2005年3月26日、川辺川利水訴訟原告団および同弁護団より、新利水計画策定の事前協議において以下の
意見書を提出しました。

2005年3月26日

熊本県地域振興部

部長 鎌 倉 孝 幸 殿

     川辺川利水訴訟原告団
              名誉団長  梅 山   究
団  長  茂 吉 隆 典
    川辺川利水訴訟弁護団
    団  長  板 井   優

意   見   書

第1 前回の事前協議の経緯について

 1 去る3月15日に開催された事前協議に際して、私たちは、「意見書(平成17
年3月14日付)」を提出し、国土交通省九州地方整備局(以下九州整備局という)
及び熊本県土木部作成に係る「平成17年2月20日提案のダム以外案策定の前提・
手法について(平成17年3月10日付)」に対する考え方を明らかにした。

   これを踏まえて、九州整備局及び熊本県土木部は、当初口頭で見解を述べて、
出席関係者の討議を経て、前回の事前協議の中で、「『平成17年2月20日提案の
ダム以外案(300億案)策定の前提・手法』に対する回答(平成17年3月15日
付)』」を提出した。

このうち、「1.用水計画」の「1.かんがい面積」「2.必要水量」、「2.水利権」
の「2.既得水利権の取り扱い」「3.新規水利権の取り扱い」、「3.正常流量」の
「1.考慮すべき地点」「2.流量」に関しては、ダム以外案(300億案)に対する九
州整備局の見解が示された。

また、「2.水利権」の「1.既得水利権の範囲」のうち、(ア)飛行場水路掛ダム以
外案(300億案)の中で整理された既得水利権の範囲を、熊本県土木部が承認し
た。

しかし、最後に問題となった(イ)棚葉瀬揚水機掛、(ウ)高原揚水機掛について
は、私たちも含めた出席関係者から多くの意見が出され、結局熊本県土木部は「平成
17年3月7日付で提示のあった資料及び今後の利水事業者の調査を踏まえて、適切
に対応します」と回答した。

   これを受けて、熊本県農政部は、相良村の協力を得ながら、既得水利権の範囲
について古老などからの聴き取りを行うことになった。そして、これを踏まえて、次回の
事前協議で河川管理者たる九州整備局、熊本県土木部との調整がなされる事となった。

第2 今後の事前協議の進行について

 1 新利水計画策定の基本的論理

   新利水計画の策定に当たり、水源をダムに限定せずに検討する事が前提になっ
ていた事は歴史的事実である。そして、現実に実施する利水計画が、ダム利水案かダ
ム以外利水案のいずれかの特定の利水案になることもまた当然の結論である。このこ
とは、誰も争わない単純な社会的論理である。そして、それを決めるのが農家の意向
である事は2003年5月19日の農水大臣の上告断念時の談話の立場である。加え
て、実務的に農家の意向がどの特定の利水案になるかを判断するが事前協議の責務で
あることもまた誰も争わない事実であろう。

そのために、事前協議は考えられる限りの関係者で組織された。すなわち、国営事業
か県営事業かどちらになってもよいと、事業の規模を限定しない立場から利水事業者
として農水省九州農政局、熊本県農政部。そして現実に対象地域となり費用負担を余
儀なくされる関係市町村。歴史的事実としてダム利水実現のために造られた関係市町
村の一部事務処理組合である川辺川総合土地改良事業組合。さらに、水田の減反政策
後にあくまでもダム利水を推進するために、ダム利水を前提に畑地かんがいを目指す
として昭和40年代後半に組織された川辺川開発青年同志会。加えて、ダム利水は農
民の意思ではないとして国営利水変更計画を違法で取消すとの確定判決を勝ち取った
利水原告団・弁護団。

そして、これをコーディネートする熊本県(地域振興部)は、2003年6月6日午前、こ
うしたやり方で新利水計画を策定することを農水省や国土交通省、熊本県の三者協議
で授権された。したがって、国営事業として新利水計画を策定する限り、農家の意向
を意見交換会で確認した事前協議が特定の新利水事業計画を策定することは当然のこ
とである。とりわけ、農家の意向を確かめるアンケート調査が、純粋に農家の意向を
反映させるために、特定勢力の圧力を排する形で行なわれることも、これまた当然の
ことである。

そして、コーディネーターたる熊本県は事前協議参加者の総意として、こうした事前
協議・意見交換会を国会議員や県会議員、市町村議会議員も含め県民・国民に開かれ
た形でマスコミにその全てを公開して行なったのである。

したがって、新利水計画策定について意見のある者が、これを進めている事前協議や
意見交換会の具体的事実を前提にして意見を述べなければ、客観的には、「農家の意
思に基づいた新利水事業を早期に実現すること」を妨害することにしかならないもの
であると言わざるを得ない。

2 新利水計画の具体的策定方法―事前協議の基本的論理―

新利水計画策定で何よりも大事な事は、「農家こそが主人公」「情報の共有」を前提
に、「より早くより安く」水を望む農家に水を届けることである。

そして、これまでの4回にわたる意見交換会で行なわれたアンケート調査では、ダム
利水を望む者は3分の2どころではなくわずか23%に過ぎず(平成15年12月 第2回
調査)、さらに、水を望む者もわずか23%に過ぎないことも明らかになった(平成
16年8月 第3回調査)。

事前協議は、このアンケートに示された農家の意向に従って、水を必要とする農家の
農地の面積を1378haと概定した。これは、最終的な利水計画を全ての農家が決めるの
ではなく、事前協議が農家に示す案を農家の意向を客観的な方法(アンケート調査)
で確認して示していくことを明らかにしたものである。ここに事前協議の存在価値が
ある。

したがって、水源について、ダム利水か、ダム以外の利水かも当然事前協議で客観的
に示された農家の意向に基づいて決めることも事前協議の当然の責務である。では、
その前提にある農家の意向は示されているのであろうか。

ダム利水については、すでに福岡高等裁判所で違法として取消すとの判決が出てお
り、農水大臣もこれを妥当と認め上告を断念し判決が確定したのであるから、2100人
を超える原告団農家少なくとも3分の1を超える対象農家がダム利水を受け入れてない
ことは歴史的事実である。そして、第一回のアンケート調査(平成15年9月5日公
表)では積極的にダム利水を望んだものはわずか数%に過ぎない。そして、丸バツ式
のアンケート調査(第2回)でも23%に過ぎないのである。

要するに、事前協議は、平成15年7月以降、ダム利水案、ダム以外利水案の2案を関係
農家に示して意向を聞いてきたが、その結果はダム案では3分の2以上の農家の同意を
得ることは事実上不可能であるという結果でしかなかった。もし、これ以上、ダムか
ダム以外かを農家に聞いてそのどちらかを決めるというのはムダな時間をかけて農家
に水を待たせるということに他ならない。

また、事前協議では、河川法に基づく河川管理者たる国土交通省、熊本県土木部の参
加も求めて新利水計画の水利権問題を「事前協議」している。これは、事前協議が農
家に責任を持って利水案を提示するという側面もあるが、もう一方では、農家の意向
に沿った利水案が後で河川管理者から受け入れられず、無駄な時間を費やすことをし
ないという考えに基づくものでもある。

   新利水事業は、1年をメドにして策定しようと基本的合意事項では示されてい
る。これは関係者の間では、平成17年度から工事に着手しようという理解であった。

   こうした立場から考えると、新利水計画は本来、昨年3月までに十分策定可能
であった。しかし、これを妨害したものは「始めにダムありき」との立場から水利権
問題でダム以外利水案をつぶすと豪語してきた国土交通省である。

   すなわち、一昨年12月の第2回アンケート調査でダム利水を望むものはわずか
23%に過ぎず、水を望むものもほぼ同程度であることも明らかとなった。しかし、
国土交通省はあくまでも「始めにダムありき」の立場から、人吉地点、柳瀬地点の正
常流量値を厳格に満たさなければ水利権を認めないとして、膨大な事業費を前提にす
る巨大調整池を構築するダム以外利水案を農水省に策定させたのである。このため、
昨年6月まで事前協議は空転した。その後、熊本県がその時点での全ての利水案を棚
上げし、再度水需要について農家の意向を聞くアンケート調査を行なった。

私たちは無駄な調査であると考えたが、福永人吉市長なども第2回アンケート調査と
違って簡単なアンケート調査をすれば農家の意向がはっきりするとの意見を述べたこ
ともあって、関係者が納得するのであればと了解した。そして、昨年8月第3回アン
ケート調査は行なわれた。

   しかし、その結果は前述したように水を望むものはわずか23%にすぎなかっ
た。

   その後、このアンケート調査結果に基づいて、水需要、対象地域をどうするの
かが重大な争点となり、私たちが実情に見合った547ha程度(最終的には700haを超え
る案)を提案したことに対し、総合調整役は1378haを概定するとの案を裁定した。そ
して、事前協議は、河川管理者である国土交通省、熊本県土木部をオブザーバーとし
てダム以外利水案に関する水利権問題を検討した。その結果、ダム以外利水案はダム
利水案よりも総事業費で180億円も安い300億円で、しかも関係市町村の負担も一番安
く出来ることが判明した。

加えて、ダム以外利水案が工期もダム案より早いことはこれまでに明らかにされてい
たことであった。これまでのダム以外利水案が巨大な調整池を前提にしていたこと、
水利権問題の調整期間がかかるとされていたことからすれば、ダム以外利水案は相当
に早く実現するはずである。

   水に色はないはずであり、早く安く水が来る方策を事前協議は検討して来たの
である。要するに、2003年12月のアンケート調査結果を受けて国土交通省が、こうし
た立場を前提に新利水事業策定に協力していれば、ダム以外利水案は昨年8月の平成
17年度の概算要求に間に合っていたのである。

私たちは、これ以上、農家に水を待たせる策動をする者は、例えそれが誰であれ、農
家の意向とは無縁の誤った意思に基づくものと考えざるを得ない。

今後の事前協議はこうした立場から真摯に行なわれるべきである。決して「始めにダ
ムありき」の立場から行なわれるべきではない。

 3 具体的提案

   以上を踏まえ次の通り提案する。

@ 「『平成17年2月20日提案のダム以外案(300億案)策定の前提・手法』
に対する回答)」を取りまとめ、ダム以外案に対する九州整備局及び熊本県土木部の
見解を明らかにすること。 

  すなわち、上記見解をまとめた書面(容易に理解できる必要な添付書類を含む)
を九州整備局、熊本県土木部の責任ある者の署名・捺印入りで作成することを求め
る。

  A 早くて安い水を待ち望む関係農家のために、ダム以外利水案一案を示して、
対象地域の確定も含め関係農家の意向確認を行うこと。





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