子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ニュースレター  第 3 号 平成9年(1997年)7月15日発行




NEWS!
●利水裁判の原告と補助参加者が2000人を突破!
 前号で利水裁判における原告および補助参加者数が1805名に達した事をお伝え
しましたが、その後も補助参加者数は増え続け、ついに2045人となりました(川
辺川の会発表)。
 利水裁判は、国営川辺川土地改良事業の変更計画に対する異議申し立てを棄却
されたことで、この棄却の取り消しを求めて地元農家が起こしている行政訴訟で
す。もともと土地改良事業は、対象農家の3分の2以上の要請が前提となって進
められる事業であり、農家が裁判に訴えてまでも事業の継続を望んでいない事を
証明しようとする事自体、前代未聞のことであるといえます。裁判の中では、ほ
とんど詐欺まがい言える役場職員による同意ハンコ取りの実態が明らかにされて
います。
 今回、原告と補助参加者の数が対象農家(4000戸)の過半数を超える2045名と
なった事で、川辺川土地改良事業の破綻はより鮮明になってきました。ただし農
水省は、原告および補助参加者のなかには対象農家に含まれない例もあるとして、
裁判の中で争う姿勢を明確にしています。(毎日新聞ホームページ・環境のページ
http://www3.mainichi.co.jp/hensyuu/kankyo/tokuhain/index.html)今後の裁
判の重要な争点となるでしょう。
 そもそも対象農家の名簿さえ裁判で訴えられて初めて農水省は公にしました。
誰が同意したのかという同意者名簿はやっと次回公判(9/3)までに公開する予
定です。つまり、誰が望み、誰が受益者として償還金を払うことになるのかさえ
公開されないまま、380億円もの税金を投入する事業が進められてきたことにな
ります。しかも止めてくれという農家の異議申立てを却下しているのです。現在
の農政は我々市民の常識からかけはなれたところにあるようです。
 川辺川土地改良事業の破綻は、川辺川ダム建設目的の大きな柱である「利水」
が目的として消失することを意味します。この裁判に注目しましょう。8月30日
には原告団を中心とした実行委員会主催の現地調査会が開かれます。県民の会も
参画しています。多くのみなさんの参加をお待ちしています。

●柏崎原発反対議員グループ手渡す会と意見交換
 世界最大規模の原発が稼働中の新潟県柏崎市の市議4人と隣接する刈羽村村議1
人の議員グループが行政視察で7月1日人吉を訪れ「清流球磨川・川辺川を未来に
手渡す流域郡市民の会」のメンバーと意見交換しました。柏崎市では貯水ダムを
作って農地を潅漑する国営土地改良事業が始まるとのことで、川辺川ダムと利水
事業に関する活発な意見交換が為されました。
 一行は、諌早市でも市民グループと懇談したとのことで、高橋市議は「原発を
はじめ形は変わっても、国策と称して住民が要求しないものを押しつけるのは各
地の共通項。遠く離れても問題は同じ」と話されたそうです。(7月2日人吉新
聞)

●建設省が矢上議員の要望書へ回答
 先月、地元選出の矢上雅義衆議院議員が川辺川工事事務所へ提出した川辺川ダ
ム事業計画見直しの要望書にたいして、7月9日建設省が回答しました。回答書は
「川辺川ダム事業審議委員会の答申を尊重する」として計画の見直しをする意志
のないことを表明しています。更に(1)治水対策が必要なことに異論はみられな
い(2)一日も早い水利用が待ち望まれている(3)環境保全対策に一層の努力を図る
―などとしています(7月10日熊日新聞)。
 利水裁判に言及しないまま、「(2)一日も早い水利用が待ち望まれている」と
はどういう事でしょうか?他の2点もどのような根拠のもとに判断を下したのか
疑わしいものです。官僚に常識を求める国民としての情けなさを感じます。7月
13日に開催された天草環境会議の席上、諌早からかけつけた一市民が、この連日
の豪雨で水田が冠水しているのを間近にみながら、農水省が「湾の閉め切り工事
は防災効果があった」と発表している事に関して怒りをぶつけている光景を思い
出しました。
 建設省がダム建設の拠り所としている審議委員会の問題点については週刊金曜
日が7月11日号で特集しています。行政と手をとりあうのではなく、抗議しなけ
ればいけない現実が多いことにがっかりしてしまう今月のニュースでした。ただ
羊角湾干拓中止は、非常に勇気づけられるニュースです。羊角湾に習って川辺川
ダム事業も現実的対応が進むことを期待したいと思います。


●仮排水路工事再請求 その後  〜川辺川工事事務所とのやりとり〜
 前回のニュースレターで川辺川ダムの実質的本体工事着工とも言える仮排水路
トンネル工事に関する資料開示請求を行った事をお伝えしました(5/15請求5/19
回答受領)。その後の工事中止要請時の会見録を含めて、工事事務所とのやりと
りをご報告します。

(1)5月22日中止要請文を手渡す
 熊本県庁へクマタカ保護の為に工事中止要請を行った後、相良村の川辺川工事
事務所に向かい、人吉からの参加者を含め金尾所長に要請文書を代表の國徳さん
が手渡しました。以下、その際のやりとりを参考までに抜粋します。この間マス
コミも多数同席しています。

國徳:(前回資料提示のお礼をまず言った)「資料開示に対するお答えを頂きま
   してありがとうございます」「ダム審では、住民の意見を十分に聞くどこ
   ろか、利水の農家などの申し入れも一度も審議されないまま答申が出され
   たが、そのように住民の要望・意見書が再三出されていたことや、ダム答
   申の経過は中央には(あなたには)届いていたのか」
金尾:「出された答申を最大限尊重していく」
     (金尾所長はこの春、河川局からの異動で川辺川工事事務所に着任した)
重松:「おたくで確か18代目の所長だが、2〜3年の任期で所長がすぐ変わる。
   川辺川ダム審議会の内容を十分に把握しているのか」
森川:「所長には伝えてある。それは重松さんの個人的な見解でしょう?」  
國徳:「答申には住民の意見を十分に聞いたし、これからも住民の意見を聞くと
   あるが、いったい、いつ住民の意見を聞かれたのか」
金尾:「今まで十分に聞いてきた」
國徳:「是非、住民の意見を聞く場を設定して欲しい。対話をしていきたい」
金尾:「それについては検討する」
 原 :「是非、定期的な対話をしたい。月1くらいの(割合)で設けたらどう
   か。五木でも定期的に対話しているでしょう」

 このような形で工事事務所への対話要求をきっかけが始まりました。他には以
下の様なやりとりも為されました。

東(クマタカを守る会):「利水裁判が進行中で判決が出ていないのだから、そ
   れまで仮排水路工事は延期すべきだ。」
原(運営委員):「ダム審の答申で住民の意見を尊重するようにとあったのに、
   全然住民の意見を聞いてないではないか。」
金尾所長:「利水裁判については結果が出たら考えるが、現時点ではダム審の答
   申にしたがって工事を進めている。住民の意見はこれまでも公聴会などで
   十分拝聴してきたし、今後も拝聴していきたい。」
森川課長:「現在調査中だが、クマタカには影響ないように工事するから問題な
   い。発破を使うときも振動や音は問題ないと思う。」

(2)6月12日 資料開示の再請求を行う
 まず、FAXしてその後文書を送付しました。内容は「より詳細な工事資料」、
「前回開示されなかった原石山の資料」「クマタカ幼鳥を確認しているか」、
「定期的対話の具体化を求める」の4点を6月18日を期限として要求しました。こ
の再請求に関しては、その内容とともに熊日新聞で報道されました。

(3)6月18日 工事事務所からの回答が代表宅FAXへ届く
   以下、本文を原文のまま転載します。
  -----------------------------------------------------------------
   仮排水路トンネル工事に関する資料のご依頼が再度ありましたが、5月
   19日付けの資料でお答えをしたところであり、さらに5月22日に直
   接お会いし た際、今回の再要請の中にある質問に対しても、報道機関の
   方々が同席の上で 補足追加してお答えしたところです。本工事の内容な
   どにつきましては一般の 方々にも広く公開しています。
    今後とも機会あるごとに報道などを通じ広くお知らせしていく努力を
   していくこととします。
 -----------------------------------------------------------------

(4)6月20日 代表が工事事務所を訪問
 上記FAXによる回答に対して工事事務所側の真意を聞きたいとの思いから、代
表の國徳さんが、一人で直接工事事務所に出向き、改めて口頭で申し入れを行い
ました(森川調査設計課長が対応)。ここでのやりとりを國徳さんのメモから抜
粋します。

森川課長:「前回(5/22)の重松さんの指摘により、ダム答申の経過に関する資料
   は所長に渡しておきました。」「(工事については)先の詳細図で十分わ
   かるはず。あとは現地に来て見てもらえばよい。」「情報公開条例が制定
   されていれば、我々ももっと資料が出しやすい」
國徳:「条例制定するまでに期間がかかりすぎる、今資料必要」
   「所長とお会いした場で所長の口から定期的な対話の場の設定(日時など)
   の返事をお聞きしたい」
森川:「わかりました。所長にその内容を伝えます」

 結局、「6月27日までに再要請について個別に文書(および図面)で回答する
事を要求」したことを双方で確認しました。その後國徳さんは指定日の前日、
「個別に文書による回答」を求めるFAXを念の為送付しています。

(5)6月27日 工事事務所からFAXによる回答
   以下原文のままです。
 -------------------------------------------------------------------
  「先日口頭でご要望のありました件につきましては、6月18日にお答
   えしたとおりです。」
 -------------------------------------------------------------------
 本文はたったこれだけでした。

 結局、誠意ある回答は頂けなかったと我々は判断しています。事務局として代
表と工事事務所のやりとりを見ながら感じた事を述べると、一言で言ってお役所
仕事を間近に見た思いです。結局、ダム計画を見直す権限は現場の工事事務所に
はありません。現場の担当者にこの事で文句を言っても始まらないと思います。
 ただ工事の詳細についてはきちんと事実を知りたいと思います。現場付近から
クマタカが消え、川が寸断され汚濁がひどくなってからでは遅いのです。莫大な
税金を投入した工事が、詳細を知らされないままどんどん既成事実化していく。
これはおかしいと思います。市民に対する行政の情報公開を法律によって義務づ
ける必要がある、と強く感じました。
 現在、何らかの方法で法律や条例に基づいた情報の開示要求が出来ないか模索
しています。今後も粘り強く、工事続行に対する抗議と情報開示請求を続けてい
くつもりです。


●見直される公共事業
細川内ダム(徳島県木頭村)工事事務所廃止
天草・羊角湾(熊本県)干拓事業撤退へ

 亀井静香建設相は6月10日、徳島県木頭村(きとうそん)に建設を計画して
いる細川内(ほそごうち)ダムについて「1998年度から現地の工事事務所を
廃止する」と述べました。工事事務所は建設省の最前線の基地で、その最前線を
とりはらうということは事実上の白紙撤回を意味します。
 木頭村の中心部を流れる那賀川に四国で3番目の大きさとなる多目的ダムの計
画が持ち上がったのは26年前のことです。しかし村民は反対を続け、4年前に
現在の藤田恵村長になってからは村長自らが先頭に立ち、反対運動を進めてきま
した。ダムに反対しているせいで、国や県から補助金を削られるなどの圧力にも
遭いましたが屈服せず、現在は独自の村振興策を図ろうと努力していらっしゃい
ます。
 2年前に、建設省は「事業の『透明性』と『客観性』を確保しながら地域の意
見を聞く」として、全国13のダムや堰事業に「ダム事業審議委員会」を設置し
ました。去年の8月に川辺川ダム事業審議委員会で住民に公開されないまま、ま
た裁判で「水はいらない」と訴えている農家の声も聞かずに「建設は妥当」とい
う答申が出されたのは記憶に新しいことでしょう。木頭村では、「委員の人選が
不公平で推進の“お墨付き”を与えるだけ」と、村長と村議会議長がダム審への
出席を拒否し、細川内ダムだけが未設置となっていました。圓藤徳島県知事によ
る再三の審議委員会への呼びかけに対し、参加の条件として藤田村長があげたの
が「委員の過半数を村が選ぶ」「細川内ダム建設の国への最重要要望事項の取り
下げ」「細川内ダム工事事務所等の撤去と県の細川内ダム関連予算の凍結」「審
議の全面公開」などの8条件でした。これを受けて亀井建設相は先の発言を行い
ました。しかし、圓藤徳島県知事は尚も「ダムに代わる案はない」とダム計画を
全面撤回する意志がないことを明らかにしています。このように油断できない状
況の中、木頭村議会の細川内ダム建設阻止特別委員会は、「審議委員会に入る条
件は整っていない」という意見でほぼ一致し、村長もこれを受けて、慎重姿勢で
いくとのことです。
 昨年12月に大蔵省が細川内ダムの予算を「建設目的」から「調査目的」に差
し戻したところで1歩、そして今回の工事事務所撤退でまた1歩、細川内ダム計
画は確実に中止の方向に進んでいます。「反対運動で止まったダムはない」と言
われる中で、細川内ダムが止まれば反対運動で止まるダ
ム1号になります。藤田村長はじめ、木頭村の方々に心からエールを送りたいと
思います。そして、本当に建設省が「細川内ダム建設中止」を発表した時に心か
らお祝いの言葉を贈りたいと思います。

 また先月、北海道歌登町では農水省所管の歌登ダム建設が断念されました。熊
本県・天草の国営羊角湾干拓事業も7月4日、「干拓地への入植が見込めない」
「水利用の見通しが立たない」などの理由から、国営干拓事業の廃止を求める中
間報告をまとめ、事業撤退にまたひとつコマを進めました。この報道を伝える新
聞記事の中で興味深いのが「地元の要望で決まった事業。農水省が先に断念でき
ない」と九州農政局が言っていることです。(7月5日熊本日日新聞)これは裏
を返せば「地元の要望で決まった事業は、地元から不要という声が上がれば撤退
することができる」と言うことができるのではないでしょうか。農水省は、農水
省の事業に異議を唱えている川辺川利水訴訟の農家の声に真剣に耳を傾けて欲し
いと思います。
 「干拓地への入植が見込めない」「水利用の見通しが立たない」という理由は、
4月14日に潮受け堤防の締め切りが行われた諫早湾干拓事業にもそのままあて
はまります。ただ、諫早湾干拓事業を推し進めているのは事業の目的に「防災」
が加わったためです。しかし、その防災効果についても農水省自らが疑問がある
ことを認めています。本当に「防災」対策を行うのであれば、堤防を強化するな
ど、代替案はいくらでもあるのです。見直しの声が高まっても首相も農水省もか
たくなな姿勢を崩そうとしません。公共事業見直しの声が高まる中で、事業者は
国民の声にもっと耳を傾けるべきです。そして、私たちはもっともっと公共事業
見直しの声を高めていきましょう。             (西田陽子)
【参考文献】アエラ 1997 6/30号  「ダム日記」by 政野淳子


●「川のこともっと知りたい」  〜 第2回勉強会 〜
 7月3日、熊本工業大学教授・中島重旗先生を講師に勉強会が開かれました。
勉強会には30名ほどが参加し、会議室はほぼ満杯。土木工学(衛生工学)がご
専門の中島先生のお話は豊かなご経験・科学的分析をもとに、具体的でわかりや
すいものでした。その中でも特に「諸外国の洪水対策」についてのお話はピンと
きます。近日の大雨で川から溢れた水が湖のようにたんぼを満たしているのを見
て、そのお話を思い出しました。「洪水は宿命のようなもの。ダムだけに洪水防
止を依存するのは危険だ。川の水が速く流れてしまわないように工夫する必要が
ある。イギリスではダムを造らず、ため池を多くして“水ガメ”を確保している。
ドイツでは直線に改修した川を元の蛇行に戻している。アメリカでも流域に石積
みのため池を造り、初歩的な方法で川に入る水を止めている。」
 江戸時代の河川工事が今、見直されているのです。また、アメリカでは遊水池
の対象にした土地を日本のように買い取らず、洪水で浸かった場合補償するとい
う制度があるそうです。なるほど、日本の河川行政はお金がかかりすぎる。浸か
ったたんぼを眺めて、これらが今度の水害をいくらかやわらげたかもしれないと
思うのです。
 今回の勉強会では多くの参加者の質問があり、賑やかなものとなりました。次
回もどうぞお気軽にご参加ください。              (川部 岬)


 ○会員からのお便り●                    高木 英行
 川辺川ダムで五木村が沈む、あのきれいな川辺川でカヌーが漕げなくなってし
まう、もう筑後川みたいな水の汚い川でカヌーは漕ぎたくない、川辺川ダム、何
か大変そうだ。きっかけはこんな感じでした。しかし、よくよく見てみると、ダ
ム問題の裏にはそこに住む生き物がどうだとか川の汚染がどうだといった単なる
自然環境の破壊ということだけではなく、行政システム等、今の日本社会全体が
かかえる様々な問題が濃縮されているように思います。そしてそれらの問題は
いずれ自分たちの身に直接降りかかってくるでしょう。
 今自分が出来ることは、まず知ること、学習することではないかと思います。
その中で各自が自分の出来る範囲で少しずつ行動をおこしていけばいいのではな
いでしょうか。そういう意味で月一回発行されるニュースレターはすばらしい情
報源だと思います。これからもシンポジウム等に参加しながら、関心を持ち続け
ていきたいと思っています。これからも日本で生きていきたいと思う自分自身を、
自分自身の生活を守るために。

●新聞の投書欄から
○国営土地改良事業の無駄に驚き                大畑 靖夫
先日熊本地裁でおこなわれた、川辺川利水訴訟裁判を傍聴して、国のやり方に唖
然とした。球磨郡相良村の酪農家の訴えは、国の進める農業政策、土地改良事業
の矛盾をあからさまにして見せた。私も現地を見に行ったことがあるが、広くて
美しく整備された牧場は、永い歳月と労力で、農民自ら作り上げた立派なものだ、
きつい勾配をならだかにして、小分けされていたいくつもの田畑を一つにして、
人吉にもこんな風景があるのかと思わせるものだ。この牧場を、国は『土地改良』
の名のもとに、莫大な税金を投じて、一区画30アールの非効率的な畑に”改良
”するというのだから、呆れてしまう。酪農家は、小さく小分けされたら、農作
業ができなくなる、としてこの事業に反対している。農政局の担当者の説明によ
れば、事業が完了したら、畦を取り払って、再び元のように広い牧場に戻したら
いいではないか、と答えたそうだ。
無駄な公共事業の見直しが言われている今日、なぜ当事者が希望しない無駄な事
業をするのか、誰しも疑問に思う。この例は昔の笑い話ではなく、現に我々国民
の税金を投入しようとして農政局が準備を進めている、現在進行形の事実である。
予算消化のみを目的とした、無駄な事業は即刻見直してしかるべきだ。公共事業
を食い物にしている政治家や官僚の天下り先である大手ゼネコンへの配慮を優先
するか、生きた農民の暮らしを優先するか、いずれにしても、事業の財源は我々
国民の税金である。今から、川辺川利水事業を見直してもまったく遅すぎること
はない。               (6月14日(土) 朝日新聞掲載)

○川辺川ダムの見直しを                     西田 陽子
 今年3月にアメリカのサクラメントにある、建設途中で計画が中止になったオ
ーバンダムサイトを訪れた。緑の森が広がる一帯にそこだけ木が伐りはらわれ、
赤茶けた山肌をあらわにしていた。しかしダムはできていないため、川は清流の
姿を保っていた。建設中止になった最大の理由はダムがコストに見合わなくなっ
たためであった。近年、欧米では環境破壊や塩害、地滑り、ダム誘発地震、ダム
がかえって洪水被害を助長したケースなどから、ダムをなるべく造らない方法を
取ってきている。
 ところが、先日建設省は必要性に疑問の声があがっている川辺川ダムの仮排水
路トンネル工事に着工した。川辺川ダム事業審議委員会の答申を尊重して事業を
進めると言っているが、答申にある「環境に配慮すること」については何ら具体
策を示していない。また、「住民の意見を聞く」と言いながら、全く住民の意見
に耳を貸してくれない。計画が31年前と古く、現状に合っていないため、18
00名を超える農家が「水はいらない」として裁判に訴えているのに、そんな農
家の声も黙殺している。これでは「誰のための川辺川ダムなのか」と問われても
仕方がない。今こそ、建設省や農水省は住民の意見を聞き、事業そのものの見直
しをしてもらいたい。         (6月8日(日)熊本日日新聞掲載)

★こんなことやりました
6/10 事務局会議 
   総会議事録について確認、仮排水路工事の資料開示を求める再要請を検討
   しました。
6/15 利水裁判補助参加者集めに参加
     熊本から土森さんが参加。人吉のメンバーに付いて錦町、深田村の農家回
   りを行いました。ただ、田植えで不在の農家が多く、また錦町ではあまり
   利水裁判のことが伝わってませんでした。今後は、各地域の活動の中核と
   なる農家を見つけていくことが重要になります。
6/20 シンポジウム決議文を国や熊本県に送付
   5月25日の第2回シンポジウムで採択された川辺川ダム仮排水路工事・
   本体建設の中止とダム事業計画の抜本的な見直しを求める決議文を建設大
   臣、九地建、川辺川工事事務所、熊本県知事宛に送付しました。国や県は、
   この決議文の要求を受け入れ、ダム建設を見直してほしいものです。
6/28 事務局会議
   川辺川工事事務所への資料再要求と対話の定例化要求と次回ニュースレタ
   ーの打ち合わせ等を行いました。
7/1  7月度運営委員会
   球磨川漁協への働きかけ、定期的な調査観測・水質調査、川辺川工事事務
   所への資料再要求と対話の定例化要求の今後の検討などについて。
7/3   第2回勉強会
   熊本市の国際交流会館にて熊本工業大学教授の中島先生をお招きし、
   「川のこともっと知りたい」と題して勉強会を行いました。
7/5   シンポジウム:博多湾人工島着工3年「九州の自然を壊す公共事業」に参
   加    川辺川からも人吉の緒方さんが報告を行いました。
7/12〜13 天草環境会議に出席
   「手渡す会」の重松さんが川辺川からの報告をなさいました。
   県民の会事務局・会員も6名参加しました。

            ☆お知らせ =事務局より=☆
●県民の会ホームページが装いも新たにリニューアルしました。みなさまのご来
 店をお待ちしております。尚、工事中(作業途中)の箇所もありますが、徐々
 に内容を充実させていくつもりですので、今後ともよろしくお願いします。
 URL http://plaza4.mbn.or.jp/~kawabe/
●次回運営委員会・・・8月5日(火)19:00 秋津レークタウンクリニック
 お気軽にご参加ください。
●利水裁判第4回公判・・・9月3日(水)13:30  熊本地裁101号法廷
  たくさんの傍聴・ご支援をお願いします。

                【編集後記】
 先日水俣を訪れ、水俣病患者さんからお話を聞いたり、胎児性水俣病患者さん
にお会いする機会に恵まれました。胎児性水俣病患者のHさんの笑顔はそれはそ
れはすばらしく、心が洗われる様な気がしました。その反面、水俣病資料館や歴
史考証館でみた映像や資料はすさまじく、水俣病を生んだ熊本に生まれ、また環
境問題に関わっていながら、これまで水俣病に特別の関心を示していなかったこ
とをはずかしく思いました。
   「知らないことが一番の罪だ。差別や偏見はそこから生まれる」
もらったパンフレットの中に書いてある言葉です。利益を追求するあまり被害を
拡大し、そして今、取り返すことのできないツケを払わされているチッソ。今で
もしばしば水俣病の教訓が生かされていないニュースを耳にします。悲しいこと
です。
水俣病をもっと知らなければ。水俣病に限らず、もっと「知らせること」が大切
なのだと改めて思いました。(西田)
●おすすめ図書○「水俣病」原田正純(熊本大学医学部助教授)著  岩波新書