2008年8月29日、県民の会ほか51団体より国交省九州地方整備局に対し、25日に公表された「球磨川水系河川整備計画(原案)の基本的考え方」に対する抗議を行いました。また抗議文の中では、「川辺川ダムを建設しない場合、流域住民には水害を受忍してもらうしかない」「建設を中止した場合はダム関連事業として(五木村の)生活再建を支援するのは非常に困難」との国交省発言についても触れ、県民を恫喝、侮辱するものとして強く抗議しました。
2008年8月29日
国土交通省九州地方整備局局長 岡本博様
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
ほか51団体
代表 中島 康

「球磨川水系河川整備計画(原案)の基本的考え方」に対する抗議文


 8月25日、貴職は熊本県庁を訪れ、蒲島郁夫熊本県知事に「球磨川水系河川整備計画(原案)の基本的考え方」を提示・説明しました。私たちはこのことに強く抗議するものです。

 貴職による説明は、球磨川水系河川整備計画の目標は30年に一度の洪水(人吉地点で毎秒6100トン)に対応するものであり、対策として従来の貯留型ダムに加え、流水型ダムいわゆる穴あきダムを想定し、穴あきダムの総事業費は3300億円(貯留型ダムなら3400億円)、工期は穴あきダムは2017年(貯留型ダムなら2018年)などと言うものです。

 まず抗議すべき第一は、いまだにダムによる治水に固執し、住民が望んでいないダムを押し付けようとしている点です。住民がダムに反対し、ダムによらない治水を求めていることは、これまでに何度も明らかになっています。今年3月に発表された地元新聞社の世論調査によれば、球磨・人吉地区の住民の7割近くは川辺川ダム建設反対です。また2006年に住民団体が行った、球磨川流域で浸水被害を受けた住民に聞き取り調査した結果は、ダム以外の治水対策を求めている人が67戸で、治水対策に川辺川ダム建設を望む人は2戸だけでした。

 昨年、貴省が熊本県内の53会場で開いた「川づくり報告会」でも、河川改修など、すぐにできる治水対策を求める声がほとんどで、住民からダム建設を望む意見は全くと言ってよいほど出ませんでした。このような流域住民の意思を無視したこの方針は、全くの時代錯誤の産物です。

 第二に、貴職はあろうことか「川辺川ダムを建設しない場合、流域住民には水害を受忍してもらうしかない」(8月26日毎日新聞)と住民に対して脅迫しています。堤防強化、川幅拡幅、河床浚渫等河川改修はやろうと思えばすぐに出来ることでありながら、それらの施策を放棄し、住民にダムのみを強いる発言は治水の責任者としての自己否定そのものであり自らの怠慢を浮き彫りにし、なおかつ住民を愚弄するものです。

 今回、始めて提示された穴あきダムも、信用できるものではありません。ダムによる治水自体、超過洪水には対応できないこと、堆砂による寿命、コンクリート構造物の寿命などダムのもつ根本的な問題はなんら解消されていないことに加え、巨大な穴あきダムは実証データがなく、安全性も、また環境への影響もなんら解明されていません。川辺川を巨大な実験場にするなどもってのほかです。少なくとも、ダムで清流は残せないことは、市房ダムや上流に穴あきダムのある川辺川が少しの雨でも長期的な濁りが続くことなどを見れば明らかです。

 そもそも、ダムの前提となった30年に一度の洪水の流量である人吉地点で毎秒6100トンと言う数字自体、何ら客観的・科学的検証による裏づけのない数字であり、信用できるものではありません。

 事業費についても、4年前、3300億円と言う川辺川ダム事業の総事業費が突如明らかになりましたが、この事業費も当時の熊本県知事の意見と熊本県議会の議決と言う特定多目的ダム法の手続きさえ踏まれていない違法な数字で、公式に認められたものではありません。1976年の基本計画発表時の事業費は約350億円でした。まさしく小さく生んで大きく育てる無駄な公共事業の典型です。国土交通省は税金泥棒と言われても仕方ありません。

 五木村の振興計画についても貴職は「建設を中止した場合はダム関連事業として生活再建を支援するのは非常に困難」(8月26日毎日新聞)という発言をしています。これは、五木村の将来をダム計画にしばりつけるものです。五木村の振興が遅れているのは、国の責任であり、ダムが出来ようが出来まいが、五木村に何の責任もありません。村を壊したのは国です。五木村の振興は国が責任を持って早急に行うべきものです。自らの職務怠慢で五木村の振興が遅れているのに、そのことを理由に五木村をダムで呪縛するとは言語道断です。
これまで見てきた通り、今回の球磨川水系河川整備計画の原案及び蒲島知事に対する説明は大きな問題を孕んでおり、熊本県民としては到底納得できるものではなく、貴職に対して厳しく抗議し、原案の取り消し及び熊本県民に対する謝罪を求めます。

 次に、今年8月27日、国交省は6年連続でダム本体着工のめどが立たず、本体工事費の見送りを発表し、川辺川ダム工事の正当性を自ら否定しました。

 同じく8月3日、人吉市で開かれた川辺川ダムに反対する住民第集会では、1350名が集まり、ダム反対の住民意思が強く示されました。当日この参加者の中には、潮谷元知事も出席され、荒瀬ダムの撤去凍結と川辺川ダム計画の不当性を強く発言され、満場の参加者から大きな賛同を得る中、川辺川ダム計画の中止要望を高らかに宣言したのです。
反面、8月26日の川辺川建設促進協議会による川辺川ダム建設促進大会が、同じく人吉カルチャーパレスで行われ、同じく1350名の参加を得たものの、大会前から関係市町村や首長、議長の呼びかけによる公務員や建設業界の組織的動員が行われたとして、各方面から非難されることになりました。会場発言でも、積極的ダム促進の声は聞かれず、ダム不要や早期治水、早期の地域振興を望む声が聞かれました。

 これに加え、8月27日に行われた蒲島知事による球磨川流域市町村長の意見聴取会においても、人吉市・相良村は発言保留、錦町・あさぎり町は「住民はダムを望んでいない」旨の発言を行う等、ダム促進協議会の中においても足並みの乱れが鮮明になっています。また、ダム促進を述べられた地区も、首長の考えと住民の意見との間の大きな違いが如実に見られます。
以上にのべた通り、球磨川流域住民は、ダム、特に川辺川ダムを心底臨んでいないということを、国交省は真摯に受け止めるべきです。住民の望まない公共事業を強行することは、国による独裁権の行使です。住民無視の国交省に対して強く抗議し、改めて、流域住民の声に真摯に耳を傾けることを要求します。

以上



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