2005年8月22日、尺鮎裁判に関し、原告漁民側より熊本地裁宛てに以下の「訴訟参加申立に対する意見書」を提出しました。
  
訴訟参加申立に対する意見書
平成17年8月22日
熊本地方裁判所民事第3部 御中
原告ら訴訟代理人   
弁護士 板  井  優
弁護士 松 野 信 夫
弁護士 田 尻 和 子
弁護士 原  啓  章

 本書面は,参加人国の平成17年5月26日付け訴訟参加申立書および同日付け第1準備書面に対する意見を述べるものである。


第1 訴訟参加申立書について

 参加人国は,「仮に,本件訴訟において被告が敗訴し,本件事業の事業認定が取り消されるような結果になると,参加人は,本件事業を遂行することが不可能となり,その権利(法律上の利益)を害されることが明らかである。」と主張する。

 行政事件訴訟法第22条に基づく参加の要件は,(1)他人の間に取消訴訟が係属していること,(2)参加者が訴訟の結果により権利を害される第三者であること,の二つであるところ,本件では上記(2)の要件が問題となる。

 取消訴訟については,当該処分又は裁決をした行政庁を被告とすべきことを原則としているが(同法11条1項),他方,取消訴訟には第三者効が認められ(同法32条1項),また,その行政庁に対する拘束力(同法33条1項)を通して第三者に直接の影響を与える事態もしばしば起こり得ることから,同法22条は,このような訴訟の結果によって直接自己の権利関係に影響を受ける第三者を,訴訟に関与させることによって,事案の適正な審理裁判を実現し,併せて,こうした第三者の保護を図ることとした規定である,とされている。

 参加人国は,事業の認定者である国土交通大臣を被告とする本件訴訟について,「土地収用法3条2号及び35号に規定する事業として,一級河川球磨川水系川辺川ダム建設工事及びこれに伴う付帯工事を行う者」として法律上の利益を害されるとして,本件参加申立てをするものである。しかしながら、同一のダム建設事業計画をめぐり、土地収用法上の事業の認定者で国の一機関である国土交通大臣を被告とする訴訟において,その起業者たる国が「第三者」として訴訟参加するという本件参加申立ては極めて奇異といわざるを得ない。

 文献において,訴訟参加を行う「第三者」の例としてあげられているのは,「近隣住民らが建築主事を被告として提起した業者に対する建築確認処分の取消訴訟における当該業者」,「競願にかかる免許について,免許許否処分を受けた申請人から提起された同処分の取消訴訟における被免許者」といった者であり(司法研修所編「行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究」法曹会262頁以下),「第三者」として当該訴訟に参加して,自己の主張立証を独立して尽くすべき十分な事情が認められるといえる。

 これに対して,本件訴訟では,すでに,国の一機関である国土交通大臣が被告とされているのであって,本件訴訟の進行において,当然,国の一機関である国土交通大臣は,国に訴訟進行状況を説明し,国の利害関係にも十分に配慮しながらこれまで訴訟追行を行ってきたはずである。

 したがって,本件訴訟において,国が訴訟参加しなければ,国の利害関係が害されるという実態や懸念は全く存在しないのである。仮にそのような実態や懸念があるというのであれば,それは,国の一機関にすぎない国土交通大臣が,国益に反する訴訟追行をしていたということになりかねないが,このような事態は凡そ背理というべきである。

 以上によれば,本件において,国は,「第三者」性を備えていない上,行訴訟22条の趣旨からしても,国が訴訟参加をすべき理由は全く認められないというほかない。

 のみならず,本件訴訟が実体審理に入った段階で,しかも,その実体について最も事情をよく知る国土交通大臣が被告とされている中で,形式的な起業主体にすぎない国があえて訴訟参加申立てをするというのは,全くその必要性が認められないばかりでなく,徒に訴訟遅延が将来される懸念も憂慮されるところである。

 事実、熊本県収用委員会では、起業者たる国土交通省が驚くなかれ2年以上も審理を空転させ、収用裁決自体が却下されるかもしれないという事態を招いているものである。その意味で、起業者たる国土交通省は審理遅延の常習者である。

 以上によれば,本件訴訟参加申立ては速やかに却下されるのが相当というべきである。


第2 国の第1準備書面について

参加人国の第1準備書面に対する認否反論は,以下の点を除き、被告国土交通大臣に対する平成17年8月22日付け準備書面の主張をそのまま引用する。

参加人国は、第1準備書面で、@土地収用法47条2号に関連して、平成15年10月27日の収用委員会で、現時点では、収用裁決申請の却下要件に該当しないと判断した。A利水判決があったから本件事業の利水目的が消滅するものではなく、事業計画の変更が認められている現行法の下では、現時点では、起業者に事業計画を変更するかどうかの判断が求められ、新利水計画の内容を踏まえ変更する必要があるかどうか、その検討を余儀なくされている。B国土交通省がダム建設事業再変更計画を出さない現時点で、法47条二号の「著しい変更」に当たるかどうかを収用委員会が判断することは起業者に認められている事業計画の変更権を無視することになる。Cしたがって、収用委員会としては、審理が著しく遅延しない限りは、本件事業計画が変更されるか否か、変更されるとしてどのように変更されるかが確定した時点で、初めて「著しい変更」に該当するか否か判断することになる。Dしたがって、現時点では却下要件に該当しない、との主張を行っている(7,8頁)。

  上記見解については、当然、国土交通省も同じ見解であることは、同日の弁論での国土交通省指定代理人も、「参加」について特に意見がないとしたところから明らかである。

 この参加人国の見解でも、上記Cで、「審理が著しく遅延しない限りは」と限定しているように、収用委員会として「審理が著しく遅延している」と判断した場合には、当然却下要件を満たしており、却下できるという見解である。

 そして、現時点では、新利水計画策定の事前協議がさらに行われる以上、審理が著しく遅延するであろうことは、これまで述べてきたところから、明らかである。この点は、本日付け準備書面において詳しく述べるところである。



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