された土地収用法では、収用手続きを円滑に進めるには、収用委員会の審理は長いものでも7ヶ月程度にまで短縮し、さらに収用裁決申請をしてから明渡期限まで2年程度までに短縮する効果があるとされているところである(「完全施行版Q&A土地収用法平成13年改正のポイント」12ないし14頁、監修=国土交通省総合政策局土地収用管理室)。
起業者である国土交通省が収用裁決申請をしたのは、01(平成1 3)年12月で、当時の新聞報道では、3ヶ月で収用裁決が出るという見通しも示されている。しかし、現実はそうはなっていない。そして04(平成16)年11月25日には約3年になるのである。最早、現在の状態は、国土交通省の言う7ヶ月程度の審理ということにも大幅に反しているものである。現時点では、少なくとも審理が始まってからでも、3年2ヶ月以上が経過している。要するに、立法者が予定している4.5倍強の遅れである。2003年10月27日の審理の中断時点からしても、1年7ヶ月であり、約2.5倍経過している。これは、民法の公序良俗違反でも通常の4,5倍の開きがあれば問題にしているところからしても著しく遅延していることは明らかである。
2 ところで、尺あゆ裁判の参加人となろうとしている国は、第1準備書面で、@土地収用法47条2号に関連して、平成15年10月27日の収用委員会で、現時点では、収用裁決申請の却下要件に該当しないと判断した。A利水判決があったから本件事業の利水目的が消滅するものではなく、事業計画の変更が認められている現行法の下では、現時点では、起業者に事業計画を変更するかどうかの判断が求められ、新利水計画の内容を踏まえ変更する必要があるかどうか、その検討を余儀なくされている。B国土交通省がダム建設事業再変更計画を出さない現時点で、法47条二号の「著しい変更」に当たるかどうかを収用委員会が判断することは起業者に認められている事業計画の変更権を無視することになる。Cしたがって、収用委員会としては、審理が著しく遅延しない限りは、本件事業計画が変更されるか否か、変更されるとしてどのように変更されるかが確定した時点で、初めて「著しい変更」に該当するか否か判断することになる。Dしたがって、現時点では却下要件に該当しない、との主張を行っている(7,8頁)。
上記見解については、当然、国土交通省も同じ見解であることは、同日の弁論での国土交通省指定代理人も、「参加」について特に意見がないとしたところから明らかである。
この国の見解でも、上記Cで、「審理が著しく遅延しない限りは」と限定しているように、収用委員会として「審理が著しく遅延している」と判断した場合には、当然却下要件を満たしており、却下できるという見解である。
そして、現時点では、審理が著しく遅延していることは、これまで述べてきたところから、明らかである。
要するに、現時点では、@法47条本文「その他この法律の規定に違反するとき」に該当するとして却下できる。これは、本件収用裁決申請を求めている川辺川ダム事業計画が特定多目的ダム法によるものであるところ、国営川辺川利水事業変更計画が確定判決で取り消された結果、新利水計画の策定結果いかんでは本件ダム計画の事業変更が必要であり、そのために審理を中断している。そして、現在の時点まで、その見通しが分からない状態であるから、少なくとも本件審理の対象が特定していないことに関係者の意見は一致している。そして、収用委員会はこれまでに2度も十分なる時間を与えて起業者に変更を考慮する時間を与えたのである。行政実例としても、「土地調書に関係人の権利の表示、署名押印等が欠けているときは、却下の処分ができる」(昭和31年8月9日計画局総務課長回答)とされている同じような事例がある。
さらに、現時点ではA法47条二号の「著しい変更」にも該当するものである。すなわち、本件収用裁決申請の基となっている2000年12月26日の本件事業の認定について、その違法性の判断時期が上記同日であったとしても、従来上記認定を受けた事業計画の「かんがい目的」が2003年5月16日の川辺川利水訴訟福岡高裁判決が確定したことにより違法として、同利水事業が1994年の計画公告時に遡って存在しなくなったことは明らかである。したがって、法律上は、事業の認定時に「かんがい目的」がないものとして扱わざるを得ないものである。もし、国土交通省が計画変更権に基づいてダム計画を再変更していないから収用委員会の判断が判断できないというのであれば、認定時の事業については「かんがい目的」が欠落しているのであるから、これと申請時の事業計画と「著しく異なる」ことは明らかである。したがって、本件収用裁決は却下されるべきである。
3 別件の収用裁決申請手続きで申請が却下されたのであれば、当然、本件収用裁決申請も当然伽化されるべきである。
別件の収用裁決申請は球磨川の共同漁業権の消滅収用等にかかるものであり、その目的はダム本体工事、および貯水行為に向けたものである。この裁決申請が却下されれば、現在の事業認定時から一年以内に収用裁決申請をすることは出来なくなる。そこで、改めて計画変更の上事業認定手続きをやり直さなくてはならない。その結果、本件も含め、現在の事業認定に根拠がある収用裁決申請はすべて、変更計画が何時出来るかということもさることながら、新たな事業認定に基づいて改めて手続きを進める必要があり、起業者が自主的に取り下げなければ、収用委員会において却下すべきものである。
以上の点を改めて述べ、収用委員各位の理解を求めるものである。
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