2005年9月15日、清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会より国交省宛てに
提出した要請書、ならびに台風14号の検証報告です。

2005年9月15日
国土交通大臣  北側 一雄 様
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 
会長 緒方俊一郎

川辺川ダム事業計画の中止を求める要請書

 私たちは熊本県・球磨川流域において、川辺川ダム問題の早期解決を目指し活 動を行っております住民団体です。本年9月6日の台風14号の出水状況と、現 在得られている雨量や水位のデータから考えて、川辺川ダムの必要性について検 証を行ったところ、川辺川ダムがなくとも流域の治水対策は十分可能であること が明らかになりました。川辺川ダム建設を中止し、より現実的な治水対策を実現 していくことを要請します。
 
 以下、本会で検証しました資料です。



地元住民でまとめました、台風14号に関するレポートです。今回の台風14号
、昨年の台風16号は、ともに記録的な洪水でしたが、球磨川流域の被害の実態
を調べてみると、川辺川ダム建設により最大の受益地とされている八代地区・人
吉地区では、球磨川の破堤や越水による被害は発生していないことが分かりまし
た。より現実的な治水対策を実現していくことで、流域の安全度をさらに高める
ことが必要です。


検証・台風14号と川辺川ダム計画

                   2005年9月15日
       清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会
   (文責)黒田弘行 木本雅己 緒方紀郎 市花保 川辺敬子


1 雨量と流量から考えられること

 本年9月6日の台風14号の出水状況と、現在得られている雨量
や水位のデータから考えて、川辺川ダムの必要性について検証を行
いました。台風14号により球磨川流域は、昨年8月30日の台風
16号に引き続き2年連続の大きな出水に見舞われました。ダム推
進派はこの台風の被害を利用して「川辺川ダム建設が必要」と説明
していますが、実際はどうだったのか、雨量と流量を検証しました。


人吉地点

●2日間雨量  
国土交通省の基本計画         440ミリ
台風14号(2005年9月5日〜6日)※1 )446ミリ
             (国の基本計画と同程度)

●最大流量
国土交通省の基本計画         7000トン
                  (基本高水流量)
台風14号(2005年9月5日〜6日) ※2)4500トン
             (国の基本計画の約64%)


※1)人吉上流の32観測地点の2日間雨量(9月5日〜6日)を
単純平均した値
(雨量データは国交省「川の防災情報」HP、熊本県HPを参照)
※2)国交省「川の防災情報」HPの水位データと、平成13年度人
吉地点H−Q図より推定した値

 国土交通省は、「流域で2日間に440ミリの降雨があれば人吉
地点で毎秒7000トンの洪水が発生するので川辺川ダムが必要不
可欠だ」としています。国土交通省の基本計画と台風14号の雨量
と流量とを比較したのが、上の表です。雨量は同程度なのに、国土
交通省の想定する洪水流量の約64%の流量しか発生しなかったの
です。国土交通省の基本高水流量7000トンに科学的根拠はあり
ません。

2 各地区ごとの被害状況と対策
(1)八代地区
 川辺川ダム計画は、流域最大の人口を持つ八代市を洪水の被害か
ら守ることが最大の目的ですが、八代の萩原堤防は250年間決壊
したことがありません。今回も被害はなく、堤防にも十分な余裕が
ありました。

(2)人吉地区
 写真Aの温泉町周辺の地区に、昨年に引き続き避難勧告が出され
ました。しかし堤防をあふれることはなく、堤防の上端まで2m程
度の余裕がありました。人吉市では6世帯、球磨村渡地区(写真B)
では16世帯が浸水の被害を受けましたが、いずれも球磨川があふ
れたわけではなく、内水が排水できなかったことが原因です。
 球磨川上流の市房ダムは、一時ほぼ満水に達し、洪水調節が出来
なくなる寸前に追い込まれました。市房ダムの洪水調節は最大毎秒
400トンであり、洪水調節機能を果たしたとしても、人吉地点の
河川水位を最大約20cm低下させるにすぎません。人吉地区では、
 1.中川原周辺などにたまった土砂の撤去
 2.40mほど川幅が狭まっている人吉橋左岸の改修の完成
 3.内水排水施設の充実 等が現実的で緊急な洪水対策と考えら
れます。

(3)球磨川本川上流地区(錦町など)
 写真Cは、台風14号で冠水した、錦町・木綿葉大橋左岸の水
田と、一日たった次の日の状態です。ここでは、球磨川の堤防に開
口部があり、水害による増水を緩やかに水田に導く、昔からの工夫
が今も生かされています。
 今回、球磨川本川上流部の広い範囲の水田が冠水しました。水田
が一時的に河川の洪水の一部を貯留し、遊水地の役割を果たしてい
るのです。それらの水田が冠水により被害が生じた場合は、内容に
応じて被災農家に十分な補償をすべきです。球磨川本川上流地区で
 1.部分的な堤防強化、道路の嵩上げ
 2.浸水により被害を受けた農地の農業被害を補償する
 3.河床にたまった土砂の撤去等が現実的で緊急な洪水対策と考
えられます。

(4)川辺川周辺地区(相良村)
 相良村の川辺川周辺では、住宅や田畑、保育園などが冠水しまし
た。国道445号も2箇所(永江地区・晴山地区)で冠水しました。
 写真Dは、相良村・永江地区の、浸水翌日の水田の被害状況です。
川辺川の河道に大量の土砂が堆積しているために、堤防を越流した
洪水が水田を直撃し、水稲に大きな被害が発生していました。相良
村の川辺川周辺地区では、
 1.河床にたまった土砂の撤去
 2.部分的な堤防強化、道路の嵩上げ
 3.浸水により被害を受けた農地の農業被害を補償する
などが、現実的で緊急な洪水対策であると考えます。

(5)中流部(球磨村・芦北町・旧坂本村)
 写真Eは、昨年8月30日の台風16号時の芦北町漆口の浸水状
況です。今回は、昨年よりもさらにひどい水害に見舞われました。
この地区は改修対象地区であるにもかかわらず、いまだに改修がな
されていません。一方、改修が済んでいる地区に被害はありません
でした。未改修地区は、仮に川辺川ダムを建設したとしても、洪水
の被害を免れることは出来ません。中流部では、
 1.宅地のかさ上げなどの改修の早期実施
 2.荒瀬ダム・瀬戸石ダムによる堆砂の撤去
 3.荒瀬ダム・瀬戸石ダムの完全撤去などが、現実的で緊急な洪
水対策であると考えます。

(6)五木村  昨年8月の台風16号で、五木村築切地区の国道
445号が数百mにわたり崩落しました。その復旧工事中に、今回
の台風14号で再び同じ現場一帯の国道が崩落し、全面通行止めと
なっています(写真F)。復旧のめどは全く立っておらず、生活道
路のため、村民の生活への支障はさらに長引くことになります。
 国道崩落の原因を科学的に究明し、一日も早い道路の復旧が求め
られています。
 球磨川流域で、過去の豪雨災害で亡くなった方々の原因のほとん
どは、土砂災害です。私たちは、川辺川ダムに替わる、「緑のダム」
森林整備計画を提案します。球磨川流域の放置人工林を適正な間伐
により、針葉樹と広葉樹の混交林に変えていく取り組みもその1つ
です。山林の保水力を高めることにより、土砂災害から住民の生命
財産を守ることもできます。
 台風14号以来、球磨川本流と川辺川は現在も赤にごりの状態が
続いています。このことは、上流の山林で土砂災害が多く発生した
ことを如実に物語っています。

3 まとめ
 今回の台風14号、昨年の台風16号は、ともに記録的な洪水で
したが、球磨川流域の被害の実態を調べてみると、川辺川ダム建設
により最大の受益地とされている八代地区・人吉地区では、球磨川
の破堤や越水による被害は発生していないことが分かりました。国
土交通省の川辺川ダム建設に関する費用対効果の説明は破綻してい
ることは明らかです。
 また、想定以上の洪水に対応できない川辺川ダム建設に頼るので
はなく、より現実的な治水対策を実現していくことで、流域の安全
度をさらに高めることが必要であると私たちは考えています。



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