6月19日の若林正俊環境大臣の川辺川ダム計画への「アセス不要」との発言を受けて、本日、下記の公開質問状を大臣宛に発送しました。

> 2007年7月11日環境省より回答遅延の通知
2007年7月5日
環境大臣 若林正俊 様
公開質問状
子守唄の里五木を育む清流川辺川を守る県民の会
代表 中島 康
(他、川辺川ダム建設に反対する52住民団体)
 
 世界各地で異常降雨や大干ばつ、酷暑などの異常気象が多発している現在、わが国の環境政策の重責を担う貴職におかれましては、日々これらの喫緊かつ重大な課題に正面から取り組んでいらっしゃることに心から敬意を申し上げます。

 さて、貴職が今年6月19日に川辺川ダム問題に関して、「個人的な考えとして一般的に言えば」と断った上で「(環境アセスメントの)対象にしないことになるのではないかと思う」(熊本日日新聞6月19日夕刊)と法的根拠も示さず述べられたことは、重責を担う現職環境大臣の発言として無責任なものであると厳しく指摘し、取り消しを強く求めるものです。

 貴職は「既に関連の道路などの整備に一部着手」しており、「それを活用して多目的ダムから防災用の治水ダムだけに目的を変える」のであれば、「既に着手しているので、環境アセスメントの対象にしない」と言葉をつなぎ、完成済みの関連道路は環境アセスが不要であることを治水ダムについても転用できるとすり替えて拡大解釈し、治水ダムでも環境アセスメントは不要という意図的な世論操作を行おうとしました。確かに着工されているダム本体であれば環境アセスは不要ですが、川辺川ダムは未だ着工されてはおりません。

 まして、国土交通省が治水専用ダムの計画を立案すらしていないこの時期、貴職が「防災用の治水ダム」という具体的な方法に踏み込み、更には環境アセス対象外とまで言及したことは、環境省の存在意義すら疑わせ、不実とのそしりを受けても仕方のない、恣意的に法を運用せんとする極めて悪質な行為ではないかと私たちは考えております。

 改めて言うまでもなく、川辺川ダムは治水・利水・発電・流水の正常な機能の維持という4つの目的を有する「特定多目的ダム法」に基づく多目的ダムとして計画されたダムです。しかし2003年5月16日、福岡高裁判決とその後の農水省の上告断念により、原告農民の勝訴が確定し、利水事業は現在に至るも中断されたままです。2007年1月30日、九州農政局は「利水はダムに依存せず」と表明、ダムの目的から利水は事実上外れました。続く5月18日、電源開発株式会社も川辺川ダム計画の発電事業からの撤退を表明しました。ダムの目的が2つも失われた今、特定多目的ダム法に基づく川辺川ダム基本計画は、改正河川法に基づく治水専用ダムに変更を余儀なくさせられたと断言してもいいでしょう。

 国交省が改正河川法に基づく治水専用ダムへと変更するのであれば、法の定める手続きに従いゼロからスタートする以外に方法はないことも明らかな事実です。

 それゆえに法的根拠が異なる新たな治水専用ダムは、1997年に制定された環境影響評価法に定める環境アセスメントの対象となることは、貴職も現職環境大臣であるなら当然ご承知のことでありましょう。

 国交省は、改正河川法に基づいた球磨川水系河川整備基本方針を定め、現在は球磨川流域市町村で「くまがわ・明日の川づくり報告会」という名称で、基本方針とその策定経過の説明会を開催しているところです。6月末の時点で15ヵ所の報告会が終了しました。国交省は報告会場で「ダムについては白紙です 。具体的な治水対策については河川整備計画策定の段階で、住民の声を聞きながら検討して参ります」と再三再四にわたり、地元住民に対して説明しています。

 私たちが共通認識として押えなければならないことは、「現時点では治水専用の川辺川ダムは存在しない」ということなのです。ちなみに、今年3月から4月にかけて実施された熊本日日新聞の球磨川流域住民に対する意識調査によると、川辺川ダムを推進するとの回答が10.1%、これに対しダムを中止・見合わせると回答したものが61%となっております。

 このような地元の状況を無視するかのような貴職の今回のご発言は、地元に無用な混乱を招き、新たな争いの火種を投げこむものだと私たちは重ねて強く抗議するものです。

 過去現在を問わず、公共・公益の名のもと様々な事業が行政によって執り行われております。しかし事業執行に際しては、法的な裏づけに基づいた手続きの遵守が厳しく求められていることも厳然たる事実です。違法な事業の執行や恣意的な法律の運用は、民主主義の社会通念からしても許されることではありません。

 以上の立場から、私たちは貴職に対して下記の通り質問いたします。貴職の迅速かつ誠意あるご回答を強く求めます。7月11日までに文書またはfaxでお願いします。



1、貴職が「(治水専門に変更されたとしても)川辺川ダムは環境アセスの対象外」と発言されたのかどうか、されたのであればその法的根拠を明らかにしてください。

2、国土交通省から環境省に対して「川辺川ダムは治水専用ダムで実施する」という具体的な計画内容を前提とした照会がなされたのかどうかを明らかにしてください。

3、国交省は治水専用ダム計画について現時点でも正式に定めていません。それにも関わらず貴職は現存しないダム計画についても環境アセスは不要とお考えでしょうか。そうであるとするなら、その法的根拠をお示しください。

4、現時点で川辺川ダム計画は「白紙」の状態であり、具体的な計画も策定されていないと思われますが、貴職が川辺川ダムに関する環境アセスメントの必要性に言及された意図を明らかにしてください。


以上



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