2005年7月15日、川辺川利水訴訟原告団より、新利水計画策定の第5回意見交換会・集落座談会に関して、以下の意見書を提出しました。

2005年7月15日
熊本県地域振興部 部長 鎌 倉 孝 幸 殿
川辺川利水訴訟原告団 団  長  
茂 吉 隆 典
川辺川利水訴訟弁護団 団  長  
板 井   優

意見書


  私どもは、アンケート調査実施本部から平成17年7月5日付け で「川辺川土地改良事業に関する農家訪問説明及びアンケートの配布・ 回収について(変更のお知らせ)」を頂き、同月6日付け意見書およ び照会書を貴職に提出しました。

 ところで、私たちは、上記の「変更のお知らせ」により、平成1 7年7月6日から7月9日における国・県・市町村による農家訪問は 各市町村とも中止になりました、との連絡を受けました。

 ところで、今年5月29日の事前協議を受けて、今回の第5回意見交換会・ 集落座談会が始まりましたが、そこでは配布資料も含め九州農政局特 に播磨水利事務所長などから不正確で誤った説明が行われていました。 私たちとしては、これはダム案優位の宣伝材料に使おうとしているか、 あるいは水を要らないとする農家に水を押し付けるためにやっている のではないかという疑問を持ち、これを容認できない立場から緊急事 前協議の開催を提起したものです。その間、アンケート調査は中止さ れました。

 その後、この事前協議を受けて、行政側から、農家に対する説明資料 につき修正した資料も含めて関係農家に送り、これを受けてアンケー ト調査を再開することになりました。

  これに対して、貴職において去る7月10日に事前協議を開催する ということになっていましたが、大雨のため中止となり、本日に延期 されました。本日の事前協議では、この外に、原告団等が受け取った アンケート調査結果の取り扱いも協議事項になっています。なお、私 たちは、すでに提出した意見書で相良村土地改良区における(相良村 村長が兼職している)理事長職務代行者である筆頭理事の発言も問題 にしています。

 私たちの立場は、国営川辺川利水事業変更計画において「始めに ダムありき」とする農水省に対して、そもそも水の押し付けを許さな い、さらに水源の押し付けを許さないというもので、2003年5月 16日の福岡高裁判決も私たちの立場を支持しました。さらに、農水 大臣も同月19日上告断念の談話を出し、判決は同月30日に確定し、 国営川辺川利水事業変更計画は(利水・区画整理事業)は取消されま した。

  ところで、私たちは、この裁判の控訴審の結審に当たり、最終準 備書面で、偽造や変造だけでなく錯誤なども含め同意数から取り除く と、変更計画に真実同意した対象農家の数は3分の1程度でしかない ことを明らかにしました。

  これに対し、福岡高裁判決は、偽造や変造などの事例でわずかに 3分の2に足りないという理由で利水と区画整理の各事業を土地改良 法に違反するとして取消したのです。要するに、この裁判で明らかに されたのは、申請事業とは名前だけで、現実には行政によるダムの水 の押し付けがあったという事実なのです。

 その後、私たちは、新利水計画策定の事前協議に参加しました。 この事前協議は2003年6月16日の基本的合意事項で、農民こそが主人 公・情報の共有という立場から、水源をダムに限定せず、事業規模も 予断を持たずに場合によっては県営事業、団体営事業ででも新利水計 画を立ち上げるということを確認しました。そして、国・県・市町村 が三位一体となって関係農家に説明し、水や水源を農家に押し付けな いということで、事前協議に基づく意見交換会・アンケート調査の回 収作業は行われてきました。 私たちが事前協議に参加したのは、表 面では申請事業だとしながら実際は行政・農水省による水の押し付け になっているという事実は許さないということが根底にありました。

 私たちは、高齢化、後継者不足、減反政策、輸入農産物の自由化 という中で、水がいらないとする多くの関係農家に水を押し付けるの は、長い眼でみて、結局は農家負担に耐え切れない関係農家の脱落を 招き、利水事業全体が破綻することにつながります。これでは、健全 な農家ですら没落させることにつながります。

 今回の第5回意見交換会・集落座談会にあたり、熊本県の大きな 努力もあって、ダム以外の利水案(相良六藤堰案)が整理されました。 これにより、たとえダムがどうなっても関係農家に同じ負担でより早 く水が来るという歴史的な時代を迎えました。

 ところで、球磨川の治水に関してこれまで堤防や河床の掘削などさま ざまな対策がなされて来ました。こうして、現時点でも、昭和38年 から40年代の大雨が来ても同じような水害は起こっていません。他 方で、市房ダムの水が濁り昔の清流を失っていることは誰の眼にも明 らかです。

 その意味では、ダム以外利水案が出来たことにより、川辺川の清流を 未来に残すことと関係農家が水を確保することは両立するという歴史 的な段階になりました。まさに、この人吉・球磨地方がわが国に誇る 川辺川の清流を豊かな財産として子孫に残すことが可能となったのです。

 私たちは、関係農家が意見交換会や集落座談会で冷静に話し合うこと が今こそ求められていると考えてきました。

 こうした中で、水源に関する2案が、概定地域となっている全量 補給水田と畑に関して、同じように安全に、安定した水を確実に同じ 負担で供給できるということになりました。これを受けて、私たちは、 平成17年度に新利水事業を完成させたいとする事前協議の基本的合 意事項を尊重して、これまでの事前協議の確認に添った形で説明資料 が作成・配布され、意見交換会や集落座談会で説明がなされるものと 考え、その方向で意見交換会、集落座談会に入るものと事前協議を信 頼していました。

 しかしながら、そこで現実に発生したのは、播磨九州農政局川辺川水 利所長のもとでのダム以外利水案に対する悪意に満ちた宣伝でした。 しかも、これは川辺川開発青年同志会の資料Bを行政(川辺川土地改 良事業組合、九州農政局)が関与して誤った情報をもとに作成され、 広範囲に宣伝されたということです。これにより、ダム以外利水案 (相良六藤堰案)の飛行場水路を使うことが安心で安全でないという こと、堰案だと概定地域に安定した水を確実に配水できない恐れがあ ること、農家が現実に負担する水代も熊本県の補助が不確かで、その 結果農家の負担する水代がダム案よりも不確かである可能性があるこ となど、悪意に満ちた事実に基づかない攻撃がなされています。

  しかも、相良村土地改良区での理事長職務代行者である筆頭理事の発 言からも明らかなように、これは九州農政局が修正の書面を関係農家 に送った後も継続してなされています。要するに、これは表面ではど のように修正の資料を出そうと、行政(九州農政局川辺川水利事務所) が裏で意図的に誤った情報を出しているものとしか理解できないものです。

 私たちは、このようなやり方では関係農家に誤った情報を与える結果、 アンケート結果も間違った方向にならざるを得ないと警告しましたし、 今後とも警告して行くつもりです。

 ところで、私たちは、水源はともかく水については絶対に農家に 押し付けてはならないと考えています。農家が、これまでの事前協議 で出された資料や説明を基に冷静に判断し、アンケートに回答すれば いいのであって、その結果を基に次の事前協議で対象地域を決めてい くことが求められています。 もちろん、水に関しても、例えばあたかも畑のかんがいについて10a あたり2000円を払わなくてもいいような、水代が安くて済むかのよう な事実に反する宣伝がなされています。私たちは、このような無責任 な水の押し付けに怒りさえ覚えます。

 私たちは、水が必要かどうかは国・県・市町村が三位一体となっ て関係農家に営農方法や水代を正確に示し、その上で関係農家が自ら の農業の実態を踏まえてアンケート調査に回答し、これを受けて2003 年6月16日の事前協議の基本的合意事項に基づき、農家の意向を受けて 事業の規模を決めればよいと考えるものです。

 以上、私たちは、今回のアンケート調査結果については、今後の 検討を図る上で参考にすべきでないと考えるものであります。少なく とも、その取り扱いをめぐっては事前協議で、その問題点を克服すべ く慎重な検討が必要であると考えています。



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