崩壊寸前の熊本県財政と国の財政


国・地方を合わせた長期債務残高は2002年3月末で666兆円に及ぶと政府・財務省は予測しています。国内総生産(GDP)の1.3倍、サミット参加国で最悪の状態です。わが国は国・地方もろとも財政崩壊の危機に直面しています。もはや借金に依存して公共事業の大盤振る舞いをする従来の「土建国家」型財政運営は維持不可能となっているのです。そこから抜け出さない限り未来はありません。一刻の猶予も残されていません。


深刻な財源不足、このままでは財政再建団体への転落は必至

熊本県が作成した「中期財政見通し」では、2003年から6年にかけて毎年350億円を超える財源不足が生じると見込まれています。しかし、本県の場合、標準財政規模(約4200億円)の5%、およそ210億円程度の実質赤字(公債を発行してもなお生ずる財政赤字)が出ると財政再建団体に転落してしまいます。この中期見通しは1.75%という今となっては願望のような「名目経済成長率」を前提しています。ところが実態は、2001年度の政府経済見通しでも0.9%のマイナス成長であり、来年度税収は「見通し」より大幅に減ることは確実です。抜本的に財政構造を転換しない限り、財政再建団体への転落は避けることができない状況にあるのです。

再建団体になると、何をするにしても国の大幅な関与のもと県独自の施策や事業は著しく制限され、地方自治は大きな制約を受けることになります。これから先はかつての経済高度成長など望むべくもなく、一度再建団体に転落するともしかすると半永久的に立ち直れないかもしれません。


嵩むいっぽうの県債残高

県債残高は1兆円を大きく超え、県内総生産比率も20%を上回っています。
この状態では借金を新しい借金で返すしかありません。
一刻も早く残高累増に歯止めを掛けなければなりません。


過去の借金払いが財政を圧迫

県の財政が危機的状況に陥ってしまっている直接の原因は、ただでさえ税収が全歳入の18%程度しかないのにもかかわず、それが端から過去の借金払い(公債費)に消えていくことにあります。


公共投資のやり過ぎが招いた財政危機

90年代、国は日米構造協議を受けて策定された「公共投資本計画」(当初430兆円・改訂後630兆円)やバブル経済崩壊後の「経済対策」で、地方に公共事業を消化させてきました。その促進策として採られたのが、起債充当率(事業に公債収入を充てることができる割合)や起債対象事業の拡大、交付税措置(地方債元利償還の一部を後の交付税で手当すること)でした。
本県もこうした国の誘導に乗り93年度以降毎年3000億円を上回る公共投資を行い、その経費を賄うために1500億円規模の公債発行を続けてきたのでした。
しかしその結果として多額の公債累積(2000年度末1兆1544億円)残り、その元利償還が財政に重くのし掛かっているのです。


自治体の固定資産は将来へのツケ

2000年11月に公表された県のバランスシートによると、2兆7508億円の固定資産はじめ2兆9646億円の「資産」があるいっぽう、県債に退職金引当金相当額を合算した「負債」は1兆3235億円。差引き1兆6412億円の「正味資産」があるとされています。しかし自治体の固定資産は道路や橋などの社会資本がほとんどです。自由に処分することができるような「資産」ではありません。それどころか維持補修費が経常的にかかり、寿命が尽きたら造り直さなければなりません。つまり上の図の帯の長さだけ将来は経費負担が生ずることになります。少子高齢時代となった今、「新規投資」は非常に慎重に検討しなければいけないということです。これは国の公共事業についても同じことです。


いまや国家破産状態の日本の財政

国・地方を併せた長期債務残高は国内総生産の1.3倍以上に及びわが国はもはや国家破産状態といっても過言でない状況にあります。小泉内閣は国債発行額を30兆円以内抑えようとしていますが、30兆円も借金しなければ行政運営ができなくなるほどこの国の財政はおかしくなっているのです。少なくとも今の国家財政に地方財政を救済する力など残されていないことは理解しておくべきです。


自殺行為の川辺川ダム建設

熊本県は「財政健全化計画」で2003年度の県単独事業を1999年度比41.6%削減する目標を掲げています。これを達成するためには単独事業費を約645億円程度に抑制する必要があります。いっぽう政府の経済財政諮問会議は2004年度の公的資本形成を国内総生産比3.75%、18兆7500億円程度に抑える意向でいます。これは現状の公共事業が半減しなければ達成不能な数字です。もし今、国・県併せて4000億円を超える巨費が投じられることなる川辺川ダムに着工し、なおかつ、県と国が公共投資目標を遵守しようするならば、現にある社会資本の維持補修や更新など緊急性が高い事業を後回しにするしかありません。そうなったら川辺川ダムは国営事業ですから熊本県民は全国民から指弾されても仕方がないでしょう。
ともかく、到底返すアテのない巨大な借金を抱えたうえでさらに借金を重ねて大事業を行うことは財政の「自殺行為」に他なりません。