子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ニュースレター 第25号 2004年(平成16年)10月22日発行


写真:第8回清流・川辺川現地調査にて(8月21日、22日)     

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■川辺川ダム問題Q&A
今回はダム問題の現状をQ&Aという形式で皆さんに、お伝えします。

(文中の写真は県民の会ホームページからの転載です)

Q1. 球磨川漁協の状況は今どうなっていますか?
 川辺川ダムの本体着工が出来ない一番の原因は、球磨川漁業協同組合員の3分の1以上の反対により、最後の法的手続きである漁業補償契約の締結が出来ず、国土交通省は仕方なく漁協の持つ漁業権の収用裁決申請の手続きを熊本県収用委員会に持ち込んだ為です。しかし、川辺川利水訴訟控訴審の国敗訴により収用委員会は、裁決申請を却下せざるを得なくなっています。
 ダムを作らせたいと思う利権絡みの組合員が増え、清流を守ろうとする漁民の声は届かなくなっています。多数決で川が売られていくのは納得はできませんが、今の法律では止められません。私たちは球磨川を本当に愛している人に、組合員になって下さいと呼びかけています。
しかし、組合員になるのも、お金が要ります。川は私たちみんなのものですが、ダム反対の漁協組合員だけに、お金も負担も負わせていては、球磨川はみんなの手には戻ってきません。川が利権がらみの多数決で売られようとしていること周りに伝えていく必要があります。


Q2.新利水計画の状況は今どうなっていますか?
 昨年5月16日、福岡高等裁判所において、農民2000人による川辺川利水訴訟が逆転勝訴し、農水省が進めてきた、はじめにダムありきという図式は破綻しました。
 ダムの水の押し付けが白紙となり、実情にあった水手当をどうするか、農家の要求をどう実現するか、熊本県のコーディネートのもと農民と国・関係市町村が同じテーブルについて、新利水計画策定作業がすすめられています。
 新利水計画策定のための事前協議では、水源をダムにこだわらず、農家の意思を尊重することを基本合意としました。これまで、直接農民の声を聞く集落座談会が延べ118会場で開催され、農家のアンケート調査が3回実施されました。
 3回目のアンケートの集約結果では、水を必要とする面積は当初の3000haの見込みに対して、4分の1の約730ha程度にとどまりました。このことは、大規模な水の需要を想定して計画されたダム利水の破綻、即ちダム建設目的の大きな一つが破綻したことにつながってきます。

 国はこれでも、ダム利水をあきらめたわけではありません。川辺川での取り組みは、「農民が主人公。そして住民参加から住民決定へ」という、公共事業そのものを住民の手に取り戻す試みでもあり、農民と幅広い支援者の粘り強い運動がようやく結実しようとしているところです。

Q3.収用委員会の状況は今、どうなっていますか?
 2002年2月から昨年11月まで21回行われた熊本県収用委員会での審理の焦点は漁業権は漁協に帰属するのか漁民個人個人に帰属するのか、川辺川 ダム事業には強制収用するに足る公共の福祉(公益性)があるかどうか、漁業補償額が適正なのかどうかということでした。
 ダム反対派漁民は、漁業権は漁業を営む漁民個人個人にあり、そもそも強制収用することなどできないと主張し、漁業権は漁協に帰属すると主張する国交省と対立していました。ダムの公益性についてもダム反対派漁民は、住民討論集会での成果を持ち込み、川辺川ダムの建設目的は失われていることを明らかにしてきました。

 昨年5月の川辺川利水訴訟控訴審判決とその後の新利水計画策定作業により、ダムの目的の一つである利水が見直されることになりました。これにより、収用委員会の審理は中断しています。なぜなら、土地収用法には、収用裁決を申請した事業の基本計画が、著しく変わったときには、申請を却下すると定められています。仮に新利水計画がダムの水を利用しなくなったとすると、ダムの目的の一つが失われることになり、ダム事業の基本計画は変更されなければなりません。そうなれば、収用委員会は申請を却下することになりますが、それは新利水計画の確定を待たないと判断できないからです。

 今年11月に収用委員会の審理が再開されます。新利水計画がダムの水を利用する見込みは非常に小さく、熊本県収用委員会が法律に従った結論を出すか、注目されるところです。


Q4それら(漁協、新利水、収用委)とダムとの関係はどうなりますか?
 前に述べたとおり、新利水計画がダムの水を使わないと判断すれば、川辺川ダム建設の目的の一つである利水が失われ、こうなると国交省は川辺川ダムの基本計画の変更を迫られます。そしてそれは熊本県収用委員会の裁決に大きな影響を与えます。収用委員会が計画の著しい変更とみなせば、申請を却下するか、もしくは申請そのものを取り下げるよう国交省に求める可能性が出てくるわけです。

 そして、収用裁決が得られなかった事に対して、「もはや川辺川ダム事業計画そのもの
が無効ではないのか」という世論が大きく広がれば、ダム事業そのものが大きな転換点を
迎える可能性も出てきます。
 またダム事業費が現在の2650億円から3300億円に増額される事を国交省が公表したのは、基本計画の変更を目的としたものです。この特定多目的ダム法による基本計画の変更には、熊本県の同意が必要です。県知事が県議会の同意を経て計画変更に同意するかしないかの判断をすることになります。つまり熊本県が川辺川ダム事業の計画の是非を判断することになります。このような様々な要因が相互に絡み合っているのが、この川辺川ダム問題の大きな特徴といえるでしょう。


Q5.川辺川ダムを考える住民討論集会関係

Q5-1 住民討論集会はどうして、また何回開かれているのですか。

 2001年、球磨川漁協が2度にわたって国交省との漁業補償契約締結の拒否即ち、ダム
建設に反対の意思表示をしたことと、住民側から出された川辺川ダムの代替案が大きな
反響を呼んだことを受けて、潮谷義子熊本県知事が「川辺川ダム建設の大義について、
国交省は十分に説明責任を果たしているとは言えない」と語ったことで、同年12月9日を
第1回とし2003年12月14日まで全9回延べ20000人以上の聴衆の参加を得て行われてき
ました。熊本県が総合調整役を務め、住民側専門家と国交省の職員が壇上で討論する
という形式で行われてきました。

Q5-2 住民討論集会ではどのようなことが論点になっているのですか。
 大きく分けて、治水面と環境面で行われてきましたが、環境面での国交省の主張は住
民側の主張の揚げ足を取るだけで、全く内容の乏しいものでした。治水面においては80
年に一度という大雨(48時間で500ミリ)の時、
(1)どのくらいの水量が川で流れるのか(基本高水(たかみず)流量)
(2)現在の川の状態で最高どのくらいの水量を流すことが出来るのか(現況河道流量)
(3)国交省の河川改修通りの川になったら最高どの位の水量を流すことが出来るよう
になるか(計画河道流量)
(4)森林の保水力は洪水防止になるのか
以上4つが大きな争点です。

(1)の基本高水流量では国交省の計算値が住民側より25%位大きくなっています。この
違いは国交省の計算方法が40年も前のもので、現実に合わな いのに、いまだに見直
そうとしない為です。
(2)と(3)の河道流量については、国交省の値は住民側の値より11%〜13%少なくなって
おり、作為的なものを感じます。また、森林の生育状況が全く考慮されていません。
(4)については住民側の専門家、広島大学大学院生物圏科学研究科の中根周歩教授
は手入れの悪い川辺川流域の人工林と自然林では自然林の方が、川の最大流量を30
%位少なく抑えることが出来ると主張しています。

Q5-3 今、国交省と熊本県と住民側の間で森林の保水力の共同検証をしてい
るとのこと。なぜ、また何をしようとしているのですか。

 住民側は現在の川辺川流域の人工林を適切に間伐し、自然林により近い森にすれば、
腐葉土の堆積により森林の保水力が高まり、あとは川底の浚渫、堤防の補強など若干
の工事で洪水は十分に防げると主張しています。国交省は、ダムしか洪水は防げないと
主張しています。

 そこで熊本県の提案で、森林の保水力の効果を実地検証しようということになり、度重
なる会議の末、今やっと雨の時の地表流(土にしみこまず地表面を流れる水)の無人ビ
デオ撮影と流量測定が実現しました。まだまだ人口降雨での調査等することはたくさん
有ります。粘り強く国交省と交渉し検証項目を全部実現したいと思っています。

(追)地表流測定をなぜするかというと、降った雨が地中にしみこまず地表を流れそのま
ま川に流れ込む量が多ければ多いほど川の流量の最大値が大きくなり水害の原因に
なるからです。

Q6.川辺川ダムは出来るのですか、出来ないのですか?
 皆さんは、昨年5月の川辺川利水訴訟控訴審の勝訴によって、ダムは止まったと思っ
ていませんか。とんでもない。国土交通省は手を変え品を変え、執拗に時期を伺いなが
らダム建設の準備を進めています。そういう意味では、県民の多くが「これでダムは止
まる」と安心したこの1年余りが、推進派にとってはチャンスなのかもしれません。

 ダム問題に限らず、私たちの隙をついて信じられないような計画のごり押しをするの
は、権力側の常套手段と言えるでしょう。
 現在、ダム建設中止にあと一歩のところまで追い込んでいます。しかし私たちがもう
ダムは止まるものと安心し、ただ静観するだけならば、必ずダムは建設されるでしょう。
8年前の結成以来この県民の会を支えて下さった会員の皆さんの努力を、最後の最後
に無に帰すことになってしまいます。

 署名を集めたり、カンパしたり、国や県に意見したり、これからもやれること、やるべ
きことは山積みです。是非会費・カンパ等の支援を継続してください。県民の会は心あ
る皆さん一人一人の協力を必要としています。



■この人に聞く 川辺川利水訴訟原告団団長 茂吉隆典さん
 昨年の川辺川利水訴訟控訴審における農民勝利と国の上告断念により、ダムの水を使う川辺川利水事業は白紙となり、現在、現地農民と国、県、市町村の間で新利水計画策定作業が進められている。裁判で否定されたダム利水を再度、強行しようとする国とダムの水の押し付けを拒否する農民の闘いは法廷から場所を変えて続いている。その策定作業に現地農民の立場から参加している茂吉隆典さんに話しを聞いた。

もよし たかのり 1944年、熊本県相良村生まれ。農業。1997年から同村村会議員。
川辺川利水訴訟原告団副団長を経て、2004年5月、同原告 団団長に就任。

写真=インタビューを受ける茂吉さん(左)

──まず、新利水計画についての原告団の考えをお聞かせください

 まずダム以外の水源から、水が欲しい農家には水を供給するということと、農家アンケートを参考にしながら利水計画を策定するべきだということです。 ダム以外の水源から水を持ってくるというのが基本です。

──具体的には、どういう計画が望ましいと考えますか

 アンケートの結果、3分の2の同意が得られそうな農地面積は300ヘクタールで、農業用水が「必要」「あったほうが良い」と答えた面積は700ヘクタールでした。そして、農林水産省が関係自治体と概定(がいてい、大まかな事業区域を設定すること)したのは、1370ヘクタールです。私は、その1370ヘクタールには無理があると思います。実際水が欲しい農家はゼロなのに、あの概定区域の中に入れてる地域があるんですよ。そういうことでは、農家に無理がいって、3分の2の同意は得られないと思います。
 アンケート結果を基にして、水が必要だという人を主体にすべきです。無理に押し付けることがないようにしていただきたいと思います。

──新利水計画の最終的な理想型とは何でしょうか

 ダム以外の水源で、地域にあった水利用ができるということです。ダムの水のように10年後しか来ないような水なら要らんと思います。
地域には、水はある程度あるんですよ。それを地域の皆さんで大切に使っていけば、足りると思います。

──原告団は、現在何に取り組んでいますか

 (新利水計画策定作業において)ダム以外の水源にするということと、水利用をどうするかということが、今一番、大切なことです。原告団は、そういう意見を新利水計画に反映させるために、利水事前協議に参加して、発言しています。

──茂吉さん自身の農業や水の状況は、いかがですか

 私のところではネギと水稲を作っていますが、水は沢山あります。実際の水は、川辺川の上流から10キロに渡って「六角水路」で持ってきています。この水路の補修を行うことが、これまで事業を遅らせた国の責任だと思います。

──今後、農業をどうしていきたいと思いますか

 農水省は、縦割り行政で農産物の輸入関連の部門と、利水事業を進める部門が違っています。今、農家は何を作ってもお金にならないから、やる気を失っています。農産物の価格の問題を「係りが違う。担当が違う」と農水省は言ったりしないで、農家のためになるような政策を考えるべきだと思います。作っても畑に捨ててしまわざるを得なければ、やる気を失います。

──茂吉さんが、この運動に関わるきっかけは何だったのでしょうか

 先ほどお話した「六角水路」が民家の上を通っていますが、その水路が古くて危険だと言われました。1994年の川辺川利水事業の変更計画の説明会の時に、相良村前村長が、「事業に参加すれば、古い水路は撤去され、新しく導水管が引かれる。事業に参加しなければ、そういう危険な水路が残ってしまう。もし何かあった場合に、お前たちは責任取れるのか」と言ったのです。本当に危険なら、何故今すぐ修理しないのか疑問でした。この問題がきっかけです。

 全体的なことは、川辺川利水運動に関わって教えてもらいました。相良村議会の議員全員が利水事業推進だったので、1997年の村議会選挙に私が立候補することになりました。

──茂吉さん自身、この運動に関わって、どう変わりましたか

 東京まで何度も行ったりとか、国会議員に会ったりする中で、農水省に文句を言えるような人間になったと思います。こういうことをやらなければ、普通の農家として(人生を)過ごしてしまったのではないかなと思います。

──これまで運動を続けてきて、一番苦しかったこと、つらかったことは何ですか

 私たちが最初に裁判することになった時、川辺川利水事業組合の元の事務局長が「あやっどんは、家屋敷がなくなっとやで(あいつら原告団は裁判費用がかかるから家屋敷を失ってしまうんですよ)」と言って回ったんですね。それが私の親戚やいろんな所に伝わり、その親戚からも同じことを言われました。これには腹も立ったし、心配もしました。
 私には子供が3人いますが、もし子供が「役場関係に就職したい」とか「村の仕事をしたい」とか言ったら、私も村に逆らっていいのかなあと思ったりしたこともありました。幸い子供たちは役場関係とは全く関係ない仕事に就いてくれたんで助かったですね。子供がやりたいと思ったら、それをかなえてあげるようにせんば、いかんですからね。

──逆に、一番嬉しかったこと、楽しかったことは

 そりゃ、やっぱりもう、裁判に勝った時のあの気持ちは何とも言えんですね。私は、勝った時も、負けた時も農水省の前にいましたし、この前の諫早干の工事差し止めの仮処分決定で漁民が勝った時も、農水省の前にいましたが、判決の時の気分が蘇ってきましたね。「国ばやっつくっとは、容易なことじゃなか」と。それが出来たのは、やはり皆さんの応援のおかげだと思います。

──県民の会の会員へのメッセージをお願いします

アタック2001の時も、私共だけでは潰れていたでしょう。県民の会からもずっと応援に来ていただいた。「熊本からわざわざ来てもろて、こぎゃんして もらうとに地元がせんば」ということで、自分たちも頑張らなくてはいけないということになりました。本当に支援のありがたさが分かりました。

 ダム事業も650億円の増額の問題が出ていますが、ダムは行き詰ると思います。
これが潰れた時は万々歳だと思います。それまでは、この運動を続けていかなくてはいけないと思います。そういう意味ではよろしくお願いします。


──県民の会も一緒に頑張りたいと思います。本日はどうも、ありがとうございました。

(2004年9月4日、熊本市・熊本中央法律事務所にて。聞き手は土森武友・事務局長)



■現地調査参加レポート
大畑靖夫(写真も)
 今年も、8月21日、22日に川辺川現地調査が開かれました。全国から350名を超える人々が参加して大盛況でした。
 もともと、「ダムの水は要らない!」川辺川利水裁判のことを多くの人に知ってもらうために企画されたイベントでしたが、回を重ねるごとに川辺川ダム問題はもとより、農業のこと、流域経済のことにまでにテーマが及んでいます。

(写真1 ダムサイトでの見学光景)

 「現地調査」というと、なんだか難しそうな印象ですが、リピーターの多さからもわかるように、「川辺川を丸ごと食べてしまう」楽しい側面をあわせ持っています。美味しいものをたくさん食べて、飲んで、現地の人と交流してこそ、川辺川ダム問題を深く知ることができるようです。

(写真2 鮎の塩焼き)

 初日の五木・川辺川ダム予定地見学コースでは西村久徳村長自ら案内、ダム問題に翻弄されてきた五木村についての熱のこもったお話がありました。代替地に移転された茅葺の古い民家に私たち見学者を特別にあげてもらい、昔の五木村の生活を肌に感じながらの学習でした。
 恒例となった権現河原(相良村柳瀬)での大交流会では、地場産の野菜と肉、それに川辺川の鮎の塩焼き、球磨焼酎を堪能しました。特徴的なのは、原告農家のご婦人方による”手作り”のあたたかいおもてなしです。
 おりしも川霧が薄くかかり、幻想的な演出をしてくれる川辺川に参加者みんな感激。ロマンティックな夜に!してくれそうです。ラッキー。その川辺川をバックにした野外舞台では、東京、京都、福岡等々遠路はるばる駆けつけた”川辺川サポーター”が思いっきり挨拶。いつものことながら、たくさんの元気を貰います。特に今年は、学生ボランティアの熱気に圧倒されました。ダカラ、川辺川は強いのだ!!

(写真3 学生ボランティアたち)

 翌日は基調報告と「住民参加から住民決定へ」をテーマにたくさんの人から報告と、決意表明。昨年5月に川辺川利水裁判で国に全面勝訴し、裁判は終わったけれども、ますます多忙となった弁護団の先生方のお話が印象的でした。

(写真4 集会)

 地域の営農をどう構築するのか、弁護士業の範疇を超えた取り組みには驚くばかりです。かつてのように、ただ行政に依存するのではなく、農民自ら考え、自ら決定していくという民主主義の学校が、まさにここ熊本で進んでいるのです。「私たちは、住民参加から住民が決定する公共事業の実現を目指してゆくことを、ここに宣言します」すばらしい大会アピールが会場いっぱいに響き渡りました。
 全国に川辺川の熱い思いが届く、そんな第8回清流・川辺川現地調査でした。ありがとう、皆さん、また来年も。


■ 学生レポート
この夏、川辺川現地調査では全国の学生がボランティアで手伝ってくれました。その学生から寄せられたレポートを紹介します。

●立命館大学政策科学部1回生  
宮城彩子
 8月の19日から約1週間、私は国際青年環境NGO SAGE(*)の一員として川辺川の現地調査ボランティア、ユース合宿に参加しました。そもそも私がこの活動に参加した訳は、それまで勉強していた川辺川問題の現状を自分の目で確かめたいと思ったからです。実際に目の当たりにした川辺川の現状や現地の方々にお聞かせいただいたお話は、自分が今まで本で調べてきたこととまったく一緒どころかそれ以上でした。今まで本の内容だったものが自分の目の前で起こっている、というのは私にとって衝撃であったけれど、その目の前で起こっていることは、紛れもなく川辺川の、そして今の日本の実情なのだということを深く実感しました。

 今、日本の実情と書きましたが、私がそう思った主な理由はメディアの影響力にあります。去年、長野県知事である田中康夫氏が脱ダム宣言を表明しました。当然長野県議会は大反対、メディア側はそのことを強く押して世間に情報を流しました。当時、ダムについての知識が皆無に等しかった私はその情報を真に受け、長野県知事はまた何か問題を起こしたのか、などと気楽に考えていました。恥ずかしい話ですが、実際に自分が川辺川について勉強して、自分の意志でダム建設反対側の人間となった時、初めて、長野県知事のしたことが反対側の人間を勇気付ける行動であったのだと実感しました。

 もし私が今、川辺川問題について関心を持っておらず、現地調査にも参加していなければ、このような考えを持つに至りませんでした。そして今の日本は、メディアの流す情報だけが全ての人の間に溢れています。実際、友人・知人に私が活動していることを話しても、川辺川問題について知っている人はほとんどいません。そんな人達に少しでも川辺川問題について知ってもらいたい、それが川辺川での現地調査を通して私が一番に思ったことです。

 私は京都の学生だから、現地の方々と現地で共に川辺川問題について戦うことは不可能だけれど、京都にいるから、学生だから出来ることもあると思っています。そのための活動も、今SAGEのメンバーのみんなと少しずつですが始めています。私達の力は本当に微力だけれど、現地で戦っている方々の力になりたいという気持ちは本物です。今まで川辺川という素敵な川を守って下さってありがとうございます。これからは私達もそのお手伝いをさせていただけたらと思います。一緒に川辺川を守りましょう!!

*SAGE(セージ)・・・環境や貿易、南北問題など地球規模の問題について、若者の視点から啓発や活動を行う京都のグループ。大学間や年齢を超え、いくつかのプロジェクトチームを作り活動している。


●立命館大学政策科学部3回生 
森 明香
 初めて川辺川に行ったのは今年の春休み、全くの偶然だった。存在は知っていたものの、メーリングリストに流れてくる情報は複雑で難しそうなことで、どこかで他人事だと思っていた。しかし実際に川辺川流域を訪れたとき、他人事という感覚は失われた。私に紹介していただいた流域に住む人びとはとても優しく情にあふれていて、『こんなに良い人たちを、遠くにいる人間が、勝手に決めた計画で苦しめているなんて許せない』と強く憤りを感じたためだ。帰宅してから大学の図書館で川辺川に関わる本を片っ端から読み漁った。様々な本を読むにつれて、不条理な計画であること、地域のコミュニティが破壊されていること、組織の構造的暴力の存在など、本当に民主主義の国家なのだろうかと疑問を抱かざるを得ないような現実を知った。

 今年の夏、学生ボランティアとして現地調査に関わる機会に恵まれた。そこでは、実際に行動を起こして国の蛮行に抗っている人たちと話すことができた。そのときに強く感じたのは、自分も勉強しないと国や暴力的な組織に対して対抗できないということだった。
 今、自分が出来ることは公共政策、法律、経済などの勉強をすると同時に川辺川のようなケースを多くの人々に訴え、広めていくことだと思っている。


●京都大学農学部研究科 修士課程1年
竹下智子
 高校生のとき父と来た川辺川で、"本当の川の色"を初めて見た感激の大きさが、一つの原点になっているように思います。私は川辺川・球磨川と、運動をされている皆さん、流域に住んでいる方々からたくさんのことを学ばせていただきました。
 民主主義を標榜する日本の現実はそれとはかけ離れていること、地域の行方を自分達の手に取り戻すことがいかに大変で、それでも人生をかけて取り組ま れている多くの方がいらっしゃること、そして、豊かな川(自然)があるとき、人は暮らしも心も、それと強く結びついていくのだということを知りました。

 今までの数十年間、日本でもきっと世界でも、そうした人と自然の深い結びつきを軽視し、分断させることが繰り返されてきたように思います。その深い結びつきを守り、取り戻していくために、地域の人がどのような暮らしをしてどのような思いを持って生きてきたのかを掘り起こし、尊重していく地域計画こそ、よく語られる「環境との共生」を実現するために必要なのではないかと考えるようになりました。

 皆さんから教わったこのテーマを、これから追求し続けたいと思っています。そして自分にも力があると信じて、原点となった川辺川・球磨川が、私が生きている間にどんどん豊かさと美しさを取り戻していくよう何かお手伝いできればと思っています。ほんとうに、どうもありがとうございました。


■ 特別投稿 
「川辺川メーリングリストから鮎の里親制度まで」

熊本市在住 永尾 佳代
 真珠貝の大量死事件(1996年)やホルマリン問題に取り組んでいる天草の松本基督氏から県民の会のことを聞いたのは8年前のことだった。私の実家も真珠養殖を営んでいたので、環境問題は人事ではなかった。熊本の川やダムのことも、もっと知りたいと思った。入会後に届いた県民の会の会報は実に立派で、さまざまなイベントや講演会の紹介、報告と充実していた。

 2000年夏にパソコンを購入してからは、すぐに川辺川メーリングリスト(ML)に加えていただいた。今まで知らなかった世界への扉が開いた。家、地域と限られた世界にいた私が、いきなり、日本全国の人々とつながった。話題が、川辺川ダム問題なので、話は、自然に、社会・政治・経済にまで及だ。その後にあった集会や相良村での大会は、私にとってオフ会。すなわち、MLで知り合った方々と、現実に出会う場になった。人生の先輩から、パソコン通の青年まで、多彩で、そうそうたる面々がそこにはいた。

 それまで一会員であった私が、川辺川ダム反対運動に活動主体として、かかわる契機になったのは、2000年末の有明海の海苔の大凶作だった。海苔の水揚げは例年の8割減。主婦である私たちの胸が騒いだ。このままでは、有明海も、不知火海も、熊本の海も川もだめになる。今こそ、女性として声をあげよう!と。
 環境ネットワーク・熊本の原育美さんらと「川辺川を守りたい女性たちの会」を立ち上げたのは2001年2月始め。婦人有権者同盟、およびバックアップ女性の会、さらには熊本県内の女性議員にも発起人になってもらった。

 2月末、球磨川漁業協同組合の総代会。その総代会で、漁業補償案が可決されればダム本体工事が着工されてしまう。私たちは、「ちょっと待って川辺川ダム!」なる集会を開催することにした。当日の2月18日は、県内外から400人以上の人々が集った。その勢いを生かそうと、今度は「尺鮎トラスト」運動に着手した。「たった16億円で川を売らないで!私たちが鮎を買うから」。その呼びかけが功を奏したのか、漁業補償案は否決された。

 すでに全国から事務局の私の元には、賛同の声がメールで次々に届いていた。尺鮎トラストは、新しい形の自然保護運動として脚光を浴びた。遠くにいても、時間がなくても鮎を買うことで川を守る運動に参加できる。消費者からみれば、グリーンコンシューマー運動であり、産地からいえば持続可能な漁業支援のコミュニティービジネスと定義することができる。初年度は1500口の注文があり、全国から1000人の賛同者が応援してくれた。鮎を食べた人々はその大きさ、おいしさに感動し、「こんな素晴らしい鮎の取れる川を残して」と漁民を励ましてくれた。私たちも県民も尺鮎の希少価値に改めて気づかされ、尺鮎は熊本が全国に誇れる宝だと再確認した。

 しかし、その鮎が、2002年から取れなくなった。自然の要因、工事の影響なども考えられたが、一番の原因は、球磨川漁協のダム推進派執行部によって、掬(すく)い上げ事業や、放流事業から、ダム反対のベテランの漁師がはずされたことだった。2003年には、事態はさらに悪化。全国から来た釣り人は、一日で数匹という釣果に落胆し、「川辺川から鮎が消えた」と新聞でも報道された。

 この事態に対応するために、すでに現地ではダム反対の漁師の任意団体である下球磨・芦北川漁師組合が、2002年から独自に、鮎の孵化作業、放流事業を始めていた。球磨川漁協が永年、したくてもできなかった画期的な事業だ。尺鮎トラストの担い手である彼らを支援するために、考え出されたのが、稚鮎の里親制度だった。一口3000円で鮎の里親を募集した。里親はすぐに 200人以上となり、2004年5月初旬には3万匹の鮎が放流された。地元では、鮎の里親にさまざまなサービスを提供する協賛店も20店舗以上となり、新しい地域おこしにつなげたいと思っている。

 4年の月日があっという間に過ぎた。いつも時間がなく、発表してその後、体制を整えていくという背水の陣で臨むのだが、不思議と道は開かれていった。機が熟していたのだろう。皆が、自分にできることを、喜んで提供してくださった。気持ちよく、持てる才能を使って支援してくれるのは、他でもない。「川辺川を守りたい」という一事で、皆の心が一つになっているからだろう。

 収用委員会や、住民討論集会において、国や県を相手に、丁々発止と渡り合うようなことは、県民の会や専門家におまかせすることにして、私たちは主婦感覚で、自分たちでできることに取り組んできた。消費者の声を大事にして、尺鮎や川辺川グッズを販売し、資金カンパをする。県内の人的ネットワークを駆使して世論を喚起させる仕掛けを考える。コンサートも一例だが、運動が広がる、カンパが集まるという、女性の感覚を生かして、楽しく、無理せず運動を続けていきたいと思っている。


■ 県民の会からのお知らせ 
その1「川辺川ダム建設反対県民大集会」
 県民の会では来る11月28日に「残せ清流 残すな借金! 川辺川ダム建設反対県民大集会」を実行委員会形式で開催します。秋から年末年始にかけて新利水計画策定作業、収用委員会、ダム事業費の増額問題など、川辺川ダム問題は大きく動いていくと思われます。国交省があくまでダム建設を強行しようとすることに対して、私たちは住民・県民の立場から「ダムはNo!」という声を上げて、ダム中止に向けてのアピールを行っていきたいと思います。会員の皆さんの積極的な参加をお願いします。また実行委員として、集会の企画運営に携わってくださる方も募集しています。
 下記宛て、お問い合わせください。
日時 1128日(日) 13:00
    
(パレード出発は14時)
場所
 熊本市・辛島公園(市電・辛島町電停すぐ)
コース →新市街→下通り→上通り→白川公園
問い合わせ 土森(TEL. 070-5273-9573) 
         Email: info@kawabegawa.jp

その2 くまもと県民交流館「パレアフェスタ」に出展
 「五木の子守唄」を生み、なおも計り知れない魅力をもつ清流川辺川。その川辺川の命を絶とうとする川辺川ダムが計画されています。川辺川ダムは本当に必要なのか?治水、利水、環境、それから流域に生活する人々の暮らしや地域経済に及ぼす影響を、美しいビデオ映像や写真で多くの人に知ってもらいたいと思います。
 「川辺川ダムは出来るの?できないの?」「いま、どうなっているの」「やっぱりダムが必要では」というような、素朴な疑問を多くの人たちがもっています。私たちは、客観的な情報をわかりやすい形で提供して、参加された皆さんにそれぞれ考えて貰いたいのです。川辺川ダム問題はもとより、川辺川の魅力について語り合える場を設けております。皆様の参加をお待ちします。

● 熊本県収用委員会
日時:11月25日(木)*時間、場所は未定です。下記宛、お問い合わせください。
問い合わせ:熊本県用地対策課
(TEL.096-383-1111)

● 川辺川尺鮎裁判(事業認定取消訴訟)
日時:12月2日(木) 9:30門前集会
         10:00口頭弁論
場所:熊本地方裁判所101号法廷
問い合わせ:毛利(TEL.090-8834-1533)

●国際青年環境NGO「SAGE」による
川辺川写真展とカフェ(京都にて2回開催)
日時1:11月20日・21日 入場無料
場所:立命館大学文化祭にて 存心館907
日時2:12月中旬予定
場所:木輪舎(075-414-2941)
問い合わせ先:山口(TEL.090-3538-5411)
(E-mail:ps031047@sps.ritsumei.ac.jp)memo