川辺川ダムについて


川辺川とは
川辺川は、九州・熊本県八代郡泉村に源流を発し、同県球磨郡五木村を経て、同相良村柳瀬において球磨川に合流し、同県人吉市より八代市に至り、八代海不知火海)に流れる全長61キロメートル(合流地点まで)、流域面積533平方キロの一級河川です。合流前の球磨川本流は49キロ、485平方キロなので、実質上の本流といえるでしょう。 球磨川水系には、市房ダム、幸野ダム、瀬戸石ダム、荒瀬ダムなどが既に建設されています。さらに川辺川ダムが建設されれば、五木村は水没し、流域の環境はさらに悪化し、さらには八代海(不知火海)、天草沿岸まで大きな影響があることが予想されます。 川辺川ダムの流域住民や環境に与える影響は大きく、その対策については、アセスメントをおこなうなどの十分な検討が必要だと思われます。

川辺川ダムの計画と目的
川辺川ダム建設予定地は、熊本県球磨郡相良村藤田です。 川辺川ダムの計画は、昭和41年7月3日、建設省が打ち出した治水専用ダムとして「川辺川ダム建設計画」を出したことに始まります。その2年後に、かんがいと発電が追加され、多目的ダム計画となりました。 平成5年4月に建設省九州地方建設局の出した「川辺川ダム事業について」によると川辺川ダムの目的は、(1)洪水調節、(2)流水の正常な機能の維持、(3)かんがい、(4)発電となっています。

川辺川ダム事業計画の概容
昭和41年7月14日に川辺川ダム建設計画を発表。 昭和47年9月26日に河川予定地指定告示、昭和51年3月30日に「川辺川ダムに関する基本計画」が告示されました。
これに先立って、昭和48年5月17日、「五木村水没者地権者協議会」が発足し、昭和51年4月「河川予定地指定」の無効確認訴訟等請求訴訟を提起されました。
しかしながら、昭和56年4月29日、水没三団体(五木村水没者協議会、川辺川ダム対策同盟会、相良村水没対策協議会)が、一般補償基準で妥結し、昭和59年4月23日、川辺川ダム建設に伴う協定調印式が、九州地方建設局長と五木村水没者地権者協議会との間に行われました。そして、同月、原告、五木村水没者地権者協議会は、「河川予定地指定」の無効確認請求および「川辺川ダム基本計画」の取消請求の控訴を取り下げれれました。
そして、この前年の昭和58年に国営川辺川総合土地改良事業が受益面積を3590ヘクタールとして、川辺川ダムからの取水を前提に計画されました。
平成元年7月、川辺川ダム建設促進協議会が、流域2市17町村の自治体で発足し、平成3年4月30日には、川辺川ダム対策同盟会および五木水没者対策協議会が「川辺川ダム建設に伴う損失補償基準」で妥結調印式を行いました。
ところで、下流域においては、例えば人吉市では、昭和51年6月定例議会で「川辺川問題調査特別委員会」が設定され、その後昭和53年3月議会で「球磨川水系ダム問題対策特別委員会」と発展し、昭和54年3月19日付で建設省に対し要望書を出す等の活動を行っています。その要旨は(1)涵養林、保安林の保護、(2)水質汚濁の防止、(3)魚族の保護、(4)観光事業(球磨川下り)のための水量確保です。 また、民間にあっては、昭和57年8月に、地元「人吉新聞」に「球磨川防災の緊急課題」(辻正信)が投稿される等問題提起があっています。
さらに、平成元年10月24日には、「人吉新聞」に「川辺川ダム計画の再検討を望む」(池井良暢くまがわ共和国大統領)が投稿され、以後、下流域の住民運動としても大きく取り組まれるようになりました。こうした動きを受けて、平成4年11月14日、「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す会」(代表野田知佑、事務局長池井良暢)が発足し、下流域の住民運動が発展していくことになりました。
また、平成6年2月8日、国営川辺川総合土地改良事業計画の見直し案(受益面積3010ヘクタールに縮小)が告示されました。しかしながら、農業を取り巻く環境が大きく変化したにもかかわらず、これを踏まえない案に対し、同意の撤回を含む運動が起こりました。

各々の問題点
発電

ダム建設に伴って電源開発が新設する相良発電所の最大出力はわずか1万6500キロワットに過ぎません。 その一方で既設の川辺川第一(九電所有・最大出力2千500キロワット)川辺川第二(チッソ所有・8千200キロワット)、頭地(同・5千200キロワット)の3つの発電所が川辺川ダムによって水没します。3つの発電所の合計出力は1万5900キロワット。これを差し引けば増加分はわずか600キロワットにしかならないのです。 チッソはこれに伴って五木村の竹の川発電所(3000キロワット)の同時閉鎖を検討しており、もしここも閉鎖となれば川辺川ダム建設による電力の収支は逆転し、2千400キロワットの赤字になってしまいます。ダムを作って、電力がマイナスになる全国にも珍しいダムなのです。

洪水調節

下流域、特に人吉の洪水調節は川辺川ダムの主目的ですが、最大の恩恵を受けるとされている人吉市民は逆にダムの放流による大洪水の危険を感じています。 人吉をはじめ下流域は、昭和40年7月、昭和46年8月、昭和47年7月などの水害を体験してきました。これらの際、球磨川上流部の既設の市房ダムはこれまで2度、過大放流を行っていると思われます。市房ダムの場合、48時間に流域平均で775ミリメートルの降雨を想定して計画最大流入量を毎秒1,300立方メートルとはじき出し、その半分の650立方メートルをカットして、650立方メートルを放流することになっています。これまで1,300立方メートル以上の流入は一度もありませんが、46年8月には、台風通過後の大雨により、ダムは満水となり水量調節不能に陥って、放水量は最大792立方メートルに達しました。

この時は計画最大放流量の650立方メートルを越えた放水を7時間も続けています。57年7月には、それまでカラ梅雨だったことから放流のタイミングを誤り、計画最大流入量以下の1,019立方メートルの流入に対し764立方メートルを放流する羽目になりました。計画量以下の流入しかないのに洪水調節ができなくなるのだから、ダムによる洪水調節は不可能であることを実証しています。 建設省は容量の小さい市房ダムだけでなく、その3倍の貯水量をもつ川辺川ダムができればそれらの統合管理によって洪水調節し、下流の生命財産を守ると言っていますが、建設省の説明どおりに受け取ったとしても、過去の雨量データから流域平均の48時間雨量が510ミリメートルに達する、80年に1度の大雨時以内のことであり、市房ダムなどの実例はそれに達しない程度の雨であっても雨の振り方や操作方法によっては調節不能に陥ってしまうことを如実に示しています。統合管理については、出来ないと言ったり出来ると言ったりで、まったく信用できるわけがありません。

市房ダムの計画最大放流量は毎秒650立方メートルですが、毎秒1,900立法メートルを放流できる設計構造となっています。川辺川ダムの計画最大放流量は毎秒800立方メートルなのに非常用水門5門によってその6倍以上の5,160立方メートルも放流できるように設計されているのです。両ダムが同時放流した場合、最大合計毎秒7,060立方メートルが人吉地点で合流する場合があることを示していますが、建設省の河川計画ではダムによる調節を前提として、下流の堤防工事などを行うため人吉地点の球磨川の流下能力は毎秒4,000立方メートルしか見込まれていません。このことは、ダムが満杯となり、対処出来ない状況となったら、人吉の最大流量を上回る緊急放流が下流域を襲うことを前提としているダム計画なのです。下流の住民はたまったものではありません。

流水の正常機能の維持

川辺川ダムの基本計画では夏場毎秒22立法メートル、冬場毎秒18立方メートルの流水を確保するとしています。人吉観光の目玉である「球磨川下り」は現在でも渇水期は舟底がつかえるため欠航やコース短縮を余儀なくされています。「球磨川下り」の廃止も危惧されることになり、人吉の観光経済に与えるダメージはたいへん大きいと思われます。


かんがいにおける問題
川辺川ダムを取水源とする国営川辺川総合土地改良事業(以下、川辺川利水事業と云う)は昭和58年度3590を受益面積とした畑地かんがいと水田の用水改良を目的として計画されましたが、その後の農業情勢の変化等により受益面積を3010ヘクタールに縮小して、平成6年2月8日農林水産大臣の名において、その変更計画概要の公告があり土地改良法第八七条の三第一項の規定により関係農家の同意取得の作業が農政当局及び関係地方自治体に於いて行われています。

しかし、変更計画の内容については、関係農家が充分納得のできないまま押印を求められ大多数(農政局の発表では92%)の同意があった模様ですが、この同意は不本意ながらの同意または錯誤による同意等があった為に、農家はその後の学習で川辺川利水事業内容が不明確である事に合わせて現在の農業情勢では土地改良事業の効率効果は望めず、かえって農家の負債を増長するのみとの判断により、不参加の意志を持って同意取消(撤回)の通告を九州農政局に対し行った。当局はこの通告を正式に受理せず、一時預かりとして通告者の意志確認と称して同意取消の取り下げを強要する等農家の人権を無視した行為を行っています。

このような事情から、再度同意撤回の通告を農林水産省の農林水産大臣宛に直接、内容証明郵便により郵送しました。これについても農林水産省は出先機関を通じて地方自治体の一部事務組合の川辺川総合土地改良事業組合にそのコピーを手渡し取り下げを強要しました。これらの行為は、本来農家側の意志に基づく申請事業であるべきところを、官庁において作成された計画に農家の意志を無視して半強制的に参加させようとする作為的な行政の姿勢です。このことは非民主的行為であるばかりでなく、県下の農業情勢はウルグアイラウンド合意等の国際問題等に絡む農業経営環境の変動を無視したもので、また農業従事者の高齢化・後継者不足等の現実を踏まえるものでもなく簡単に同意できるものではありません。にもかかわらず農林省は、平成6年11月7日、国営川辺川総合土地改良事業計画の変更計画を公告し、同月8日より同年12月6日まで縦覧に供しました。なお、本事業に関連する県営・団体営事業及び事業完了後の土地改良区設立運営等についても不明確であり負担金等についても明治されていません。又既得水利権についても補償されていない状況です。


自然環境の破壊
川辺川水系は、オオタカ、クマタカ、ヤイロチョウなど絶滅危惧種、貴重な動植物の宝庫です。日本カワウソを目撃した漁師が何人もいます。 川には鮎が群れ、球磨川内水面漁協(会員約2千人)の生活の糧だけでなく、郡市民の多面的な親水の場となっています。また近年カヌーツーリングのメッカとなり全国からカヌーイストを集めています。川辺川ダムができると、これら全てが壊滅的な打撃を受けることは明白です。

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