2008年6月5日、市民の会、やつしろ川漁師組合より熊本県知事に対し、以下の要望書を提出しました。

平成20年6月5日
 熊本県知事 蒲島郁夫様

美しい球磨川を守る市民の会 代表 出水 晃
やつしろ川漁師組合    組合長 毛利正二
 
荒瀬ダム撤去の凍結撤回を求める要望書
 
私たちは、八代市で美しい球磨川と鮎を何とか守りたいと活動している団体です。

球磨川に大きな影響を与える川辺川ダム問題の解決につきましては、知事は中立を前提とした研究者による有識者会議での議論を得て、判断をされると明言されています。有識者会議の議論の方向性は未だ見えませんが、私たちは知事が少なくとも、県政の重要な課題に対し、第三者の意見に耳を傾け、独断で物事を進める知事ではないと評価をしているところでした。

ところが、昨日6月4日の、本当に突然の荒瀬ダム撤去の凍結表明は、同じ人が判断されたとは俄かに信じられない程に、私たちを驚愕させました。

知事は就任されて僅か2ヶ月余りです。その短い間に、荒瀬ダムが撤去になった経緯や背景について、十分に検証された末の結論であるとは到底考えられません。知事は財政問題から考えて、電力販売による利益が県収増大につながると認識され、また、あるものは最後まで使わないのは“もったいない”と理由を説明されておられます。

荒瀬ダムが出来てから失われた自然資源の価値はどう検証されたのでしょうか。また、撤去が地域経済にもたらすかもしれない価値をどう予測され、1億円という電力収入と比較検討されたのでしょうか。CO2排出量が少ないという理由からだけ見て、ダムをクリーンなエネルギーだという判断は、ダムが環境に与える影響を全く考慮しない短絡的な決断ではないでしょうか。環境立県を公約として当選した知事が、環境が持つ経済効果を全く認識しておられないことを自ら、宣言されることと同じことのように思えます。知事の“もったいない“は、環境破壊や殺戮を繰り返す兵器でも、「せっかく作ったものは使わないと“もったいない”」というのと同義語のように私たちの耳には聞こえます。

また、知事は公約に、「農林水産業の活性化」を挙げられていますが、農林水産業の基盤は環境であることを認識しておられないようにも感じます。

荒瀬ダム建設が始まってから、河口で営んでいた700軒ものアサクサノリ養殖業者が短期間のうちに消えていった事実をご存知でしょうか。また、撤去の準備期間として、試験的にゲートを下げて、土砂を放流したことによって、八代海の干潟に復活の兆しがすでに見えていることを、知事はご存知でしょうか。試験的に全ゲート開放を行った最初の年に、上流からの河川水がダムによって澱むことなく河口まで届いたことにより、河口の青海苔は驚くほどの成長を見せ、海面と内水面漁協の青海苔の収益は数千万を下りませんでした。荒瀬ダムが建設されてから、球磨川の鮎漁獲量や八代海の水産資源がどのように変わったのか、漁業者や八代市民は皆知っています。荒瀬ダム撤去が下流に与える経済効果も検証をせずに、撤去の凍結宣言は、暴挙としか映りません。泥だらけの干潟になった河口干潟は、少しつづ砂干潟に戻りつつあり、また藻場も復活の兆しが見えます。干潟の変化と荒瀬ダムのゲート開放の因果関係も調べることなく、撤去凍結決断は独断先行型の知事であることを内外に示すことになります。

明治26年の鮎の漁獲量は今の価値に換算して109億円あったと云います。それだけの価値を生み出していた球磨川を荒瀬ダムが一変させたのです。未来も享受できる自然を取り戻すより、毎年1億円の収入のために、60億という改修費を投入されようとする知事の考えは不可解そのものです。

財政上だけの問題であれば、ここ数年の試験的放流結果から、数年は撤去に取り掛からず、ゲートの全面開放のみを行い、下流や不知火海への影響をきちんと検証して、最終決断を行うという選択肢もあるはずです。それであれば、撤去費用及び荒瀬ダムの改修費用の支出も当面は見送れたはずです。いろんな方法・手段を比較検討されたとは到底思えない今回の決断は、県民の理解が得られるものではありません。

潮谷前知事が、地域住民の意思、環境的価値も含めた費用対効果を考えて下した賢明な判断を、知事が独断で翻すのは、とても横暴な行動です。

荒瀬ダム撤去は今や国内だけでなく国外からも注目されている事業です。ダムが環境に与える影響は今や否定できず、ダム撤去は時代の潮流である現在に、逆行するような政治決断が熊本から発せられるのを、私たちは黙って見過ごすこともできません。撤去に関する情報を発信してきた県民として、この愚かな判断を全国・全世界に向かって発信しなければならない、悔しい心情が知事には分からないのでしょうか。

何より、“夢が見られる熊本”をマニフェストに謳われて当選された知事が、荒瀬ダム撤去の先に県民のみならず全世界が期待する夢を壊していいはずがありません。住民参加の意味を、知事という権力は一旦傍に置いて、県民の目線で考えていただくことがマニフェストに沿った行動ではないでしょうか。

今回の判断は、知事のマニフェストの内容すべてを自ら否定するものであると気づいて下さい。

地元住民が荒瀬ダムの騒音や振動に、漁業者が漁業の衰退に耐えて、50年来の苦痛から解放される日を日長一日と待っている時に、これまでの経緯を全く無視した決断は何としても取り消していただきたいと、抗議の声を添えて、再考を求める要望とさせていただきます。

以上
 



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