子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ニュースレター 第24号 2004年(平成16年)6月4日発行


写真:川辺川=球磨郡相良村、2004年5月

* 6月26日(土)は県民の会の署名集め、総会、講演会を行います。ぜひ、参加してください。詳細は9頁をご参照ください。

■川辺川ダム問題の現状                               
膠着する新利水計画策定作業−農水省はダムの水の押し付けをやめろ!
 昨年5月の川辺川利水訴訟控訴審判決で農民が勝訴し、川辺川ダムの水を農業用水に使う川辺川利水事業が否定されてから丸一年が経ちました。国側敗訴という結果を受けて、熊本県を総合調整役として始まった新利水計画策定作業ですが、最近は膠着状態に陥っています。今年に入って農林水産省が示した新利水計画の「たたき台」は、1.川辺川ダムからの取水、2.川辺川上流から取水、3.下流から取水、4-5.中小河川から取水する案の5案ですが、ダム案が費用、工期ともに優位と主張するものでした。しかし、その根拠は水の必要量や面積など、地元の実情・農民の希望を考慮しない基準に基づいて算出されたものであり、現地農民の反発を招いています。
昨年の判決で国が教訓とすべきことは何でしょうか?それは、住民が望まない公共事業はできないし、住民が闘えば、それを阻止できるということです。
 現在の混乱を招いた責任は、すべて国にあります。農水省は直ちにダムの水の押し付けをやめ、農家アンケートに示された現地農民の意向に従い、早くて安い水の手当てをすべきです。

尺鮎裁判が問う川辺川ダムの「公益性」
 土地収用法に基づく川辺川ダム計画の事業認定に対し、球磨川漁業協同組合のダム反対派組合員が国土交通大臣を相手取り、その取り消しを求めた裁判(川辺川尺鮎裁判)で、原告漁民は2月9日、熊本地方裁判所に組合員258人の補助参加を新たに申し立てました。これで、原告、補助参加合わせて861人となり、同漁協組合員数2351人(昨年末現在)の3分の1を超えました。これは、ダム反対という漁民の意志を裁判所はじめ世論に改めて示すものであり、漁協内部でダム推進派が組合員の3分の2の同意を得て、ダム建設を認めることに楔を打ち込むものです。
 この裁判ではこれまで、原告適格とダム事業の「公益性」が論点になってきました。2月及び5月の弁論では、裁判所は原告漁民の主張を聞き、原告適格は認める方向で動きつつあります。
 現在、国会では行政事件訴訟法の改正案が審理中です。この法案が成立すると尺鮎裁判のような事業認定取消訴訟には原告適格が拡大して適用されます。
また、4月22日、東京地方裁判所(藤山雅行裁判長)は、圏央道問題をめぐって、同インター周辺などの国土交通省の事業認定と東京都収用委員会の土地収用裁決を取り消す住民勝訴の判決を言い渡しました。この判決では、圏央道の公益性について、具体的な内容を検討して、事業認定は違法と判断しています。尺鮎裁判においても、裁判所は川辺川ダムの「公益性」という具体的内容の審理に入るべきです。
徐々にではありますが原告団・弁護団の努力で、原告にとって有利な状況が切り開かれつつあります。ただ、最終的に裁判所に公正な判決を出させるには世論の力が必要です。次回弁論(7月2日13時30分、熊本地裁)では、多数の傍聴を、お願いします。また、漁協内部では推進派による組合員の多数派工作が続いています。反対派組合員の説得作業は苦戦を強いられています。改めて、皆様からのご支援をお願いします(同封のカンパ要請チラシにカンパの振込先等を記しています)。

新段階に入った住民討論集会−森林保水力検証作業
  昨年12月の第9回川辺川ダムを考える住民討論集会で、今後、住民、熊本県、国土交通省の三者で、森林の保水力の検証を進めることが合意されました。今年3月以降、検証作業を具体的に検討するための協議が4回、現地踏査が1回行われました。現在、7月上旬に現地の3ヶ所以上で散水試験を実施することで合意しているところです。

住民が決定する公共事業を勝ち取ろう
 以上、見て来た通り、川辺川ダム問題では住民参加によって大型公共事業に対して住民の意思を反映させる試みが行われています。しかし、あくまで事業主体は国など行政機関であり、最終的な事業の決定権が住民にあるわけではありません。今後は、住民参加型から住民が決定する公共事業の仕組みをかちとっていく必要があります。


■特集「女が守る川辺川」
 今回は、ダム反対運動に活躍されている女性にスポットライトを当て、女性が持つ悩みや苦労とそれを乗り越えてでも参加しているこの運動は何なのかということを、その人に語っていただく形で、お伝えします。

1.私と家族と川辺川                       人吉市在住  川辺敬子
 「おかあさん、川を守る大人は子供の味方やもんねぇ」
 川辺川ダム見直しの活動に関心を持ったのは子供達のこの言葉がきっかけでした。
あれから10年、3人の子供達は、母親と川遊びに行くことはめったにない年齢になりましたが、川辺川ダム建設計画の中止を求める運動はまだ続いています。
少しでも早く建設中止が決定され次の一歩を踏み出したいものですが、それがどんなに難しいことなのか、これまで嫌と言うほど思い知らされてきました。
 十分な活動ができていないわたしでも、10年の歳月をその何倍の長さにも感じているほどです。
 ただ、自分自身がやりたくてやっていることですから、活動が大変だとはあまり感じていませんし、今回、県民の会から「仕事・家事・子育てをしながらダム反対を続けている立場としての苦労話しなどを・・・」ということでしたので、改めて考えてみたのですが、その時々では「うへ〜」と弱音を吐こうとする事も、逆に充実した時間とも言えますし、何より、最前線で活動されている方々に比べると、私自身は特に苦労しているという事もないように思えます。
 それどころか、こういう活動をしていなければ知り合うことがなかった方達との出会いや、全国からいただいた応援や励ましのお言葉は宝物のようなものですし、推進の方達との時には激しいやり取りも貴重な体験だと思っています。
 むしろ、大変なのは家族でしょう。
 私はもともとずぼらな性格ですので、活動にかかわっていようといまいと家事のずさんさは変わらないと思うのですが、そんな母親が仕事の後パタパタと(簡単な)夕飯の支度をし、会議やなんだかんだで夜出かけ、帰ったら帰ったで家事も済ませないまま作業を始める事もあるのですから、家の中は悲惨な状態です。
 また、その状況を同じ敷地内に住んでいる私の両親が嘆いていることが、辛いといえば辛いと言えます。
 子供達は案外たくましく、私が活動している事への一番の応援団なのですが、高齢の父や母にしてみれば、娘の身体への心配もあって、ダムはいらないと思いながらも、私の行動にハラハラドキドキの毎日のようです。
 両親の部屋から、我が家のパソコンを置いている部屋が見えるので、遅くまでゴソゴソしていると「まだ寝ないのか」と度々電話がかかってきます。そこで、夜中にパソコンでの作業や書き込みなどをする時は電気を消して真っ暗な中でやったりしていますが、両親の心配の種は尽きないようです。
 昼間仕事をしながら3人の子供達のあれこれ(PTA活動もおろそかにするわけにはいきません)、家事に趣味の時間に友達付き合い、そして川辺川の活動となると、悩みはどうしても時間が足らないということになります。
 色々やって大変というより、『やりたい事がもっとあるのに時間が足りなくて悔しい』というのが正直な気持ちです。
 人吉・球磨地域は川辺川ダムに関しては複雑な立場の人も多く、大多数の人が本音はダム反対でも表立って活動をする人たちはそれほど多くはありません。
夫やわたしも、仕事上「そういう活動をして大丈夫?」と心配していただくこともあるのですが「誰かがやってくれるだろう」では何も変わらないと思っています。
 ダム建設がどんなものか知ってしまった今、知っていて何もしないのではなく、できるだけのことはやっている姿、ずぼらな母親がこれだけは踏ん張ってるよ!という姿を子供達に見せたいという気持ちもあります。子供達と、そしていつかは孫達と川を下ってビールを飲む・・・というのが、私の夢のひとつです。
もちろんその時、川辺川は清流のまま・・・。
「どぎゃんね。この流れば守っとに、ばあちゃんもちーたぁがんばったとよ!」とニンマリするわたしの傍らで、子供達はきっと「その陰には僕たちの苦労があったとたい」と心の中でつぶやくことでしょう。

 2.私が川を守る理由              熊本市在住 川端眞須代
 川辺川利水訴訟の関係者に忘れられない5月がやってきた。
 一年前のあの日、多くの人達の歓声が上がる中で、私はなぜか心静かに判決を受け止めることができた。みんなの力で勝ちとった「アタック2001」の勝利と妙に確信し、歴史を動かすのはやっぱり主権者なのだと、崇高な思いに浸ったのを覚えている。
 私は日本国憲法が大好きである。特に「国民の権利及び義務」を定めてある第3章12条の「自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」というくだりは、主権者である私達に努力なくして自由や権利保障がないことを厳しく求める言葉として大好きである。
 話が変わり川辺川は本当にきれいな川である。私が一番好きなのは月や太陽が照らす川面の輝きだ。その輝きはこれからもずっと残したい。
私が川辺川ダム反対運動を続けているのは、多くの人がこの川を愛し、五木村に深い思いを寄せ、村の行く末に思いをはせてくれるからである。
仕事の合間をぬって熊本から現地まで出かけるのは大変であり、我が家の娘たちにはあきれられているが、帰りには違った元気をもらっている。豊かな自然と人々との交流によって、幾多の困難を乗り越えることが出来たと思う。
 もうひとつの理由は、無駄な物に巨額の税金を使わず、命をつむぐ事業にこそ、貴重な税金を使ってほしいと思うからである。
 私は医療や福祉の現場で働いている。現場では早くから「自己責任」が唱えられ、憲法9条が危機的な状況にあるのと同様、25条(*)が高らかに謳う「命」もまた同じ危機にさらされている。不況やリストラの影響で保険料の支払いさえ困難な人もいる。「一部負担金の増加」も相候って病気であっても気軽に病院にかかれないこともある。まさにお金の切れ目が命の切れ目となっている。
 川辺川から見える社会の矛盾は、私に何をなすべきか、その課題をつきつけているように思う。わたしは当分この闘いを続けていくことになる。
*注・・・日本国憲法第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

3.ありがとう、川辺川           人吉市在住 市花 由紀子
 よく周りの方に、どうして人吉に来たのか?と聞かれます。私は「川辺川があるからです」と答えます。きっかけは川辺川をボートで下って遊んだこと。まさかそんなことが自分の人生を決めるきっかけになるとは思ってもいませんでした。たかが川ぐらいで…とお思いになるかも知れませんが、移り住んだきっかけはと聞かれると川辺川以外に思いつかないのです。川辺川が残す自然の姿、清流の美しさの中に言葉では言い表せないけど、魂で感じる、人を動かす何かがあった気がします。それまで福岡で仕事をしていた私は、都会の便利で快適な暮らしが一番幸せだと思っていました。しかし、川辺川の上流の透き通った流れを見た瞬間、ここが一番幸せな場所だと直感的に感じ、そして、ただその直感だけで人吉にやってきました。
 結婚するきっかけとなった出会いはと考えると、やっぱり川の上で・・というのが正しいと思います。彼(*)はリバーガイドという仕事をしながら、ダム反対運動に取り組んでいました。自分の事を「川ガキ現在進行形」と言ったりしますが、本当に川が好きな彼をみていると川の上ではお客さんを楽しませ、なおかつ自分が一番楽しんでいるように見えます。こんなに真剣にダム反対運動に参加しているのは人吉に来てから知ったことですが、実際、人吉に来てみると福岡で知る情報と地元で聞く話とのギャップに戸惑いもありました。自分になにが出来るのはわからなかったけど、彼と一緒にいろんな活動に参加するたびに、いろんな出会い、経験があり私も川辺川・球磨川を守りたい一人として、なぜダム反対なのか?この無意味なダム計画を止めるためには何をするべきなのか分かってきたような気がします。
 そんな活動の中で一番思い出に残っているのが、一緒に東京までバスで各団体の方達と申し入れに行き、国交省の前でビラを配ったり、議員会館にポスティングしたりしたことです。東京ではじめて逢う若い人たちが、川辺川の事を熱く議員さんの部屋の前で訴えている姿などを見た時は、ほんとに胸が熱くなりました。彼のように生まれた頃から川と共に生きてきた人の話を聞くと、ダムを計画する人達に流域住民の思いが本当に伝わっていないということがわかり、反対する気持ちの深さの違いに、はっと気づかされたりします。当たり前におかしいと思うからやっていることなので、特にダム反対をしている意識は私達にはありません。私もこれから球磨川流域で暮らして行く人間の一人として当たり前の声を上げて行く、これからもダムが止まるその日まで一緒に行動していきたいと思っています。
*注・・・市花保さんのこと。同じ人吉市でダム反対運動をされていたお二人は、今年3月3日に入籍されました。

4.市民活動と家庭の両立                 熊本市在住 赤木光代
 市民活動と家庭の両立というテーマについて、私としてはつぎのように考えます。
 女性差別撤廃条約で、男は仕事、女は家庭という男女の役割分担意識をなくそうといわれ、国、県、市町村でも男女共同参画社会に向けての施策がなされつつあります。
 男女雇用機会均等法も、不十分ながら制定されました。
 政治的・社会的男女平等は、糸口が見えてきましたが、最後の家庭での男女平等は未だ道遠しの感があります。
 実態は、たとえば夫も妻も小学校の教師であった場合でも家事に費やす時間は、妻の方が圧倒的に多く、私の見た統計では、妻が1日3時間40分余、夫が20分余というものでした。
 子育て中に、二度常勤で働きました。当時、大学で研究していた夫は、動物実験などで深夜まで勤務し、朝は10〜11時に出勤する日々で、車なしでしたから、バスでの保育所への送り迎えなど、やってもらった記憶がありません。体力的にもたず、仕事を辞めました。夫だけが働き、専業主婦でいる方が経済的・効率的でした。
 で、家事を一手にやるわけですが、食事づくりは、工業簿記の専門用語のいい方を借用すると「その都度法」なんですね。基本的に朝夕は、食事づくりのために時間をとられます。その他の時間も、細切れの時間しかありません。PTAなどでも、ある課題を追求しようとすると、資料にあたったり、会議を多く開いたり、こまめに連絡したりが欠かせません。
 川辺川ダム反対運動のような市民運動では、繁閑の波があり、平常のリズムを取り戻しながらやらないと、私に限っていうと、家族への心配りもできなくなり、破綻してしまいます。平日昼間にある、収用委員会・尺鮎裁判の傍聴や、お役所要請行動、集まってする事務作業、家でできる調べものなどを、極力やるようにしています。週末によくあるイベントには、参加できるときだけ参加しています。
 国民に多大な負担を強いる年金法案を出しながら、年金未納が閣僚12名中6名もいるようなお粗末な政治、公費の壮大なムダ支出であるダム建設のような大型公共事業に対して、黙していることはできません。
 近代市民社会の嚆矢であるフランス人権宣言(「人および市民の権利宣言」)に一定の影響を与えたといわれるルソーは、「私たちは何のために政府をもつのか」と問いかけ、政府があって国民がいるのではなく、個々人がいて政府があるという考え方です。
 市民運動をするなというのは、私にとっては息をするなということに等しい。

5. 利水訴訟を闘ってきて思うこと        球磨郡多良木町在住 久保田悦子
 私は、「川辺川利水訴訟原告団」の一員として裁判の当初から関わってきました。
 定例の原告団・弁護団会議は、1996年の提訴から勝訴の判決を勝ち取った2003年5月16日以降、現在まで行われており、原告団会議は毎週行われています。
 裁判の過程では、傍聴や原告団集会をはじめ、約4000名にものぼる対象農家の調査活動、また毎年の現地調査、国や支援団体に対する要請行動なども7年間にわたり行われてきました。
 しがらみの強い社会で、物言わぬ農民が勇気を出して起こした裁判。経済的な負担も負いながら、異議申し立て以来、10年にも及ぶ裁判闘争の中で、弁護団や原告団の地道な努力と多くの人たちの支援が裁判を勝利させたと思います。
 判決で事業は白紙に戻りましたが、ダムの利水にこだわる農林水産省に対して、原告団・弁護団は「ダム利水」ではなく、農家の意向を尊重した「新利水計画」が策定されるよう事前協議に参加、意見交換会や、意見書回収作業への監視活動にも参加しています。
 何を作っても採算が取れない、「ダムの水」はいらないという農家が8割以上という現実が明らかになっても、「ダムの水」は安い、水さえ来ればバラ色の営農ができると言って、またもや農家をだまそうとする国のやり方は許せません。
 川辺川の農民や漁民、多くの市民の闘いは確実に世論を変えてきました。
 国は「川辺川ダムを中止する」とは言いませんが、私たちは確実に国を追いつめ、「川辺川ダム建設中止」の結末に近づいているように思います。
 仕事や議会(*)、様々な地域活動に家事と多忙な生活を送っていて、正直大変だなと思うこともありますが、仕事はスタッフに、家事は母まかせにして心苦しさを感じつつも、国が権力や利権で強引に推し進めようとしている事業を、住民が止めることができるかどうか、歴史的な場面に私も立ち会いたい、その思いが私を動かしているのかもしれません。
 *注・・・久保田悦子さんは多良木町会議員として活躍されています。

■県民の会からのメッセージ
県民の会では、6月26日(土)に総会と講演会を行います。講演は中島煕八郎熊本県立大学教授、テーマは「人吉・球磨農家アンケートから見えてくるもの」です。中島教授は新利水計画策定作業に研究者の立場で参加されています。昨年12月に行われた農家へのアンケート結果の分析から、現地の状況と今、農業には何が求められているのかを語っていただきます。多くの方のご来場をお待ちします。また、総会に先立ち、13時30分からダム中止の署名集めを行います。早めに来て、街頭で一緒にダム中止をアピールしましょう。
*川辺川を守る県民の会署名集め・総会・講演会
 日時:6月26日(土)
 13:30署名集め
 15:00総会
 16:30講演会
 場所:署名集めは熊本市・下通りダイエー前、
 総会・講演会は熊本市現代美術館会議室・ホール(市電通町電停斜め前)
 講演:中島煕八郎熊本県立大学教授
 テーマ:人吉・球磨農家アンケートから見えてくるもの
 問合せ:川辺川を守る県民の会・土森(TEL.070-5273-9573)
 入場無料
  (詳細は同封チラシをご参照ください)

■一般投稿
川と私
              熊本市在住 須藤久仁恵
 大分県緒方町。奥豊後と言われる町の、更に奥まった所に私の生まれた故郷がある。生まれた家の前を大野川の支流の緒方川が流れている。戸数13(子供のころは15戸ほどあった)という山間の小さな集落に生まれ育った。夏になると川で遊ぶのが日課。川辺川の川ガキに負けず劣らずの川ガキぶりだった。屋号があった。「瀬口(せぐち)」という。丁度我が家の前に瀬があったことによる。瀬音が響き、子供心に恐ろしいほどの瀬だった。川は豊かな水量で流れ、瀬に近づかないこと、淵に近寄らないことを大人から言い渡され、子供らは川で遊びまわっていた。
 川には大きな岩があり、その岩の上から川へみんな飛び込む。飛べて当たり前、どれだけ遠くまで飛べるかの競争をしているみんなの中にあって、臆病な私は岩の上をおろおろと回るだけ。人吉の佐藤亮一さんの「ダムの水はいらん」のビデオで、橋の上から飛び込む子供らの姿をみて当時の私を思い出した。小学校何年生の夏だったか、姉から川めがけて突き落とされ、無事通過儀礼を果たした私だった。その川も、今は上流のダムの取水で流量がへり、遊ぶ子供らの姿もなく、ヨシが生い茂り、踏み込む場所すらない荒れた川になってしまった。もちろん瀬も小さくなり川幅いっぱいの流れも姿を消している。川で遊んだ経験は50歳を超えた今になっても鮮烈な印象として残っている。小さな流れをせき止めて木の枝を置き、集まった小魚を「ショウケ」で掬い取ったことや甲羅干しした岩のぬくもりなど。本当によく遊んだ。こういう体験をしたことを嬉しく思う。
 人間を50年超えてやっていると、少し世の中が見えてくる。この世で何が大切なのか、未来の子供たち、孫たちに伝えたいものは何か、人としてこだわり続けていきたいことは何かなど。考え考えして、私は「川辺川ダム反対」の声をあげることを始めた。ささやかな一人の力だけど、ダム反対の声がひとつ上がれば、輪はひとつだけ広がることを信じて。川を守ろう、自然を守ろう、命あるものに身を寄せよう。川辺川ダム建設を止めさせよう。

■イベント・インフォメーション
川辺川を守りたいチャリティーコンサート
6月12日(土)18:30人吉カルチャーパレス小ホール
6月19日(土)14:00熊本市国際交流会館ホール
料金:前売り1500円、当日2000円
出演:優木はるか他  *ビデオ上映あり
問合せ:九千坊(TEL.0966-24-9788),永尾(TEL.096-389-9815)
(詳細は同封チラシをご参照ください)
川辺川を守る県民の会署名集め・総会・講演会
日時:6月26日(土)
13:30署名集め
15:00総会
16:30講演会
場所:署名集めは熊本市・下通りダイエー前、
総会・講演会は熊本市現代美術館会議室・ホール(市電通町電停斜め前)
 (詳細は本文9頁をご参照ください)
●川辺川尺鮎裁判(事業認定取消訴訟)

日時:7月2日(金) 13:00門前集会13:30口頭弁論
場所:熊本地方裁判所101号法廷
問合せ:毛利(TEL.090-8834-1533)
ビデオ「ダムはいらん!」上映会&トークショー
日時:7月3日(土) 14:00-15:30
場所:モンベル奈良店(奈良市二条大路南1-3-1イトーヨーカドー奈良店4F,TEL.0742-36-7452)
ゲスト:佐藤亮一(「ダムはいらん!」作者)
      安藤 眞(アウトドア・ライター)
主催・問合せ:川辺川を守る関西の会・加藤(TEL.090-8466-0643)
予約不要・入場無料
村山嘉昭 「川ガキ写真展」〜あなたの川は元気ですか?〜
6月19日(土)〜7月11日(日)モンベル奈良店
(奈良市二条大路南1-3-1イトーヨーカドー奈良店4F,TEL.0742-36-7452)
7月17日(土)〜8月1日(日)モンベル渋谷店
(東京都渋谷区宇田川町11-5モンベル渋谷ビルTEL.03-5784-4005)
第8回川辺川現地調査
日程:8月21日(土) ,8月22日(日)
テーマ:住民参加型から住民が決める公共事業へ
問合せ:川辺川現地調査実行委員会事務局(TEL/FAX.0966-24-4844, 携帯.090-1346-4526)