ムービー日記 by 佐藤亮一 ●黄金の川  魚釣りがだい好きで、川辺川のすぐ近くに住んでいます。 もともと熊本市の生まれなんですが、こーんな美しいところで 一生過ごすってイイよなあ,と住み着いちゃいました。  鮎つりに朝早く行ったときのことです。朝の涼しい大気を吸い込んで 竹薮のなかをがさがさ川へと降りていくと、突然、足元からでーっかい へびが!うわーっと、とびあがった拍子に 木の上にいたへびと鉢合わせ! それでも、おかへ逃げず川へと突っ走ったのは、我ながらたいしたものでした ああ たまげたあ!と川原の石に腰掛けてふと目をあげると、川が黄金色に 光を発しています。よく見ると、瀬肩の鏡になっている所の川底の石が水中で 光っているのです。流勢に応じて大小の石が美しく並んでいて、その石の上に 生えた金色の硅藻(ケイソウ:水垢)が、輝いているんです。 まるで、黄金が川底に敷きつめられているかのようでした。 川辺川に、本当に惚れ込んだ瞬間でした。 あのヘビは、きっと黄金を守っていたのでしょう。  私は今、川辺川を守る運動をしています。パソコンのことなんてなにも 判らないんですが、皆に、ひとの手が加えられない川の美しさを伝えたくて、 そして、それが今ダムで破壊されようとしていることを知ってもらいたくて、 パソコンでスライドショウを作りました。(ビデオテープ40分です。) フォトCDから写真を入れ、音楽とナレーションをいれて編集した物です。 球磨川、川辺川流域でダムを心から歓迎している人などいないのです。 土木業者と政治家達を除けば、皆美しい川を残した方がいいと思っています。 社会的要請ゼロ!それでも進むダム建設なのです。  見てください!お願いします! 住所氏名を知らせていただければ郵送します。(送料込み1800円です。)                      自己紹介になっているかどうかわかりませんが、 今後ともよろしくお付き合いください。 ●黄金の川 続き  川が黄金色に光っている現場にでくわすのは大変珍しい事なんです。 十年以上釣りをしていて結構川に通っていても、2度しか見た事は有りません。 思い返してみると、時期は梅雨入りから梅雨が完全に明けるまでの頃。 大雨が降って川底の石がひっくり返り、激しい流れに古い水垢や泥などが 押し流されてしまわないといけないようです。 詳しく言うと、大雨の後の水の澄みあがりが決定的な条件のようなのです。 いったん川底が美しい状態になったとしても、その後中途半端な出水で 濁りが入ると石は泥をかぶりますし、その状態で新しく硅藻がついても美しく 輝く状態にはなりません。 つまり、大雨による出水で川底が磨き上げられ、しかもその後新垢(硅藻)が 新しく石の表面を覆ってしまうまで濁りが入らない、という事が      「黄金色の川底」が出現する条件だと思えるのです。  さらによく考えてみると、大雨後の水の澄みあがりは山の状態にも大きく 左右されています。梅雨明けにはんぱ雨が降るのは普通の事で、むしろ 大出水後に川を濁らさぬ程度の柔らかい雨が降ってくれる年は珍しいのです。 少々の雨でも山に水を貯える力があれば、山の森林に巨大な保水力を持つ 広葉樹の森が健全であれば、水は濁りません。相良村で長年漁師をしてる お年寄りたちに聞きますと、「以前は、川が濁るのは年に何回かだったよ。」 と言ってました。 私がよく行く人吉市内の食堂の奥さんは、 「私がここによめに着た頃は皆川で歯を磨いて顔を洗いよったとよ。」 「洗濯しに行くと近所中の嫁さんたちが集まってて楽しかったよお。」 「水も凄く多かったねえ。」などと聞かしてくれます。 山が、森が健全な時代にあっては川底が光るのは珍しくはなかったでしょう。  森をどんどん切っていったのは国:営林署です。 市房ダムをつくって濁り水を垂れ流し、歯磨きや洗濯をできなくしたのは 国:建設省です。 そして今、球磨川水系で唯一残された美しい川である川辺川がこれも 国:建設省によって破壊されようとしています。 国こそが自国民の財産である美しい自然を破壊し独特の文化をもこわして きた張本人であり主犯なのです。 その建設省が、「美しい川を守りましょう」などと看板を立てたり小学校に 絵本を贈ったりしていますがイカサマもいい所です。 建設省は国の公共事業の60パーセントを握っています。 その巨大な予算とそれを行使する巨大な権限は、ちっぽけな自治体の命運を 左右するに十分な「権力」といっていいと思います。ここに注意してください。 役人にとって予算こそが力の源であるという事に。人は十万円の買い物でも 売り手にでかい面できます。これが十億円だったら・・・!! 霞ヶ関では予算を沢山とってきた官僚はその部門の英雄なんだそうです。 官僚は決して中立の利害関係のない国民への奉仕者などではありません。 ダム建設が中止されるという事は予算の消滅、権力の消滅、そして個人的には 官僚としての出世に必要なキャリアを失う事でもあるのです。 建設省から川の管理権を取り上げ、環境庁のような所にそれを移管させねば 今後も川は破壊され続けていくと思います。 川辺川ダムの工事費は予算2000億、実際にはその数倍、へたすりゃ一兆円 に達する巨額なものです。川の流れはある人たちにとっては銭の流れなのです。 高度成長時代に政治権力を握った田中派の事務所は「砂防会館」といいました。 砂防ダムから巨大ダムまで、その巨大な利権を生む建設事業を自分たちの手で 仕切る事によって資金力と政治力を拡大し、中央から地方にいたるまで その勢力と政治手法を普及させていったのです。  土建国家日本の成立です。 ゼネコンと政治家の癒着:金丸問題等をきっかけに政治改革が騒がれ、 選挙制度が多少いじられたりしましたが選挙前になると土建業者が会社ぐるみ 選挙運動に乗り出しその見返りに公共工事を受注、という構図は一切変化して いません。地方でも中央でも彼らはいまだ第一級の政治勢力なのです。 数十年にわたる選挙の経験とノウハウを持ち自己の利害をかけ受注を我が手に もたらすために必死で活動する政治集団を、この日本は生み出してしまって  いるのです。  ダムをとめるという事は、これら官僚と政治家たちの勢力の源泉と基盤を、 奪う事になります。二線級の小勢力への転落を意味します。 彼らのダム建設への抵抗の強さの理由でしょう。 しかし彼らがこれまで同様に国と自治体を牛耳っていったら、確実に この国は滅びます。金が無くなって滅びます。税金が高くなりすぎて滅びます。 彼らを養うために私たちが存在している訳ではないのですから、 どこかできっと歯止めがかかるはずです。 そんな訳で私はダム建設中止については 短期的に見れば大きな困難に出会うと思いますが長期的に見れば必然だ、 とみています。楽観的すぎるでしょうか? ●ダムへの「社会的要請」はゼロ  ある方から、「社会的要請ゼロ」ってどういう事?というお尋ねを頂きました。  お返事を書くうちに、これは皆にも知ってもらっておいた方がいいなと思い、  書き込ませてもらう事にしました。  ダムに対して地元の人間がどのように感じているかをお知らせします。  「社会的要請ゼロ」の件なんですが、元々川辺川ダム建設は農業用水を 得るために始まった事業なんです。でその頃ちょうど山の天然林伐採が 営林署を中心として進められていた事も有り、下流で水害が頻発しました。 旅館組合が観光面から反対しましたが、農民がムシロ旗を立てて反発し 不買運動(旅館を宴会等に使わない)をやるという情勢でした。    30年前は、確かに社会的要請があったんです。  ところが、30年後の現在は水田を開くどころか跡取りさえいない農家が大半に なってしまい、農家にダムから水をひく事業の印鑑がもらえない始末! その後、行政は建設省や土建業者から尻をたたかれて無理矢理ハンコを押させま したが・・・。その結果農民不在の事業だとして反対運動さえ起こりました。 田舎のお上に逆らった事のない人達が1400人も異議申立てをやってるんです。 面白い事に、昔ムシロ旗立ててやった人達が今度は私たちと一緒なんです。 まあ、お互い血が熱いんだろうなあとか罪滅ぼしたいと笑ってやってますよ。 去年の100年に一度という旱魃でも当地はむしろ大豊作!ごく一部に水不足の 被害が出ましたが、それに対する手当てなら井戸を何本か掘ればそれでOK。 というわけでダムへの農民の要請実質ゼロ!  水害の方も、30年前に植えた木が大きくなって保水力を取り戻したのと 堤防のかさあげなどで、おととし1993年のこれまた100年に一度の大雨にも 床下浸水が有ったくらいでした。人吉は以前市房ダムの緊急放流で大被害を受け た事があるのでダムは危ないというのはほとんどの人が知っているのです。市民 の中から、ホウハイとして洪水予防のためにダム建設を期待する声が上がる・・・ なんてワケがないんです。ダム見直しの署名2万人分をとるのに期間は半年でし た。  それでも工事を止めない!見せかけだけの建設要請を土建業者に出させたり 井戸を掘ってくれと議会に陳情した農民を脅して陳情取り消しをさせたり、 ホントにこいつらなに考えてんだろう!ということばっかりやっています。 「社会的要請ゼロ」ってのは誇張でもなんでもないんですよ。 ●「こぎゃんムービーば、つくろごたっとたい!」  木頭村HPで政野さんという方のやってるダム日記を見ました。 凄いです。感心しました。で、速攻で日記というやり方を真似しまっす! 1995年12月15日 「こぎゃんムービーば、つくろごたっとたい!」        (こんなムービーを創りたいんだ!)   実は今ラップミュージックとムービーを組み合わせて、   ミュージックビデオを創ってやろうとたくらんでいます。   といっても、頭の中には「ダムワムダブツ」「南無阿弥陀仏」とかの   ほとんど 駄洒落のようなフレーズがあるだけなんですが。    あ、「ダムワムダブツ」ってのは、「ダムは無駄物」と   「南無阿弥陀仏」の合体です。   川の生き物達への鎮魂、古里とその自然を破壊するだけで、   なあんの役にも立たぬダムへの告発の気持ちを表したつもりです。   それにこれなら「ダッムッワッムッダッブツ!」と叫べるでしょ?   「なむあみだぶつ」と祈ってやれるでしょ?   別にそのフレーズじゃないといけないなんてことはないんです。   心から叫べるフレーズならいいんです。   胸の奥に熱く燃える想いを表現しましょうよ!叫びましょうよ!     ダムや堰に反対してる人たちをはじめ、川や海や山や故郷を愛し   何とかしたいと思っている全国各地の人々で、一緒になって詩を作り   曲をつけ撮影を進めていったらきっと凄い物ができると思うんです。     たとえば、ラップミュージックの中に各地の祭りのリズムを取り入れる。 たとえば各地の古里自慢、自然を愛する気持ちを詩にする。 たとえば各地のダムで役人と政治家達が如何に嘘をついてきたかを、 アニメにする。マンザイにして笑いとばす。 たとえば、ダムワムダブツ! と吐き捨てるように歌うときの怒りの深さを写す。 たとえば、奪われようとしている美しい山や川や古里を写す。  川辺川一個所だけでなく  日本全国の愛するものを奪われようとしている人たちが  心の底から歌う!踊る!叫ぶ!!  すごいとは思いませんか?  画面を見、そして歌を聞けば  一発でこの国の異常さが土建国家ニッポンの異常さが  誰にでも実感できそして共に歌いたくなるようなムービーを  なんとか創れぬものか!  自分一人の手に余るのはワカリきっています。  それでも想像するだけで胸が熱くなってくるのです。  抑えがたく突き上げてくるのです。  私は夢を見ているのです。 夢にしときたくないのです。  通信もあります。パソコンもあります。なによりこんなに山を愛し川を愛し  海を愛し古里を愛するあなたがいる!!  あなたの胸の奥で熱く燃える、「想い」をフレーズにして送って下さい。  立派なものである必要はありません。きれはしでいいんです。  心臓の鼓動をリズムにしましょう!  自然への愛を、古里への愛を、そして愛するものを破壊される怒りを悲しみを  メロデイに変えて送って下さい。  五線譜に書かなくていいんです。  カセットに鼻歌で入れて送って下さっても必ず大事にします!  製作上のアイデアを送って下さい。  技術的な困難を乗り越える手だてを教えて下さい。    一緒に夢を見ましょうよ。 ●「これだあ!」  1995年12月19日(火)   久しぶりの休みだ。本屋に行ってDOS/Vマガジンとアイコン、 それにビデオキャパというムービー関係の本を買ってきた。  実は今、ムービー造りの上で一番気になっているのが”画質”の問題。 この間から、”TUBE”の曲が入ってるビデオを繰り返し見て、場面造りや 曲との合わせ方、ついでにキャプチャーの仕方などを練習している。 プロが一つの場面を撮影するのにかける手間と暇、金のかけ方には圧倒されるが、 高度なテクも基本ワザに分解して考えれば素人でも納得でき真似が可能なやり方 もぼんやりとだが浮かんでくる。  一方、画質に関する問題は、現在のパソコンの水準では解決が不可能なんじゃ ないかと思えてきた。今年の夏、640*480の画像を使ってスライドショウを 創ったときに、写真は凄くきれいでもテレビに出力するとがっかりする映りに なってしまうのに悩まされた。これは1枚1枚テレビを見ながら、画面上で美しく 見えるようにレタッチしていけば何とかなった。大変ではあったけど。 ところが、ムービーの場合はデータ圧縮という問題が絡むので、レタッチでは 解決不能。画面に四角い粒粒が見えて細かい絵柄のとこでは汚くなってしまう! ビデオをテレビで見ると凄くきれいだし動きももちろん滑らかだ。 ところがいったんキャプチャーしてしまうと画質はがた落ちになってしまう。 最初からある程度予想はしていたが、こんなにシビアだとは! 画質を高く保つという点は自然の美しさを映す、という柱になるテーマに関わる だけに、絶対妥協はしたくない。 新緑に輝く木々が川面にゆれるシーンは?水中で泳ぐ魚達の姿が捉えられない! 岩を噛む激流のしぶきが写せないのか?と、悩んでいたら何とその答えが目の前 の本の中にズバリあった。  それは、カメラを2台接続して、パソコンは場面転換のコントロールと音造り タイトル、アニメ作成に使うというやり方でビデオキャパの記事に触れてあった。 短い文だが、まさに天の助けだった。 ありがたいっ!なんで思い付かなかったんだ! ああ、説明するのがもどかしい! つまり、パソコンにキャプチャーしてから編集するのでなく、パソコンを編集機 として画像を編集する。 その際、デジタルカメラを2台使えば一切画質を落とさずにマスターテープまで 通す事ができるじゃないかあ!  炬燵の中で寝転んでいたのだが、ガバッとおきてその文を何度も何度も読んだ。 心の中で、ホントにそれで行けるか試してみた。きっと旨く行く!! 今まではまずキャプチャーしなくちゃ始まらないんだと思い込んでいた。 違う!撮影したテープを、必要な部分だけデジタルでダビングする。すると 640*480の解像度なんて比較にならないほどの美しい画面が創れるんだ!  現金なもので頭の中にはこんなシーンあんなシーンが浮かびはじめている。 撮影術の方が今度は苦労しそうだなと思えて来る。 でも不可能ではなくなったんだ!  私は夢を見ているのです。 夢にしときたくないのです。  今日夢の実現を阻む難所が一つ消えた。 ●水が減った!山がおかしいぞ!  1995年12月22日(金) 水が減った!山がおかしいぞ!  毎日川辺川を見て仕事場へ出て行く。 このところの晴天続きで川辺川の水かさが凄く減った。 川底の石が露出して白く岩肌をさらしている。 冬になってからの減水は毎年の事とはいえこの減水は度が過ぎている。 旱魃だった94年に次いで2年連続でこの有様になるというのは、 上流でのダム関連工事の影響を考えざるをえない。 撮影のテーマを一つ見つけた。 渓流釣りをする人は良く知ってると思うが、山肌に細い林道が一本 できただけでその谷の水はぐっと減ってしまう。 美しかった川底も荒れてしまう。 立ち木の木肌を、くるりと一回り帯状にむくと、その木は枯れる。 谷も同じで、道路で「帯状に」山肌が剥ぎ取られると大打撃を受ける。 山のみずみずしさ、健全さは、「山頂から谷底まで連続した」 厚い腐葉土の層を持つかどうかで決まる。 山の表層にある切れ目の無い連続した腐葉土の層こそが山の血管であり、 山の精気のそして、川の恵み海の幸の源なのだ。 山に道路を造るとは、山の血管ともいうべき水の通り道を断つことでもある。 だから、大雨が降ると山頂からの水は当然道路を横切って流れ、土砂崩れを 引き起こす。 そこまでいかなくても、濁りのきつい状態を作り出し川底を荒らす。 厚い腐葉土の層が、しっかりと水を貯えると同時に、浄化され透き通った水を じわじわと流し出すのとは対照的である。 たった一本の細い道路が広大な山を痛めつける。 腐葉土中にすむミミズなどの生き物も減少する。  その結果どうなるか? まず谷が砂利で埋まる。 源流にすむヤマメや沢蟹などの生き物達の住みかが奪われ 餌も乏しくなり生きていけなくなる。 中流では淵が次第に埋まり、すべての流域で、水不足が起きやすくなる。 人吉の観光面では、たとえば球磨川くだりのできる日数が減少する。 本来山をいじる時には、そこから流れ出る川の全流域の合意が必要なのだと思う。 人力に頼った昔の工事とは桁違いに山をいじる影響は大きくなっているのだから。 土建屋が山を壊す。政治屋は票を貰って彼らのために働き、工事がスムーズに 行われる事に尽力する。そして山の血管が壊されてゆく。 出来あがった道路を通る以外にないわれわれには、一切その責任など無い! 山の道路工事現場で働く以外に生活の道のない山村の住人に責任など無い! 文明開化100年経っても山に造る道路の工法一つ開発しようとしない、 あるいはそもそも山の道路の害を見ようともしない土建屋どもにこそ、 そしてより良い世界を造るという己の仕事の責務を忘れた 政治屋・官僚どもにこそその一切の責任がある。 実際道路建設の現場はすさまじい。 ダム関連工事に限った事ではない。 人目のない所では、谷に土砂を捨てるなんて当たり前に行われている。 山肌に道路を造っている現場にムービーを持ち込めば、谷に土砂を落とす、 建設機械を通すために川岸を削り取る、などという言語道断な工事のやり方 に対する強烈な抗議になりうる。 たとえば、土砂を落としている現場のシーンに強烈なビートと歌詞を重ねてその 異常さと責任を問おう。 たとえば、老練の釣り師に道路の出来る前の豊かな谷の状態をかたってもらう。 どんなに魚が簡単にいっぱい釣れたかを懐かしんでもらう。 もし自分が山を管理できたらどんな風にしたいかをかたってもらおう。 バックには、レノンのイマジンがぴったりと思うけどこれは著作権でだめか。 球磨川の源流が流れ出す所にカメラを担いでいきたい。 川辺川の水中で魚達を撮影したい。 有明海の干潟の生き物達も登場させたい。 山の精気を奪う事の愚かさ、川の恵みを捨てる事の異常さを そして海と山とが如何に深くつながっているかも訴えたい。 夢はますます広がってゆく。 そして私は固く信じている。 この異常な時代がやがて終わらざるを得ないことを。 われわれの力でそれを加速できることを。 ムービーにかけた夢を共にわかちあえる人がきっと現れることを。 ●クリスマスの夜に笠をかぶって・・・  1995年12月28日(木) クリスマスの夜に笠をかぶって・・・  前回、ムービーにかけた夢を共にわかちあえる人がきっと現れる、と書いたら なんと、次の晩に早速興味ありというメールが来た! (ムービー日記を見てではなかったが・・。 わりと近場の男性です。) しかも「人吉でやる映画界を見に行きます」とあったから、舞い上がった。 というのは、その日がちょうど夜だけフリーであいていたためで、会える、 と思った次の瞬間にはもうメールを書き始めていた。 相手の都合を聞くなんていう冷静さは吹っ飛んで速攻でこう書いたね。 「目印に、釣り用の笠をかぶってロビーでたばこでも吸って お待ちしています。色々お話を聞かせて下さい。」 これが恥ずかしい話の始まり! なんとなく、子供向けのわいわいがやがや映画会だと決め込んで、 でかい笠でもかぶらなくちゃはぐれちゃうような気がしたんだよう。  勇んで会場に行ってみると、大きな看板にきちんとした文字で ≪クリスマス映画会≫とあって、キリスト教の教会の名前が書いてある! 「あ、今日はクリスマスだったんだあ。」と気がついた。 何しろ、塾を始めてからクリスマスイブとは十年以上無縁に過ごしてきたから すっかり忘れていた。  アタシは約束は守るんです。こう見えても。 約束だから、クリスマスイブの雪の降りそうな夜に、真夏の鮎釣りの笠をかぶり、 まじめな映画会のロビーで、待ってましたとも! で、来る人来る人、何やってんだろうてな感じで不思議そうに眺めてゆく。 おまけにこんな時に限って、知った顔にバッタバッタ合う! なんばしよっと?と皆聞く。ついに閉口して笠を脱いだ根性無しの俺でした。  後で聞いたら、その待ちあわせてると思った相手は、仕事場にPCを置いていて メールを送った日には不在。そもそもメールが届いていなかった! 後から届いたメールで、「人吉には変な人がいるなあと思ってました。」  当然会えなくて「やっぱり笠かぶってなかったから見つからなかったかなあ?」 と思いながら見た映画は最高で、もうぼろぼろ泣きました。 笠の事はすっかり忘れて泣きました。映画って凄いです、やっぱり。 この日見た映画の事は、きっと絶対に忘れないと思います。あはははは。 ●太鼓の練習で練習中 1996年1月29日      太鼓の練習で練習中  たまたま来た友達が、「お、いいカメラ買ったねえ。おれ達を撮ってくれん?」 という。和太鼓で、グループを組み今練習中だそうだ。次の日が練習日だそうで 車にカメラと三脚、電源のバッテリーを積んで早速撮影しにいった。  2、3歳の女の子が犬と遊んでいて中からはビリージョエルの曲が聞こえて来る。 「ピアノマンじゃないか、うまいなあ。」と思いながら中に入ると友人はもう来ていて キーボードの準備中。こちらも慌てて準備をして、撮影開始。 演奏を撮るからといって、演奏だけじゃあムービーにならない。最近気がついた。 川を撮る為には山がほしいし、釣り人が居れば見てる人は画面にひきつけられる。 人間にとって最も興味をひかれる対象は、人間なのかもしれない。 なるたけ、準備中にいろんな画を撮っとこうとカメラを回す。 といってもワンカットが5秒位、その間にもちょろちょろと皆よく動く。 と言って、やたらカメラを振りまわすと何がなんだかわからなくなる。  これは釣りと同じだなと思えてきた。 ここ!と思う場所に構えて、タイミングを計る。 読みが当たると、一番いい場面がすっぽり抜き取れる。 とまあ、偉そうな事言ってるけど本当は素早く撮影に移れないからそうするしか ないのでありました。  で、練習がぼちぼちと始まったのだが、最初テンデンバラバラに太鼓を叩いてた 時には「でかい音だなあ。」くらいにしか思わなかった。 やがてだんだん気合が満ちてきて釣りで言えば入れ食いの瞬間が来た! ふわりとキーボードでメロデイが入ると、とたんにスウッと調子が揃い、 バチ捌きが、メロデイが溶け合って一体の音に変ってゆく。 集中して撮影してると「あっ、入った!」と声を上げたくなるくらい 次元の違う別世界がそこに出現するのが判る。 叩き出される音色は深みを増し、キザミが100分の1秒のレベルで同調し、 そのビートを軽々と踏みながらメロデイが天に舞う。 やった!撮ったぞ!とその後も鼻高々で楽しく撮影し続けたのは言うまでもなあい! ところがところが、あんまり乗っちゃって手持ちで撮った所はあとで見ると ビートに乗って画面が揺れているじゃあアリマセンカ!わはははは。 それから、「別世界に入った瞬間」こいつはキチンと撮れている。OK!OK! これで視聴者釘付けよ!なあんて思っていたら何のなんの。 「その瞬間」をテレビの前で眺めている人達に気付かせるのは至難の技でありました。 その場面だけうまく撮れててもだめなんです。その前のシーンから集中させてて 初めて気づかせる事が出来るんだなあ、と編集の大事さに気づく。 やってみないと、普段見てるテレビの凄さは判らないものですよー、皆さん。 退屈させずに、見続けさせるというのは本当に高度な技なんだと、気づかされた 一日でありました。  バッテン、ホーンナコツ面白かばい。ムービーは!  もう、やまらん! 今度また撮るけん、一緒に来ん? ●‘帰らずの川’ 1996年2月7日 ‘帰らずの川’  こういうのはどうかなあ? ムービー台本の書き方なんて全然知らないんですが、試しに書いてみました。 台本のつもりで読んでみてください。感想も聞ければ有り難いです。 #1ムービーの最初の場面:「7時のニュース」 (ニュース開始を告げる華やかな音楽)チャーンチャララチャッチャチャーン。 (早口で)「こんばんわ。7時のニュウスです。権窃省、日本土建屋公共事業連合、  ア・マイシル社の提供でお送り致します。」 #2(コマーシャル):せえっかいをこおんくりーとでううめつくせっ!          ううなあるだんぷーがうみだすとおみいをおお、          えいええんにううみいだっすこうきょおじいぎょおお (所ジョージ風に)「豊かな社会を守る為に、消費税120%を実現しよう!           公共事業が富を生む。ア・マイシル社ヨロシクう。」 #3(アナウンサーと川本特派員が映っている。) 「これからお見せする写真は、本社の特派員が‘帰らずの川’と呼ばれる危険地帯で 隠しカメラで撮影し、幾多の危険をかいくぐって持ち帰った大変に貴重なものです。」 「ご存知の通り、熊本県球磨川川辺川流域は、日本に幾つかある‘帰らずの川’ の中でも最高に危険な地域といわれております。何しろ本社がこの地域に延べ45人の 取材陣を送り込んで、今までだれ一人帰ってきたものがいなかった、という位 危険度の高い地域です。絶対に一般の方は真似などなさいませんようあらかじめ 警告しておきます。」 「命懸けで生還された、川本特派員の話を交えながらご紹介して行きます。」 #4(画面、川辺川の清流で遊ぶ子供たちの写真がカチャリカチャリと変っていく。) アナ:なんて野蛮な!子供が川で泳ぐなんて!  特:驚かれたでしょう。私も実際驚きましたよ。何しろ川で泳ぐんですからねえ。 アナ:川で泳げば、家庭排水で繁殖した危険な微生物や工場の化学物質・重金属が    体内に入って一発で死んでしまう事も知らないんでしょうか?  特:無知なんですねえ。川が泳ぐ所じゃなくて汚水の捨て場だということを    知らない野蛮人なんですよ。寒気がしますね、川で泳ぐなんて! アナ:これなど特にひどい!橋の上から飛び込んでいますよ。  特:あの地域が公共事業を拒否してから貧しくなって、生活苦から川への飛び込み    自殺が多いんですよ。 アナ:ははあ!それで判りました!青年や大人は公共事業の恩恵を受けられずに、    やけになり、子供たちの面倒を見る事を放棄してしまった。    あの川で遊ぶ行為はその絶望の結果なんですね。 アナ:ところでこれは何の写真ですか?ぬるぬるして気持ち悪そうな生き物ですが。  特:土人達は、失礼、原地人達は‘アユ’と呼んでいました。    どこで生きてると思います?信じられない事に川にいるんです。    おまけにあれを食うんですよ!ヤツラは。 アナ:公共事業と土建屋の不在、おまけにそれをコントロールする政治家まで    いなくては地域住民の未来はありませんね。  特:ところが、土人達は、失礼、現地人の人数は増えているんですよ。 アナ:貧乏人の子沢山ですか?でもさっきみたいな気持ちの悪い生き物‘アユ’って    いいましたか、あんなの食べていて人口が増えるんでしょうか?    もっとお伝えしたいのですが、時間がまいりました。 #5(アナウンサーのアップ、背景に橋からの飛び込み) アナ:悲惨な映像をお届け致しましたがこれはこの世界で現に起こっている事です。    目をそらさずに見詰めましょう!そして、富を生み出す公共事業と    慈愛に満ちた権窃省、あふれる土建屋と国民の利益に忠実な政治家に囲まれた    私たちの豊かな暮らしに感謝を捧げたいと思います。 #6(コマーシャル)    #2と同じ #7(先ほどのアナウンサーと特派員が薄暗いバーの片隅でひそひそと)  「建前はイインダヨ、ここでは。ここなら好きな事言っても大丈夫。」  「川本先輩!アナウンサーのつらさを判ってもらえるのはあなただけですよ。」  「いいんだよ、お仕事はお仕事。で、たまたまスポンサーがあの連中だったって   事なんだから気にスンナよ!」  #8(アナウンサーの青ざめた真剣な顔のアップ)    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さてさて、今回はここまで!期待して次号を待て! (次回は、バーの妖艶なママ役で、あの木頭村のまさのさんを登場させる  予定じゃあ、えへん!豪華キャストだろ?) ナアンチャッテ。これは台本の「たたき台」。みんなでつくろうよ。 こうした方がおもろいぞってのがあったらぜひHPで発表してねっ!     せーのっ! ダムバスターズ  GO! ●雪の市房ダム 1996年2月14日 雪の市房ダム ムービー日記のシナリオの方は一回休みです。今回は市房ダムに行って感じたことを。 ======================================= ムービー日記(8) 二月十日(土)、球磨川上流にある市房ダムに行ってきました。手渡す会の 審議委員会に送る写真資料作りをかねた、市房ダム見学会といった催しです。  その日は人吉には珍しく朝から雪が降り、こりゃあダムのほうは雪で凍結してる んじゃないかなあ、と心配しながら雪の降りしきる球磨川ハウスを出発しました。 幸いダムに着く頃には、青空がのぞき始め雪で薄化粧をしたとっても美しい光景を 撮影する事ができました。  中でも印象的だったのは、ダム上流の古屋敷谷を流れる水の清冽な輝きです。 真っ白くやわらかな新雪に薄化粧された谷。その中を、ほとばしる美しい流れに しばらくの間見入ってしまうほどでした。谷底に並ぶ石の様子もいいですよお。 水量も渇水にしてはある方で、ヤマメ釣りの名場所でもあります。 機会があれば是非いらして下さい。  この美しい流れが直接ダムの淀んだ水溜まりに入る様子を見てたら、 「親の為に苦界に身を沈める美しい娘」という感じがしてつらくなります。 市房ダムへの流れ込みはもう一つ、湯山の谷からのがあります。 こちらも水は美しいのですが、上流の市房山の森林が営林署の手で伐採された為、 がけ崩れが頻発して、川底は砂利だらけになってかなり埋まってしまっています。 水量も少ないです。数年前までは美しい谷だったのですが・・・。  もともと市房山は、花崗岩質のもろい山でぼろぼろ崩れやすい山なのです。 そこを皆伐して裸にしてしまうとは!営林署の、山を良く知っているベテラン職員、 時には所長が「切りたくない」、「切ると(山が)危ない」、と言っても偉い方々は 独立採算で「給料が出なくなるぞ」「雇えなくなる」と切らせてしまうそうです。  国はどんなに良く言ってもアホウです。悪く言えば砂防ダム建設の手先です。 現在、ダム湖への谷の流れ出しでは上流から運ばれて堆積した土砂を取り除く為に ブルドーザーとダンプが走り回っています。業者養いの為の伐採としか見えません。  ダム湖にくだると、普段はヘドロに覆われた湖底が無残なのですが、 雪の降ったこの日ばかりは美しい雪景色でした。 実は無残な湖底を撮ってやれ、と思って出かけてきたのですが・・・。 ファインダーに写る、棚田の跡、人家のかまど、水路跡、道路の跡・・・。 雪が、昔の水上村の様子をくっきりと浮かび上がらせてくれています。 まるで今にも村人が棚田の間から現れて来るような・・・。 やあ、よく来なさった、と手を振ってくれるような・・・。  胸に迫る光景でした。 無残なヘドロの湖底を撮ってやろうという最初のもくろみが恥ずかしくなりました。 昔の水上の村人達が、私たちを精いっぱいもてなしてくれた。そう感じています。 ●‘帰らずの川’つづき 1996年2月16日 ‘帰らずの川’つづき #7 バー「まさの」 BGM ラウンドミッドナイトが静かに流れている。 先ほどのアナウンサーと特派員が薄暗いバーの片隅でやや酔った様子。  「建前はイインダヨ、ここでは。ここなら好きな事言っても大丈夫。」  「川本先輩!アナウンサーのつらさを判ってもらえるのはあなただけですよ。」  「いいんだよ、お仕事はお仕事。で、たまたまスポンサーがあの連中だったって   事なんだから気にスンナよ!」  #8(アナウンサーの青ざめた真剣な顔のアップ)せきを切ったように。  「今日のニュース台本なんて何ですか、ありゃあ。川本さんが命懸けで撮ってきた  写真が泣きますよ。川で遊ぶ子供の顔を見てるとずいぶん楽しそうな事はだれだって  判るじゃないですか。それを‘絶望の結果なんですね’なんて言わせるんだから。  特に最後の‘目をそらさずに見つめましょう’のせりふなんか、もう恥ずかしくて  背中は汗びっしょり。視聴者をなめすぎですよ、ありゃあ。」 正面を見てうなずく川本。アナ、声をひそめてささやく。  「俺だってマスコミの一員なんですよ!それを、いくらスポンサーが建設省絡みの  連中だからって、ご機嫌とりもいい加減にしろってんだ。」 アナ、顔をゆっくりと正面に向け静かに決意を述べる。真剣に見つめ答える川本。  「もうあの世界にゃうんざりです。実はあれから辞表を書きましてね。  明日出社したらすぐに出します。」  「馬鹿な事すんな。連中ににらまれたらまともな再就職先はないぞ。それに  おまえんとこ、最近小学校に入ったばかりだろう?奥さんだって反対するぞ。」  「ウチのはもう一年も前から、辞める時の為に働いてるんです。」  「そうか・・。、もう決めたんだな・・・。」 #9 声をかける妖艶な美女バー「まさの」のママ。ぎょっとして振り向く二人。    BGM Angel eyes  「いらっしゃい。」「あら、お邪魔?」 ほっとする川本、ママに目配せして意を決した様子で。  「ママかあ。いや、居てくれないか。」(間を取って)    「なあ、俺がなぜ帰らずの川なんてとこに行く事になったと思う?」  「行かせてくれと頼んだんじゃなかったんですか?部長はそう言ってましたが・・。」  「おいおい、おまえらしくもない。俺は行かされたんだよ、あそこに。」  「えっ、あなたはうちの看板アナウンサーだったじゃないですか!またなんで・・。」 ママ、面白そうに目をきらめかせる。見つめるアナ。川本恥ずかしげに  「おまえと同じだよ。いやになって辞表を出してな。」  「そうしたら、いきなり帰らず行きさ。ヤツラにしてみれば知りすぎてたんだな、  情報の作為的な選び方とか・・。」  「おまえと違って、辞める用意なんてまるっきりしてなかったんで、どこにも  勤められないようにしてやるなんて脅されて・・。  結局、行けば家族には退職金の二倍渡すといわれてそうしたんだよ。」  「なんてヤツラだ!」 川本、不意に目をきらめかせて身振り手振りを交えながらしゃべり出す。 BGM I've got you under my skin  「ところがな、よかったんだよ。それで。」(晴れやかな笑顔) 「なぜ皆あそこへ行ったら帰ってこないか判るか?」(いたずらっぽく)   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さてさて、今回はここまで。ついに明かされる、「帰らずの川」の秘密! 期待して次号を待て! せーのっ、ダムバスターズ Go! 96/02/16(金) 11:50 SATOU(VZB01703)