2005年1月23日、川辺川利水訴訟原告団より、以下の意見書を提出しました。


2005年1月23日

熊本県地域振興部
部長 鎌 倉 孝 幸 殿

川辺川利水訴訟原告団
                      名誉団長  梅 山   究
団  長  茂 吉 隆 典
                     副 団 長  船 越 作 正
                        同    古 川 十 市
                        同    倉 田   茂
                        同    宮 崎 富 生
                        同    益 田 岩 男
                        同    大 石 一 男
                        同    加 納 三 一
                        同    岩 見   照
                        同    山 中 弘 美
                        同    西 村 忠 孝
                        同    福 井 竹 義
                        同    弓削田 米 記

           意 見 書

 私たちは、平成5年ころ、国営川辺川土地改良事業変更計画が持ち上がった当初、国営・県営・団体営として関係農地に導かれる用水の最終的な水代と農業政策の内容を明らかにするように、農水省に情報の公開を求めました。これに対し、農水省はあたかも水代がタダかのような宣伝をおこない、市町村ぐるみで強引に同意の署名をするよう関係農家に迫りました。まさに、何が何でも、農家を騙してまで無駄な大型公共事業を押しつけようとする詐欺行為が白昼堂々と行われたのです。

 そのため、1144人の関係農家が農水大臣の変更計画の決定に異議申し立てをしました。その申立が棄却された後に866人の関係農家が裁判を提起に踏みきり、さらに補助参加人も含めて2100人以上の関係農家が裁判に加わりました。私たちは、その裁判審理の中で同意取得手続きのずさんさを始め、変更計画がいかに農民の要求からかけ離れている事業であるのか、まさに「始めにダムありき」でしかないことを明らかにしました。

 あれから10年経ちました。私たちは、ようやく利水事業の「主人公」として新利水計画策定に参画し、本来あるべき姿となりました。これまで40回を数えた事前協議は、農民こそが主人公、情報の共有を前提に、ひとつひとつ丁寧に農家の声を反映させてきたもので、関係者の努力に対して敬意を表したいと思います。
 ところで、私たち原告団が事前協議に出席してきたのは、裁判での勝訴はあくまでも通過点に過ぎず、長年、利水事業に翻弄された人吉球磨地域の農業をどうしていくのかが私たちの最大の課題であって、農業に必要な水の確保が困難なところもあり、さらには既存の用水路の補修改修も必要なことから、同じ大地に生きる農家としてこの問題をないがしろにはできないと考えたからにほかなりません。この間のアンケート調査でダム利水にこだわる農家は約23%に過ぎないことも明らかになりました。

 私たちは、この地域で真に農家が求めている利水事業は「始めにダムありき」でない事業であり、「早く、安く」実現されるよう取り組まれなければならないことは当然のことだと思います。残念ながら、現在でもなおダム利水を優位とする案で一方的に押し切ろうとする策動が見受けられます。私たちに対するそのような残念な働きかけもあります。しかし、私たちは、ダム以外の利水を実現するために頑張る立場です。この点について、いささかでも誤解がないように私たちの考えをこの機会に明らかにいたします。

 現在、多くの関係者の努力のもとで共同しながら「農民こそが主人公」「情報の公開」を掲げた新利水計画が実現していく方向で検討されています。私たちは、あくまでダム建設計画を前提とした、例えば恣意的な「正常流量」に固執する国土交通省の姿勢は時間を無用に浪費させているにすぎないものと考えています。私たちは、国土交通省のこうした頑な姿勢は直ちに改善されるべきであると考えます。私たちは、国土交通省が省益にこだわらないで「農家こそが主人公」という原点に立ち返らないかぎり活路は見出せないと考えますし、そうしない限り農家同士の対立を再燃しかねないものと確信します。まさに、苦渋の選択をせざるを得なかった五木村の住民たちは、こうした国土交通省の省益にこだわった権力により分断されたのではないでしょうか。私たちは、利水事業問題で同じような悲劇を繰り返してはならないと考えます。
 私たちがこれまで一貫して主張してきた「ダムからの水はいらない」は今も変りない理念です。私たちは、こうした立場から、今日認められている既得水利権は、新利水計画に移行する場合においても最大取水量を保障されるべきものと考えています。また、国土交通省が、恣意的な「正常流量」で無駄な費用をかけさせることには断固反対します。

私たちは、こうした立場から、地元の農家の声を届け、事業に反映させていくためにも最後まで新利水計画の策定にかかわっていく覚悟であることを表明いたします。