2007年3月21日、小委員会に対して環境に関する審議及び国交省の配布資料に関する意見書を提出しました。

2007年3月21日
球磨川水系河川整備基本方針検討小委員会
委員長他委員各位
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
他川辺川ダム建設に反対する52住民団体
代表 中島 康
       
環境に関する審議及び国交省の配布資料に関する意見書


 球磨川水系の河川整備基本指針策定のため検討小委員会も、先月2月14日は環境の審議がありましたが、これまでの審議に意義があることは、別途送付しました要求書の通りです。

 それまでの審議の経過から、環境に関する議論は、河川法の精神に反して、川辺川ダム事業前提の議論になることが予想されたため、潮谷義子熊本県知事からも、「環境の審議に入るべきではない」という意見がありました。しかし、委員長を初め、他の数人の委員の皆様からも、「球磨川の場合には、川辺川ダム事業に関連した環境の議論は必要」という趣旨の意見があり、環境も審議されることになりました。このこと事態が、河川法の趣旨に反することで許されるものではありませんが、それ以上に傍聴していた地元の住民が驚いたのは、その審議の御粗末さです。

 それも、委員の皆様に環境の専門家が殆どおらず、また地元の環境に関する現状を把握されている委員がおられない現状を考えれば、仕方がないのかもしれません。しかし、配布された国交省の資料の矛盾点が全く指摘されないという審議の実情に直面しますと、近藤委員長や他数名の委員から出た「環境の影響を考えると、穴あきダムも検討すべきではないか」というご意見に、穴あきダムが環境に本当にやさしいのかという検証を今の委員会で出来るとは到底思えません。

 現在の小委員会において、環境の審議をこのまま継続することについても、また、環境の議論はこれで十分であると結論づけることも、更に穴あきダムが環境に与える影響を検証することに対しても、私たちは認めることができないと抗議をせざるをえません。
 

 まず、小委員会の委員の構成をみますと、環境の専門家は谷田一三委員と森誠一委員のお二人だけです。前回の小委員会では谷田委員だけでした。谷田委員のご意見以外は、皆国交省の説明に対する感想のみであり、国交省の説明には、素人でも分かる多くの矛盾点が含まれていたにも係わらず、それを指摘される委員は一人もおられませんでした。

 球磨川流域に住む住民は、既存の荒瀬ダム、瀬戸石ダム、市房ダムがどのように環境に影響を与えてきたか周知しています。委員の皆様の中に、例え1〜2度地元を訪問された委員がおられたとしても、環境の経年変化は知る由もないと思われます。専門家もいない、現場も知らない委員が殆どである小委員会において、球磨川流域の環境が審議されること事態、流域住民を愚弄しています。とても、認められないものです。
ましてや、川辺川ダム事業の環境問題につきましては、住民討論集会でも、200を超える疑問点が住民から寄せられておりますが、それに答えるものは配布資料の中には、殆ど説明がなかったにも係わらず、委員の皆様からもご指摘がなかったことは、住民の意見に耳を貸さない小委員会の姿勢ばかりが、目についた次第です。

国交省の資料は、どれも「シミュレーションの結果、影響はない」「環境への影響は軽微である」とするものです。しかし、シミュレーションの元になっているデータが提供されていない小委員会の場で、その効果の可否について判断できるはずはないにも係わらず、異議を申し立てる委員が一人もいなかったのは、不思議なぐらいでした。また、委員の皆様数名の方が、「ダムは環境への影響がある」という認識を示しながらも、「環境への影響はない」もしくは「軽微である」とした国交省の資料について、矛盾点を誰も指摘できないのも、とても違和感がありました。

 つまり、小委員会における環境の議論は、環境を専門分野としない委員で構成されていて、事実行われた議論もお粗末であり、検証する場に値しないものです。今後環境に関する議論は、ダム事業に絡むものでなくてもしていただきたくないものであり、またお二人の専門家を除いて、その資格もないものと、私たちは判断しています。

 以下、国交省の資料について、皆様から疑問点のご指摘はありませんでしたが、住民でも気がつく、国交省資料の疑問点について、簡単に述べておきます。



●配布資料2−4(川辺川ダムを考える住民討論集会いおける環境の論点について)

《1ページ》
○右ページの国交省の主張第1項目、第二項目(○印の第一番目と第2番目の意味。以下同様)
@選択取水設備が有効であるような印象を受けるが、選択取水設備は濁度と水温の二つの要素を考えて運転しなければならない。この濁度と水温の二つの要素の望ましい値が、同じ層にあるとは限らないから、どちらかを犠牲にする場合もあると思う。このように運用が難しいから、全国で選択取水設備があるダムでも、清水を維持することが難しいのではないか。

Aダム反対派が市房ダムで観察した冷水放流は、ダム上層の暖かい水が全て放流され、下流の流量維持のため、下層の冷たい水を放流せざるを得ない時期の例である。この様な場合、選択取水でも冷水問題は解消しない。懸念している冬の温水流出や、水温の日格差の消失などの生物影響については、何も答えられていない。

○右ページの国交省の主張3項目
@「ダムがある場合とない場合でシミュレーションすると」とあるが、そのシミュレーションが成立している他のダムの事例が示されていないので、信頼されているシミュレーションかどうか判断できない。
これが信頼できたとして「ダムの有無による影響はほとんどない」のであれば、第1項の説明にあるような、選択取水設備により水温に配慮した取水を行う必要はないのである。また、そうであれば、市房ダムの放水により水温の低下が起こっている事実は説明がつかない。

Aダムでは堆砂容量が確保してあるので、その上にしかゲートは設置できない。また、全国のダムでは、当初の予想以上に堆砂が進んでいるのが実情である。それ以上に堆砂した場合にゲートの操作事態が不可能になる場合もあると思われるがどうか。

B清水バイパスにつくるには、水位維持施設(副ダム)が必要になるが、副ダムといっても高さ20mあるので、基本的な構造としては、川辺川ダムの上流に20mの高さの選択取水設備もなにもないダムが存在しているのと同じである。要するに、まずこのダムに土砂は貯まることになるので、どこよりも汚いダム湖となる可能性がある。
さらに、そこから上層部の割合澄んだ水をダム下流に流したとしたら、川辺川ダム本体ダム湖に流れ込むきれいな水の量は低下することになるので、回転率が減少し、川辺川ダム湖の一掃の悪化を招くことになる。清水バイパスのために副ダムを作ることにより、川辺川ダムの水質は悪化する可能性が強いのである。球磨川水系における瀬戸石ダムと荒瀬ダムのように、連続してダムがある場合は、下流のダムの水質の方がより悪化していることが、分かっている。川辺川ダムは瀬戸石ダム、荒瀬ダム以上に回転率が悪いダムである。

C国交省の清水バイパスの図を見ると、ダムが満杯になっているように見えるダム本体の水面のその上に水位維持施設の水面がある図があるが、委員の皆様が見ると、いつもこのような状態になっているかのような勘違いを導き出すのではないか。これまでの国の説明では、水位維持施設の水面は最低水位(239m)と満水位(280m)の中間ぐらい(260m)に来るようになっていた。委員が清水バイパスの効果を判断するのに、非常に誤解を与える図ではないか。

D前回の小委員会で「清水バイパスが設置されているダムはあるか」という質問が委員から出たが、そういう質問をする委員に清水バイパスの効果の可否を判断することはできない。それに対して、国交省はいくつかの事例を紹介していたが、どれも規模や条件が違うダムであるが、その違いの説明はなく、効果だけを説明しているのに対し、疑問も出されないのは不思議である。他の国交省の説明の中には、「市房ダムで起きるから川辺川ダムでも起きるわけではない」というような説明が見受けられるが、国交省が都合よく説明している矛盾ぐらいには、苦言を呈するべきである。
 旭ダムは川辺川ダムに比べて、集水面積1/50、貯水量1/8であるだけでなく、用水発電の下部ダムであり、何度も繰り返し使用されるという運用がされているダムで、川辺川ダムとは全く条件が違うのである。また、清水バイパスの取水口もダム湖に流入する前の川にあるので、ダム湖となった副ダムである水位維持装置から取水する川辺川ダムとは、まったく条件が違う。

E住民討論集会で国交省が説明した清水バイパス (十津川の支川) の効果は、特殊な運用がされる揚水ダムのものであった。さらに、この清水バイパスによっても、十津川の本川全体の濁りの制御はできていないのが事実である。清水バイパスの効果は限定的なものであると言える。
 
F川辺川ダムの最も近くにある一ツ瀬ダム (宮崎県) では、未だに濁りの問題が解決されていない。気候や地質が類似した川辺川ダムでも同様な現象がおきることは十分懸念される。


○第4項目
@このグラフにおいて、文章においては、「5℃以上が高くなる日」と高くなる場合が強調されておりそれが「39年間で12日と稀な現象である」と影響が少ないような印象を与えているが、平均で水温が5℃以上高くなるというのは、本当に稀なことであり、1℃以上の温度変化が対した影響を与えないと判断するのは間違いである。平均というのはあくまで平均で、毎日急激な温度差があっても、平均で均されて、影響がないような印象を与える。こういうグラフは現場を再現しているものとはならない。この1℃以上水温が高くなる日の割合は4分の1であり、これは水生生物の生息に影響を与えないとはいえない。

A「水温が現況より高い日数」において、0℃未満というのは、温度が下がる場合を指しているものと思われるが、1℃下がるのか5℃さがるのか、どの程度下がるのかについて、区分が示されていないので、判断ができない(もしかしたら、5℃以上下がる場合もあるのかもしれないが、元データがないので、判断の仕様がない。0℃以下では、どの程度の水温低下があるのか、全く不明で、かなりな水温低下がある場合もあることは否定できない。市房ダムの放水により水温が8℃以上低下することは、ダム反対派の調査で確認されている。また、そのような日でも、平均すると、日温度差は1〜2度かもしれないことを考えると、国交省のグラフには、何の意味もない。
 そもそも、この図と文章は、ダム反対派の「日平均水温に6度差がある」という見解に対する反論するために、採用していると思われるが、右のグラフは「ダム建設後の水温が現況より高い日」を示したものであり、比較するものとして妥当でない。また、グラフは「水温が現況より高い日」を示しているのに、文章では、「水温の差が5度以上高くなる日」と右のグラフが示しているものではないが、説明を摩り替えている。このようなごまかし手法は余りにも幼稚であり、それに疑問を持たない委員にも疑問がある。

《2ページ》
○第2項目「川辺川では現況で濁度5未満の日数が年間308日、ダム建設後も308日であり、河川水の濁りに大きな変化はない」というのが事実とした場合でも、それは、あくまでも選択取水設備と清水バイパスが将来に亘って機能した場合の話である。運用に対する不安がある以上、ここに示された結果をそのまま信じるわけにはいかない。特に選択取水設備がうまく機能するというのであれば、これまで全国に設置された選択取水設備の運用後の濁度や水質に関するデータを示すべきである。

○第3項(濁りの原因について)
@川辺川と球磨川の濁りの違いで、よく話題になるのが、濁りの差がはっきりとしている合流点である。やはり市房ダムがある球磨川と川辺川の水質の差は、平均の濁度がどのくらいということに関係なく、毎日見ている住民の皆様からは一目瞭然の違いを感じている。また、この国交省の図「人吉地点の濁りの要因」のグラフをみても、川辺川に起因する濁りが少ないのははっきりしている。
 このグラフの説明に球磨川の濁りの原因は「市房ダムの放流によるもの、稲作の代掻きによるものがある」とあり、市房ダムが原因であることを認めている。グラフをみますと、渇水期の8月、9月は別にして、川辺川が要因であることを示す白い部分よりも、市房ダムが要因であることを示す黒い部分の割合の方が少ないのをみると、納得いなかない人が多いのではないかと思うが、現場を見ている人によると、合流点より上流の球磨川の水がきれいな時は、ダムの容量を利水に回して、方流水が少ない時であったり、逆にダムの放流が濁りの大きな原因になっている6月は梅雨前に治水容量を確保するためのダム放水の影響も考えられ、どちらにしてもダムからの放水の有無が下流の濁度に影響していることが考えられる。
このグラフの根拠となったデータを示して説明すべきである。同様に代掻きによる濁りが原因とする根拠も示すべき。
Aまた、球磨川上流の濁りの測定地点がどこなのか、数地点の平均なのかというデータの基本的なことも示されていないグラフでは何の判断材料にもならない。ダム反対派の調査報告(第6回住民討論集会発言録p25。OHP資料10ページ)の中に、ダム直下から、流れにそって濁度を計測したものがあるが、それによると、ダム湖流入前が一番きれいで、ダム直下が一番濁度が大きく、それから、小さくなり、また少しづつ上がっている。国交省の説明が正しければ、ダム流入前が一番小さくて、ダム直下で濁度が上がり、人口や田畑が多くなるに従って濁度が増えるわけですから、だんだんと右肩上がりになるはずである。
ダム直下や支川の合流地点後との濁度測定の結果などのデータがない以上、ダム反対派の調査報告が間違いだと、また球磨川の濁りの原因が代掻きや人口の多さにあると言えない。
B住民は市房ダムからの放流水が例え濁っていたとしても、市房ダムの下流から合流地点までは、多くの支流が流入していることいよって、改善されているが、川辺川ダムは建設予定地より、合流点まで小さないくつかの支流しかないので、ダムのから放水された濁水が薄められることなく、そのまま人吉地点まで到達することが予想され、人吉地点の水質が予想以上に悪化することが懸念される。

《2ページ》(濁りの予測結果について)
@右側の国交省の説明では、「川辺川では、現況で濁度5未満の日数が308、ダム建設後も308日(図をみると309日になっている)であり、河川水の濁りに大きな変化はない」と、また「濁度2未満の日数についても、214日であるのが、220日となる」とあるが、明らかに肉眼で感知できる濁度5の濁りを目標値をするのは納得できない。ベースとなった算出根拠・データが示されていないので、信憑性も判断できない。
また、グラフによると、ダム建設後の方が、濁度2〜5の日数は減少することになっているが、それは何の効果によるものか。

《3ページ》(富栄養化の可能性について)
○1項目
@ボーレンワイダーモデルの説明図において、「富栄養化現象の可能性が低い」と言われている二つの曲線の間に川辺川ダムが入っているので大丈夫というのが国交省の説明であるが、川辺川ダムのデータしか示されていないので、他のダムや貯水池はこのモデルに当てはめるとどうであるかが示されていない。事実、このモデルがどのような条件で作られているかの説明もない。その中で、川辺川ダムだけを示して、「富栄養化現象が発生する可能性は低い」とはいえない。
 実際、ダム反対派が検証した結果、市房ダムもこの曲線の間に位置している。市房ダムを見てきれいだとは誰も思うものはいない。
A川辺川の富栄養化予測に使われたボーレンワイダーモデルをダム反対派の研究者が既存のダムでの検証を行っているが、それらのダムは、モデルを作成に利用した一連のデータと推理条件やリンの負荷量が全く違っていることが明らかになっている。すなはち、このモデルでは川辺川ダムの検討・検証を行うことは適当でないのである。

○第2項目
@九州内の「川辺川ダムと同程度のダム貯水池」のクロロフィルaのグラフがあるが、各ダムにおいて、ダム建設前の川と比較してどうであったか不明である。住民は現在の川辺川ダムと比べて水質が悪化することを懸念している。現実に、松原ダム等を見た場合、元の河川と比べてきれいだと思う人は少ないだろう。そこと同様になると説明されても、不安が増すばかりである。
A住民側の資料「ダムができるとどうなるの その参」48ページに「第9回八代海域調査委員会資料より引用」として、「既存ダムにおける植物プランクトン発生状況」というのがあるが、これによる(元データは国交省のもの)と、クロロフィルaの量は、市房ダムが一番大きくて、瀬戸石ダム、荒瀬ダムの順に小さくなっている。市房ダムの上流に人口や農地は少くても、クロロフィル量がダム湖で増えることを示している。素人でも、「きれいな水(例え消毒した水道の水でも)も放置しておく、すなわちたまり水はすぐ腐る」ことは容易に理解できる。それを否定することは難しい。

○第3項目目
@第3項に赤潮について「富栄養化によって、赤潮が発生する可能性は低い」とあるが、その根拠もなにも書いていない。ダムと海の赤潮発生の因果関係を示すものがない以上、結論は出せない。しかし、現場の漁師たちの証言は「ダムが放流した後に出る場合が殆ど」という。これを否定するだけのデータがあるのか。
A「ダム建設後、モニタリングを行い、必要に応じて対策を講じていく」とあるが、実際他のダムで取られた赤潮対策が機能している事例はあるのか。対策費などがどの程度かかるのか・・・等など赤潮対策は課題が多いのではないか

《4ページ》(球磨川と川辺川のアユの大きさについて)
@第1項目に「統計学には調査時期やサンプル数を揃えるべき」とダム反対派のデータがすくないと疑義を挟んでいるが、国交省省の資料も4回に過ぎず、データが反対派の調査が信頼性がないというのであれば、同じである。

Aしかし、その少ない調査からも、ダム反対派、国交省双方の調査の結果、川辺川ダムの方がダムがある球磨川の鮎の方が肥満度も体重も大きい、またダムがある球磨川の方が藍藻類を食べているという鮎の比率の高い傾向があることが伺える。

《4ページ》(アユの餌いついて)
○第1項目に「ダムの影響で藍藻類が増えるという因果関係は特になく」「珪藻類が多い川で育ったアユの方が美味しいという定説になってない」と科学的に証明できないことでもって、関係がないと結論づけることは、到底無理がある。誰でも食べてみれば川辺川のアユの方がおいしいと分かる。科学的に証明できないことをもって、「ダムができれば、鮎の商品価値が下がるのでは」と心配する漁師さんたちの声を否定することはできない。反対派の主張も国交省の主張も、住民や漁師さんたちの心配を払拭するだけの議論が、住民王論集会でも全くできていないことを、示しているだけのものとにすぎない。これだけの資料をもって、委員の皆様が「アダムが出来てもアユには影響はない」と判断されるとは考えてない。資料として判断材料にならない。


《5ページ》(八代海への影響−水質について)

@反対派の資料は、「漁業に与える影響について、全く予測されていない」「三次元シミュレーションでは、八代海の予測に関するモデルの再現性がない」と国交省省の資料を元に実測地と計算値を比較した結果、八代海の予測は難しいことを述べているのに対し、国交省はモデルの再現性には触れずに、「八代海の水の流入量の変化が軽微である」「栄養塩の負荷の変化は殆どない」「水質予測モデルでは、チッソなどの濃度の現象は非常に小さい」と結論だけを述べてあるにすぎない。これだけで、小委員会の専門家が、どう専門的な議論が出来、何をどう判断することができるのか・・・八代海一つをとっても、環境の審議を小委員会で行い、何らかの結論をだすには、データも資料も全く不足している。

○2項目の@
「横石地点を流れる年間の水の総量」の図の説明で、水の総量は「約0.7%の減少があるということで、比較的軽微である」と結論づけているが、総量で八代海への流入の増減が八代海に与える影響の判断材料には全く役にたたない。「ダムができると、水量が減少するので影響がでる」と漁師が心配する水量の減少は、自然のリズムではなく、ダムの開閉によって、一気に大量の水が出たり、貯留されるために、水量が多い時期に水量が減少したりして、自然のリズムが崩れることを心配しているのである。極端な言い方をすると、総量0.7%の現象が、1ヶ月の間に集中して起こったり、1日に大きな水量の増減がったりすることが困ると心配している。「自然の雨はいくら大雨でも、徐々に水位が上がるが、ダムの操作による水位の増減は、一気に起こるのので、その変化についていけず、アサリが一気に流される」とか、「2〜3年かけて育てたアサリを、消失させるには、たった1日で十分な時もある」と心配しているのである。
つまり、このようなデータで、八代海の漁業に関係すい水の増減に影響があるかないかの判断材料には全くならない。


○2項目のA
@栄養塩に関する説明において、「川辺川ダム上流域から流出する栄養塩は、人口が少なくて農業生産も元々非常に小さい」ことだけを理由に、「川辺川ダム建設前後で栄養塩の負荷の変化は殆ど見られない」と結論づけてあるが、そうであれば、同様に上流の人口は大変少なく、農業生産も非常に小さい、市房ダム上流から放流される水でも栄養塩の負荷の変化はないはずである。しかし、先に示したように、既存ダムの中で、市房ダムが一番クロロフィルaは大きいのである。市房ダム上流の栄養塩と市房ダム直下の流出水(下流の農業等の影響を受けていない段階なので)の栄養塩を調査したデータも示されてない中で、人口や農業生産の比較でもって、結論は出せないのではないか。
Aましてや、既存のどのダムよりも、回転率が小さい川辺川ダム湖というたまり水がきれいなままであるという説明は納得できるものではない。国のいう「ダム上流域から流出する栄養塩は、人口が少なく、農業生産も小さい」ので、「栄養塩の負荷は少ない」という説明は、どう理解していいのか。予測と実態は全く違うことを言っているのではないか
Bリン、窒素、CODについてのみ説明があるが、反対派の資料にあるように、微量元素についての説明がない。八代海の環境の悪化を懸念する一因に、ダム湖などに土砂が堆積することによって、微量元素が変化することにあるという指摘があり、このことに納得がいく説明はない。

《6ページ》−C
○第1項目−Cいおいて、「ダム建設後は洪水時のピーク流量が下がるため、CODとか窒素、リンの総量が低くなっている」とあり、結論として「水質面での影響は、無視し得る程度のもの」とあるが、もともと流域から出る窒素・リンの総量は変わるはずがないのではないかと思われる。ダムが出来ることによって、総量が下がるのは、何に原因があるのか、その根拠が必要。ここでも、そのシミュレーションがどのようなデータを元にしてあるものが、提示がないので、検証の判断材料にはなっていない。

《6ページ》(土砂・干潟について)
@1項目目で「干潟は殆ど変わっていないと推測」とあるが、干潟の減少を示すデータが多いし、実際現場を知っているものは、誰もが口をそろえることである。また、既存の荒瀬ダム(撤去対策を講じる前の土砂堆積量は100万立米)や瀬戸石ダムなど大型ダム、及び球磨川に合流するおびただしい砂防ダムに堆積している土砂は、本来なら海まで運ばれるはずの土砂ではあるはず。干潟後退の原因を砂利採取だけにしてあるが、ダムや砂防ダムに堆積した土砂の総量には触れていないのは、解せない。※なにより、「球磨川縦断方向砂利採取合計」の表にいたっては、文字も見えず、何を示しているかの判断もできない。小委員会での検証を前提としていない資料である。

A「干潟は殆ど変わっていないと推測」としながら、資料3−1、8ぺージには、「干潟の面積は減少傾向にある」と、矛盾ある資料をどう考えればいいのか。

A第3項目(砂の移動の問題)において、国交省も「砂の移動は不確実な事項が多く、予測の制度に限度がある」としているが、まさにその通りである。その前の項目において、「干潟は殆ど変わっていないと推測」という推測もおかしい。


《7ページ》(クマタカへの影響)
@第1項目において繁殖テリトリーや幼鳥の行動範囲はダム事業区域と重なることを、資料でも認めているが、それであるのに、「つがいへの生息及び繁殖活動はダム完成後も継続するものと考える」とする根拠は示されていない。

A第1項「各つがいと今後の事業区域との関係」において、「ここでのダム事業区域は、今後(平成15年5月中旬以降)実施されるダム事業に係わるものを対象とした」と、平成15年以降実施予定の事業区域とクマタカの行動範囲の関係が、表で示されている。しかし、その下の表「川辺川ダムの繁殖状況」は平成14年度までである。平成15年以前の「事業区域の関係」がないと、工事が繁殖状況に与える影響を検証することは不可能である。時間がズレている表を掲載しても、意味がない。

○第2項の「川辺川の繁殖状況」
@平成9年度は、5つがいのうち、4つかいは繁殖に成功しているが、平成10年度、11年度は7つがいのうち2つがい、12年度はゼロ、平成13年度は7つがいのうち1つがいと繁殖に成功するつがいは格段に減少している(平成5、6年は、確認がないところを見ると、本格的な調査をいつから行ったか、各つがいと工事の関係も示されていない)

A「ダムのコアエリア内で工事があった場合、繁殖率が37%、工事のなかった場合が12%」とあるが、この元データが上の表は「今後の事業区域」を示すものではないのは明らかである。この「工事があった場合の繁殖率37%、工事のなかった場合が12%」という結果はどこから出てきたものなのか。

《8ページ》(九折瀬洞窟の生物への影響)
○第1項目に「東ホールは、非常に高い所にあるので、ダムの最高水位である280mまで、水が溜まった場合よりも上のところにある」と、現場を知らない委員は、「高いところにあり、水に浸からないなら影響が少ない」と判断しかねない記述である。そうでなければ、何を説明しようとしている記述なのか、理解できない。

○2項目に「人工的なトンネルを利用した例が確認されている」とあるが、「他で大丈夫だったから、川辺川ダムでも大丈夫とは言えない」というのが、国交省のいつもの住民への反論の仕方ではなかったか。地形や洞窟の構造など、人口トンネルの前提条件の違いや、また、人口のトンネルの効果が見られなかった事例は示されていないのに、説得力が全くない。


●配布資料3−1(河川環境について)

《1ページ》
 河川の自然環境についての資料によると、球磨川の上流部は九州中央山地国定公園、川辺川の上流部は五木五家荘県立自然公園に指定されており、すばらしい自然環境であることがわかるが、そのことについての具体的な記述がない。これではもっとも配慮を有する自然についての判断はできるはずがない。

《2ページ》
上位性、典型性、特殊性、移動性の観点から、注目種が選定されているが、この選定には疑問点が多い。例えば鳥類ではカワセミよりも、カワガラスやヤマセミを選ぶべきではないか。ワシタカ類がひとつも選ばれていないことも疑問である。また、は虫類はまったく選定されていないが、カメ類やヘビ類に注目する必要はないのだろうか。両生類においても、河川から山地までを移動するサンショウウオ類への配慮はどうするのか。ほ乳類のカワネズミも、上流部の自然を見る上で重要だろう。底生動物も、流れがあるところの水生昆虫にアカマダラカゲロウがだけが選定されていることははなはだ不思議である。移動性から見れば、モクズガニは是非選定すべきであろう。魚類でも、移動性の観点からみれば、ヨシノボリ類にも注目しなければ、河川のつながりを押さえることは難しいのではないか。
特殊性の観点からは、該当がないとの記述があるが、チスジノリなどの希少な生物を無視するのだろうか。球磨川の自然環境を把握する注目種の選定は、根底から見直す必要があるのではないか。
また、九折瀬洞窟という、ここにしか生息していない絶滅危惧種等を含む特異な場所の重要性について、何の記述もないのはあまりに不備である資料である。

《3ページ》
@洪水・水害の欄に、死傷者・行方不明者を現す数字が示されている。この数字は、一見、増水による被害を示しているようであるが、実際には土砂崩れなどによりなくなった方と含められており、実体を現していない。「記録に残っているだけでも、過去400年間に100回以上」という記述があるが、市房ダム建設前後の水害頻度についても触れるべきである。
A写真「河口部・下流部の歴史的変遷」の昭和22年と昭和46年を比較しても、八代市において球磨川の川幅が大幅に広くなっているのはよく理解できる。川幅も狭く、堤防が現在よりずっと低く、昭和22年時点においても、八代市は過去堤防決壊がなかったことなど事実は事実として、委員に伝えるべきである。

《4ページ》
球磨川河道縦断図は示されているが、川辺川については示されていない。川辺川ダム事業に関連した環境の議論が必要と述べた人がいたにもかかわらず、その川辺川の資料がないことを指摘しないのは不思議である。

《7ページ》
 球磨川流域の水質について、藤田におけるBODの経年変化のグラフを見ると、環境基準値が1mg/lのところ、それより遙かに低い0.5mg/lの値が続いているのが読みとれる。これは、川辺川が、市房ダムに流れ込む以前の球磨川の渓流域と同じ程度の、非常にすばらしい水質であることを示している。川辺川については、これほどすばらしい水質の河川であるということを念頭に置いた議論をすべきであろう。

河川の濁りの原因について、市房ダムの濁水、山腹崩壊、代掻き時の濁水などが原因としてあげられているが、砂防ダムからの濁水について触れられていない。地元のものの目から見れば、流域に多数建設されている砂防ダムから流れ出る濁水は、非常に大きな影響を及ぼしていると認識されるが、それについて、触れてないのは疑問である。十分な現状認識がされているとは思えない。

《8ページ》
@球磨川河口域は、東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワークの登録地となっているほどに、国際的にも評価の高い自然環境である。多くのシギ・チドリ類が利用するだけでなく、国内では球磨川河口だけでしか見ることのできないオオズグロカモメなどの渡り鳥も飛来する場所であるが、渡り鳥の飛来状況などの資料はない。これでは、球磨川流域の自然環境のすばらしさを理解することは難しいのではないか
球磨川河口域の湿地には、絶滅の危機に瀕している貝類などが生息している。希少な生物の生息地になっていると言うことがわかる資料が提示されていないと、球磨川の河川環境の重要性が判断できないのではないか。

A「干潟の面積は減少傾向にある」として、明治44年、昭和38年、平成15年の干潟の平面図が示されているが、明治44年、昭和38年時は、まだ干拓されていないところもあり、干潟の面積はその分広かったハズである。それを踏まえて、干潟面積を考えると、砂利採取があったとしても、かなり減少していると考えるべきである(干拓された面積の分、干潟は沖合いに広がっていなければならない)。

B「遥拝堰直下では、過去の砂利採取により河床が著しく低下し、アユの産卵場の環境が悪化」「遥拝堰直下の河床低下により、魚道の機能が十分発揮できていない状況である」とあるが。砂利採取は、河道確保のため採取されたと聞いている。もともと、堰などの人口横断物がなければ、自然の状態では、瀬と淵の連続性が生まれ、産卵場は自然に形成されていたものであるし、魚道の必要性もなかった。河床低下や魚道が役に立たない理由を、砂利採取にするのは、議論としては、本末転倒である。

《9ページ》
河川環境情報図に、「動植物保護の観点から、重要な種及び確認位置は示していない」とある。球磨川河口の干潟は、国内でも有数の希少な生物の生息地となっていることが知られているが、このような記述では、その環境の重要性が、委員の方々に伝わらないのではないか。委員が、どのような貴重な種が確認されているか、非公開での説明も求めていないなら、球磨川の環境保全について、検証する意思もなかったことになる。市民レベルでも過去タコノアシやオオアブノメなど貴重な種を確認していたが、保全対策が取られた形跡はまったくなく、生息域も株数も検証していったのが現状である。ベントスについても同様であり、つい最近も八代地区において、貴重な種の生息域が、保全対策が取られることなく工事が始まった事実がある。「保全に努める」とあるが、河川工事において、下流、及び河口域の生物の生息環境に配慮はないに等しい。

《10ページ》
河畔の高木林はサギ類やヒヨドリの繁殖などに利用されているとあるが、ここに示されている鳥類は、熊本県においてはどこにでも普通に繁殖している。このような種類しか繁殖の確認ができていないと言うことは、鳥類の河川周辺での生息状況について、きちんとした調査はなされていないと言うことを示しているように思える。とにかく、1〜2種を取り上げてあるだけで、この河川を特徴づけるデータとはなっていない。このような、不十分な調査データでは、何も判断できない。
これは、下流から上流に至るまで、同様である。

《11ページ》
左下の文章に、保全に努める、配慮した施工を行うなどの記述があるが、具体的にどのような工法をとるのか示されておらず、本当に工事をしても自然環境が保全されるのかは判断のしようがない。

《12ページ》
他の多くのページには、「動植物保護の観点から、重要な種及び確認位置は示していない。」との記述が多用されているが、なぜかここでは絶滅危惧U類のツクシイバラが写真まで載せて記述してある。これは、資料の一貫性を欠いている。これでは、記述されているように「動植物保護の観点から」ではなく、十分な調査が行われていないから「重要な種及び確認位置は示していない」のではないかと指摘されても仕方ないのではないか。

 右上の文章に、瀬にはアユ、オイカワが生息し、瀬の河床にはカゲロウ類が生息とあるが、アユは瀬にも生息し、カゲロウ類も淵にも生息している。きちんとした調査はなされているのだろうか、疑問である。

《13ページ》
 ここでも、「動植物保護の観点から、重要な種及び確認位置は示していない。」とあるが、ここがオキチモズクやチスジノリなどの希少な藻類の国内最大規模の生息地であることは、この資料からは委員の方々はまったく理解できないはずである。重要な資料なしに、どのようにして環境について委員の皆様は判断をすればいいのだろうか。この資料から環境の重要性に気づき、質問するのは難しいのではないか。委員の皆様に十分な情報を提供することなく判断を求めるのは、あまりにも委員会を軽視していると言わざるを得ない。

《14ページ》
魚道で最大28種類の魚が確認されているとの資料があるが、それに加えて、ダムや堰の下部に遡ってきた魚の個体数の何割が、実際に魚道を利用したのかと言うことが重要なはずである。そのような調査はなされているのだろうか。これでは、魚道の有用性について判断することはできない。
15ページ

●配布資料3−2(洪水調節施設による環境の影響と対応について)

《1ページ》
@「環境影響評価法に基づく調査等と同等の水準で実施」とある。確かに調査項目は、環境影響評価法に準じてあるが、その調査報告書の内容は、調査の結果と「影響がない」という報告のみで、その根拠が全く書いてない。どう検証されたのか、全く不明。環境影響評価法の下に実際に作成された準備書や評価書を見たことがある人なら、「川辺川ダム事業における環境保全の取り組み」が評価書と呼べるものでないことは、すぐ分かる。

《2ページ》(貯水池の出現による環境への影響)
環境への影響としての報告は、「洪水調節施設の運用に伴い貯水池が出現」と「付帯道路などの設置に伴う土地改変が発生」と小学生も分かる当たり前ことが書いてあるだけである。これら貯水池の出現や土地改変で、何がどのように変わり、どのような影響を与えるのかということには、全く触れていない。

《3ページ》(流況への影響)
予想される影響として、「ダム建設後の運用により、下流の流況は変化し、河川のダイナミズムが損なわれる」と流況への影響を予想している。ダムがある多くの河川において、下流には水量の減少が起きているのは事実である。川辺川ダムにおいては、「流況へに大きな変化はないと考えられる」という予測結果が出ている根拠は何か。他のダムと何が違うのか、他のダムでは、運用後の流量変化は予測されていたのかなどの説明もなしでは、「大きな変化はない」という予測は信頼できない。

《4ページ》(水質への影響1)
@全国で選択取水整備がつけられているダムは多いと思うが、濁水軽減効果については、明確な効果は発揮できていないので、今なお濁水対策が議論になるのであろう。
A水質バイパスに対する主な疑問は。資料2−4、1ページに関連して述べたとおりである。
B仮に、選択取水設備や清水バイパスが効果があるとすればするほど、これらの運用により、ダム湖内の滞留日数は長くなり、回転率は悪化、ダム湖の環境は悪くなるということは避けられなくなるのである。

《5ページ》(水質への影響2)
@ 予測において、濁度5度を基準にしてあるが、肉眼でも明らかに濁っているのが分かるひどい濁りの状態を基準にして、予測することに意味はない。
A柳瀬地点の水温の予測結果は、「現況と大きな変化はない」とあるが、これも使用したシミュレーションの信頼性を検証できるものが何もない。
Bボーレンワイダーモデルは、グラフ横軸の平均水深×回転率の値が50を超えると当てはまり率が悪いことが指摘されていて、川辺川ダムはこの値がかなり大きいにも係わらず、このモデルを利用している。また、過去限界負荷量はL=0.02に下方修正された経緯があるが、国交省はその事実も委員に伏せて、高い限界負荷量に川辺川ダムを当てはめた資料を提示しているのは、欺瞞である。

《6ページ》(下流河道への影響)
@予測では、「人吉層の露出による治水上の懸念や河川環境への改変」が心配されているが、ここでも再現性があるがどうか検証ができないシミュレーションの結果で、「大規模な人吉層の露出はない」と結論づけている。しかし、川辺川ダム湖の土砂堆積によって、下流への土砂供給は2700万立米も少なくなることが予想されている。実際、市房ダムの下流においても岩盤が露出しているところがある事実などから見ても、人吉層の露出など環境への影響はないとはいいきれない。だから、国交省も「大規模な」と断わっていると思われる。

A国交省は土砂の還元方法として、下流での置き土を対策としているが、川辺川ダムの予想土砂堆積容量は、1年間で27万立米である。下流の荒瀬ダムは、50年間で100万立米の土砂堆積があり、今撤去に向けて、土砂除去を行っているが、年間に撤去できる土砂の量は僅かであり、ましてや置き土で下流に流せる量は更に少量と思われる。年間の堆積量に対して、下流への影響を回避できる程の土砂供給が可能であるとは思えない。

《7ページ》(動植物への影響)
@「陸域の典型的なダム共用後の残存の程度」において、広葉樹が98%、スギ・ヒノキ植林が99.4%とあると、減少率が小さい印象があるが、ダムにより390haという広大な自然が消失することを、住民が懸念している。分母を流域全体と大きくして、面積の減少率が小さいからいいような印象を作ろうとしているように思える。

《8ページ》(動植物への影響−保全措置)
@失われる390haに対して、対策が講じられる面積は微々たるものに過ぎない。動植物の移動経路にしても、今までは川辺川という水辺に近づくことも、川辺川を横断することも、容易であったのに対し、道路下の横断管設置や速効の切り欠き部設置などで対応できる場所は申し訳け程度にしかならない。小動物の生息密度などの検証が必要である。

《10ページ》動植物への影響(アユの生息)
@「流量、水質、水温、付着藻類、河床材料などの変化が、アユの生息・成長に大きな影響を及ぼすことはないと考えられる」とあるが、では、全国でダム建設後アユが激減しているのをどう説明するのか。また「アユの生息・成長」以上に、ダムで問題になるのは、経済的価値があるアユの漁獲量の減少である。そのことには、全く触れていない。
すべての項目が、「影響がない」という前提になっているが、シミュレーションどおりにならないのも、全国のダムで証明済みである。

A委員のお一人である森誠一氏は、応用生態学会誌Vol.2において、「ダム構造物と魚類の生活」という表題の論文を投稿されているが、その中で、「ダムという構造物およびダム湖という湛水域は、環境の生物的・物理的な構造要素に影響を及ぼす」として、ダムによる水温・堆積物・溶存酸素・生物的環境の変化や、ダムの上流・ダム湖、ダム下流における魚類への影響について、詳しく述べておられる。結論として、「こうした河川から湖への生態系の変化は必然的に、魚類相、魚類の餌生物層、個体郡動態の変化を引き起こし、水産業にも打撃を与える」と述べておられる。このことは森氏が指摘されるまでもなく、現場の漁師は経験から知っていることである。それをシミュレーションで「影響がない」と言うこと事態、信頼性がおけないものである。

B上記の「応用生態学会誌Vol.2」においては、同様に谷田一三委員も「ダムが河川の底生動物へ与える影響」という論文の中で、「ダムの影響は、ダム淡水域だけでなく、その河川環境に大きな影響を与え、ときには上流にも少なからぬ影響を与えている」と前置きをして、ダムの流量制御や、流路形状の変化、水温環境の変化、濁水の影響、ダム湖で生産されたプランクトンの影響、移動障害などの影響が底生動物に与える影響を事例を挙げながら、詳しく説明されている。

C前回の小委員会において、森委員が欠席されていたことは大変残念である。また、定性動物がご専門である谷田委員が出席しておられながら、川辺川における底生動物に関する資料が全くなかったのは、腑に落ちないことである。河川の環境が健全であるかどうかを量るのに、底生動物を指標生物にすることからも分かるように、底生動物の検証が欠かせないのは、国交省も理解しているはずである。
小委員会において、環境の専門家はお二人しかいないことを考えると、まず2委員の出席を前提として、発言の時間を多く取るべきであった。意見を頂く機会を極力与えまいとする委員長の意図があったと言われても仕方がない。

《11ページ》(動植物への影響−クマタカの生息)
@国交省資料での判断は、クマタカへのダムの影響を平面図上のダム範囲との重なりの割合で評価している。しかし、ダムの影響範囲を単に直接的な工作物等の設置範囲のみにとどめるのは、影響を過小評価する恐れが高い。
Aまた、一部が重なるだけの場合には問題はないものとしているが、そう判定できる根拠は何なのか。肝心の繁殖テリトリーやコアエリアの資料は開示されておらず、重なりが一部なのかどうか、一部の重なりが本当に重要地域との重なりでないのか否かの検証は、第三者にはできていない。
 実際、国交省は予定していた原石山をコアエリアの端っこであるので、影響は少ないと当初説明していたが、地元の調査グループが調査した結果、原石山一帯を重要な餌捕り場としていた事実が判明した経緯があった。
B繁殖率の議論を意味がないものであるかのように論述しているが、疑問を呈している側は、そもそも今のクマタカの繁殖状況をどう見るかという前提について、繁殖率というものも含めて解析することの必要性を述べてきたものである。現在の流域の繁殖状況は、特定のペアを見る限り、安定した個体群の存続を保証するレベルにはないことは明らかである。早急に、国交省の調査資料を研究機関に開示し、流域の繁殖レベルを評価する必要がある。

《12ページ》
@九折瀬洞に全国的に珍しい豊かな洞窟生物が生息する原因は、複雑で立体的な洞窟形態によって、東ホールを中心とする区域に、年間を通して気温・温度の高い閉鎖的洞窟環境が形成されているからであるが、東ホールに近い標高でのトンネル掘削と洞口閉鎖は洞窟生態系を維持する洞窟環境を破壊する可能性が高く、詳しく検討すべきである。

A「4−洞窟の保全措置」について
 国交省のトンネル平面図及びトンネル縦断面には、省略してあるが、市民団体も洞窟微小気象調査を行っているが、資料には示されていない地下水プールが図の右下方には存在している。この地下水プールの存在を明らかにしていない図では、トンネル掘削が、洞窟内の微気象に与える影響を検証することはできない。意図的ではないにしても、トンネル構造の一部だけを取り上げた図で説明するのは適切でない。(九折瀬洞窟に入ったことがある委員であれば、すぐ気がつく問題である)
 冬季には、洞口から流入する乾燥した冷気は、これもまた図示されていない洞窟下層を通って、東側の地下水プールに到達し、年中14℃の地下水によって温められている。このため、東ホール及び中央ホールは外気の影響を大きく受けることなく、安定した生物生息環境を維持している。しかし、洞口を閉塞して、トンネルを掘削すると、外気は東ホール、中央ホールに直接流入し、またダム湛水の場合は、河川水の下層への流入によって、地下水の保温効果もなくなり、安定した洞窟環境が維持されなくなることが考えられる。

すなはち、夏季には図示されていない小規模な空洞から生じた冷機の強い流れが東ホールにおよび、中央ホールに流入し、洞口から排出されている。洞口を閉鎖し、標高280mにトンネルを掘削した場合、冷気が洞口から排出されずに、東ホールの下半分に充満することにより、生物生息環境を破壊する可能性が高い。

B資料では主として二つの代償措置、すなわち水没する出入り口に変わるトンネルの設置と人工洞の用意によって、種の生息を続けさせることは可能としている。が、これらにはそれらがつづらせ洞で効果を発揮するとする根拠は何もつけられていない。すなわち、期待なのであり、願望にすぎない。このような願望をもって、保護対策と呼ぶことは非常識ですらある。

C洞窟性のコウモリは、各地で絶滅の危機にある(環境省、レッドリスト等より)。また、特定の希少コウモリが生息するしないに関わらず、洞窟内の環境そのものが、特殊な自然生態系として川辺川流域の生物多様性保全上、重要なものである。このような、対象の評価というものをまず正確にすることが必要なのであり、それらを飛ばし、対症療法的な願望に基づく「保護対策もどき」の手法で処理することは不適切である。もし、資料がいうように、これらが専門家の手によって判定されたものならば、その氏名と所属を明らかにし、学問レベルの検討の場でまず討議する必要がある。



以上、配布資料2−4、配布資料3−1〜3についてのみ、住民レベルで簡単に気がつく問題点だけを羅列しました。これらの資料については、委員が現場を知らないことを前提に国交省が事実を隠しているものもありますが、信頼性について検証できないシミュレーションによる予測、示してある図表・グラフからは読み取れない説明など問題点が多い資料であることが分かっていただけたらと思います。
この資料をもって、「十分な検証が行われている」「環境への影響が少ない」などの取り纏めがされないよう、委員の皆様の良識を願うばかりです。

なお、配布資料3−3(球磨川水系の河川環境)、配布資料3−4(水利用の現状と課題)、配布資料3−5(参考 水系における環境調査等について)についても、多くの問題点がありますが、これ以上の指摘は意味がないと考え、割愛させていただきます。




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