2006年6月1日、第2回小委員会での森林保水力および基本高水流量等についての国交省の説明についての疑問と要望を提出しました。

2006年6月1日
社会資本整備審議会河川分科会
河川整備基本方針検討小委員会
委員長 近藤 徹 様
委員 各位
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
他 川辺川ダム建設に反対する52団体
代表 中島 康
〒860-0073  熊本市島崎4丁目5-13
TEL 070-5273-9573 FAX 020-4668-3774
       
要望書

 2006年5月13日に開催されました「第2回球磨川水系河川整備基本方針に関する検討小委員会」に於いて、森林の保水力についての議論が行われましたが、結論には到らず、次回以降に持ち越されました。基本高水流量、その他の河川流量についても次回以降の議論となりました。

 私共は、第2回検討小委員会における国交省の説明及び審議内容に多くの疑問点を持つものです。


1 森林の保水力の共同検証について
(1)共同検証の経緯

 この共同検証は住民討論集会に於いて、ダム反対住民側の「降雨時、手入の悪い人工林では斜面にかなりの頻度で発生する地表流を含む表層流が増大し、そのような流域では河川のピーク流量に影響を及ぼす」という主張に対し、国交省は「日本の山は浸透能が高いから、降った雨は全て浸透し、地表流の発生は見られない」と反論したことから、熊本県の発案で、人工の雨を降らせて、その現地で実証してみようということになったのです。

 それに対して住民側が出した検証内容の案は

@
人工的に散水して2日間で440mmに相当する雨を降らせ、地表流の発生の有無を確認する。
A同一斜面に於ける人工林と自然林、手入れのよい人工林と手入れの悪い人工林での浸透能の測定と、測定値の相互の対比。
B土壌のサンプル調査

の3点でしたが、この提案は国交省に全て拒否され、最終的には県の立会いで、自然の降雨時での地表流発生の有無の確認の為のビデオ撮影と、発生した地表流の流量測定と林内外雨量、樹幹雨の測定を行うことになりました。

(2)共同検証の結果
 2004年の測定結果は、ビデオ撮影による確認は台風時であったため、落葉が厚く堆積し、地表流を観察することが出来ませんでした。地表流の流量測定に於いては、人工林の流量値は自然林の流量値の約9倍の値を示しており、山腹斜面に於いてホートン型の地表流が発生していること、及び人工林の地表流量は自然林内の地表流量より大であることが証明されました。

 2005年の測定に於いて、地表流が人工林で頻発していることがビデオ撮影でも確認されました。ところが、国交省の地表流測定器具の設置方法に重大なミスが発覚しました。落葉や土砂を巻き込んだ地表流の流入によって測定器のフィルターがつまり、そのような場合でも、総量測定用の貯水タンクには迂回して流入するはずが迂回路が遮断されていたため、外に漏れ出すこととなり、得られた測定値には全く信憑性がない事が判明しました。そのため、住民側から、測定のやり直しを要求したところ、国交省は一方的に共同検証の打ち切りを行いました。現在、私共住民側は県を通し、共同検証の再開を求め続けております。

(3)データーの解析について
 上記の経過にもかかわらず国交省は、地表流量は全雨量の1%前後であり、ピーク流量にあたえる影響はほとんどないと主張し、検討小委員会でもそのように説明しています。

 しかし、この主張の基となるデーターは1地点のみで、しかも極めて狭い面積での測定を2回行っただけの値であるだけでなく、測定器具の設置ミスにより、定量的には信憑性のないデーターと言わざるを得ません。
今後、森林水文学の専門家の立会いのもと共同検証をやり直す必要があります。また、多くのポイントで多くの測定値を出した後、地表流を含む表層流などが大雨時に河川に流れ込むメカニズムを解明するべきです。

 なお、共同検証とは別に、ダム反対住民側は自然降雨約22mm/hの時に発生した地表流を撮影し、現実、人工林の中で地表流が頻繁に発生していることを確認し、参考として熊本県に提示しております。


2 基本高水流量などについて
 球磨川水系河川整備基本方針は、国土交通省の収用裁決申請の取り下げで白紙化している川辺川ダム事業計画と密接な関係を持っているものと思われます。球磨川では、2001年12月から国交省と住民が同じテーブルにつき、熊本県がコーディネートして事業の是非を議論する「川辺川ダムを考える住民討論集会」が開催されてきました。
第2回目の検討小委員会において国交省は、人吉地点の基本高水流量・毎秒7000トンを提示しました。これは、住民討論集会で国交省が提示した値と同じですが、算出手法が大きく変わっています。

@基準地点は人吉の一地点となっており、最大の洪水防御地区である萩原(八代)が外されている。
A対象洪水が、昭和40年7月洪水から昭和47年7月となり、降雨継続時間については48時間から12時間へと4分の1に短縮されている。
B今までさんざん単位図法に固執しておきながら、流出計算手法は貯留関数法と変更されている。

 これまでの住民討論集会で、ダム反対住民側から多くの疑問が投げかけられたにもかかわらず、正当だと主張し続けた基本高水流量の算出手法を、なぜこのように変更をしたのか、国交省に明快な説明を求めるべきです。

 また、ダム反対住民側は国交省の基本高水流量7000t/sは過大であり、計画高水流量4000t/sは過小であると主張してきました。このことは、先に送付致しました、ブックレット「川辺川ダムはいらん!住民が考えた球磨川流域の総合治水対策」や、2006年5月2日付けの「球磨川水系河川整備基本方針の策定に関する意見書(その2)」等で詳しく述べているとおりです。

 国土交通省はこれまで、「流域で2日間に440ミリの降雨があれば人吉地点で毎秒7000トンの洪水が発生するので川辺川ダムが必要」と主張してきました。ところが昨年9月の台風14号では、440ミリ以上の降雨があったにもかかわらず、国土交通省の想定する洪水流量の約6割の流量(毎秒4300トン)しか発生しませんでした。

 また、「人吉での計画高水流量は毎秒4000トンである」との国交省の主張に対し、1982年7月には毎秒5400トンが堤防を越流しないで流下しています。

 このような、国交省と住民側の主張の違いはなぜ起こるのか、科学的に解明する事と共に現地の実状をよく把握すべきです。


3 その他の諸問題
 以上述べたことの他に、球磨川中流域の水害の実情や八代地区の萩原堤防の問題、また鮎を始めとする多様な生物を育む環境問題、特に山から海までの一環した生態系等の確保等々、問題にすべきことは数多くあります。これは一つとしておろそかにできるものではありません。

 また、検討小委員会における、住民討論集会や森林の保水力検証などに関する「ダム反対側の説明資料」は、国交省が編集しています。つまり、国交省が「ダム反対側の主張」を編集して、各委員に説明しているわけです。これでは公正で客観的な検討はできません。今後、十分な議論がなされることをお願いし、下記の事項を要望します。

要望事項

1.これまでに地域住民や関係団体が提出した意見書や要望書の内容について十分な審議を行うこと。

2.森林の保水力の共同検証を専門家の設計及び立ち会いのもとに再度行うことを、熊本県と国土交通省に要請すること。

3.森林の保水力の議論に際し、共同検証に参加した住民側からも説明させること。

4.住民討論集会におけるダム反対住民側の専門家を検討小委員会の議論に参加させること。

5.現地検証を行い、昨年の台風14号における水害被災住民などの声を直接聞くこと。


以上



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