子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ニュースレター  第 4 号 平成9年(1997年)8月12日発行




   ダム審答申から一年。そして県民の会発足からやがて一周年。

●夏は川辺川の季節です。川辺の至る所で家族連れが水遊びに興ずる姿が見受け
られます。水遊びに適した場所は川辺川の場合、要するに降りていける所。景色
がきれいで水に浸かれるポイントを探してのんびり川沿いの道を上流に向かうの
も楽しいものです。
● ちょっと冷たい水に体を浸して、九州脊梁の森が生んだ大量の水が滔々と海へ
向かって蛇行しながら流れて行くのを感じることは、もうおそらく県内では川辺
川でしか出来ません。残り少ない夏休みの一日を是非川辺川の清流に遊んでみる
事をお勧めします。きっと楽しい一日になりますよ。みなさんのお役に立てばと
実用的川地図を作ってみました。

●●7/19 川辺川源流行●●
 7月19日、脊梁の原生林を守る連絡協議会との共催で川辺川の源流である白鳥山
へ登ってきました。今回は(財)日本自然保護協会保護部長横山、日野両氏が同
行されて解説をして頂くという大変贅沢な企画です。
 登り2時間と聞いてちょっときつい登山を覚悟していたのですが、それこそ花畑
を散歩するような気分であっという間に時間が過ぎました。脊梁の会の大久保さ
んの軽妙な解説を折り込んだ道案内に思わず笑いが出てしまいます。
 登山の楽しみに花や高山植物があることを発見しましたし、ブナ林に涵養され
た豊かな山が頂上近くに湿地帯を抱えていることに驚きました。またその近くの
花の間を飛んでいたカサギマダラという美しい蝶々が海を越えて渡る渡り鳥なら
ぬ渡り蝶々である事を聞いて、なんと自然は多様なのかと今更ながら実感した次
第です。森を歩く事はなぜか人を優しくしてくれます。ぜひ花の咲く季節折々に
訪れたいものだと思いました。
 県境であるため、頂上近くまで伐採された宮崎県側を横目でみながら、この森
が市民の活動によって僅かではあっても残された事に感謝しました。
                              (川本正道)

●●7/19,20,21,21 環境法律家セミナー●●
 7月19,20,21日と人吉市において、日本環境法律家連盟のサマーセミ
ナーが開催されました。サマーセミナーには、環境問題に関心を抱く、多くの弁
護士が参加しており、そこで話し合われたことを報告します。
 今回、人吉でサマーセミナーが開催されるにあたって、川辺川ダムがテーマの
一つに選ばれました。まず19日の夜、利水事業の現況、クマタカ・水性生物か
ら見た川辺川の自然、鮎漁等の漁業について、現地からの報告が行われました。
 最終日には、総括的な討議を行われ、多くの意見が交わされました。まず最初
に滋賀県の吉原弁護士から第二永源寺ダムの取り消し訴訟について報告がありま
した。第二永源寺ダムというのは、土地改良法に基づく農業利水用ダムです。そ
の後、熊本の国宗弁護士から川辺川利水事業取り消し訴訟について説明がありま
した。両者とも土地改良法に基づいて行われている事業で、共通点も多く、土地
改良を巡る問題点等について専門的な意見が交換されました。
 最後に川辺川ダムの法的対応、そして川辺川を全国規模の問題にするには、ど
うしたらいいか、ということが話し合われました。
 全国規模になった例として、奄美大島のゴルフ場、諫早湾がありますが、実際
に訴訟に関わっている籠橋弁護士から、全国規模の問題になっていった経過につ
いて説明がありました。そして、川辺川については、各地のダム問題の先頭に立
ち、引っ張っていくタイプの活動を展開することによって、全国規模の問題にも
っていくことができるのではないか、と言われました。
 今回、全国各地で環境問題に取り組んでいる弁護士の方から多くの貴重な意見
をいただくことができました。この意見を少しでもダム見直しに役立てて行こう
と思います。                        (内山武明)
写真1:ブナの大木を見上げて説明を受ける
写真2:頂上付近で解説する日本自然保護協会保護部長の横山さん
写真3:さがらっぱ祭り(相良村)イカダ大会

●●7/20 人吉市にて手渡す会シンポジウム●●
 「諫早湾のギロチンが川辺川を狙っている」と題し、ムダな公共事業と環境破
壊を問うシンポジウムを、7月20日人吉カルチャーパレスにて開催しました。
県民の会のメンバーも含む実行委員会と日本環境法律家連盟の主催で、約300
名の参加者を得ることができ、大成功に終わりました。
 川辺川利水訴訟原告団長の梅山究さんは「この事業でメシが食えるのは農水省
の役人と土建業だけ。川辺川ダムを造らんがために農家をダシにしている」。
 諫早干潟緊急救済本部の山下弘文さんは「官僚は情報を隠すし何を言っても通
らない。諫早や川辺川の問題は、戦後の民主主義などさまざまな問題を含んでい
る」。
 日本自然保護協会の横山隆一さんは「自然破壊とは何かと何かのつながりを分
断すること。ダムが建設されることで何が分断されるのか考えてみては」など
と、講演されました。
 後半は、熊本県弁護士会の竹中敏彦さんをコーディネーターにパネルディスカ
ッションが開かれ、会場から「なぜムダとわかっていながら巨大公共事業を進め
るのか」などの質問が出されました。各パネラーは「欧米では事業に問題があれ
ば一時中止してアセスメントをやるが、日本の官僚は先輩のやったことを否定で
きない。惰性の開発だ」(山下氏)、「こうした公共事業は、先に行けばいくほど
世論の批判を受けて厳しくなる」(梅山氏)などと指摘。
 最後に、「ムダな巨大公共事業に地域住民の声を正しく反映させ、その必要性
を科学的に検証し事業計画を見直すことを、関係機関に求める」大会アピールを
採択しました。                       (緒方紀郎)
  
●●7/22 民主党川辺川ダム問題現地調査会●●
7月22日人吉市において開催された、民主党の川辺川ダム問題の現地調査会に
事務局からも出席しました。ダムの目的の一つ一つについて地元の人の意見を聞
くことが出来ました。特に昭和40年代の球磨川の水害を実際に体験した人の話が
印象に残ってます。これまでの水害と違い、市房ダムの放流によって急激に水位
が上がったので家財道具を移動したり、避難したりする間もなかったそうです。
 今後はおそらく治水に論点を絞って「ダム以外の方法で治水は可能であり危険
も少なく経済的」として対案を示す方向で検討にはいるものと予想されます。
                               (土森武友)

写真4:予想以上の来場者がつめかけたシンポジウム会場受付付近
写真5:ダムサイト近くの淵から上流に向かって立つ


●●7/29第3回勉強会(場所:熊本市国際交流会館)●●
 7月29日(火)、県民の会の第3回勉強会を行いました。
 まず最初にビデオ「森が歌う日、魚が帰る」の上映。森が海に欠かすことので
きない鉄分を生み出していること、そして鉄分をとりこんではじめて海藻がチッ
ソやリンを取り込めるようになる仕組み、海藻が豊かな海は多くの魚を育むこと
ができる。片や森が荒れていると「海の砂漠化」とも言われる「磯焼け」現象が
起き、魚の住めなくなる海になるということを学びました。
 その後、天草で真珠の養殖をやっておられる松本基督さんが羊角湾の話をされ
ました。羊角湾では国営の干拓事業が24年間もストップしていますが、その間
にまるはげ状態だった周辺の山(森)が回復し、最近ではアマモがたくさん見ら
れる様になり、魚などが増えたというお話をされました。また、不知火海をはさ
んで球磨川の対岸にあたる天草の人たちにとって「球磨川が天草の海の豊かさを
担っている」ということは常識なのだそうで、球磨川や川辺川が森の恵みを天草
の海まで運ぶ大切な役割を果たしているということもわかりました。
 最後に宮崎公一さんが昔からのアサリの水揚げ高のデータをもとに、緑川河口
の海がどのように変化したかを話されました。かつてアサリが大量に獲れた有明
海は、昔は輸出していたアサリを今では中国や韓国から輸入するようになりまし
た。潮干狩りをして獲れるアサリは潮干狩り客のために撒かれた中国産のものな
のだそうです。このようなアサリ激減の原因としては緑川ダムがあるせいで、河
口にヘドロが溜まってしまっていることや森の伐採、合成洗剤の影響などいろい
ろ考えられるそうです。森の栄養分をカットしてしまうダム。その影響は予想以
上に大きいのかもしれません。以上、今回も内容盛りだくさんのとても充実した
勉強会でした。                       (西田陽子)

●その他、以下の様な出来事がありました。

●●7/12,13 天草環境会議●●
 運営委員及び事務局メンバー数名で参加して各地からの報告に耳を傾けまし
た。この会議の楽しみは充実した内容と共に何といっても交流会。地元の方々か
ら海の幸をふんだんに使った料理でもてなして頂きました。毎年、是非行きたい
催し物です。
写真6:天草環境会議にて(交流会の隅でおどける子供達)
写真7:天草環境会議交流会

◇◆新聞切り抜き帳◆◇
◎10ダムの建設中止 来年度予算方針 公共事業見直しで(毎日'97,7,25)
◎大分・矢田ダム建設中止 地元町に正式通知(朝日'97,7,26)
◎進む川辺川ダム工事 事業継続答申から1年(熊日'97,8,12)
◎扉の前で 漁協が握る海、川の運命 漁民崩し(毎日'97,7,27)
◎20年以上調査のダム計画 九州管内に3基(毎日'97,7,27)
◎公共事業見直しを 緊急シンポでアピール(熊日'97,7,21)
◎ダム審の意義を問う 答申1年人吉で記念シンポ(熊日'97,8,12)

●●7/23 現地調査実行委員会●●
 この日は、当日配布する資料の検討と8月31日の人吉市内パレードの進行の
詰めを行いました。

●●8/5 運営委員会(場所:熊本市・秋津レークタウンクリニック)●●
 建設省への要請行動、次回勉強会・ニュースレター、11/16森と自然を守る全国
集会の分担事項、利水裁判受益者名簿入力作業の分担について話し合いました。
次回から運営委員会は名称を改め定例会となります。これまで以上に多くの方の
参加をお待ちします。

●●8/10 手渡す会シンポジウム ダム審とは一体何だったのか●●
 非常にタイムリーな企画でダム審の答申の不透明さを振り返る事ができまし
た。会場の熱気から川辺川ダムに対する疑問が深く静かに流域市民に広がってい
ることを実感しました。

●●建設省への要請行動のお知らせと概算要求見直し電話FAX作戦のお願い●●
 前号で川辺川工事事務所とのやりとりをお知らせしましたが、出先機関である
工事事務所にいくら工事中止を求めても、結局らちがあきませんでした。
 そこで、いろいろな方にアドバイスをいただいた結果、建設省に出向き直接工
事中止を申し入れた方が効果的であろうという結論に達しました。7月建設省は
全国の10のダムを見直しを発表しましたが、それに対して全国からダム建設を望
む推進派の陳情が殺到しているとのことです。
 ダム見直し派である私たちが何もしない手はありません。中央官僚に川辺川ダ
ムの建設目的は失われているということを直接聞いてもらいたいと思います。
 この8月というのは国の概算要求の時期であり、月末各省庁は大蔵省に対し来
年度の大まかな予算額を提示します。そこで私たちは建設省に対し、仮排水路工
事の中止と来年度の川辺川ダム事業については五木村の村作り以外は、概算要求
しないように要請するつもりです。
 具体的な時期は現在調整中ですが8月下旬になると思います。首都圏の会員の
方には日時が決まったらお知らせしますので、ご都合の許す方ぜひ同行をお願い
致します。また、概算要求の見直しを求める電話FAX手紙作戦を行いたいと思
いますので、ご賛同頂ける場合は、同封の文例を参考にして、下記建設省あてに
8月中に要請FAXをお送り頂ければ幸いです。尚、お手数ですが、要請FAXをお送
りになられた方は事務局にもご一報ください。
 概算要求見直しの要請先:
 〒100東京都千代田区霞ヶ関2-1-3合同庁舎 建設大臣 亀井 静香
 TEL03-3580-4311 FAX03-5251-1945(河川局開発課)


         ●●事務局からのお知らせとお願い●●
●ニュースレターの感想及び会の活動に関するご意見ご感想等を是非事務局まで
お寄せください。私たちは広く市民の共感を呼ぶことができる様な活動を目指し
ています。
●県民の会の運営は会員の皆様からの年会費によってまかなわれています。今年
度の会費の納入がお済みでない方は、是非、継続のお手続き(年会費2000円)を
ご検討よろしくお願いいたします。
●未入会の方も、会の活動に賛同頂ける方は、何卒ご入会をご検討ください。ま
た、銀行の方が便利な方用にカンパ専用銀行口座を開設致しました。よろしくお
願いします。
 熊本第一信用金庫御船支店 普通預金口座 0064860 (川部岬)
 郵便振替 01940-8-13454

●次回定例会
 9月2日(火)19:00 秋津レークタウンクリニック2階会議室
           (熊本市秋津町秋田3441-17、TEL096-368-6007)
 お気軽にご参加ください。

●利水裁判第4回公判・・・9月3日(水)13:30  熊本地裁101号法廷
  たくさんの傍聴・ご支援をお願いします。

●第4回勉強会
 ビデオ上映と塚本昭司氏(球磨川漁協理事)のお話
 日時:9月9日(火)19:00〜21:00
 場所:国際交流会館(熊本市民会館前) 第2会議室 
  場所代カンパ:300円

●●前号の正誤表●●
        誤        正
 6頁34行目 8万500人   → 8万5000人
 6頁35行目 14万500人   → 14万5000人
 6頁37行目 砂梨川ダム   → 佐梨川ダム
 7頁31行目 7月5日(日)→ 7月5日(土)

●●編集後記●●
●前号のこの欄で水俣病のことが取り上げられていました。ダム問題にしても、
水俣病と同じくあくまでゼネコン企業の利潤追求を優先し、それ以外のもの(た
とえそれが人間の生命であっても)は全く考慮しないという企業の論理が背景に
はあると思います。役人もそうですが、大企業の中ではともすれば社員は生活や
昇進のため自分自身を見失い、「長い物には巻かれろ。寄らば大樹の陰」という
意識が、これまでの企業の犯罪や不祥事を助長しているのではないでしょうか。
 経営者が株主代表訴訟で厳しく責任を追求される時代です。自分の仕事が会社
ではなく、社会にどれだけ役に立っているか、あるいは社会に迷惑をかけていな
いかという社員一人一人のモラルが必要です。しかしそれを通して、企業人とし
てではなく一人の人間として人間らしく生きていく、あるいは人間の良心に従っ
て生きていくことにつながっていくと思います(T)。

●あっと言う間の一年が過ぎて、おかげさまで県民の会の会員数も300人を越えま
した。年会費の更新手続きも相次いでいます。常日頃からのご声援感謝いたしま
す。またニュースレターへのご意見ご感想等をお送り頂いた皆様、重ねてありが
とうございます。このニュースレターも4号となりましたが、皆さんのご意見を
取り入れて、ゆっくりではあっても確実に、あるべき姿に近づけたいと思ってい
ます。まずは読みやすく。という点を心がけましたが、まだまだ修業が足りませ
ん。
 修業といえば、県民の会は発足当初から加入団体からの並々ならぬ人的支援を
受けて活動を続けてまいりましたが、特に事務局は、市民活動については素人集
団です。「川辺川ダムは何かおかしい」という疑問を共通にする人間が集まって
手探りしながら役割分担しています。試行錯誤の連続です。けっして1人よがり
にならない自己点検のできる活動グループを目指したいと思っています。(川)

●遅ればせながら残暑お見舞い申し上げます。よい夏をお過ごし下さい。(一同)