子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ニュースレター第11号 平成11年(1999年)8月18日発行




 清流川辺川をどうにかして守っていきたい。多くのそういう熱い思いが集まり発足
した県民の会(略称)は、活動を開始して丸3年が経ちました。石の上にも3年と言
いますが、その熱い思いは途切れることなく、一層充実した形で現在に至っています。
 思いおこせば3年前は、利水事業は不要として多数の農家の方が熊本地裁に提訴さ
れました。折しも同じ頃、川辺川ダム事業審議委員会は
10回目にして問題山積のまま拙速に「答申」を出しました。傍聴も許されず、カヤ
の外に置かれたままの流域住民は「理不尽だ」と不信感を募らせるばかりでした。「
まるで東京裁判のようだ」という声すら聞かれました。
 現代は環境・教育・農業がもっとも軽視されている時代ではないでしょうか。その
どれが失われても日本の将来は明るいものではありません。治山・治水・農業の神様
と言われた加藤清正公は「のちの世のために」を常に口にされたそうです。昔の政治
家の視点はいつも領民に向けられ、何百年後、いや1000年後2000年後を見据
えた政治でした。今こそ国民が何を望んでいるかが反映されてこそ、よい政治と言え
るでしょう。
 今年は先に述べた利水裁判の結審も近く、また「ダム絶対反対」を堅持している球
磨川漁協への支援も広がり、漁協の皆さんも漁業権の法的優位性の認識を深められつ
つあるところです。今年をまた次の出発点として山・川・海のつながりを更に強いも
のにしていけたら幸いです。
 日本一の清流川辺川、急流球磨川を後世に残していくために皆様のご協力とご参加
をお待ちしています。
  平成11年8月10日  代表 國徳 恭代


●川辺川ダムに「環境アセスメント」実施を求める署名活動にご協力をお願いします!
  このニュースレターと一緒に「川辺川ダム建設に関する『環境アセスメント』実施
の請願書」を同封させていただきました。川辺川ダムは計画が古いというだけで、環
境アセスメントさえも行われていません。今年6月12日に「環境影響評価法」が施
行されたのをきっかけに川辺川ダムにも環境アセスメントの実施を求める様、働きか
けることになりました。みなさまのご協力をよろしくお願い致します。詳細は同封の
説明文をお読みください。

【注意】集まった請願書は国会請願として衆議院・参議院にそれぞれ提出しま
    すので、お一人につき必ず2枚ずつ記入してください。
    住所は都道府県からご記入ください。
【お問合せ】國徳恭代 096-364-6039
            渡辺 誠 03-5459-2351
 http://kawabe.technologic.co.jp/990612/assess.html
 上記のURLから署名用紙&説明文がダウンロードできます。

●川辺川を守るために、仲間になってください。
    〜会員・カンパ募集中!!〜
「県民の会」の活動はみなさまからの会費とカンパでまかなわれています。会費・カ
ンパは以下の郵便振替口座にお振り込みください。備考欄に「会費」「カンパ」の別
をお書き添えください。ご協力をよろしくお願い致します。また、「定期カンパ」も
同時に受け付けています。
郵便振替:01940-8-13454(年会費:個人一口=2,000円 団体一口=5,000円)
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会


●第3回県民の会総会報告
去る6月6日(日曜日)、熊本市国際交流会館にて県民の会の総会を行いました。遅れ
ばせながら総会の議事内容を簡単にご報告致します。午後2時から2時間の総会は、4
0名収容の会議室で30名の参加者のもとで行われました。議事次第は以下の通りで
す。
 代表挨拶
 来賓挨拶(川辺川利水訴訟原告団茂吉副団長)
 昨年度活動報告
 昨年度会計報告
 本年度予算案
 活動目的の確認
 本年度の活動計画案
 その他(7/18シンポジウム開催等)
活動報告の資料としては、「新聞報道にみるこの一年の川辺川」と題して、地元紙熊
本日日新聞記事から「川辺川」という文字を含む記事の見出し一覧を用意しました。
了承された会計報告と、本年度予算は以下の通りです。


●平成10年度会計報告(省略)
会の目的は継承、役員は更新なしで続投と決まりました。また、本年度の活動計画案
として以下の4点が事務局より提案され了承されました。

(1)川辺川ダム建設に関する環境アセスメント実施の国会請願活動
(2)川辺川ダム建設絶対反対を掲げている球磨川漁協に対する流域市民による支援
   活動
(3)川辺川ダム事業基本計画変更に対する行政不服審査法による異議申立て
   手続きの継続(法律で認められた口頭意見陳述を引き続き求めていく)
(4)利水裁判支援の継続

 ただ川辺川をめぐる状況は刻一刻と変化しています。活動計画は、毎月第一火曜日
の定例会にて適時、重要な点に絞って計画を見直しながら活動を進めているのが実状
です。今年度の総会は、記念講演もなく小規模な開催であったため、拡大定例会とい
った趣でしたが、「環境保護が前面に出て治水目的への言及がわかりづらいのでは?」
「暗くて堅苦しい。もっと明るくやろう」等活発な意見交換がなされました。
 建設省は今年度中の川辺川ダム本体着工を計画しています。今年の活動は私たちに
とって非常に大きな意味を持つものになります。そんな中で、目的の再確認ができた
有意義な総会でした。


●川辺川をめぐる動き(99,4月〜8月)
4,25  統一地方選。人吉市長選では現職の福永浩介氏(59)が辛くも再選。人吉
   市議選に「ダム反対」を唱え立候補していた本村令斗氏(共産)は当選、
   原豊典氏(民主)は落選。
5,2  「第4回川辺川リバーミーティング'99」水質日本一祝賀会」開催。
5,10  荒瀬ダムに魚道が完成し、試験通水が始まる。この魚道の事業費は約10
   億円。
5,11 球磨川漁協理事会において、建設省依頼の実態調査への協力拒否を決定。
5,18  中村敦夫参議の川辺川ダム建設に関する再質問主意書に政府から答弁書が
   出る。
5,20  建設省、球磨川漁協に漁業補償交渉を正式申し入れ。組合長「話を聞い
   ただけ。交渉に応じるかどうかは、最終的に総代会で決める」
5,21  「川辺川ダム問題の解決を考える研究者の会」(代表・五十嵐敬喜法政大
   教授)が発足。
5,22  民主党・菅直人代表が川辺川ダム問題で2度目の来訪。球磨川下りを楽し
   んだ後、人吉市で開かれた「川辺川ダム問題と五木村を考える」シンポジ
   ウムに参加。
5,26  球磨川漁協・下球磨部会、動議で建設省などと具体的な話し合いを組合執
   行部に求める決議採択。
5,28  球磨川漁協・下球磨部会、川辺川ダム建設に伴う漁場や水質保全について、
   建設省や県などと具体的な話し合いを求める決議書を組合長に提出。
6,1   アユ釣り解禁。球磨川・川辺川に太公望の竿並ぶ。
6,5   「球磨川水害体験者の会」発足。
6,6   「県民の会」総会開催。
6,11  川辺川利水訴訟第十回口頭弁論。
6,17  人吉市議会、「球磨川水系ダム問題対策特別委員会」の再設置を決定。
6,23  球磨川漁協理事会で、下球磨部会から出された川辺川ダム建設計画に絡む
   条件整備の必要性を訴えた決議文は受理するに留め、今後の検討課題にす
   ることと、ダム建設絶対反対の立場を堅持しながら勉強会の開催を決定。
6,24  「公共事業チェックを実現する議員の会」設定のもと、「手渡す会」の代
   表や「川辺川・東京の会」メンバーが、建設省に川辺川ダム基本計画変更
   に対する異議申し立ての早期審査を要望。
6,25  「子守唄の里再生整備計画検討委員会」(委員長・三池亮次熊本工業大教
   授)第十一回会合を開催。
7,2   川辺川ダム建設促進協議会(会長・福永浩介人吉市長)の定期総会で、ダ
      ム本体工事の工期着工を図ることなどを決議。球磨川漁協への協力要請を
   申し合わせ。
7,5  五木村田中村議、環境アセスの署名活動の開始を発表。
7,8  五木村の水没者二団体、移転新築する住宅に太陽光発電の導入を申し合わせ。
7,8-9 川辺川利水訴訟で、熊本地裁による現地検証。元担当者の証言で白紙同意
   書で署名を集めていたことが発覚。
7,8-9 球磨郡町村会(会長・高岡隆盛相良村長)と球磨郡町村議会議長会(犬童
   卓一郎会長)、
   球磨川漁協に川辺川ダム建設事業への協力要請をしていくことを了承。
7,12  清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会、美しい球磨川を守る
   市民の会、球磨川天然アユを守る会、川辺川ダム建設促進協議会(会長・
   福永浩介人吉市長)に球磨川漁協への協力要請を行わないよう申し入れ書を
   提出。
7,13-14 球磨郡町村議会議長会、人吉市議会、川辺川総合土地改良事業組合、国営
   川辺川土地改良事業と川辺川ダム建設事業の促進を東京・福岡で要望。
7,16-18 中村敦夫氏現地視察団、五木村〜人吉市〜八代市〜熊本市を訪問。
7,18  「中村敦夫、市民と語る。〜木枯し紋次郎 川辺川ダムを斬る〜」シンポジ
   ウム開催。
7,19 球磨川漁協・下球磨部会、臨時総代会を開き、建設省との話し合いを進める
   ため、臨時総代会を開くよう球磨川漁協に請求する方針を決定。
      臨時総代会終了後、建設省川辺川工事事務所から川辺川ダム・五木ダム建設
   事業についての説明会開催。同ダム促進協議会の福永会長、副会長の沖田嘉
   典八代市長と理事ら二人が訪問。
7,19  川辺川ダム建設促進協議会(会長・福永浩介人吉市長)、球磨郡町村会(会
   長・高岡隆盛相良村長)、球磨郡町村議会議長会(会長・犬童卓一郎上村議
   長)、球磨川漁協へ川辺川ダム建設に協力要請。
7,19  五木村田中村議、環境アセス署名運動の発起人を辞退。
7,21  球磨川漁協、勉強会開催。宇井純沖縄大学教授が「清水バイパスと水質」に
   ついて、松浦秀俊高知県海洋漁政課主任が「アユの現状」について、天野礼
   子さんが「河川行政、世界の潮流・日本の現状」について講演。
7,21  下球磨部会の総代三人が建設省との協議を求め、球磨川漁協に72人の署名
   を添えて臨時総代会を請求。
7,26  球磨川漁協、定例理事会で8月10日に臨時総代会を開くことを決める。
7,26  「球磨川流域をきれいにする協議会」(会長・沖田八代市長)設立。
7,30  球磨川漁協、臨時理事会で8月10日に開く臨時総代会の議案である「建設
   省との協議開始」の採決法は出席者の三分の二以上とするのが適当との意見
   を示す。
7,31  川辺川ダム・仮排水路トンネルが完成。
7,31-8,1 球磨川水系ネットワークが「源流水リレー99」を開催。約300人参加。
8,4  「市民の会(八代)」「県民の会」「手渡す会」、熊本一規明治学院大学教授
   を招き、「ダム建設と漁業権」勉強会開催。
8,6  球磨川漁協の臨時総代会を求める署名集めの際、焼酎が配られていたことが発
覚。
8,7  球磨川漁協、一部総代から出されていた現職理事3人の改選請求について調査
   専門委員会(委員長・高澤組合長)を設置し事実関係を調べることを決める。
   同日、「川辺川ダム対策専門委員会」を発足。
8,10 球磨川漁協、臨時総代会で「絶対反対」を前提に、関係機関と話し合うことに。


●球磨川漁協をめぐる動き●
 8月10日、球磨川漁協の臨時総代会が開かれ、6時間にもわたる議論の末、ダム
絶対反対の方針と「話し合い」が漁業補償交渉を前提としないことを確認した上で関
係機関と話し合うことになりました。2月の総代会で「ダム絶対反対」を確認したば
かりであるのに、球磨川漁協最大の部会である下球磨部会の中で「ダム工事は着々と
進んでいる。ダム本体上流約20kmはダム湖になり漁場を失うことになるにもかかわ
らず、水産振興策もない。具体的な条件整備をする時期だ」「反対だけしていても状
況に乗り遅れる」という声が上がり、一部の総代が72人の署名を添えて臨時総代会
開催の請求をし、今回の臨時総代会開催の運びとなったものです。
 また、「川辺川ダム建設促進協議会」や「球磨郡町村会」「球磨郡町村議会議長会
」など、自治体の首長が会長となっている団体が次々と漁協に「協力」を要請してい
ます。これは漁協に対する行政の圧力に他なりません。これに先立ち、市民団体(「
市民の会<八代>」「手渡す会」「球磨川天然アユを守る会」)は、@行政が圧力をか
ける行為であること、A自治体の公有水面を守るという立場に反した行為であること
、Bむしろ、やるべきことは、公有水面の保全のため、建設省にアセスを要請するべ
きことなどとする抗議文を提出しました。
 マスコミ報道により、臨時総代会開催の署名集めの際に組合長や理事、県議秘書な
どが焼酎を持参して署名取りをしていたことが明るみに出ましたが、「議題ではない
」ということで取り上げられませんでした。議長の選出方法でも、慣例通りであれば
、議長は持ち回りであるはずなのに、選挙で選出された議長は推進派でその後の会議
の動向を左右したようです。その上、当初「三分の二」となっていた採決が過半数と
なるなど、不透明な動きもあります。マスコミ報道では「建設省と対話」「大きく方
向転換」などと報じられていますが、「ダム絶対反対」の姿勢に変わりはありません
。今後も、推進派と反対派の駆け引きはますます強くなるでしょうが、川辺川・球磨
川を守るためにダムに反対している組合員さんを孤立させないようにこれからもます
ます球磨川漁協への応援の声を上げていきたいと思います。


●球磨川漁協の仕組み●
球磨川漁協は組合員1900人程度で、八代部会、下流部会、下球磨部会、上球磨部
会と分かれ、20人程度に一人の総代がいます(全部で100人程度)。下球磨部会
はダム予定地の五木や相良、それに人吉、球磨地方が含まれ、全体の半分を占める大
きな部会です。八代部会や下流部会、市房ダムのある上球磨部会は今までのダムの苦
い経験から反対の姿勢を示しています。
 球磨川漁協は8月10日の臨時総代会でもダム絶対反対を再確認しています。漁協
が建設省に押しつぶされないように頑張っています。引き続き漁協への応援メッセー
ジをお願いします。

【応援メッセージの宛先】
〒866-0051八代市麦島東町14−1 
 球磨川漁業協同組合 ダム対策委員会御中


●『知らないと後悔する 漁業権の知識』
漁協が反対してもダムは出来るはウソです。
「漁業権と漁民の権利」

■漁業権を収用したら、困るのは事業者のほうです。

 漁業権の収用については、土地収用法及び漁業法に規定がありますが、土地収用法
で土地を収用すれば、土地の所有権が移転するのに対し、漁業権を収用すれば、漁業
権自体がなくなるのです。漁業権は移転の目的になることはできないので、国や県が
収用された漁業権を所有することは出来ません。
 漁業権がなくなれば、その水面で漁業が出来なくなるのではなく、誰でも(今まで
の組合員を含む)漁業が出来るようになります。漁業権が設定されてない水面では、
みんなが漁業をできるからです。
 そうなると、埋め立てやダム建設の事業者は、組合員だけでなく、漁業を行ってい
るあらゆる人たち一人一人を補償交渉の相手として同意を取らなければならなくなり
ます。つまり、漁業権を収用すると、ダム建設が今以上に困難になることを意味して
います。
 従って、条文では収用できることになっていますが、ダム建設や埋立に際して漁業
権収用を実際行うことは不可能です。また、収用例もありません。

■強いのは漁民。印鑑さえつかなければ
  ダム着工は出来ないのです。

「漁民が漁業をする権利を持っていて、ダムの建設には漁民の同意が必要なので、建
設省がお願いしているのです」また、事業の同意にたいしては、組合員全員の同意が
必要です。

 組合員全員の同意と補償金の分配が終わらないと、本体着工の許可はできないので
す。
 補償金を受け取る権利は漁民(組合員)個人が持っています。配分基準にも漁民全
員の同意が必要です。ですから、補償金の受領・配分は漁民個人から委任状や同意書
をとることが必要です。

 ダム反対の組合員さんは総代会の決議には関係なく、委任状や同意書に印鑑をつか
ないことが大事です。白紙委任状は絶対出さないことです。(このことで問題になっ
ているのが、川辺川利水裁判です)

※ 着工の許可もないのに、工事をここまで進めてきた建設省に非があります。
 組合員全員の同意がないと、着工できないのを知りながら、関連工事をどんどん進
め、五木村の人たちをあきらめさせ、過疎に追いやった建設省の方にミスがあります
。ここまで、工事が進んだからと諦める必要は全然ありません。川と生活をする漁民
の権利は、権力によっても侵されることのない、守られている権利なのです。


●私たちは「ダム絶対反対」の球磨川漁協を応援しています。
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会、球磨川の天然鮎を守る会、清流
球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会、八代自然観察会、子守唄の里・五木
を育む清流川辺川を守る東京の会、天草の自然を護る会、子守唄の里・五木を育む清
流川辺川を守る福岡の会、水源開発問題全国連絡会、美しい球磨川を守る市民の会(
八代市)、人吉温泉旅館組合員・堀尾芳人、脊梁の原生林を守る連絡協議会、八代女
性市民の会、ガイアみなまた、
徳島県木頭村元漁協組合長・高石康夫、株式会社「つり人」社社長・鈴木康友、株式
会社週刊釣りサンデー編集局・平井忠司、尺鮎会代表・太田博文(広島市)、熊本県
保険医協会、環境ネットワークくまもと、環境共育を考える会、コミュニティーネッ
トワーク協会、水環境会議熊本、ブナの森を育てる会、暮らしと廃棄物を考える熊本
の会、中村敦夫、やまんたろ・かわんたろの会、日本湿地ネットワーク、「瀬音の森」

◇◆◇球磨川漁協支援団体になって下さい。◇◆◇
球磨川漁協支援団体になっていただける方はE-MAIL yokon@ab.mbn.or.jp(西田陽子)
までご連絡ください。


●第4回川辺川リバーミーティング99/水質日本一祝賀会

 5月2日、今年も球磨川の球磨川下り発船場近くでリバーミーティングを行い、カ
ヌー約50艇と約100人の人が集まり、「川辺川ダム反対!」「ムダな公共事業は
いらない!」とシュプレヒコールを上げて川辺川ダム建設反対を訴えました。
 同日夕方からは、昨年末の環境庁の水質調査で川辺川下流が「日本一」となったこ
とで、相良村の川辺川の河原で、「水質日本一祝賀会」を開きました。うんばば中尾
氏の司会のもとで、地元小中学生による「ねぶか太鼓」の披露の後、川辺川源流の水
で乾杯し、地元住民や川漁師、農家の方のお話や川辺川原住民(?!)の踊りや五木出身
の方の歌など楽しい時間を過ごしました。今年も遠くは千葉や沖縄など全国から約2
00名の参加があり夜が更けるまで川への思いを語り合いました。


●中村敦夫参議院議員の川辺川ダム建設に関する再質問主意書に対し、政府からの答
弁書が出ました。

=切り札で、自分の手を切る建設省=

 5月16日、参議院議員中村敦夫氏から出されていた質問主意書の答弁書が出てきま
した。今回質問主意書の内容は、大きく分けて清水バイパス・選択取水装置の効果に
ついてと、漁協への補償問題についてです。
 まず、建設省が切り札と考えているこのふたつの装置は、五木村と球磨川漁協から
みると全く相反するものだったということです。というのも、きれいな水のダム湖を
村の観光に役立てようと考えている五木村にしてみると、きれいな水だけを下流に流
すこれらの装置は、とんでもないものです。
 球磨川漁協にしてみると、仮にそれらの装置がうまく働くということは、明らかに
「ダムが水質を悪くする」ということを証明したことに他なりません。

 答弁書では、「両装置による濁度防止と、水温低下防止の効果」を明らかにうたっ
ています。さらに世の中には存在していない「清水バイパス」についても、その実証
あるいは検証は必要ないとまで言い切っています。これにより水没する五木村への配
慮が、全く欠けていることが明確です。補償交渉がほぼ済んでしまった五木村には目
もくれずに、明らかに今、優先される球磨川漁協への補償対策しか考えていません。

 一方、ダム工事完了後、両装置が機能するということは、漁協への補償もダムの工
事期間中だけに限られるということを明確にした答弁でもあります。つまり、工事期
間中の約10年ほどだけは、水質に影響がある(かもしれない)けれど、ダムが完成し
た暁には水質は悪くならないのだから、補償の対象外だということになります。
 もっとうがった見方をすれば、ダム完成後に鮎等の漁獲量などにかなりの変化があ
ったとしても、ダムには「効果のある」装置が付いているのだから、ダムとの因果関
係はないということになります。その証拠に答弁書の最後に「漁業補償については、
同ダムの建設に伴う影響等を踏まえ、適切に行われるもの」となっています。あくま
でも「同ダムの建設に伴う影響」であって「建設後」ではないのです。

 今回の質問主意書の答弁では、建設省の切り札であったはずの「清水バイパス・選
択取水装置」が、ざっくりと自分の腹の中を割いてさらけ出してしまったことになり
ます。

   子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る東京の会  渡辺誠


●5月21日、「川辺川ダム問題の解決 を考える研究者の会」(代表・五十嵐 敬
喜法政大教授)が発足しました。
 「公共事業チェックを求めるNGOの会」が公共事業の問題に詳しい五十嵐教授に
要請して結成。「川辺川ダムはある程度事業が進んでいるが、時間の経過で不必要に
なった公共事業を解決させる研究が必要。川辺川ダムはこのテーマの全国モデル」と
して、今後知恵を結集して解決に図りたいとのことです。設立メンバー(敬称略):
五十嵐敬喜(法政大学・立法学)、宇井純(沖縄大学・環境科学)、坂本紘二(下関
市立大学・土木計画学)、原田正純(熊本学園大学・社会福祉学)、保母武彦(島根
大学・財政学)、丸山隆(東京水産大学・海洋環境科)、宮入興一(長崎大学・経済
学)


●5月22日、菅直人民主党代表、球磨 川下りを楽しみ、シンポジウムに参加
 菅代表は12月に引き続き人吉を訪れ、「研究者の会」の会員や地元の市民グルー
プと球磨川下りを楽しんだ後、人吉で開かれたシンポジウムに出席しました。シンポ
ジウムでは梅山究原告団長、球磨川漁協から三室前組合長や塚本理事による利水裁判
や漁協の現状の話の後、五十嵐氏が「公共事業と地方財政破綻の現状」、丸山隆氏が
「川辺川ダムとアユ」、天野礼子氏が「ダムは止まる」、菅代表が「ムダな公共事業
中止を市民へ約束」とそれぞれ題して講演。菅代表は、「菅内閣ができれば諌早の水
門を開け、吉野川河口堰は白紙に戻し、長良川河口堰の水門も試験的に開け、川辺川
ダム計画は根本的に見直す」と明言しました。


●6月5日、「球磨川水害体験者の会」 が発足。
 昭和40年7月3日に球磨川流域で発生した「7・3水害」は球磨川上流の市房ダ
ムの緊急放水によって水害が拡大したとして、「水害体験者の会」を結成。ダムに頼
らない水害防止策を関係諸機関に要請していくのだそうです。


●6月11日、川辺川利水訴訟の第10回口頭弁論が熊本地裁で行われました。

=農水省が崩れた=

6月11日の川辺川利水裁判を傍聴しましたので、ご報告します。

 今日は被告の証人尋問でした。大型公共事業の、ひいては川辺川ダム建設のもっと
も説得力のある口実として進められつつあった川辺川利水事業が、誰の目にも、その
終わりを実感できた、最高の一日でした。一日と言うのは、文字どおり朝の10時か
ら、夕方6時40分まで延々8時間、マラソンみたいな激しい証人尋問がおこなわれ
たからです。水俣病裁判もずいぶん傍聴してきましたが、私にとってはこんなに長時
間の法廷は初めてでした。熊本地裁の、この裁判にかける真剣さが伝わって来るよう
で、この点でも感心しました。

 さて、今日の証人尋問は、主に同意書取得にかかる関係者の尋問です。当時の農水
省川辺川事業所次長の藤本氏、土地改良事業組合事務局長だった友田氏、人吉市農林
整備課長補佐の丸山氏と、それぞれ国(農水省)、事業組合、関係市町村の、不正な同
意書集めに携わった責任ある立場の人々です。

 弁護団からはそれぞれの証人に対する反対尋問がおこなわれました。詳しいことは
後で弁護団が報告することを期待して、私にとってのポイントだけお話します。

@最初に計画があり、国はそれを実現することをだけを目的にしたこと 土地改良事
業は申請事業であり、受益者である農民が事業を希望して申請することから、その事
業が計画されなければならないのに、最初に計画があり、農民の意志とは無関係に進
められてきた事です。土地改良事業を推進するのは誰か?との問いに対し、藤本氏は
2/3の同意を集めることと、ピント外れな答えをしました。農業を取り巻く情勢が
大きく変化し、高齢化、後継者難で耕作面積が大きく縮小したことを農水省みずから
認めてい
るのに、何がなんでもダムの水の分配先としての利水事業を推進することしか選択肢
になかったと、みずから認める発言をしてしまったことです。
このことは、今までも私たちが認識してきたことですが、当の農水省の現場責任者か
ら、事業の中止は考えてもみなかったし、同意を集めることが自分達の責任だと認識
していたと、生の声で堂々と答えられると、日本の行政はどうなっているのと憤りを
感じました。

A同意書の成立要件を誰も関知しなかった無責任体制
 同意書集めの責任者は、同意書取得にあたっては、直接本人に事業内容を説明して
、理解した上で本人の自署・押印を貰うことが基本原則であると認識している、とい
う言い回しをおそらく20回ぐらい法廷でしゃべっていました。
 それでは、当時死亡していた人の署名と押印が70件も発覚したのはどういう訳か
、死亡者に説明し、死亡者から署名を貰うのは難しいのでは?との弁護士の問いには
答えることが出来ませんでした。代筆についても、全て当事者任せで誰も代筆の理由
をチェックするしくみが全く無かったと答えていました。要するに、同意書と書いた
一覧表に第三者が勝手に署名し、三文判を押しても、全く本人の自署であるか判別す
るしくみが無かったことを、同意書集めの責任者がみずから答えたことには驚きまし
た。

 今日の尋問で、農水省の事業推進の根拠が完全に崩れました。これは、土地改良と
いう名の"ダム"が崩れたことでもあったと思います。
 今後、7月の現地検証、9月の原告本人尋問と、判決へ向けた最大の山場を迎えま
す。全国の皆さんの監視が裁判所を励ますことになると思います。
                                大畑 靖夫


●7月8〜9日、川辺川利水訴訟で初めての裁判官による現地検証

 裁判官による現地検証で、原告側農家は「ダムの水はいらない」と訴えました。ま
た、白紙の同意書を使って対象農家の署名・捺印を集めるというずさんな同意の取り
方をしていたことが明らかになりました。(記事参照 p.9)


●7月31日、2年前から工事を進めていた仮排水路トンネルが完工しました。

建設省が川の流れを変える為に今後川の仮締め切り工事に入るには、球磨川漁協組合
員全員の同意が必要となります。球磨川漁協の組合員が一人でもダムに反対している
限り、川辺川ダム本体には着工できないのです。今後も引き続き球磨川漁協への応援
をよろしくお願いします。(*1)

*1 本体着工及び仮排水路に水を流すためには、建設省は「公有水面埋立法」に従っ
て、球磨川漁協の同意を得なければいけませんが、まだその手続きは済んでいません
。また「同意」は全ての組合員から取ることが必要で、一人でも反対する人がいれば
勝手に工事を進めることはできない決まりになっています。


●「東京の会」レポート

  昨年末以来、建設省への資料請求や質問趣意書を出して下さっている中村敦夫参議
院議員初の現地視察団は、東京から総勢20名もの人数になりました。ビデオジャー
ナリストの神保哲生さん、日本湿地ネットワーク代表の山下弘文さん、諌早問題にも
ご活躍中の西田弁護士、国民会議に共鳴する東京の区議や市議らに加えての取材陣、
そして、東京の会に参加して下さっている田中信一郎秘書らがメンバーです。

  中村議員は、「体制のオルタナティブとしての合州国制」つまり、それぞれの地域
からの国興し、住民や自治体政治家が地域主権を得ることを政治理念としています。
ゆえに中央行政の都合で押し付けられている川辺川ダムはもってのほか、「地方サカ
エテ山河アリ」であって欲しいとの思いでの二泊三日の視察旅行でした。
  五木村では、西村村長からはダムが中止になったら造りかけの道路や代替え地がど
うなるのかという切実な訴えがありました。清水バイパスができたらダム湖が濁るこ
とは間違いないと答弁書をもらっている中村議員ですから、ダム湖に観光客はこない
ときっぱり。五木村の未来を考えて環境アセスメントを実施してもらうべし、と強調
しました。
「立派なお顔をしていらっしゃるから大丈夫」と、褒められた村長はご機嫌で一緒の
写真に。紋次郎の行くところ記念写真あり・・・。
  人吉では、これまでダム問題に関わってこなかった商工会議所青年部の皆さんとの
昼食会がありました。今回の視察では、ダム反対を主張できない五木村の田中雄士村
議さんや、こうした立場の方たちのことを考えた実行委員会形式での主催をお願いし
ました。田中村議には、署名用紙で連絡先になっていただていましたが、水没者から
の要望もあってそれは降りることになりました。それでも五木村に環境アセスが必要
なことは正論であるという立場でご発言をしていらっしゃります。
  人吉のシンポでは、神保さんがどうやって建設省が地元を騙すかを、山下さんがい
かに有明で諌早干潟の干拓に賛成した漁民がほぞをかんでいるかを、西田弁護士が官
僚の嘘を力説して下さりました。
  翌日、瀬戸石ダムまで高澤組合長、塚本理事らがお迎え。荒瀬ダムの10億円の魚
道、瀬戸石ダムの電気つき魚道にはびっくり。税金の無駄遣いの追求に余念のない国
民会議の区議たちの注目を集めました。
  漁協では、3名をのぞく全員の理事らと東京組が、部屋を二分して相見える形で話
し合いがありました。三室前組合長の静かな熱意、つり名人の塚本理事が五木村の人
たちを思うと反対もいいのだろうかと投げかけて下さり、そこにお隣に座る五木村総
代の犬童さんが率直につらい胸のうちを語って下さりました。高澤組合長は、挨拶以
外は無言。
  先祖から受け継いだ川を鮎を大事にして欲しいという中村議員からのメッセージ。
神保さんは建設省は文書での約束以外は守らないと強調。山下さんは、具体的に潮の
流れや漁獲高の減少など痛切な話題をもって理事の皆さんが肯いて聞いて下さるお話
をなさりました。そして3人がかわるがわる漁業権の絶対を主張。五木村がダムが出
来なければどうなるのかと心配そうな話には、ダムが出来ない方がもっと有名なエコ
ビレッジになれる可能性があると強調。東京の会では、今後、ダムがない方が明るい
未来があること、「エコビレッジ構想」の情報をお伝えするなどの応援をして行く必
要があると痛感しました。
  相対しての話し合いに、真剣に耳を傾けて下さる理事さんたちの表情もわかります
。東京チームも真剣に彼らの話しを聞き入りました。問題は、漁協だけのものなので
はない、全流域のものであり、そして、やっぱり東京でも考えなければいけないこと
なのだということを参加した全員が胸を熱くしながら感じ取ったように思います。そ
うした思いを共有できたことが、今回の視察旅行の大きな収穫でした。
  バスに飛び乗っての熊本市行き。今度は車中案内はつるさん。鹿児島空港から五木
までは、重松さん、茂吉さん、吉村さん。八代までは、吉村さん、塚本さんと道中の
説明も充実でした。相良村での六角水路、茶湯里見学、区議からの希望で緒方医師の
老人保健施設見学と盛りだくさんでした。東京から参加して下さった皆さん、充実の
三日間だと喜んでいただけたようで感謝です。
  熊本市でも白熱のシンポ。若い方がたくさん参加して下さって、これからの運動の
広がりが期待できるような気がいたしました。「フライデー」は密着取材で、お盆の
スペシャル号(8/11発売)で特集になりました。くま川鉄道の鉄橋の上から合流点を
見る颯爽とした中村議員の写真は、光文社から出版される彼の次の本に使われること
でしょう。(つり人社「MR.ローガン」9月発売号では、文・タカハシ+写真・ワ
タナベでの報告が載ります)

  ★☆★ 8/11発売の週刊誌フライデースペシャル99盛夏号に中村敦夫 ★☆★
  ★☆★ 「3000億円のムダを斬る」という記事が出ています。       ★☆★


●シンポジウム「中村敦夫、市民と語る」開催

 7月18日、熊本市で「中村敦夫、市民と語る〜木枯し紋次郎、川辺川ダムを斬る
」というシンポジウムを開きました。会場のNTT熊本会館には、ほぼ満員の約15
0名が参加し、有意義な話に会場は熱気があふれていました。また、今まで川辺川の
イベント等に参加したことがない人が全参加者のうち約半数と、川辺川ダム問題の広
がりも実感できる催しとなりました。当初パネラーに予定していた高見裕一さんは、
残念なことに、訪問されていた中国での交通のトラブルで参加が無理ということでし
たが、飛び入りで諫早の山下弘文さんが参加されました。

   =川漁師・吉村勝徳さんの話=
 川辺川との合流点より上流の球磨川は市房ダムができた関係で、ダムからの泥水が
流れてくるので非常に濁っている。川辺川の清水があるからこそ、それよりも下流の
球磨川はかろうじて生きている。それでも、日本国内において数少ない天然アユを供
給できる川だが、川辺川がダメになればそれは不可能になる。
 アユが絶滅するというのではなく、今のように「香魚」と言われるおいしいアユが
獲れなくなり、商品価値がなくなる。建設省が考えた「清水バイパス」は上流からき
れいな水を下流に流すというものだが、五木村長は「そんなことをするとダム湖はド
ロだらけになるのでどうにかしてくれ」と建設省に要望書を提出している。だが、政
府の中村議員による再質問主意書への答弁の中で「清水バイパスと選択取水装置の併
用で球磨川漁協には影響は及ぼさない」と言っているので、建設省としては五木村長
にいい態度をすることは不可能となっている。
 荒瀬ダムに魚道ができたが、魚道を上がっても発電所まではたまり水しかない。た
まり水は酸素量が少なく、アユは呼吸ができなくなる。また流れもほとんどないので
、アユは方向性を失い、大水の時以外遡上することができない。例え魚道を上がるこ
とができたとしても、そこはダム湖の中で流れが非常にゆるやかとなるので、そこか
らまた上流に登るのは至難の業となる。
 「どんなに反対をしても工事は進められ、何も変わらない。誰が反対したら止まる
のか?」という質問に対して:追いつめられているのはむしろ建設省の方だ。漁協に
対する外堀内堀もどんどん埋められてきているが、ダム本体にはまだ手をつけられて
いない。進んでいるのは五木村の再生のための工事だ。「漁業権」というものは何に
も増して強いのだから、建設省は漁協を無視して本体に手をつけるわけにはいかない
。負けてるのは建設省。これは間違いない。

   =中村敦夫さんの話=
 東京からジャーナリスト・地方自治体の議員・弁護士を含む総勢20名ほどの視察
団で3日間、上流から下流まで見てきた。大都会の東京では、川辺川の問題はみなさ
んの想像以上に関心が高く、美しい山野を守って欲しいという声が非常に強い。
日本は今、財政赤字600兆円と言われているが、実際にはあと数百兆円あるという
。今のままでは税収と予算のバランスが取れず、借金が毎年増え続ける。これは確実
に将来、重税、福祉カット、教育費カット、年金カットということになる。このまま
では日本は経済国家としての信用を失墜し、三等国家になってしまう。その大きな原
因の一つとして「公共事業」という名のもとに莫大な金が毎年ばらまかれているとい
うことがあげられる。それにより一部の政治家や官庁、一部の企業が瞬間的に潤って
いる。特に土木関係に関わる人は多いので、そこにばらまくことにより、今の与党は
選挙で圧倒的な票をかき集める。またばらまいた金を献金としてもう一度受け取ると
いう構造になっている。それが600兆円という借金になってしまっている。日本で
は基盤整備が整った後も各省庁が利権を守るために無駄な浪費を続けている。その典
型的な例がダムである。造ることが目的化し、その結果逆に大変な被害が生じてきて
いるのにストップできない。右肩上がりの経済成長が止まり、成熟した社会に入った
日本では、税収が落ち込んでくるのでお金の使い道を考えないといけない。与党議員
が金を運んで支持を得ていたという社会の構造は今後、不可能になる。
 上流・中流・下流と見てきた。上流の問題は五木村の問題で、五木村みたいな大変
情緒豊かな伝統のある村は努力次第で観光客をたくさん呼べる。なのにそれを水没さ
せてしまう。ダムによって生態系が変わる。水は腐る。観光客は減り、代替地は地質
的に危ないので住む人がいなくなる。唯一の生き残る道は村の人たちが一生懸命アイ
ディアを出し、他の人たちの意見も聞き、ダムなしでの村おこしを懸命に考える以外
に答えはない。中流の人吉では洪水の問題。そもそも川辺川ダムで人工的に自然現象
をコントロールすることは不可能だ。建設省の計画通りに雨が降るわけはない。欧米
ではダムを壊しているのに日本は逆行している。下流の球磨川漁協は一生懸命心配し
ている。川辺川ダムで下流の漁業が壊滅する可能性もある。3日間いろいろ考えても
メリットは何もなく、全部マイナスになる。メリットがあるとすれば、推進して一時
的に金儲けしたいという人だけ。私は世界何十カ国も旅して、日本がすばらしい自然
に恵まれた国だとわかったのだが、それを破壊していくと、経済的にも文化的にも健
康においてもろくな事はない。

   =神保哲生さんの話=
 公共事業や海外のODAをずっと取材してきたが、まず3日間の感想として、私が
今まで国内で取材したダムサイトのどこに比べても、川辺川が一番すばらしい自然を
残した川だと痛感した。よそのダムは既にダムがいくつかあり、更にその上にダムを
造ろうとしているが、川辺川にはまだダムが一つもない。そこにあんなとんでもない
ダムを造ったら日本は終わりだと思う。本当に川辺川はすばらしい。
ダムに限らず公共事業は本当に必要かどうかの検証なしに、事業を推進するためだけ
の理由を付け足してもっともらしい理論武装に基づいた計画ができるということを知
っておいてもらいたい。最初に事業ありきで、今の構造は全くチェックが入らないよ
うになっている。ダムを造り続けないと今の利権構造が維持できなくなってしまうた
めに造られているにすぎない。今まで取材した中で、ダムに合意してよかったという
ところは一つもない。高度成長期には、本当に利水や電源開発が必要だった時代はあ
ったが、今、治水・利水・電源は、2650億円という費用対効果を考えると、どう
考えても正当化できない。それを止めようがない。唯一止める方法は、漁業の方達も
含めて生活基盤を脅かされる方々が声を上げ、自分たちの生活権や漁業権を主張する
ことだ。今本当に川辺川は瀬戸際だと思う。このまま行けば、環境も財政も破綻し、
維持費も大変。水害も止まらない。2650億円かけて、それを回収できるわけがな
い。間違いなく日本はどこかで変わらざるを得ない。変わる前の汚点の一つとして歴
史に残るか、川辺川ダムが変わる転換点になるかの瀬戸際だと思う。もし川辺川ダム
が止まれば、他の分野にもものすごく大きな影響がある。住民が立ち上がり、正当な
権利を当たり前に主張することで、公共事業は止まるということを世の中に見せられ
るかどうかの瀬戸際だ。外から川辺川をできるだけ応援していきたいと思うが、何よ
りも地元の方々が自分たちの当然の権利をまず主張し、実際にダムの問題点を知れば
、イヤでも反対せざるを得ないと思う。
 ダム事業にしろ、道路事業にしろここ25年間比率が全く変わっていない。この問
題は、それをもっと環境事業や福祉事業などの本当にニーズのあるものにまわせるか
どうかという綱引きの問題でもある。財源をそういうものに使えば富も生み出すし、
生活を豊かにすることも可能なはず。ダムは万里の長城を別にすると人類最大の建造
物だそうだが、コンクリの固まりになって環境やコミュニティーを破壊し、破壊する
ものにそれだけのお金を使われるか、もっと有効なものに使われるかということは本
当にこれが瀬戸際じゃないかと私は思う。

   =原田正純先生の話=
 医学が専門の私は、医学と川辺川との関わり方でとまどっていた。環境問題に40
年携わり、いろんな国に行ったが、先進国ではダム建設も原子力発電も、やめようと
している。日本だけが原子力発電所をあと20造るなどと言っている。先進国=民主
主義が確立している国では、軍備や、ダムを中心とする自然破壊や原子力エネルギー
などを止めているのに、逆行しているのは日本だけだ。
 水俣病をめぐって40年近く特に企業や行政と争ってきたが、「専門家とは何か」
ということが問題となる。原子力もダムも、官僚が決定するが、その裏に必ず専門家
が存在する。新聞社に調べてもらったら、中央の官庁に官僚から選ばれた審議会や専
門家会議などがあり、これが述べ5300人いる。中央官庁にそれだけの専門家が動
員され、それが各県・各市町村にある。専門家がみんな悪いわけじゃないが、中には
いくつも掛け持ちでされている人もいる。
 水俣問題では最初に「計画ありき」あるいは「結論ありき」ということをいくつも
経験してきた。結論が先にあるものに、必要な専門家が動員されるから反対意見の人
はどんなに実績があっても入れてもらえない。問題は選定基準で、選定の方法や会議
の中身も公表されない。自由な討論を保証するということで全く闇の中。中には真面
目にやっている専門家もいるが、何か問題が起こると「専門家の意見」ということで
、隠れ蓑になっている部分がありはしないかと思う。
 金融、経済、介護保険、環境問題、何にしても、必ず専門家、特に大学の−−私も
そうだが−−先生達が利用され、それが隠れ蓑になってとんでもないことになってい
る。そして結果的に責任を取ろうとしない。エイズがいい例だが、責任の所在に問題
がある。
 ダムの問題にしても何の問題にしても、国民から専門家は信頼をなくしていってる
のではないかと思う。専門家としての責任を全うするためには、信頼を取り戻すため
に何をしたらいいかということを考えなければならないと思う。山下さんはたくさん
そういう経験があると思うが、専門家に泣かされることが多い。責任をお互いになす
り合って責任の所在がはっきりしない。そういうことで日本をダメにしていってるの
ではないかと思う。ささやかだが、川辺川に対して何ができるかと考えると、少し地
元にいて遅すぎたという気がしないでもないが、しかしやはり何か信頼を取り戻すこ
とが何か一つくらいできないだろうかということを今考えている。遅ればせながら、
今までのいろんないきさつやデータを整理して、住民の武器になるような科学的なデ
ータを整理してみたい。それくらいだったら私にもできるんじゃないかと思う。その
時にはみなさんにも色々と批判をいただきたい。幸い水俣を通じていろんな学者の先
生方を日本国中、あるいは国際的にも少しは知っているので、そんな方達を巻き込み
ながら、本当に国民に信頼を取り戻せるような仕事ができたらと思う。

   =山下弘文さんの話=
 スイスというのは戦前、山も海も川もムチャクチャに壊した。戦後すぐ失敗に気づ
いて、政府も学者も一生懸命、元の自然、元の川に戻そうとしている。スイスはすば
らしい観光地だが、あれは戦後人間の手で作られたもので、それを先進的にやってい
るクリスチャン・ゲレジー先生に言わせると日本の自然は「救いようがない」と言う
。だが救う方法は「2つある」そうだ。教育制度を抜本的に変えることと倫理学を確
立すること。この2つがキーワードだと。
 官僚というのは常識も科学も通じない、特異な存在だ。「諫早の水門をどうして開
けられないんですか」と言うと、「水害対策だ」と言う。「気象予報が発達している
からわかるんじゃないか。大雨や洪水の時にだけ閉めたらどうか」と言うと、農水省
の構造改善局の課長は「気象庁は信用できない。晴天の時に一天にわかにかき曇って
、諫早水害の集中豪雨以上の雨が降るという可能性は捨てきれない」。「アメダスも
信用できない」と言う。わざわざ当たり前のことを質問主意書の答弁書に書いてくる
。そこで、考えたのは、どうも官僚はエイリアンではないかと、官僚エイリアン論と
いうのをやっている。エイリアン相手に闘うのなら、地球防衛軍を作ってウルトラマ
ンで戦う以外にないんじゃないかと言っていたら、去年、タイムという雑誌で「地球
のヒーロー」になった。ゴールドマン環境賞ももらったが、この地球のヒーローが嬉
しかった。
 実は官僚は国民とは全然異質で、今でも天皇陛下から任命されている。だから官僚
というのは絶対謝らない。間違ったことをしない。天皇から任命された官僚が謝った
り間違ったことを言うことはない。間違っているのは住民の方だという確固たる信念
があるという。これをなんとかしなければならない。
 倫理では、日本人は江戸時代、明治維新前は自然を殺さないように、怒らせないよ
うにして、つき合ってきた。クリスチャン先生は、江戸時代のすばらしい日本人の自
然観を取り戻す以外にないと言われた。ついでに「開発計画とは何か」と訊くと、「
今ある自然のどの部分をどのように残すかということを決めるのが計画だ」と答えた
。日本はどこを取っても金太郎飴みたいな計画がはびこり、誰かが大儲けしている。
 すばらしい自然や海や干潟とか川は、子ども達にとって大切な場所だ。僕は小学校
の時、自閉症児的な症状でどもりで人とつき合うのが大嫌いだったが、自然や動物が
助けてくれた。公文出版から「むったんの海」という絵本が出ているが、これは小学
校4年生のSちゃんが、絵も文章もたった一人で考えて出した本で、英訳もついてい
る。Sちゃんはギロチンが落ちた後、干潟の勉強をして紙芝居を作った。その紙芝居
を見て僕は感動して、絵本にしようと思った。学校の先生は評価してくれなかったが
、できあがった時に悪かったSちゃんの目がよくなるという奇跡が起こった。干潟や
川という自然はそれほどの力を持っている神様なのだから、それにあまり手をつける
なと言いたい。

--------------
 各氏の話に続き、会場とのディスカッションでは、山下さんは住民による環境アセ
スメントを推薦され、それに対して神保さんがアセスメントをする業者をチェックす
ることの重要性についての話があり、実際に人吉で昭和40年7月の水害に遭われた
体験者の方が、市房ダム放水のせいで被害にあったことを訴えられました。中村さん
や神保さんからは川とうまくつきあい、被害が起こったときに補償する仕組みの提言
に加え、国会内部の仕組みや官僚とゼネコンの関係、また五木村がダムなしで生き残
る方法としては流域全体で協力し、住民自身が生き残りの方法を真剣に考えることが
大事だと力説されました。最後に、視察団のお一人である東京の区議さん(自民党)
からは、一人で墨田区の庁舎建設費を大幅に削減された実績から、「川辺川もマスコ
ミをうまく使えば必ず成功する」と心強い言葉をいただきました。


   □△▼◎ おしらせ ◎▼△□
●「県民の会」事務局連絡先について
 今まで県民の会事務局と称して川本の自宅を使っていましたが、先月末引っ越しま
した。とりあえず連絡先として川本の転居先をお知らせしますが、事務局としては今
後の事も考えて、どこか適当な場所はないかと探しているところです。それまでいろ
いろと会員の皆様にはご不便をおかけしますが、どうぞご理解頂きたいと思います。
よろしくお願い致します。
【連絡先】川本正道 TEL/FAX.096-325-6314 
 〒860-0012 熊本市紺屋今町2-13中田ビル4階

●「県民の会」定例会は毎月第一火曜日に行 っています。どうぞご参加ください。
9月の定例会 9月7日(火曜日)午後7時半〜
場所 秋津レークタウンクリニック2階会議室
      熊本市秋津町秋田3441-20

●「東京の会」事務局が引っ越しました。
 〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町22-17GS201号
  有限会社アクセラ内  担当:渡辺誠
    Tel.03-5459-2351  Fax.03-3463-0288
 ※「東京の会」9月定例会
  日時:9月14日(火曜日)午後7時〜
  場所:青山「コピス」Tel:03-3407-4717

●第3回清流・川辺川現地調査 8/28-29
 28日:現地調査・交流会 受付11:30〜
   相良村柳瀬構造改善センター(川辺川河畔)
 29日:全国の住民運動に学ぶシンポジウム(予定)
      受付9:00〜 JAくま藍田支所
(人吉市西間下町118-1)
 【問合せ】川辺川現地調査実行委員会 tel&fax 0966-24-4844
 ※詳細は同封のパンフレットをご覧ください。

●「清流球磨川・川辺川を守る全国集会」
〜漁民と共に日本一の尺アユを守ろう!〜
日時 9月25日(土)18:00〜
場所 人吉カルチャーパレス 小ホール
主な内容:1)川辺川ダム計画の科学的検討(水源連事務局)
     2)全国からの応援の声
     3)「漁業権で球磨川水系を守る」
        熊本一規氏(明治学院大学教授)
     4)パネルディスカッション  
      「清流球磨川・川辺川を守るために」

●ビオフェスタ99 今年も福岡で、日本一の鮎の塩焼きを出店します。
日時:平成11年10月24日(日)
場所:福岡市南区平和1−6−1
      福岡NPO共同事務所(西高宮小学校隣り)
問合せ:高木090-8296-0554  村松 090-9409-7464

●全労済から助成金が30万円下りました。
川辺川ダム問題と川辺川の自然をわかりやすく解説したリーフレットを作りますので
、お楽しみに。
 
●雑誌「アウトドア」(山と渓谷社)に川辺川と諫早の記事が連載されています。(
9月号から4回連載)「九州二大公共事業をつなぐカヌー旅」

●ラジオ番組・うんばば中尾の「やるざんす」(FM中九州 11:30〜11:55 月〜
木)では現在、毎週月曜日に川辺川ダム問題の話題で盛り上がっています。聴いてみ
てください。