子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ニュースレター 第22号 2003年(平成15年)10月28日発行


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■新利水計画をめぐる状況
 今年5月16日の川辺川利水訴訟福岡高裁判決に対し5月19日早々に農水大臣が上告断念を発表したことにより、5月30日原告農民の勝訴が確定し、1994年(平成6年)公告された川辺川利水事業の変更計画は白紙となり、新たな利水計画を作成する必要が生まれました。
 その結果、新利水計画を策定するにあたり熊本県の立場がクローズアップされる結果となり、6月16日熊本県が川辺川利水訴訟原告団、同弁護団、川辺川総合土地改良事業組合、川辺川地区開発青年同志会、農林水産省九州農政局、熊本県農政部(以下、関係団体)に呼びかけ、新利水計画策定の事前協議を開き、以下の6項目の合意に至りました。

 1.新利水計画策定に当たっては国、県、市町村が一体となり、県が総合調整の役を担う
 2.水源はダムに限らず、他の水源の可能性を調査する
 3.計画の規模等については予断を持たずに臨む
 4.対象農家4400戸には一戸毎、意向の把握、集約を図り、それに基づき水源及び水利権の客観調査を行う
 5.対象農家に対して公平に説明し、情報の提供と共有を図る
 6.新利水計画は今後約1年間をメドに進める

 以上のように新利水計画は、ダムからの取水に限らず、他の水源の可能性について調査を行い、計画の規模等には予断を持たずにのぞむことが確認されたということは「はじめにダムありき」で始められた変更計画を根本から見直し、新しい計画を策定することを意味します。

意見交換会
 上記のような合意に基づいて、第一回意見交換会が7月11日から8月6日までの間、人吉市、相良村、あさぎり町、多良木町、山江村、錦町の10会場において開かれました。
 意見交換会では、熊本県の趣旨説明が行われた後、九州農政局、原告団・弁護団から各30分間説明し、会場の農家との質疑・意見交換を行い、農家に配布された意見書の記入・提出が行われました。
 また会場に来なかった農家に対しては、県、農政局、市町村の担当者が600人体制で各戸に意見書の配布及び提出を求め、70%以上の意見書の回収が行われました。

 ▼意見書の内容
 意見書回収の結果、国、県及び市町村にとっては、まったく驚きの結果となり、新利水計画の策定が以下に困難なものかということが、明らかにされました。以下に要点を示します。

 1.後継者問題 後継者が居る5% 居ない22% 記入なし64%
 2.経営展望  現状維持29% 拡大6% 記入なし32%
 3.基盤整備  不要18% 必要20% 記入なし51%
 4.これからの水手当 現状のまま12% 新たな水は必要7% 川辺川ダムから4% 新たな水は不必要4%        記入なし60%
 このように川辺川ダムからの水を期待しているのは4%しか居らず、また記入なしが60%以上を示していることは、いかに今農家が将来に展望を持ち得てないということを読み取るべきではないでしょうか。すなわち今までの利水計画が農民のために行われて来ていないということを示していると思われます。

 ▼第2回意見交換会(集落座談会)
 第一回目の調査結果に新利水計画策定の難しさを感じた国、県は、記入なしが多かったことは農家の意見集約が不十分であったこととして第2回意見交換会を9月22日から10月21日までの間に同地域43会場で、19時から21時までを原則として行いました。会は県の趣旨説明、農政局、原告団・弁護団から20分間ずつの説明を行い、そのあと会場からの質疑応答が行われました。
 農家からは、大別すれば以下の意見が述べられました。
 1.あまりにも待たされた。今すぐ水を引いてくれないなら、水はいらない
 2.安い水なら欲しい
 3.営農計画が立てられない。水が来ても何をすればよいのか
 4.ダムしか水源が考えられない
 5.新利水計画と水利権の問題はどうなるのか
 6.利水計画から外れたい
 ここで注目されるのは、出席者が国、県、市町村がくまなく呼びかけたにもかかわらず、少なすぎることです。ひどいところは101人中4名=4%弱、多いところで35%ほど、大体15%〜20%であったということです。これはどのように理解すべきでしょうか。利水計画自体に興味がないと思われますし、また会場での質疑においても必要とする水の量、水が得られた後の営農基盤という具体的な話が極めて少なかったように思われます。新利水計画はこのような現象にどう対処していくのか難しいところです。

 ▼一般市民の参加状況
 上記の2度にわたる意見交換会には、関係団体以外の一般市民は関係団体の認めたものについては参加は可能でした(質問その他の発言は不可)。私も参加しました。ただし、第一回目は農家への意見書の配布、収集に監視役として参加でき、また原告団からの期待も大きかったにもかかわらず、参加者数は非常に少なく全会場及び全農家に同席同行することが出来ず、原告農家及び弁護団に申し訳なく思っているところです。しかし、この新利水計画の結果は川辺川ダム問題に大きな役割を果たすことになるとの気持ちから、第2回意見交換会には各会場に常時3〜4人ずつの参加が見られ、質疑応答を記録し、また会場の正常な進行の監視役として大きな力になっていただいたと思って居ります。
 年内に再度、意見交換会は計画されています。今後、皆さまの絶大なご協力を期待し、一人でも多くの人が各会場に来られることをお願い致します。
(県民の会 中島康)

●集落座談会に参加してみて
 傍聴人として相良村二ヶ所、山江村一ヶ所、錦町一ヶ所で行われた集落座談会に参加した。
 事前協議での合意事項を知らないダム推進派の「(川辺川利水訴訟)弁護団の同席は認めない」との意見や、利水高裁判決確定後の状況をよく知らない農家による原告団を敵と思っているような意見があった。このことが新利水計画に対する農家の意見が、殆ど出なかった理由の一つではないかと思っている。
 試案を示した後に3分の2の同意が得られるのか?熊本県は急いでいるようだし、農家はまとまっていない。「今さら」という気持ちもあると思う。こんな状況では同意取得は難しいのではないかと思う。だが、本当に水を必要とする農家のためには3分の2の同意が得られるような計画を立てなければいけないとも思う。
 集落座談会も11月から二巡目が始まる。気候も厳しくなり、大変になるが、風邪を引かないように気をつけて、次回はまだ行ったことがない多良木町の座談会に参加したい。
 会員の方にも是非、参加して欲しい。弁護団がいれば心強いので、今後も同席してほしいと思う。
 最終日の10月21日は22時近くから相良村の川辺川利水訴訟原告団団長の梅山究さんの自宅で焼肉パーティーをした。途中何度もブレーカーが落ち、真っ暗になったが、夜中過ぎまで盛り上がった。梅山さんのご長男も同席された。「今は親父に賛同している」というご長男の言葉には安心した。板井優弁護士はかなり飲めるし、崩れない。原告団副団長の茂吉隆典さんや古川十市さんの奥さんにも、お世話になりました。
(県民の会 富田公代)

■それ以外の川辺川ダムをめぐる動き
 利水高裁判決以降、熊本県収用委員会の審理はダムの利水目的の喪失が収用裁決申請の却下要件に当たるかが大きな焦点となっていました。ダム反対派漁民は「福岡高裁判決で利水目的は完全に失われたので、裁決申請は却下すべきだ」と主張してきました。
これに対して国土交通省は、利水事業主体の農林水産省が「ダムは水源の重要な選択肢の一つ」としていることを踏まえ、「利水需要はなくなっておらず、収用裁決申請の却下要件
にはあたらない」という理解しがたい主張をしていました。
10月27日の審理では、収用委員会は裁決申請を却下せず、新利水計画ができるまで審理を中断することを決めました。問題の先送りということでは不満の残る結論ですが、新利水計画がダムの水によらない計画となった場合、裁決申請の却下、または補正命令という見通しが開けました。
一方、ダム反対派漁民とダム推進派執行部の対立が続く球磨川漁業協同組合ですが、ダム反対派漁民は、「執行部は法を無視し、意見が二転三転し、組合運営の能力がない」として執行部の解任決議を議題とする臨時総代会の開催を8月に組合に請求しました。執行部は法を無視して開催を拒否し続けています。10月26日には、共同漁業権の更新を議題とする臨時総代会が開催されました。共同漁業権は更新されましたが、執行部解任の緊急動議は執行部の策略で提出できませんでした。今後、推進派の執行部をどうやって解任していくかが大きな焦点です。
 住民討論集会は今年に入って2月、5月、7月と3回にわたって開催され、環境をテーマとした議論が行われました。
 住民側は自分達の足で調べた調査結果を元にダムの環境への影響は明白だと追及したが、国土交通省はシミュレーションの結果を持ち出し、影響はない、と主張しています。そのシミュレーションにしても予測値が実測値とあっていないという結果が出たにもかかわらず、今度は保全策を取るから大丈夫と主張することによって、そのでたらめなシミュレーション結果を糊塗しようとしています。
 マスコミも、なかなか問題点を整理できず、いつも「(住民側と国交省の)主張は平行線に終わった」などという型どおりの報道しか行いませんので、討論集会の実態が県民に伝わっているとは言えません。
 12月14日に第9回目の討論集会が行われますが(イベントインフォメーション参照)、国交省の論点はぐらかしを許さない進行、議論によって何が分かったかを正確に伝えることが出来る報道を期待したいところです。また、国交省主催にもかかわらず、住民側登壇者の交通費や宿泊費などは住民持ちという、住民側に負担がかかる運営方法はいまだに改善されません。
国交省は説明責任を果たし、住民に負担をかけないような運営方法に改めるべきです。

■イベント・行動報告
清流川辺川現地調査(8月23日球磨郡相良村)
 現地調査−なんだか専門家の集まる深刻なフィールドワークのように思いませんか。私もてっきり、そのようなもんだと毎年敬遠していましたが、実は川辺川入門編の楽しい催しなのだと説得され、今回初めて参加することに。ただし、宿泊無しの1日目だけ。それでイベント全体のほんの一部の個人的な体験記ということで、ご了承下さい。
 開会前の昼過ぎに川辺川河畔に着くと、河原にはテントがいくつも張られていました。福岡の会の松原学さんが、山盛りの氷にシロップをかけて、ご馳走してくださいました。受付で尺鮎トラストの事務局長をされている帯金征一郎さんと知り合いました。ダム問題を知って、わざわざ北九州から来られたという、川辺川への熱い思いを伺いました。その日本一の清流川辺川はかなり濁っています。数日前に降った雨が原因とも聞きましたが、上流の工事が原因という人もいます。
 開会式の後、バスツアーへと出発します。撤去が決まった荒瀬ダムを見るコースもあったのですが、ここはやはり王道である五木・川辺川ダム建設予定地のコースにしました。5台のバスが連なり、まずは球磨焼酎の酒蔵へ。生産工程の説明を受けながら、試飲しました。売店では焼酎以外にもお漬物や味噌やその他、早くも大量のお土産購入に励みました。
 次に多額の税金投入によって造成されたのに、今は耕作が放棄されている鷺巣農地造成地を見に行きました。酷暑の中、よろよろと坂を上り、草ボウボウの現場へ。「お上のやることは、現場の者の意見を聞かないので、いつも役に立たない」と川辺川利水訴訟原告団団長の梅山究さんは指摘していました。
 バスは山道を登り続け、ダムサイト予定地に着きました。三角の稜線が重なる緑深い五木。写真でしか見たことのない現場を初めて目の当たりにしました。ダムの効用と、いかに環境保護に配慮しているかを訴える国土交通省のPRボードが読んでいて空しい・・・。
 五木村頭地代替地では、新しいピカピカの住宅や公共施設が並び、これもまた立派な村役場前に集まって、西村久徳村長から話を伺います。これまで何度も使われたであろう「苦渋の選択」という言葉。流域住民のためにも、農家のためにもならない無駄な巨大ダムを無理矢理作ろうとすることが、五木村の人々を苦しめ、彼らのつながりをバラバラに断ち切ったのだと、改めて実感しました。
 頭地から子守唄公園にくだり、五木の子守唄をモチーフにした銅像を眺めて回ると、少ししんみりとした気持ちになりました。
 帰路の車窓から、こんもりと茂った森が夕日に輝く様子が見えます。名ガイド役だった福岡の会の寺嶋悠さんによると「残したい日本の百景」に選ばれたとのこと。その光景は今も目に焼きついて離れません。
 会場へ戻ると川岸の一角を砂利で囲って、鮎と鯉が放たれ、つかみ取り大会が始まっていました。冷たい水に足をひたしたら最後、子供たちに混じって川遊びに興じてしまいました。来年は水着持参で参加かな。
 一口に現地調査といっても、テントの設営、食事の用意、宿泊の手配、プログラムの組み立て、バスの運転、照明や燃料や音響などなど、ちょっと考えただけでも山ほどある仕事に漁師、農家、支援団体、弁護団の皆さんたちが、総出で携わっていらっしゃいます。このニュースレターをお読みの方々には、来年参加なさることをおすすめします。お子さん連れで是非。
(県民の会 金津左代)

■会員投稿
昔の八代海
 河口付近には鰻の床があり、浅瀬には、しじみや浅蜊が沢山居る砂地もあり、引潮になると
流れの早い川の中程には、砂利採集船が何台も操業していた。
 川岸には球磨川流域の山から切り出された筏が並んで居り、砂利を積んだ貨物船や、八代の製材所で材木となった木材を積んだ船が曳船に引かれて海に出てゆく。
 日本三急流の一つと云われた、水量豊かで流れの早い球磨川の水が流れ込む海浜には、
蛤、うば貝、まて貝、或いは、えび、しゃく、その他の魚介類が沢山育ち、潮干狩をする人達で賑わっていた。
 海岸近くには漁業に従事する人達が多数住んで居り、発動機船で漁に出掛け、近海にすむ魚を捕ってくる。
 太刀魚、チン、タイ、イワシ、イカ、タコ等は今でも魚屋さんの店先にも出ているが、近頃見たことがないのが「ヤの魚」と云う背ビレの骨が鋭く、ささると痛い魚だ。今も居るのだろうか?
 九月の始め頃、松橋町隣接の不知火町から「不知火」が見えるので不知火海と云われている。流れ込む河川の水がキレイだから、海が鏡の様な役割をする事によって、見られる現象だろう。流れ込む水が汚れていたら、不知火も見えなくなるのではなかろうか?
 急流を遮断するダム、それが清流を溜まり水にし、汚している現在では不知火海から採れる魚介類は大幅に減少している。砂利も、石が流れてこないので取れないし、筏流しも停まって、昔の面影はない。
 荒瀬ダムが無くなるのは、結構な事だと思う。昔の清流を取り戻すことは極めて難しいかもしれないが、今以上に悪くしてはいけないと思う。
(県民の会 竹田定記)

五木の課題解決こそ、県民の会の責務
 川辺川利水訴訟の福岡高裁判決を受け、新らしい利水事業計画ができるまで国はダム本体に着工できなくなった。ジョーシキ的に考えると、ダムの主目的の一つが否定されたわけなので、ダム計画そのものを変更するべきである。にも関わらず、国はここで計画変更に着手すれば、もう二度と川辺川ダムを作ることができないだろうことを知っているために、「ダムから水を引く可能性が、まったくゼロになったわけではない」などとジタバタしている。九州農政局と県の農政部も、国交省の顔色を伺いつつ慎重に発言をする有様だ。はっきり言って見苦しい。
 今年9月、国は来年度の予算請求で、ダム本体(水門)建設予算だけは付けることができなかった。ザマーミロであるが、好ましいこの状況の中で大きな不安を抱える人たちがいる。ほかでもない、水没地に暮らす人々である。
 ダム計画発表時、1000人500戸を越えた「水没地住民」のほとんどが既に移転を済ませた。しかし将来への不安は消えることなく、むしろ増大しつつあると聞く。五木でダム反対運動が起きたのは、生活権侵害への反発と、ダム受入後の村の将来像への不安だった。村内での意見の相違や対立は、あたたかく平和なムラ社会に亀裂を起こしたし、何よりもダムによって著しい人口流出が起きたことで、村内の状況はさらに悪化した。
 村に行くと、息の詰まるような閉塞感を感じる。ダム問題はタブー視されてるし、村が反対していた当時、「運動」として支えなかった私たちに対して、村の人たちからの反発も根強い。「よそ者」=「ダム反対派」=「人の暮らしより自然が大切な、環境保護団体」、ないしは「今更になって反対する自分勝手な人たち」という見方をされることもある。それぞれ自分の人生のほとんどをダム問題によって奪われ、振り回され、現在があるのだ。一言言ってやりたい言葉を持っているのも当然だろう。一方で、村長が言っていることは村民の声の代弁とは限らず、もっと根深いところにある村の問題についての解決策が見いだせないことに対し、焦りと諦めと不満の入り混じった声を聞くことも少なくない。そういう問題のほとんどは村では誰もが知っているのに、新聞にも報道されないため誰も知らされることがない。
 一例をあげると、たとえば頭地大橋の問題。五木を訪ねた人は分かると思うが、現在、川辺川の対岸へ渡るにはかなり遠回りをしなければいけない。これは、両岸の付け替え道路を結ぶ橋を造ることを前提にして、現在の道が仮のものになっているからだ。「仮」とは言ってもかれこれもう数年になる。この間、対岸の中学校・高校に行くのにも生徒たちは家族の送迎を必要とする。学校はわずか1キロ足らず先にあるにも関わらず、道の高低が大きいのと治安面での不安から、親は子どもたちに自転車通学させることもできない。
 それから付替道路。世間で村道拡張工事が行われている時代も、五木では「どうせダムに沈むから」という理由で、離合すらできない悪道のまま数十年を過ごしてきた。今やっと念願の道路が、付け替え道路という形で途中まででき、村民の不便は一部解消されつつある。だが村の多くの人は、ダムが止まると、この途中まで工事の進んだ道路建設工事もそのまま止まると考えている。途中からプツリと切れることになり、待ち望んだ広い道は二度と建設されないと思っている人が多いのだ。この背景には、村のすべての社会基盤整備事業が、ダムに付随する形で予算化されているという構造がある。よく「五木はダムが欲しいと言ったことは一度もない」と言われる。「ダムと一緒にやってくる、広い道や仕事先が欲しかったのだ」という言葉はある意味で事実だろう。
 これらを解決する方法として、五木村長は「これらをダムと切り離してほしい」という立場ではなく、「ダムを早く作ってくれ。そうでなければ、これらの事業までさらに遅れることになる」という立場に固執し続けている。五木がダム建設に固執しているように報道される裏には、これらの問題を解決する方法がダム建設以外にはないと思いこんでいる人が村の中心にいるということがある。
 それからもう一つ、忘れられがちな事実がある。
 五木村頭地には、ダムに反対し移転補償契約への押印を拒み続けている家族が、今でも2家族だけ存在している。同時に彼らは、自分たちの現在暮らす家が代替地造成予定地(代替農地と中・高校移転予定地)になっているという苦境にもある。ダムが止まれば移転する必要はなく、ずっとここに住み続けたいと望んでいる。ところが村内からは「あの人たちが移転しないから、代替地が完成せず村づくりが進まない」というプレッシャーを受ける構図になっているのだ。「住み慣れた場所に暮らしたい」「自給自足の今の生活を続けたい」。残りわずかな人生を先祖から受け継いだ場所で送りたいというささやかな願いですら、ダムと国という巨大な公権によって今、正に奪われようとしているのである。
 「県民の会」という名は、漁民も農家も市民団体も水没地住民も、県内に暮らすすべての人々の立場から考え、行動していくために名付けられたと聞く。発足から7年がたち、私たちのような県外の者も関わるなど運動の拡大と共に、運営を担う人々の数に比べ、やるべき任務もまた増大しつつある。
 だがしかし、歴史上もっとも大きな困難に直面し、しかも外部からの働きかけなしには解決の道すら見いだせない五木村の課題解決に、県民の会が取り組まないとしたら一体誰にできると言うのだろうか。
 ダム中止が目前となった現在だからこそ、五木村の課題はさらに重要性を増しつつある。ダム中止のその先まで見据えた活動が求められている時期に入りつつある現在、県民の会の役割もまた、従来の活動に加えて新たな方向性を打ち出すべきであろう。会で現在中心となって活動を担う人びとだけではなく、会員となって支えて下さっている方とともに、五木への支援を含めた今後の方向性を模索して行きたいと思う。
                                     (福岡の会 寺嶋 悠)

全国化した川辺川ダム問題〜東京でも有名になりました
 5月16日の利水判決「逆転勝利」報道以後、東京で「川辺川」を知る人が格段に増えたと実感します。川辺川のことを取材していると話をすると、「あの有名な・・・」といわれるのです。1998年に「東京の会」を発足させた当時の無名の川辺川を思うと感慨にふけってしまいます。
 おかげさまで、川辺川についてライターとしてご報告する機会も増え、そして、いわゆる「レジュメ」も色々テーマ別に書きました。利水裁判に加えて、収用委員会や住民討論集会など川辺川ダム問題は、様々な要素が絡み合っているので大変にわかりにくいですね。熊本で新聞を日々読んでいるのでなければ理解しにくいことがたくさんあります。そんなわけで、どうしても、現状報告のレジュメが必要になってくるというわけです。ただし、毎月のように熊本に通ってたくさん取材させていただいている興味深いお話をとても書ききれず、いつも残念な思いをしています。
 ことに利水判決後も、熊本の地元では、皆さまが大変な思いをされて、集落座談会に協力をしていることなど東京ではまったく想像もつかず、知られていないことなのですが、なかなかご報告できずに残念でなりません。
 判決前には「川辺川ダム問題および川辺川利水事業と利水裁判ダイジェスト版・03・5・7」(A4版4P「東京の会」発行)を、判決後には『週刊金曜日』で「川辺川利水訴訟で農民が『完全勝訴!』」(1P)、6月には民主党の関連広報誌「シンクネット・センター21 研究レポート」で「川辺川利水訴訟で農民が逆転勝訴!〜求められる『川辺川ダム』計画の見直し」(4P=政治判断が必要であるという知見からの提案)、(社)都市エネルギー協会発行のPR誌『NEW ENERGY』で「川辺川鮎という豊かさ〜川の素晴らしさが姿・香りと味になる」(4P=東京の会で川辺川に釣りに行かれる阿部功一さんの話や放流事業にいかに熟練が大切かという吉村勝徳さんの話など)、10月12日の「環境行政改革フォーラム総会」では「地方分権の時代に向けて〜国営事業計画についてのケーススタディ〜『川辺川ダム』と『国営川辺川総合土地改良事業』にみる熊本県の役割」(4P=マニフェストにも登場する川辺川ダムだが、熊本県が行っている行政的努力を基盤に、本来、治水については行政判断すべきではないかという視点から熊本県の役割を考察)を、そして、10月25日の「オーフス条約を日本で実現するNGOネットワーク」主催「オーフス・ネット設立記念シンポジウム」では、「川辺川ダム問題における市民の役割〜討論集会とは」(5P=住民討論集会の位置づけや問題点整理、委員会について)を書きました。東京では、住民討論集会についてもほとんど報道がないので、ご報告させていただくと想像以上の熱気ということで皆さんに驚かれます。
 それぞれ、位相を変えた川辺川ダム問題の整理です。各々、現状報告の記述込み。必要な方がいらっしゃりましたらメールまたはファクスでご連絡ください。お送りいたします(E-MAIL:HGC03010@nifty.com  FAX.03-5433-5586)。
 『世界』11月号では、「川辺川ダム〜熊本県の苦悩」として、利水判決後の動きに加えて、潮谷義子熊本県知事インタビューを掲載しています。
 川辺川ダム問題についての単独インタビューは初めてとのことでした。実は、事前に質問事項を広報部に送らせていただきましたところ、厚さ1センチ近くもありそうな「高橋ユリカ氏質問回答集」が県庁職員の皆さまの手によって作られていました。
 わたしが、川辺川ダムのことだけでなく、さまざまなことについて伺ったからなのですが、雑誌では、最も重要な川辺川ダムのことに住民討論集会についてのお答えをまとめさせていただきました。国交省が答えをはぐらかせていることなど、むしろ、新聞報道の中で記述があって然るべきところを、知事が思い余ってご発言されているように感じました。
 潮谷知事には思いのほか本音をお話いただけたのではないかと思います。問題解決に
向けて、今後、ますます、知事の発言が重要になっていくことを痛感しています。
                               (東京の会/ライター 高橋ユリカ)

会費納入&カンパのお願い
 今年度も半年を過ぎましたが、川辺川ダム運動はますます重要な局面に差し掛かりつつ
あります。ご存知のように利水高裁判決によって、現地の状況も収用委員会、住民討論集会の様相も一変しました。新利水計画の概要が見えてくる今年末から来年にかけてが、大きな山場になることは間違いありません。
 県民の会の活動も現地の農民・漁民運動の支援、住民討論集会対策などで、これからも多額の費用を要します。ただ残念なことに、利水判決以降、会費納入やカンパをされる方が減ってきています。おそらくこれでダムが止まるから会への協力は不要だと思っていらっしゃるのかもしれません。
 今号でもお伝えしましたが、ダムはすぐ止まるという状況ではありませんし、ダムの息の
根を止めるため運動はまだまだ続けなければなりません。つきましては、今後とも会費納入とカンパのご協力をよろしくお願い申し上げます。

振込先:郵便振替口座 01940-8-13454(年会費2000円)
(振込用紙は同封しています)

■イベント・インフォメーション
浸透能調査
 日程:11月2日(日)、11月16日(日)
 時間場所:未定
 主催・問い合わせ:球磨川水系緑のダム再生ネットワーク・松葉
    (TEL:090-5288-9781,FAX:096-272-2080,E-MAIL:keiryu@bea.hi-ho.ne.jp)
ダム中止署名集め
 日時:11月15日(土)15:00〜
 場所:熊本市・下通りダイエー前
 主催・問い合わせ:川辺川を守る県民の会・土森(TEL:070-5273-9573)
第15回和白干潟まつり
 日時:11月23日(日)11:00〜15:10
 場所:福岡市東区和白 「海のひろば」
(西鉄宮地岳線「唐原」駅下車、徒歩5分)
 主催:和白干潟まつり実行委員会
 問い合わせ:田中(TEL:092-606-5588)
第9回川辺川ダムを考える住民討論集会
 日時:12月14日(日)12:30〜
 場所:熊本県庁地下大会議室
 テーマ:治水、環境
 問い合わせ:熊本県企画振興部川辺川ダム総合対策課(TEL:096-383-1194)
川辺川尺アユ裁判(事業認定取消訴訟)
 日時:12月18日(木)9:30門前集会10:00口頭弁論
 場所:熊本地方裁判所101号法廷
 問い合わせ:毛利(TEL:090-8834-1533)